スターバックスコーヒージャパン「be juicy!」 -思い付きではなく、想いを巡らして、お客様を想う。 

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グロービス・マネジメント・スクールで教鞭を執る、小西賢明氏による新連載。マーケティング分野・新規事業分野を中心にプロジェクト支援や企業アドバイザーなどを務めてきた知見を活かし、巷の気になる商品・サービスのマーケティング戦略について、独自の視点で分析する。第1回は、スターバックスコーヒージャパンがカゴメと共同開発した「be juicy!」から。

マーケティングって、何?

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「うちの会社はマーケティングが弱いよね」
「僕はマーケティングの仕事に就きたいんです」
「当該事業の展開にあたってマーケティング戦略的には・・・」
多くのビジネスの場面で、「マーケティング」という言葉が何気なく会話に織り込まれる。

確かに耳障りよく、ぱっと聞く分には、素敵で真面目な印象を与える言葉。だがしかし、この言葉の真意は本当に正しく世の中に共有されているのだろうか。

「マーケティングって、何?」―――。

この質問は、「幸せって、何?」という問いかけと同じくらいに難しい。100人いたら100人の、100社あったら100社それぞれのマーケティング論が返ってくる。そんな極めて曖昧模糊なる概念だ。

例えば、ドデカイ投資で社運がかかっている事業のそれと、超ローリスク・ちょこっとリターンだけれど、面白そうだからやってみようという商品のそれとでは、議論の力点は自ずと大きく変わってくる。大企業で関係各所を調整のうえ方向性を意思決定していくそれと、身銭で自ら商売をしている人のそれとでも、議論の力点は、やはり自ずと大きく異なる。扱う商材や、立案する人の立場によって力点が異なるゆえに、個々のマーケティング論に差異が生じるのは仕方のないことではある。

ただ、商材・立場が違っても、普遍性の高いマーケティングの概念は抽出できる。

それは、「お客様に想いを馳せ、わざわざ売り込みに行かなくても、お客様自らが購入しに来てくださる状況を作り上げること」だ。

例えば、ピーター・ドラッカーはこう言った。「マーケティングの目的は、販売を不必要にすることだ。マーケティングの目的は、顧客について十分に理解し、顧客に合った製品やサービスが自然に売れるようにすることなのだ」。マーケティングの本質を突いた至言だと思う。

では、「わざわざ売り込みに行かなくても、お客様が購入しに来てくださる状況」って何だろう?行列のできるラーメン屋、行列のできるドーナツ屋、好例は色々と思い浮かぶが、その中の一つが、例えば「スターバックスコーヒージャパン」(以下、スタバ)であろう。

日本ではサザビーリーグ(以下、サザビー)が導入時の展開をリードしたといわれる同店は、「KIHACHI」や「Afternoon Tea」といったブランドを育て広げてきたサザビーならではの手腕が多いに発揮され、米国本国でのブランドコンセプトを毀損することなく、参入当時、日本の喫茶市場に新しい息吹を吹き込んだ。

タリーズコーヒージャパンなど、2番手・3番手の企業が続々と生まれ大きくなっている現在、スタバに対する好意の度合いは人それぞれに異なるところがあるかもしれないが、新しいコーヒー文化を築き、「売り込みに行かなくても、お客様がご購入しに来てくださる」状況を一定以上、維持していることに異論はないだろう。

ではスタバのマーケティングは既存の喫茶市場のおけるそれと、何を異にしていたのだろう。どこが優れていたのだろうか。様々な点に想いを巡らせながら、是非、熟考してみてほしい。
例えば、
・参入時は、どんな時代だったのか?時代のどんなビジネスチャンスを読み取ったのか?
・誰をターゲットにしたのか?誰に「愛されたい」と思ったのか?
・その人たちに、どんな価値を訴求・提供したのか?「おいしい」ということか?他にはないか?
・その価値をどんな打ち手で具現化したのか?「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(ここでは場所)」「Promotion(プロモーション)」の「4P」は価値をまさに具現化しているといえるか?
・・・

ここでマーケティングについて学び知っている方であれば、気付かれたのではないだろうか。上記は何となく考えているようで、何となくに非ず。マーケティングに想いを巡らすときには流れがあり、型がある。それが、

「環境分析」⇒「セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング」⇒「マーケティング・ミックス(4P)」

という「マーケティングの流れ」だ。

思いは様々な視点で巡らすべきだが、脈絡のない思いつきの連続では、思索が迷走してしまう。最終的には一つの筋の通った流れに帰着させる。だからこそ、「いける」と思える。思いついたヒラメキを仮説検証しつつ、一つの筋の通った戦略に落とし込むことが、マーケティングに携わる人全般に必要な基本動作となる。そう思うとスタバの戦略は、時勢や競合状況、ターゲット層や目指す価値、そしてその具現化としての4Pが、一連通して見事に合致している。筋が通っているからこそ、それが偶然に得た成功でないことに納得させられる好例である。

しかし、そのスタバが最近、ちょっとオカシな商品を出している。

「コーヒー」と「ジュース」と「マフィン」の朝食?!

