梅田優祐×伊藤羊一(2)ユーザベースの内部崩壊を防いだ7つのバリュー 

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リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。前回は、株式会社ユーザベースの梅田優祐氏が、典型的なダメ学生を経て経営戦略コンサルタントになり、ユーザベースを起業するまでのお話を伺いました。今回は、ユーザベースの経営危機を救った7つのバリューについて教えていただきました。(文: 荻島央江)

<プロフィール>
株式会社ユーザベース代表取締役共同経営者 梅田優祐
コーポレイトディレクションにて製造業、商社を中心とした全社成長戦略、再生戦略の立案・実行支援等に従事。その後、UBS証券投資銀行本部にて、事業会社の財務戦略の立案、資金調達支援等に携わり、2008年に株式会社ユーザベースを設立。企業・産業分析を行う情報プラットフォーム「SPEEDA」と、ニュースキュレーションサービス「NewsPicks」を運営する。

意味がないと思っていた「バリュー」に救われた

伊藤: 創業期、「ビジョン」と「仲間」のおかげで難局を乗り越えられたのですね。このほかに成長の過程で何か変化はありましたか。

梅田: 会社設立4年目で、社員が30、40人くらいまで増えた頃、内部崩壊しそうになったことがありました。そうならずに済んだのは、その少し前に定めた「7つのルール」というバリュー(以下参照)があったからです。

自由主義で行こう
創造性がなければ意味がない
ユーザーの理想から始める
スピードで驚かす
迷ったら挑戦する道を選ぶ
渦中の友を助ける
異能は才能 

私自身は以前、バリューを重視していませんでした。反対に、共同経営者の新野(良介)はその重要性ばかり言っていました。私からすると「売り上げがゼロなのに、頭の中がお花畑みたいだな。きれいごとを言っていないで早く結果を出そうぜ」くらいに思っていました。でも新野が正しかった。会社としての人格、価値観というものがないと、組織は同じ方向を向けない、全員の力が最大限発揮できないのだとこのとき痛感しました。

例えば、こんなことがありました。ある女性社員から夜中に電話があり、「妊娠しました。子供を持つことは私にとって夢だったので、明日から休みたい」と言うので、私は了解しました。翌日、それをメンバーに伝えたら、様々な意見が出ました。「こんなに忙しいのに、どうして休むことを許可したのですか」「社会一般的にはもっと出産ギリギリまで働くのが普通では」「前職の会社ではこういうルールだった」などと各人がいろいろな意見を言って、議論がなかなかかみ合わない。これは「何か共通の価値観が必要だな」と思ったのです。

その共通の価値観が「7つのルール」です。その1つに「渦中の友を助ける」というルールがあります。これが共有できていると、「今、その女性社員と我々のどっちが渦中にいるか。彼女が渦中にいるなら、ここは我々が助けないと。戻ってきたら、次は必ず助けてくれるから」という話ができます。

経験から導き出した7つのルール

伊藤: 7つのルールは過去の経験から導き出したものなのですか?

梅田: 創業から3年間、何とかやってくる中で、我々は何にこだわってきたか、みんなに伝えていくべき強みは何かというのを洗い出し、今の形になりました。 それに経験に基づいていないと、メンバーに対して自分の言葉で話せません。

伊藤: 「スピードで驚かす」というルールはどんなふうに生まれたのですか?

梅田: 「SPEEDA(スピーダ)」は当初、今ほどデータが充実していなかったので、サポートデスクを作りました。要は「欲しいデータが見つからなかったらここに聞いてください。代わりに探します」という裏側の人力サービスです。「問い合わせが来たら30分以内に必ず回答する、1分でも過ぎたら駄目」という姿勢で対応していたら、これがお客様の評判を呼び、当社の強みになっています。こうしたことがベースにあります。

7つのルールを作る上で言葉選びには時間をかけました。恐らく「スピードを大切にする」ではなかなか浸透しないでしょう。一度聞いたら忘れない、自分たちにしっくり来る言葉を探しましたね。

伊藤: ヤフーの場合だと「爆速」。まさに同じですよね。

梅田: 爆速って素晴らしいですよね。聞いただけですぐにイメージがわく。全社員に浸透させるためには力を持った言葉じゃないと。

伊藤: 「迷ったら挑戦する道を選ぶ」。ヤフーではバリューに「ワイルド」という項目があり、「迷ったらワイルドな方を選べ」と言っていて、近いなと感じました。これには、どんなエピソードがありますか。

