【特別取材】デアゴスティーニの超ニッチ市場戦略を4Pで考える 

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「デアゴスティーニ♪」というCMのサウンドロゴでお馴染み、ちょっとマニアックなパートワークの出版社である同社をインタビューした取材企画。前回は同社の沿革と業界におけるヒットのヒミツ、同社のターゲットを明らかにしたが、いよいよ今回はヒットの核心に迫る。

Product(2): KSFは地道なリサーチ

前回述べたように商品化テーマは社内でいくつかの「ヒットの法則」を踏まえて考案されているのだが、デアゴスティーニ・ジャパンが刊行するパートワークの販売を外さないKSFは、徹底したリサーチにある。社内で考え出されたテーマ、商品アイディアはまずは定量的なインターネット調査で興味度・購入意向・継続意向などが検証される。そこで可能性ありと判断された場合、質的リサーチに移る。様々なステージのリサーチにより、市場のポテンシャルを把握して、読者のニーズに適した商品開発が行われるという。実にこの間、前回述べたように半年から長ければ5年以上もの歳月を費やすというから驚きだ。

こうして商品化されたら、晴れて全国販売かといえば、まずは一部地域で先行販売を行い、売上・利益を徹底検証し、その上でようやく全国発売となるのである。

石橋を叩いて叩いて、さらに叩くような進め方であるが、その成果として同社は極めて精緻な販売予測データを保有している。面白い、売れそうな商品を考えられるだけでなく、上記の慎重な進め方のノウハウとデータの蓄積こそが同社のKSFなのである。

ところで、パートワークの出版には、外資系の他、日本の大手出版社も多数参入している。しかし、日本の出版社の多くは全国一斉発売スタイルであるため、細かな先行テスト販売の結果などが反映できない。競合外資系も同社ほどノウハウの蓄積ができていないのかもしれない。筆者の知る限り、競合は購読者にとっては最も避けて欲しい「販売打ち切り(休刊)」の事例がある。しかし、デアゴスティーニは好評でシリーズの延長販売をしたことこそあれ、打ち切りの事例は基本的にはないという。

Promotion: 極端な態度変容モデル設計

プロモーションの設計で用いられる消費者の「態度変容モデル」では、AIDMAが最もポピュラーだ。しかし、同社のプロモーションは認知させてから興味を喚起したり、欲しいと思ってから忘れないように記憶させたりしているような悠長な余裕はない。何しろ、同社の収益モデルは、創刊号から数号まででいかに多くの読者を獲得できるかにかかっている。読者の減衰率は数号で段階的に落ち、その後の数号で継続購読者が安定し減衰率は水平飛行に移る。そのため、最初の山(創刊号の販売部数)をいかに多くできるかがまず、最初の勝負だ。

一般に通信販売はAMTULで設計されることが多く、健康食品や化粧品なら、無料や低価格に設定された「お試しサンプル(セット)」を請求・購入させることが第一の山だ。しかし、その時点では赤字。3~5回の継続購入で収支トントン。その後、いかに日常使用させ、ロイヤル顧客化するかがカギだと言われている。デアゴスティーニ・ジャパンの場合も同じAMTULの態度変容モデルで設計されていることがわかる。

テレビCMを大量に放映して商品を認識(Awareness)させ、瞬間的に強烈な記憶(Memory)として残させて書店に買いに走らせ、創刊特別号として格安に設定された商品を手に取って試し買いさせる(Trial)。そのために「組み立て系」なら印象的な部品を創刊号に入れる。また、購買者の継続の落ち込みを止めるためにも、その後の数号にやはり重要な部品を入れ、途中で止めたくなくさせる。前出の大人気となったコミュニケーションロボット週刊「ロビ」は8号までに上半身が完成するような流れにしたという。愛くるしいロビの姿が上半身だけでも現れたら途中で止めるわけにいかなくなるだろう。事実、購読者の減衰が止まれば、継続購入(Usage)の比率は9割に達するという。

また、「マガジン系」「学べるコース系」の場合も、創刊時に保存用のバインダーのプレゼントなどを行っている。さらにLoyal顧客化(Loyal)のために、途中の号や最終号にプレゼントを用意している場合もある。特に「コレクション系」は今までの商品を部屋に飾ることができるコレクションボックスなどが手に入る。コレクションを並べて眺める自分の姿を想像してせっせと買い続けることはマニアなら必定だ。

Place: 書店の活用と「分冊」という強み

日本の書店は減少を続けているが、それでも大型書店は存続しており、その数1万2千店とむしろ生き残りのため大形化に拍車がかかっているという。その店頭でパートワークはCMでの露出が多く目に留まりやすいため、店舗の良い位置に大量に平置きされるという。大量に売れる創刊号ばかりでなく継続購入が見込めるという、書籍・雑誌が売れない時代に書店にとってもありがたい存在なのだ。

強力な書店チャネルを持っているという強みだけではない。「組み立て系」に関しては市中に模型店がなくなっていることから、その代替としての需要も獲得している。特に、限られた店舗面積や棚から解放された分冊というスタイルは、完成品のスケールを従来の模型の概念から解放している。「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が現在上映中であるが、シリーズでハン・ソロ船長が駆るミレニアム・ファルコン号のパートワーク週刊「スター・ウォーズ ミレニアム・ファルコン」も現在刊行中だ。映画の撮影小道具と同サイズで作られていると聞けばマニアには垂涎の的だろうが、実にそのサイズ約80センチ×60センチである。分冊の号数を増やせば大きさの上限はない。その自由度は大きな可能性を秘めているといえるだろう。

デアゴスティーニ・ジャパンの今後

そもそもパートワークという商品は時間をかけて完成させる喜びを得るためのモノだ。「時間を楽しむ」とも言えるだろう。しかし、とかく昨今は時間に追われる世の中である。家電や日用雑貨も「節時間」がヒットのキーワードだ。その波は趣味の世界にも押し寄せているのか、シリーズの一括販売を望む声も多いという。その背景には、前項で述べた模型店の減少によって、従来パートワークの顧客ではなかった層が流入していると考えられる。同社はそれに応えるべく「セット販売」を計画しているというが、それはターゲットとなり得る条件である、「当該分野に対する興味の深さ」×「作り上げる・集める情熱」×「コンプリートまで待てる根気」の最後の一つが欠けた層も取り込めることを意味している。ターゲット拡大のチャンスだ。

時代の波は商品作りにも影響を与えている。従来の商品は、「マガジン系」「学べるコース系」「コレクション系」「組み立て系」のいずれにしろ「手に取って集められるモノ」であることに変わりはない。しかし、世はスマホ全盛時代だ。モノに固執していては消費者ニーズから置き去りにされる。そのため、スマホと連動し、マガジンに掲載されている場所に行くと情報が取れるという、行動という「コト」の要素も取り入れた内容も検討しているという。チャンスをものにしつつ、時代の流れや消費者ニーズの変化に対応することでさらなる勝ち残りを図ろうとしているのである。

2回に渡ってデアゴスティーニ・ジャパンのヒットのヒミツ、勝ち残りの法則の取材内容を記してきたが、そこには突飛なアイディアやラッキーに支えられた要素が一つもないことがわかるだろう。成功法則をおさえたモノ作り。しつこすぎるまでの販売成果の検証。顧客特性と世の中の動きを適切に捉えた施策の展開。その緻密さから学ぶべきものは多いだろう。

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