6テック時代に必要とされる人材や強い組織とは? 

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テクノベート元年 2016年のインターネット潮流(総論編)[3]

今野: 続いてQ&Aに入りたい。

会場: 6テックの時代にあって、経営者や経営チームにはどういった能力が求められるのだろう。今まで求められていた能力と何か違いはあるだろうか。

今野: 私見だけれども、業界叩きあげの人たちが強くなるように思う。つまりインダストリーに詳しい人。今まではインターネットで完結していたから、それこそデータをぶん回し、新しい領域で先に走ったものが勝つような面があった。でも、今後はリアルな業界の負や痛み、あるいは悩みや実需をよく分かっている起業家が相対的に強くなる。

たとえば、我々の投資先にリノベーションサービスを提供する「リノベる」という会社がある。こちらのトップ2人は建築業界出身で、「業界でやってはいけないこと」を分かっているわけだ。たとえば彼らは現在、いくつかの理由で一戸建ては手掛けずマンションに特化している。まず、マンションは躯体が頑丈だから。一戸建てはひっくり返すとシロアリがいるかもしれないし、築20年~25年の箱に責任を持てないというのが理由の1つだ。さらに、マンションには組合契約等々があって、例えば1/3ほど入居があれば2/3が空いていても壊せない。となると、その空き家は必然的にバリューアップしなければ流通できない。そこに必然性がある。こうした話はその業界にいないとなかなか認識できないと思う。そういう面で一方では専門特化型になって、もう一方のエンジニアリングチームとのハイブリッドになるのかなと思う。

会場: 組織全体では何が求められるだろう。組織文化や人材マネジメント、または「こんな人材が必要になる」等々、人や組織に広く求められることを伺いたい。

今野: 恐らく「勝てるベンチャー企業組織の肝」と同じだと思う。レガシーな業界に入り込むのならなおさらだ。人材的にも古いタイプの人が多くなるので、ベンチャーのベンチャーらしさがより大きな強みになっていく。それは、たとえば「圧倒的なスピード」「やりきる力」「走りながら考えることのできる力」といった辺り。エスタブリッシュな企業は長い承認プロセスを経てがっちり決まった状態でスタートすることが多い。ベンチャー企業はそこでスピードや実行力を発揮できる。見切り発車という言い方はおかしいけれども、とにかく走りながら考える力が大事になると思う。

会場: 競争優位につなげるためのデータとはどういったものになるのだろうか。購買履歴のようなもの以外だと、目的や事業によって異なるとは思うけれども、どういった観点からデータ蓄積を考えていけば良いのかを伺いたい。

今野: データを取ること自体は誰でもできるし、実際、そうしたデータの取り方の精度が競争優位につながると思う。その点、むしろここで言えるような「これが正解」という答えはないかもしれない。たとえば化粧品コミュニティサイトを運営するアイスタイルは年齢や性別やエリアといった属性に加え、それこそユーザーの肌状況等の細かいデータまで蓄積して、それを解析しながらレコメンドをしていると聞く。

会場: 6テックに対する投資機会を時間軸で考えると、どういった順番になるのだろう。

今野: 時間軸に関して言うと、すぐに投資しなくてはいけないのがFin Tech。最も早く立ちあがると思う。で、教育はオンライン化という点ですでに1周したけれども、今後はその進化系としてAI活用がもう1周あるかもしれない。その次に来そうなのがヘルスケアだ。大手が動き出してお金が流れはじめている。で、4番目がHome Tech。家自体のテクノロジー化はかなり長いスパンを要すると思うけれども、不動産流通のような領域はすでに動いているし、家自体のテクノロジー化はその次かと思う。


会場(続き): 多くのサービスでAIやビッグデータを動かす必要が出てくると、その開発自体がベンチャーにとって大きな負担になると思う。そうした開発部分をサポート・提供するようなサービスが生まれてくる可能性はあるのだろうか。

今野: 大いにある。たとえばプリファード・ネットワークス(以下、プリファード)。AIのベースとなる自然言語処理関連の技術を持ったエンジニアが、恐らく最も多く集まっている会社だ。それで今はトヨタやファナックに良い意味で目を付けられて出資を受けている。そんな状況だから、エンジニアの数は圧倒的に足りていないかもしれない。「自然言語処理と言えばプリファード」というほど飛び抜けているので。

会場: この20年、IT業界の勝ちパターンは、プラットフォームにするなりしてとにかく量を稼ぎ、マネタイズはその後ゆるゆる考えるといった形だったと思う。6テックのような新しい技術の時代でも、そのパターンはあまり変わらないのだろうか。

