マーケティングの考え方: 企業のキャッシュ創出能力を左右する発想とは? 

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『グロービスMBAマーケティング』の第1章から「マーケティングの考え方」を紹介します。

企業にキャッシュをもたらすのは、突き詰めると顧客でしかありません。銀行が企業に融資をしたり、投資家が増資に応じたりすることでキャッシュがもたらされるケースもありますが、いずれも「この企業は将来にわたって売上げ、利益を上げ続けることができるだろう」という見込みがあってこそです。

では、どのような時に顧客は企業の製品・サービスを購入するのでしょうか?言うまでもなく、彼らのニーズを満たした商品・サービスが、買いやすいように提供された時です。どれだけ企業側が強い思い入れを持っていたとしても、顧客ニーズを満たさない製品やサービスは購入されません。また、仮にそれらを開発できたとしても、その存在を知らせることを怠ったり、入手が難しいようでは、これもまた顧客は買ってくれません。環境変化が速い昨今、常にキャッシュをもたらす顧客の視点に立ち、彼らが買ってくれるような仕組みを構築・維持することこそがあらゆる企業に求められているのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

マーケティングの考え方

マーケティングとは、顧客ニーズや顧客満足を中心に置きながら「買ってもらえる仕組み」をつくる活動である。その究極の目的は、顧客が対価を払ってもよいと感じる価値を効率的に提供し、顧客満足を得ながら、企業利益を最大化していくことにある。「顧客ニーズを満たし、顧客満足を得る」という命題が以前にも増して重要になっている背景には、次のような環境変化がある。

・景況が悪化し、個人、企業とも財布の紐がかたくなっている
・情報技術や物流インフラが進展し、顧客の選択肢が拡大している
・モノがある程度行き渡り、消費者はよほど欲しいと思うものでないと購入意欲を示さなくなっている
・消費者の価値観が個性化、多様化し、それに合致しない製品は受け入れられにくくなっている
・製品やサービスに関する情報量や使用経験の増加によって、顧客が「賢く」なった。ITの普及・発達で製品の比較が容易になったことで、機能、費用対効果、使い勝手に関する評判などに敏感になっている
・社会全般で変化のスピードが速くなり、顧客の嗜好の移り変わりも早まっている。製品やサービスはすぐに陳腐化し、目新しさのある競合品へとスイッチされやすくなっている
・規制緩和などに伴い業界の垣根が低くなった結果、予期しない競合が現れる可能性が増えている
・経済のグローバル化によって世界規模での競争が進み、商習慣や文化が異なる市場における顧客理解が求められている

こうした環境変化から読み取れるのは、供給者の都合を優先させて売り込むセリングの発想では顧客から見捨てられ、業績が悪化するばかりか、企業の存続までもが危うくなるということだ。企業が継続的に成長していくには、企業に収益をもたらす顧客の創造と維持が不可欠である。供給者側の都合を優先させた考え方ではなく、企業に長く利益をもたらす存在として顧客をとらえ、より長期的な関係を築いていくことが重要なのである。

冒頭のケースで紹介した松井証券は「顧客中心主義」を掲げているが、これは単にきれいごとやお題目として述べているわけではないはすだ。金融緩和や自由化の流れを直視して、新たな経営環境下では、従来の業界の論理や常識の枠内で考えていては立ち行かないと明確に意識していたからこそ、顧客視点を徹底することを自らに課したのである。それが業界タブーへの挑戦や、規制に安住している競合他社が嫌がるような新しいサービスの提案へとつながった。

市場の成長や競争状況の変化とともに変わりゆく顧客のニーズを的確に把握し、臨機応変に対応していかなければ、企業は生き残れない。大手証券は個人投資家によるインターネット利用の増加という流れの中で、営業マンや店舗などの優位性を脅かしかねないという自己矛盾を抱えながらも、ついにインターネットでの取引に進出せざるをえなかった。同時に競合が新しい環境もたらすと、それに伴って顧客ニーズも急速に変化していく。インターネット専業の証券会社が現れて競争が激化してくると、先行していた松井証券の革新性は際立たなくなり、同社も新しい顧客ニーズへの対応を検討しなくてはならなくなった。

顧客視点へのシフトの必要性は、金融業界に限った話ではない。顧客視点の施策で成功してきた企業であっても、知らず知らずのうちに企業の事情が優先するようになり、顧客の心を読み違えてしまうことはある。「顧客が求めるものは何か」「顧客から選ばれるためには何をすべきか」という発想で「買ってもらえる仕組み」を考えていくことが、どの業界のどの企業にも求められている。

次回は、『グロービスMBAマーケティング』から「企業におけるマーケティング機能」を紹介します。

◆グロービス出版

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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