集団的リーダーシップへのシフト: 個人の力には限界がある 

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『グロービスMBAリーダーシップ』の第3章から「集団的リーダーシップへのシフト」を紹介します。

我々は「リーダーシップ」という時、無意識に個人を想定してしまいがちです。もちろん、実際に、個人として強いリーダーシップを発揮する人はいますし、そうした個人を育成するのが得意な組織も存在します。しかし、個人の能力には限界がありますし、複雑な現代社会では、個人や特定の数名のリーダーシップでは対応しきれないケースも見られるようになってきました。そこで注目を浴びてきたのが集団的リーダーシップです。多数の人間によるリーダーシップ行動が生まれる「場」の在り方やそのプロセスそのものに着目するという考え方です。この研究はまだまだ途上ではありますが、今後のリーダーや組織の在り方を大きく変えうる可能性を秘めており、新時代を生きる我々としてもぜひ知っておくべき考え方と言えるでしょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

集団的リーダーシップへのシフト

過去50年のリーダーシップ開発の考え方は、個人の能力に焦点を当てていた。すなわち、置かれた状況を分析的に理解し、問題解決方法を示し、人々を動かせるリーダーをいかに育成するかを考えていた。しかし、こうした発想自体に疑問符が付けられるようになってきた。我々を取り巻く環境は複雑さを増し、解決方法どころか、だれも「問題」を定義することすらできない状況も、めずらしくなくなった。こうした解の見えない課題に対しては、異なる利害を持つ、多様なステークホルダーが協働していくことが必要となる。

そこでは、多様性をマネージしながら協力させ、巧みに影響力を発揮していけるようなリーダーシップが求められるだろう。こうした局面では、1人のリーダーの力以上に、相互のつながりの中でさまざまな人が、さまざまなかたちでリーダーシップを発揮し、その結果として集団が望ましい方向へ動いていく状況をつくることが、より重要になるという見方がある。

2010年末にチュニジアで起きた暴動に端を発し、中東地域の長期独裁政権が相次いで倒れた「アラブの春」は、必ずしも特定個人が扇動したものではなく、ツイッターなどのソーシャル・ネットワーク・ツールを通じて、人々が相互に呼びかけ合って起きたといわれている。革命運動に参加した若者たちの中にリーダー的存在の人物がいたのではなく、リーダーシップはネットワーク全体の中に拡散して存在していたのだ。

こうした時代背景から、リーダーシップの概念を、個人や個人の役割としてではなく、いわば非属人的なプロセスとして捉える見方が出てきている。たとえばハーバード行政大学院のロナルド・ハイフェッツは、リーダーシップを、「人々を困難なチャレンジに向かわせるプロセス」として定義している。特徴的なのは、組織ヒエラルキーにおける地位や権威にひもづけることなく、プロセスとしてリーダーシップを捉えていることだ。だれがリーダーなのかは重要ではなく、システムやネットワークの中でどうすればリーダーシップが生まれるかを考えることにフォーカスが移っているのだ。マサチューセッツエ科大学のオットー・シャーマーが提唱しているU理論も、ソーシャル・ネットワークが生み出す連鎖反応が社会問題解決の有効なアプローチになる可能性を説明する新しい考え方の1つだ。

第2章でも触れたようにフォロワーに着目し、リーダーとフォロワーの互恵的関係の中にリーダーシップの源泉を見出していこうとする考え方もある。ヒエラルキー組織におけるタテの分業を想定したリーダーとフォロワーの関係ではなく、チーム型組織におけるフラットな相互依存関係としてリーダーとフォロワーを捉え、両者が共有する意味を形成していく過程に注目するのである。リーダーシップ開発が組織開発と統合され、進化していく可能性を感じさせる。

たとえば、ある自動車関連会社のマーケティング部の例を考えてみよう。この会社では従来、製品ごとに世界共通のマーケティング・ポリシーを策定してきたが、最近は地域ごとの特性に応じ、より柔軟なマーケティング施策を展開していくことになった。これまで、リーダーのマーケティング部長には、製品発想からマーケティング・プランを構想し、その意味を語ることはできたが、地域視点からの発想はなかった。今後は、マーケティング部全体として地域別のマーケティングに挑戦し、部長も答えのない新たなアプローチを模索していくことになる。

これは従来の見方をすれば、製品発想では不十分だということに気づいた部長が、新しい地域別発想のアプローチも統合するようにチームを方向づけた、部長の「リーダーシップ」行為と捉えられるだろう。しかし同時に、マーケティング部が集団として、2つのアプローチをとることの意味を見出し、新たな要望を理解してそれに対処するという、変化への適応能力を開発していくプロセスと見ることもできる。こうした組織開発的観点からは、信頼、感情、開放的なコミュニケーション、効果的な相互作用などを通じたチームの育成が、リーダーシップ開発につながるのである。

このようなリーダーシップ観は、リーダーとフォロワーがチームとして協働し、意味を創出していく過程の中心にリーダーシップを位置づけようとするものである。リーダーシップは、共通の目標を定め、それに向けて人々を動機づけていくことだけでなく、目標を意味あるものにする、あるいは目標がないことにも意味を見出すための基盤になるものと捉えられる。そうした観点からのリーダーシップ開発は、リーダー個人の能力開発というより、リーダーがフォロワーと一緒になって、チーム全体として取り組む組織開発の営みとして、今後は統合・進化していくかもしれない。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院 竹内秀太郎)

次回は、『グロービスMBAマーケティング改定3版』から「マーケティングの考え方」を紹介します。

◆グロービス出版

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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