今野: その辺に関しては、テクノロジーよりもセクター・産業という軸のほうが要素としては大きいと思う。たとえばメディア的事業であればユーザーを先に獲得することが重要だ。そこから広告でマネタイズしたりECに流したりするので。メルカリもそうだった。CtoCの場合はプラットフォームに一定の熱量がないと自然増幅しない。だから彼らも最初は無料にしていて、ある段階から手数料を取りはじめていった。ビジネスによっては、まだまだそうしたやり方があると思う。

会場: ユーザー獲得手段の潮流を伺いたい。以前は大きなメディアへ広告を投下するような形が多かったと思うけれども、今はどうなのだろうか。

今野: おっしゃる通り、テレビCMでは大量のユーザーを獲得できるけれども、データ上は一定程度ほどリテンション率が低くなる。「受け」で情報を得て、アプリをさくっとダウンロードする流れだと、ユーザーがあまり残らない。だから、より細分化されたマーケティングが大事になる。その点、メディア系で今うまくやっているところは、ブランディング系のコアなコンテンツと、言葉は悪いけれどもユーザーがついつい読んでしまうような「7つのなんとか」といった獲得系の記事を明確に分けてコンテンツ編成をしている。あと、今はまだ動画が検索に引っ掛かりにくいので、ユーザー獲得という目的のときは動画よりもテキストだったりすると思う。

ちなみに、今はフェイスブック広告の威力がすごい。各社でほぼフェイスブック広告のCPA(Cost Per Acquisition)が一番低くなっているように思う。恐らくユーザーのアクティビティをベースに最適化しているので、マスでテレビCMを打つよりも効果が高いと思う。

会場: Edu Techと同様、Health Techでも信頼性や規制という要素があるので大手が強いと思っている。そうした環境下、既存の大手企業は新しいプレイヤーをどのような目で見ているとお考えだろう。脅威として見ているのか、あるいは「まず彼らに市場をつくってもらって、しばらくしてから取り込めばいい」と思っているのか。新しいプレイヤーと既存大手との関係性について見解をお伺いしたい。

今野: M3やSMS(エス・エム・エス)のようなベンチャーは、実はかなり多くの買収を規模が小さいうちから行ってきている。芽が出たところを買収していて、その意味では結構強い。一方、どちらかというとレガシーな企業にとっては、オープンイノベーションを進めないとまずいと思う部分がある。新しいテクノロジーのノウハウもなければ、それに通じた人材もいないので。ただ、だからといっていきなり買収するのも怖いということで、我々のようなプレイヤーとともに「人の見極め方や育て方を学ぼう」となるケースが多いし、実際ある大手ヘルスケア企業と我々は提携を始めた。そこで彼らは業界のネットワークや知見を提供し、我々は人の育て方や見極め方、あるいは集め方を提供するという座組みだ。従って、Edu Techよりは開かれた世界でオープンイノベーションが起きるような気がしている。

会場: 開発系の人材育成および調達について伺いたい。ネットバブルの頃は、趣味や独学でインターネットのプログラムを学んでいた個人がなんとかやっていたケースもあったと聞いている。ただ、さすがにAIとなると一朝一夕でそういう人材を育てたり調達したりするのは難しくなると、素人的には感じる。その点、最近のベンチャーは開発系人材をどのように集めているのだろうか。

今野: そこが一番苦労しているところだ。既存のエンジニアと言われている人たちでは通用しづらい世界に突入しているので。プリファードやスマートニュースといった極めて優秀なエンジニアを集めている会社は、大学の研究室から採用している。で、そのレベルの人材を一般的な企業の育成で増やすことができるかというと、恐らく解は出ていない。新卒を鍛えたら本当に育つのかといったこともまだ分からない状態だ。今はそこで皆が本当に苦労していて、人材の取り合いになっている。たとえばリクルートはグーグルのAI責任者をかなりの大金でヘッドハントしたそうだ。まあ、そこは「1人の天才が世の中を変える」といった領域だと思うけれども、とにかく世界的にも人材獲得競争になっている。

会場: 今までお付き合いされてきたベンチャーを見て、資質という部分で、たとえば5~10年前の経営者と共通または変化している点は何かあるだろうか。

今野: 今はテクノベートや6テックと言われているが、当然、これまでも技術的変化はあった。そう考えると、技術のトレンドの変化よりも、経営者の質といったベンチャー生態系の成熟度のほうがパラメータとしては大きいと思う。エコシステムが育ってきたことで経営者の質は確実に高まってきた。アメリカでは9割がM&Aになるので、たとえばカンファレンスに登壇する起業家が皆、自己紹介で「何回目の起業です」と言うほど起業回数がステータスになったりする。日本でもそうしたシリアルアントレプレナーがようやく増えて、彼らがメルカリのようなベンチャーをつくったりしてきている。そうした起業家が生まれると、フォロアーシップを持って彼らをベンチマークする人も増える。今はそれで皆が底上がっている感覚がすごくある。今まではてんでばらばらで、横で何をしているかも分からない状況だったが、情報の流通も含めエコシステム全体で育っている感覚だ。