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2007年5月末にスタバは、カゴメと共同開発したジュース「be juicy!」の販売に乗り出した。100%フルーツジュースで「マンゴー&オレンジ」味と「ストロベリー&バナナ」味。180ml。可愛らしくオシャレなパッケージである。

いわく、健康にこだわる消費者に対応するために拡充された「ウェルネス・セレクション」の基幹商品に当たるのが、このbe juicy!だ。(ちなみにウェルネス・セレクションとして他には、「豆乳バナナマフィン」や「レモンズッキーニケーキ」、「be juicy! kids」など10製品が開発されている)

be juicy!に対しては「素敵!」という声も「おいしい!」という声も、勿論ある。ただ、スタバのような店舗ビジネスについて考える際には、個別の商品の魅力について議論するだけではなく、それがビジネス全体にどのような意味をもたらすかにも想いを巡らしてほしい。例えば、

・誰をターゲットにしたのか?誰に「愛されたい」と思ったのか?

スタバのホームページなどを見ると、健康にこだわりを持つ消費者をターゲットとしているようだが、だからと言って、これまでと全く違う客層の獲得に乗り出しているというわけでもなさそうだ。ウェルネス・セレクションの説明書きにある、「体にちょっといいことを求める時の選択肢」という文言が表しているように、狙いは、スタバやスタバ的な世界観を好んで活用しているうえ、さらに健康にもこだわりを持つ消費者。しかも、パッケージなどを見る限りでは、女性の利用を見込んでいるようだ。

しかし。ここで疑問が湧く。「スタバやスタバ的な世界観を好んで活用している」上に「健康にこだわる」「女性」。スタバは彼女達にこの商品を、どう手に取らせたいのか?どういう利用シーンを想定し、どんな価値を出そうとしているのか?

例えば出勤前にスタバの価値の象徴である「コーヒー」を飲みつつ、この「ジュース」を飲んで、「マフィン」などを食べるスーツ姿の女性の姿が目指すもの?・・・うーん、食べすぎじゃない?
決して冗談で言っているのではない。実際にスタバに足を運んで飲んでみれば分かる。be juicy!はそれなりにボリュームがある。口ごたえもしっかりしていて、逆に言えば重い。果たして、女性の顧客はこれをコーヒーと一緒に飲めるのか?

私には、女性がこれを、スタバの価値の象徴であるコーヒーと併せて飲むようには、正直あまり思えない。それでは、ちょっと飲みすぎだ。となると、ジュースとマフィンだけで(つまり、肝心のコーヒー抜きで)食事を摂るという利用シーンになると思うのだが、それって、スタバである必然性があるのだろうか。コーヒーを核にしたスタバの商品群の中で、be juicy!はその居場所を未だ見出していないように見える。
コーヒーを必然としない店舗コンセプトへの脱皮を本気で進めているのならともかく、コーヒーと一緒に飲めるような設計になっていない商品を、わざわざスタバが積極的に売り出す意味合いが、私にはうまく見つけられない。果たして、それで、「売り込みに行かなくても、お客様がご購入しに来てくださる」状況を作り出すことはできるのか。どうなのか。

知っている人もいるかもしれないが、スタバは以前、ジュース飲料として「ダブルスクイーズ」という商品を出していた。バナナとラズベリーのミックスジュースで、マニアには愛されていた。でも爆発的なヒット商品ではなかった。理由は味云々の問題ではなく、「スタバでジュースを飲むシーン」を積極的に作り出せなかったからではないかと想像している。

その上で、今回のbe juicy!はダブルスクイーズに取って代わるようにして生まれた。更に言えばこれはもはや傍流の一商品ではなく、ウェルネス・セレクションというスタバにとって重要なカテゴリーの基幹商品に位置づけられている。

しかし。「どういうシーンで味わうか」という提案に本質的な改良が施されているようには見えない。位置づけだけを変え、シリーズ化したところで、顧客の「ジュースを飲む」行動に変化を与えるような提案ができない限りは、be juicy!がダブルスクイーズを超えることはできないと思うのだが。

「コーヒー」と一緒に朝食や昼食を摂る。しかし健康は気になるので果物をドリンクで摂る。例えばホテルのビュッフェでコーヒーと果物ジュースを飲むように。そのためには例えば、最適な量の設計が必要だ。作り手は、そこに想いを馳せているのだろうか?

