なぜ直観に頼ってはいけないのか? 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「何だかんだいって、自分の経験から、直観は当たっていることが多い」と言われる方も多いでしょうし、有名なビジネスパーソンで直観を大事にしろと説いている人は少なくありません。例えばあのスティーブ・ジョブスは、まさに直観を大事にせよと説きましたし、スターバックス・コーヒーの創業者であるハワード・シュルツがそのビジネスモデルを思いついたのも直観的な閃きに基づくものだったと言われています。将棋や囲碁の棋士が時間をかけて指したり打ったりしたり手が、実は最初に直観的に閃いた手であったというのもよく聞く話です。

こうした話を聞くと、直観は否定されるべきものではないように思われるでしょう。筆者も、自分自身が直観的な人間ということもあるので、直観は大事にするべきだと思っています。一方で、警鐘を鳴らしたいのは、直観を過大評価することや、直観の後の熟慮をサボってしまうことです。特に後者は重大な問題です。

直観に関しては昔から心理学においてさまざまな実験がなされてきました。近年では、脳科学の進化もあって、医学的、生物物理化学的な分析も併用されるようになってきました。さすがに対象が複雑すぎることもあって、まだこれらを統一するような決定的なメカニズムは解明されていませんが、それでもいくつか面白い実験結果は出ています。

1つ参考になるのは、中途半端な思考は効率が悪いという実験結果でしょう。ある実験では、あまり時間が与えられない中で直観的に選んだ選択肢よりも、多少考えた上で選んだ選択肢の方が「外れ」が多かったとされています。ただし、その後熟慮を重ねると、最終的には直観と同等か上回る結果が得られたとのことです。

また別の実験では、自分に自信が持てず、中途半端に考えてしまう人ほどストレスがかかりやすく、生産性が落ちてしまうことが指摘されています。

さらに、当然ではありますが、自分の土地勘がある分野ほど、直観は当たりやすいことも示されています。例えば筆者の例であれば、書店に行って面白そうな書籍、とくにビジネス書を選ぶ際にはかなり直観が有効に働き、パラパラ中身を見ただけでそれなりの結果を得ることができますが、人生でもそんなに何回も買ったことないような日用雑貨では、かなり外してしまう確率が上がってしまいます。

こう考えると、自分が自身を持てる分野では直観は非常に大きな武器になると言えるでしょう。ジョブスが直観を大事にせよと言った背景には、こうしたことが肌感覚で分かっていたからかもしれません。

直観の落とし穴は?

一方で、直観の落とし穴もあります。先に、土地勘がある分野ほど直観は当たるという話を書きましたが、一方で、ベテランで自信がある人ほど選んだ選択肢が外れてしまうという実験結果もあります。理由としては、なまじ土地勘があるだけに、直観の後の熟慮を怠ってしまうのです。また、仮にある程度はロジカルに考えたとしても、いわゆる確証バイアスによって、自分に都合のいい情報のみを集めてしまうという罠もありそうです。考えてはいるけど「熟慮」ではないということです。

直観が往々にして感情やバイアスに左右されやすいという問題もあります。プロスペクト理論などを提唱し、行動ファイナンスの分野でノーベル経済学賞を獲ったダニエル・カーネマン教授は、著書『ファスト&スロー』の中で、人間には感情的・直観的で「ファスト(早い)」な思考と、論理的で「スロー(遅い)」な思考があるとし、人間の意思決定のメカニズムを説明しました。直観は往々にしてこのファストな感情に左右されがちなため、その後の熟慮がないと往々にして不合理で好ましくない結果をもたらすのです。

直観が、生存者バイアス(成功者の情報ばかりを集めてしまうバイアス)によって過大に評価されているという問題も指摘しておきましょう。多くの書籍や記事で直観がずばり当たったケースがよく紹介されますが、それが外れた例はあまり紹介されません。また、直観の後の熟慮の過程もそれほど紹介されません。そのため、なぜか直観(だけ)を磨けば成功する確率が上がるといった短絡的な結論を導く人が少なからず出てくるのです。

話を整理しましょう。直観は間違いなく大事です。ただし、自分が明るくない分野では直観は働きませんので、ビジネスパーソンであれば、経営学の基本やITの進化、自業界の動向などについては最低限の知識を蓄えておくことが必要です。そうすることで、特に普段の業務に関しては正しい選択肢を選ぶ可能性が高まります。また、何かしらの刺激が加われば、時として思わぬアイデアが閃くきっかけとなることもあります(参考:『「洞察力」があらゆる問題を解決する』)。 

ただし、どれだけ良い直観が得られたとしても、その後の熟慮を欠くと、物事は好ましくない方向に転んでしまう可能性が高まります。ましてや、最初の直感が間違っていた場合、熟慮がないととんでもない結果につながりかねません。直観と熟慮のバランスをとることが大切なのです。この分野については、今後も新しい仮説が生まれ、どんどん実証研究が進んでいくでしょう。しかし、この最後のポイントだけは変わらないはずです。ぜひ、そうしたバランスがとれているか自問してみてください。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

名言

PAGE
TOP