仕事を任せる際、役割分担を決めるべきか? 

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今回のテーマは、チームメンバーに仕事を任せる際に、個々の人間の役割分担を決めるのがいいか、それとも当人たちの自主性に任せる方がいいのかということです。なお、与える仕事の内容によっては必然的に役割分担が決まってしまうようなケースもありますが(例:新規事業企画の立案)、それでは面白くありません。今回は、特に専門家がいない、引っ越しプロジェクトや新年会企画といった仕事を想定します。

さて、まずは役割分担を自分では決めず、部下や後輩に「君たちで決めてくれ」といった場合を考えてみましょう。どのような不都合が生じそうでしょうか? 一つ考えられるのは、「手抜き」をする人間が現れてしまうことです。実際、ある研究によると、比較的専門性の高くない業務を数人の人間に任せた場合、1人でやる時に比べて、出す力が減ることが知られています。

典型例は綱引きです。1人対1人で綱引きをするときには100の力を出すとすると、数人対数人で綱引きをする場合、1人が出す力は、自分だけの時に比べると90や80に下がってしまうのです。この傾向は、人数が増えるにしたがって増していきます。2人対2人よりは10人対10人、そして50人対50人となるにつれて1人の人間が出す力は減っていきます。皆さんも思い当たる節があるのではないでしょうか。

理由としては、1人の人間の貢献が見えにくくなること、あるいは実際にサボってもばれにくくなることなどが挙げられます。多くの若者が選挙に行かない理由なども、かなりの部分、これで説明できます。

「共有地の悲劇(コモンズの悲劇)」と呼ばれる現象の原因もこのアナロジーである程度説明できます。共有地の悲劇とは下記に示すような「個人の行動としては合理的だけど、全体としては好ましくない結果をもたらしてしまう状況」を指します。手抜きとは多少意味合いは異なりますが、「自分1人の(わがままな)行動くらい許されるだろう」という意図が根底にある点で、共通点が多いのです。

・皆が一斉にクーラーを使えば、屋外の気温がさらに上がってしまう
・皆が一斉に車を路上駐車すると、道が塞がって車が走行できなくなる
・皆が一斉にWiFiにアクセスすると、スピードが落ちて通信出来なくなってしまう

こうした人間の性向があるため、完全にまる投げしてしまうことはプロジェクトの生産性を落とし、最悪の場合、グループとして期待されるタスクを実現できないリスクがあるのです。

では、専門性のあまりない新年会企画プロジェクトなどの仕事についても、上司や先輩がある程度は役割分担や期待役割を明示するべきなのでしょうか?今度は別のデメリットが生じます。1つは自主性の喪失です。近年、エンパワーメント・リーダーシップという言葉が流行っていますが、その基本は権限を委譲することで部下の自主性を醸成したりスキルアップを促すものです。上司が細かく指示すれば確かに安全かもしれませんが、それはこうした目的には適いません。指示される側も、「やらされ仕事」になる結果、効率が落ちてしまいかねません。

もう1つ意識すべきは、状況によっては上司の貴重な時間を浪費することにもつながってしまうことです。企業にとって、(仕事のできる)管理職の時間ほど貴重な資源はありません。それを相対的に価値が小さい仕事に使ってしまうことは、企業全体として大きな浪費なのです。

こうして見てくると、両方に懸念が生じるわけですが、どうすればいいのでしょうか?結論を言えば、その中間点で「いいとこ取り」をすることです。つまり、原則は部下らに任せて彼らの自主性や創造性を期待しつつも、ある程度まではコントロールするということです。

従業員の成熟度や組織文化によっても好ましいやり方は変わってきますが、1つの効果的な方法は以下のようになります。

1) まずはリーダーを決めます。「こいつなら大丈夫」と思える人間をリーダーとすることで、最終的なアウトプットに対する責任感を持ってもらうのです。ただし、毎回同じ人間をリーダーにするのは止めましょう。それでは多くの人間にとっての成長の機会になりませんし、不公平感を生み出しかねないからです。

2) 次に、役割分担を決めてもらい、報告してもらいます。ポイントは、自分たちで決めたということで当事者意識を持ってもらいつつも、各人のミッションをある程度は明確化することです。人間は同じような仕事を任されるから手を抜くわけなので、個別にミッションを与えることで一人ひとりの当事者意識を高め、手抜きを防ぐのです。

3) そして実際にプロジェクトが始まったら、適宜報告をしてもらいます。あまり堅苦しいものである必要はありません。「報・連・相」の基本を実行してもらえればOKです。これは、実務での仕事のディシプリンを植え付ける上でも有効です。指示出しはミニマムで構いません。

4) プロジェクトが終了したら、簡単でいいので総括をしましょう。これは「あらゆることから学ぶ」という姿勢を植え付ける上でも有効です。また、特に良い仕事をした人間は、うまく褒めることで承認欲求を満たしてあげ、モチベーションアップを図ることも忘れないようにしましょう。

ここに示した方法論はあくまで一般論であり、あらゆる場面で適用可能というわけではありません。しかし、単純な仕事の依頼の仕方の中にも、人間のという生き物の本性に関する洞察の機会や、リーダーとしての仕事の仕方、部下育成のヒントは潜んでいるものなのです。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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