そして、フレッシュな「生(なま)果物」感を出すべく頑張っているが故の、口ごたえの重さ。果たしてこれを女性が「コーヒー」と併せて飲めるのだろうか。作り手は、そこに想いを馳せているのだろうか?

そもそも女性を狙うのになぜ「健康」で「果物」なのか?「美容」ならともかくなぜ「健康」なのか。しかもなぜカゴメと組んでいながら「野菜」ではなく「果物」なのか。更に言えば、「健康」で引きつけるのであれば、なぜ、男性も狙う商品デザインとしないのか--。

ターゲットや、利用シーンに具体的に想いを馳せると、様々な疑問が思い浮かばれる。「わざわざ売り込みに行かなくても、お客様が購入しに来てくださる」一つの筋の通った流れがそこにあるようには、正直思えない。
・・・
例えば、be juicy!を以下のように設計しなおすというのはどうか。

ターゲットはスタバファンの中核となる「若い男女」。「美味しく健康で、自分をしっかり大切にするライフスタイル」コンセプトを価値に掲げ。「コーヒー」と併せて飲める「適量」(少量)で、「野菜も含む」商品として。そんな、「欠かせない補完商品」としてのbe juicy!を目指す。

この時売り手側の視点としては、ジュース単体での売上げを狙うのではなく、「食事」利用の際の客単価向上を目指す。「コーヒーかジュースか」ではなく、なるべく多くのお客様に、「コーヒーとジュースを」を目指していく。

・・・
別にこれが「正解」などというつもりは、さらさらない。しかし、より精度高い筋の通った流れが作れるのではないか。ターゲットを定め、価値を定め、打ち手を定める。より精度が高い流れが、より成功確率の高い戦略であることを考えると、今のbe juicy!はもっと精度の高い戦略が作れるのではないかと思えてならないのである。

思い付きではなく、想いを巡らして、お客様を想う

私はスタバの関係者ではないので、誠に申し訳ないが、コトの真意は分からない。実際には、いろいろな制約の中で施策が練られるため、理屈どおりにはいかないことのほうが多いだろうし、表出していない狙いがあるのかもしれない。それは正直、わからない。

ただ、大事なことが一点。マーケティングに興味を持つ者ならば、日々、様々な商品やサービスに触れるたびに、(ここでbe juicyで思索をめぐらせたように)そのマーケの流れにいつも想いを巡らせてみてほしいのだ。

この商品(サービス)が狙うお客様は、誰か。どんな価値を提供するのか。打ち手はそれを、具現化しているのか。そしてそれらは、「環境分析」⇒「セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング」⇒「マーケティング・ミックス(4P)」という、断片的でも思い付きでもない一つの流れに収斂していっているのか。是非ここに。想いを巡らせてほしい。

中でもとりわけ、「お客様は誰か」「お客様は何を望んでいるのか」「お客様はそれを手に取るか」「お客様はどう利用されるのか」等々、徹底的に「お客様」に想いを馳せてみてほしい。そうやって、いろいろに想いを巡らせつつ、最終的に「マーケティングの流れ」に帰着させるべくその商品・サービスを味わいつくす。野球選手が、素振りで筋肉を磨くように。外科医が、自身が手術する姿に想いを巡らし手を動かしてみるように。レーサーが、走る姿に想いを巡らせイメージトレーニングをするように。日常のあちこちにある素敵な面白い商品に想いを巡らせつつ、最後には一つの流れに帰着するまで、自身の考えを詰めてみる。これが、マーケティングの腕を鍛えていく。

これから何度かお届けする本連載。バットを振れば振った分だけ必要な筋肉を作ってくれるように、マーケティング、すなわち「売り込みにいかなくても、お客様がご購入しに来てくださる状況」を作るために必要な筋肉を、身近な商品・サービスを例に一緒に鍛えていかれればと思っています。そして、そんな素振りを楽しんでいただける読者の皆さんと記事を元に交流し、マーケティングやビジネスを、手応えのあるものにしていかれれば幸いです。

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