会場(続き): そう考えると、たとえば10年前に比べて、やる気のある人にとっては良い環境になってきたと考えたほうが良いのだろうか。

今野: そう思う。ただ、難しくなってきた面もある。10年前はリアルの情報をネット上に持ってくるだけで、あるいはガラケーで月額課金のコンテンツを出すだけで一定程度は儲かっていたけれども、今は違う。しかも既存のベンチャーというか先行者がいるなかで勝たなければいけないという意味では、難易度が上がっていると僕は考えている。ただ、可能性も以前より広がっているのは事実だ。日本でもM&Aがさらに増えたら生態系にすごく良い効果が出てくると思う。成功の定義にもよると感じる。

会場: 今野さん個人として、どういった思想を持った経営者が好きで、投資したいとお考えだろうか。

今野: 打算で商売をしていない人がいい。すべての会社がうまくいくわけではないし、うまくいく会社だって良い意味で結果論だったりする面があるので。やっぱり大義を持っていたり、明確な課題意識を持って解決に取り組んでいる人は、苦しい状況に陥ったときも強い。どれほど良い会社でも相対的に凹むときはある。そういうときに単なる名声や経済的価値のような面ばかりが見え隠れしてしまうところは、組織全体として脆いと思う。たとえばリストラをしなければいけないとき、自分の給与よりも従業員を先に切る経営者には投資できない。ベンチャーにおける最大のアセットは人だ。もちろん非戦力人員であれば話は別だけれども、それならリストラとはそもそも関係ないので。従って、人を減らすという行為は最後にしなければいけないという発想をしない方は、社会の公器を運営することに向いていないかもしれないと思う。

会場: ネットとリアルが交わる領域でより大きな価値を生まれるとのお話だった。6テック以外の領域でも結構だけれども、リアルにおけるユーザーの行動や反応をうまくデータ化しているような事例をもしご存知であれば、ぜひ伺ってみたい。

今野: リアルな情報を取っているという意味では、先ほどお話しした車のデータもあるし、「D Free」だって超音波でお腹の状況を採っているわけで、リアルと言えばリアルだ。火災報知器等をつくっているNestもそうだと思う。細かいところでは結構あるのではないか。Quipperが集める回答状況のデータもそれにあたると思うので。

会場: ビジネス環境が大変なスピードで変わるなか、グロービス・キャピタル・パートナーズの方々は先端技術やイノベーションの潮流をどのようにキャッチアップしているのだろう。商用化の時期も踏まえつつ、先端技術への投資タイミングを見計らっているとのお話だったが、どこにどんなアンテナを張っていらっしゃるのだろうか。

今野: 結論から言うと人に会いまくる。今は即時性の高いネットメディアが出てきたけれども、コア中のコア情報を得るためには、やはり人に会うしかない。じゃあ、情報を持っている人にそれほど簡単に会えるかというと、そのためには僕らも何らかの情報を提供できなければいけない。そこでいくつかのコツのようなものがあると思う。まず、最新の変化についても、歴史的に見れば1つのパターンとして「過去のこのケースと同じだ」という風に認識できることが多い。また、異業種に同じパターンを見出せることもある。アパレル業界に教育業界のエッセンスがあるかもしれないし、ゲーム業界が教育業界にもたらすことのできるノウハウだってあるかもしれない。

従って、会う人にとって価値ある情報をこちらも提供できるよう、僕らのなかでこそビッグデータ解析をしてパターン認識しておく必要がある。我々の元には新しい会社や新しい経営者が日々いらっしゃるわけで、やはりパターン認識力を高めないといけない。個別に判断するのは非常に難しいし、新しいことであれば僕らも知らないことのほうが多いから。そこで、前例主義という訳ではないけれども、事業的にも投資的にも「過去のこの事例に近いよね」「こういうケースはこういうシナリオになるよね」と、認識する力が不可欠になると思う。結局、“自主ビッグデータ解析”をするということに尽きるし、それはデータ量に比例するとも思う。

会場(続き): そこにAIを入れるといった考え方は有りだろうか。

今野: どうだろう。松尾(豊氏:東京大学特任准教授)先生によれば現状のAIは反復・継続するアクティビティぐらいにしか適用できないのではないかとのお話だった。僕も仕事を減らしたくないので(笑)。いずれにせよ、そういう時代が来るのはまだ先かと思う。アセットもなく、チームも戦略もこれからつくるという状況での目利きには、まだAIは適用できないかなと、願いを込めて(笑)。

※本記事は、グロービス社内で行われた勉強会の内容を書き起こしたものです(全3回)

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