梅田: 「NewsPicks(ニューズピックス)」を始めるとき、やるかやらないかで意見が分かれました。順調な成長軌道にあるSPEEDAを国内だけでなく、グローバルに展開していく、ついてはここに積極投資していこうという方向で進んでいたので、「このタイミングで、いつ収益化するか分からない事業を手掛けることは得策なのか。時期をずらしたほうがいいのでは」という声があったのです。最後は「迷ったら挑戦する道を選ぶ」に従いました。意見が分かれたり、判断に迷ったりしたときに7つのルールに立ち返っています。

「自由主義で行こう」は、現在イノベーション担当執行役員を務めている竹内(秀行)の存在が大きいですね。私は彼を天才エンジニアだと思っていますが、納期や時間を守るのは苦手。そこで私が何をしたかというと、彼を徹底的に管理しようとしました。自分の隣の席に座らせ、「プログラムを書いたら報告してくれ」みたいな感じで。それでどうなったか。次第に彼の輝きがなくなり、プログラミングのスピードがどんどん遅くなっていった揚げ句、竹内から「もう一緒にできません。距離を置かせてください」というメールがくるという始末でした。

そのとき、私は彼の才能を潰してしまったと猛反省して、できる限り自由にするやり方に変えました。そうしたら劇的にパフォーマンスが上がり、私が用意した仕様書を無視して、よりいいものを作ってきてくれた。技術者のイマジネーション、能力を最大限発揮できた瞬間でした。この体験から自由主義で行こうと決めました。その代わり、自由の対価として成果を求めます。責任を果たさず、自由だけを謳歌する社員は認めません。

「異能は才能」も竹内の経験からきていますね。才能ある人間を一つの枠に押し込めてはいけません。当社にはが外国籍のメンバーも多いし、職種も編集者、アナリスト、エンジニアと様々。そうした異能の集団だからこそSPEEDAやNewsPicksを提供できていると思っています。

伊藤: 「創造性がなければ意味がない」「ユーザーの理想から始める」に関しては?

梅田: 「ユーザーの理想から始める」は創業の原点です。それまで業界的に作り手の論理がまかり通っていたので、我々はユーザーの起点に立ったサービスを作ろうと。「作り手の論理に陥っていないか」「ユーザーの理想にそった開発になっているか」ということは開発の現場でしょっちゅう話されています。

「創造性がなければ意味がない」に関しては、例えばお客様からの問い合わせへの回答でも、いくらでも返しようがある。そのときに何らか創造性を加えることを徹底しています。30分以内に返事を返すスピードと創造性が評判を呼んで、我々のコアになっていった面があります。

伊藤: これらをどんな形で共有しているのですか。

梅田: まだ完璧にはできていませんが、経営陣が誰よりも徹底しているということが第一ですよね。また最初は伝道者みたいな人たちを戦略的に作りました。今は組織が大きくなったので、昨年から「カルチャーチーム」というバリューを浸透させるだけの3人の専属チームを作っています。拠点が日本、シンガポール、上海、香港と拠点が分かれているので、浸透させるためにそれだけの労力、時間とコストをかけています。

伊藤: ヤフーのバリューは「課題解決」「爆速」「フォーカス」「ワイルド」の4つです。言葉が端的だし、4つに絞られているので覚えやすく、社内に浸透しますね。加えて、社員はバリューが書かれたカードを常に携帯しています。

梅田: そういうのが大切だなというのをやってみて感じますね。当社では毎年「イヤーブック」というのを作成しています。1年の間にあった7つのルールに関するエピソードをメンバーから募集して、それを1冊の本にまとめ、社員の家族にも配ります。いろいろな思い出が7つのルールと共に入っていて、読み物としてすごく面白いんです。

伊藤: ちなみにバリューを評価に結び付けていますか。

梅田: 明確に結び付けています。自分自身が行動できているかから始まり、周囲に対して啓蒙できているか、頼られているかといった具合に、バリューの体現度合いのレベル分けがされていて、それが評価に直結する形になっています。いくらスキルが高く結果を出したとしてもバリューが伴わないと評価されないという仕組みです。

リーダーぶっても意味がない

伊藤: 梅田さんは社員総勢190人のチームの中で、どういうリーダーシップを取っているのですか。

梅田: 自分ではあまりよくわかりませんが、マラソンの先頭走者みたいな感じかもしれません。とにかくやってみないと分からない事が多いので、まずは先頭に立ってやってみることが多いです。監督のように外から指示するタイプではないと思います。

伊藤: 創業時のメンバー3人のときも、190人のチームになったときもスタイルはあまり変わらない?

