ユニ・チャーム社長・高原豪久氏―自ら考えて行動できる人材を 「気づき」「腹落ち感」で育成 

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企業の将来を担う人材をどう育てるか。トップ企業の経営者に聞く「人を育てる」第3回は、共振の経営を打ち出している高原豪久・ユニ・チャーム社長に、自ら考えて行動できる人材について聞いた。(「週刊ダイヤモンド」2006年2月25日号に掲載、インタビュアーはグロービス経営大学院大学教授・研究科長の田崎正巳)。

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田崎 高原さんはカリスマ経営者と呼ばれた創業者・高原慶一朗会長の後を、39歳で継ぎましたが、それまでの「カリスマ経営」とは対照的に「共振の経営」というコンセプトを打ち出したのはなぜでしょうか。

高原 私が共振の経営を目指すのは、ユニ・チャームを、上司の指示を待つ「受命体質」から、経営陣と現場がしっかりと議論して課題を解決する組織に変えたいと考えたからです。受命体質は、現場での決断や意思決定ができない企業風土に陥りやすく、ひいては商品やサービスの弱体化につながります。

創業者の時代はトップが決めたことを現場が実践するというやり方でもよかったのだと思いますが、今は環境変化が激しい。生活者のニーズや嗜好も細分化している。現場の社員一人ひとりが、上司の指示を待つのではなく、自分で考え、行動するようになってもらわなければ、変化に対応しきれないと危機感を抱いています。

経営者として経験を積めば積むほど、企業経営はカリスマさえいればうまくいくというものではないことがわかってきたんです。一人の人間ができることには限りがある。個々の社員が自ら考え、行動する組織が目指すほうが、全体としての大きな成果を上げられると確信しています。

数字のみの目標管理は 動機づけにならない

田崎 自ら考え、行動することができる人材はどうすれば育成できるのでしょうか。

高原 当社の場合はまず「SAPS」という仕組みを導入しました。これは「Schedule」「Action」「Performance」の頭文字と取ったもので、いわゆるPDCAサイクルです。

具体的には、社員に宗ごとの目標管理を義務づけ、会議で経過の発表と検証をさせています。これにより、継続的に考え、行動する習慣をつけさせるという教育効果を狙っています。

田崎 なかには、数値管理が厳しくなったとやる気を失う社員がでてきませんか。

高原 目的を「売り上げの数字を上げる」という表層的なところだけにおいている限りは、そうでしょうね。ただ、SAPSを実施する目的は結果の数値管理ではなく、計画や課題解決の順序の妥当性などを、評価・検討する点にあるんです。

目標管理というのは数字だけでは意味がありません。自分がやっている仕事が社会に対して、どれだけの価値を創造するものなのか。会社にどれだけ貢献するものなのか。そこを社員一人ひとりが理解してこそ、本当に意味での動機づけにはなると考えています。

たとえば、品質のいい紙おむつや生理用品を提供することで、お客様の育児負担や月経時の不快感が解消される。そのことで、お客様が人生を楽しむためのお手伝いができる。だから一生懸命に売るんだ、という具合にね。

創業当時はよかったんですよ。女性の社会進出に合わせて薄型の生理用品を開発するなど、自分達がライフスタイルの変化を担っているという実感が持ちやすかった。だから、わざわざ説明する必要もなかったわけです。

田崎 以前は、自分の仕事の有益性が実感できた。

高原 でも今は、生理用品も紙おむつもあって当り前になっていますから、社員はそうした実感は持ちづらい。個々のモチベーションを高め、また社員全員の力を結集するためには、あらためて共通の夢や志を提示する必要があると思っています。

ユニ・チャームの場合は、「第一級の商品やサービスを創造し、広く提供することで人類の豊かな生活に寄与する」という社是にあらためて立ち戻り、共通の目標として実践していくことが、志の高いビジネスパーソンが育つ近道であると考えてやっています。

田崎 ただ、社是も個々の社員の腑には落ちて初めて意味を成すと思います。そもそも志が重要だという意識のない社員には、どうアプローチすればよいのでしょうか。

高原 それが一番難しい。言い聞かせれば、頭では理解できるかもしれませんが、腑には落ちません。自分自身で気づきを得られるように環境を変えるといった仕掛けが必要でしょうね。

そういう私だって、最初は志なんてたいしてありませんでした。幼い頃から会社を継ぐ覚悟はしてきたつもりですが、本当の意味で理解したのは、所長就任を語る株主総会の当日になってからでしたから。

田崎 何があったのですか。

高原 当時、私のような若い二代目が社長を継ぐという不安から、当社の株価は下落していたのですが、それについて父が「おまえのせいで株価が下がるんだ」と、朝食の席でいきなり怒鳴りつけたのです。最初は「あなたが指名したんじゃないか」と思いましたよ。でも次の瞬間、株価は経営者の通信簿であり、「経営者になる厳しさというのは、こういうことか」と気づいた。この「気づき」「腹落ち感」が大切なんだと思います。

田崎 会長はなぜ、そこまで怒られたのでしょう?

高原 きれい事を言えば、教育効果を狙ったということになるのでしょうが、自分の財産が目減りすることへの危機感、株主としての本心の発露だったと思いますよ。

現場との議論できる土壌が人材の芽を大きく育てる

田崎 だからこそ、株主の論理を身にしみて感じることができた。高原さんには、そうした機会がありましたが、社員にビジネスの厳しさ、自ら気づき判断する事の大切さをしってもらうには、何をすればよいとおもわれますか。

高原 それこそが、ユニ・チャームの最大の課題です。社員との接点を増やして私の考えを直接伝えて考えてもらう。人事異動で多様な仕事を経験させることで気づきのきっかけを増やす。思いつく限りのことをやっていますが、試行錯誤の途中ですね。

ただ、天守閣の上からではなく社員と同じ目線に立ってコミュニケーションできるのが私の持ち味だと考えていますので、現場には足繁く通っています。

田崎 試行錯誤を続けるなかで、人材の芽は出てきましたか。

高原 私なりの人材発掘ポイントがあるんですが、現場で文句を言ってくるヤツは大歓迎なんです。文句を言うというのは、問題意識を持って考えていることの表れですからね。もちろん、評論家的に文句をいうだけで、行動が伴わないタイプは困りますが。

かつてのように組織が受命体質のままであれば、文句はいいづらいでしょう。ただ、今は確実に変わりつつある。現場の問題意識を、同じ目線に立つことで、経営陣と現場とが一緒に議論できる土壌が醸成されてきています。

(文:加藤小也香、写真:村田和聡)

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