梅田: 一時期、人数が増えてきて「リーダーぶらなきゃいけない」と思っていたときがありました。理想とする社長のインタビューなどを見て、こういうことを言わなきゃいけないなとか、リーダーだから簡単に怒ってはいけないとか、いろいろと気を使って社員とコミュニケーションを図っていたのですが、かえって伝わらなくなってしまいました。やはり誰かのまねをしたり、理想を求めて無理をしたりしてはいけないなと感じて、ありのままでみんなに接することにしました。そこで割り切れたのはよかったと思いますね。

伊藤: 取り繕っても意味がない?

梅田: ボロが出るし、言葉に力が入りません。かっこいいことを言うのではなくて、どれだけ本気で言っているかが重要ですよね。本気かどうかは表情であり、声のトーン、全てに表れます。そっちの方が100倍大切だなと思ったので、できる限りありのままでいこうみたいな。

伊藤: 梅田さんが考えるリーダーシップとはどんなものですか。

梅田: 私のリーダーシップ像はこれというものは特にありませんが、ただ経営者として「未来をつくること」「目の前の結果を残す」という2つには必ずコミットしなければいけないと思っています。未来を示すだけでは駄目で、目の前の結果を合わせて残さなきゃいけない。これができなくなったらトップから下りるべきでしょう。

伊藤: ユーザベースには梅田さん、新野良介さん(代表取締役共同経営者)、稲垣裕介さん(取締役COO )という実質的なトップが3人いますね。

梅田: 起業するときにいろいろな方から「一番駄目なパターンだ。3人で一緒に仲良くだなんて、起業をなめているのか」と言われましたが、元々3人に序列がなかったからそうしたという理由でしかないんですよね。

3人の役割分担は毎年変わっています。4年くらい前は営業が新野、企画は私。2年前は新野がSPEEDAの海外、私がSPEEDAの国内とNewsPicksという分担でしたが、昨年は「SPEEDA」はすべて新野、私はNewsPicksに集中。稲垣は創業以来、開発を含めたオペレーションを担当しています。年初に3人で話し合って、その年のベストな布陣を決めています。

3人で何回けんかしたか数え切れない。創業当時、つまらないことで諍いが増え、3 人の間で「何か不満があったら必ず言う。何も言わないのは不満がない証拠」というルールを決めました。これがよかった。大抵「こいつは俺のことをこう思っているのではないか」「何だ、あいつはあんなことをして」といった心の声が膨らんできて、疑心暗鬼になりますから。何でも思ったことを言うのは些細なことのようでいて、とても大切なことだと思います。

インタビュー後記

梅田さんと初めてお会いしたのは、2年ほど前。News Picksを始められたばかりのタイミングで、「是非News Picksのピッカー(ニュースを採り上げ、コメントを書く人間)になってください」という依頼を頂きました。ピッカーになって欲しいと思う方に直接、一人一人お願いしていると、当たり前のように仰っていまして。ネットのサービスでも、最初はそうやってひとつひとつ作り上げて行くんだなぁと、つくづく、事業家の気合というか、情熱を感じた機会として、今でもよく覚えています。

その情熱がどこから生まれてきたのか。会社勤めをされていて、どのように起業に至ったのか。共同創業者たちとの関係はどうだったのか。そして、社員数が増えてくる中で、どのように経営理念やバリューを考え、浸透させていったのか。色々聞いてみたかったこと、全てお話し頂きました。

何か熱くなれるものが欲しい、と日々一生懸命生きているうちに、これだ!と感じSPEEDAを作られた、起業までのストーリーは、とても熱いものを感じました。

誰でも最初から志に燃えていたわけではないし、どうしたらいいか分からないままもがくこともある。でも、やはり日々を一生懸命生きないとチャンスは訪れない。そしてチャンスが来たらしっかりと掴む。うまくいかなくても仲間を信じて走り続ける。こうした梅田さんの生き様から、自分を見つめ続けることの大事さを学びました。

ありがとうございました。これからもSPEEDAやNews Picksの発展を応援しております。

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