古俣大介×伊藤羊一(2)高い目標設定は僕のエゴ? 

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リーダーシップの出現メカニズムを解き明かす本連載。前回は、ピクスタ起業までの道のり、そして成長の過程についてうかがいました。今回は、劣等感と共生しながら謙虚に社員の声に耳を傾ける、古俣氏のリーダー像に迫ります。(文: 荻島央江)

本当にやりたいことにもっと早く気付けたらよかった…

伊藤: 起業家としての古俣さんのキャリアは何年になりますか。

古俣: 大学生のときコーヒー豆のeコマースを始めたのが18年前で、そこからですね。

伊藤: これまで3度起業してきた中で、一番の学びは何ですか。

古俣: 何をやりたいのかを徹底的に考えることが何より重要だということです。僕自身、本当にやるべきことにもっと早く気付けたらよかったなと思います。僕は幼い頃からメディアとかコンテンツとかクリエイティブな分野が好きだったのですが、それこそが自分が手掛けるべき仕事であると理解するまでにずいぶん回り道をしました。

孫(正義)さんはソフトバンクを立ち上げるまでに1年半ぐらい考え続けたといいますからね。僕も最初からもっと徹底して考えればよかった。最近、学生起業家から相談を受けることが多いのですが、そういうアドバイスをしています。

伊藤: 孫さんの例でいうと、孫さんが起業して2年目ぐらいに講演会で話した音声を聞いたことがあります。やっていることは今と全く違うものの、発している言葉が今と寸分違わず、鳥肌が立ちました。その時点でソフトバンクの原型が完全にできあがっていたのでしょうね。ただ一方で、「とにかくやってみろ」と言う人もいます。

古俣: とにかくやってみることもとても重要です。僕自身、起業を志したのは大学2年のときですが、実際に始めたのは4年になってから。それまで迷ったり、準備したり、勉強したりというのをぐずぐずやっていました。

伊藤: できることはとっととやって、自分がやりたいことをしっかり探し尽くせと。

古俣: 起業すると大変なことがたくさんありますから、自分の本当にやりたいこと、心からわき上がるようなことじゃないと続きません。僕が創業から3年半のつらい時期を何とか乗り越えられたのは、自分が本当にやるべき事業を選べていたからだと思います。自分が好きなことというか、自分が人生においてやるべきことを手掛けられれば、半分は成功したことになるんじゃないと思います。

誰にでも公平にチャンスがある

伊藤: 現在、社員数はどれくらいですか。

古俣: アルバイトを含めると約100人で、うち正社員は60人ぐらいです。

伊藤: 日ごろ社員のみなさんにはどんな接し方をしていますか。

古俣: 事業や組織すべてにある共通するものが流れていると思います。「ピクスタ」は誰でも投稿できます。作品の出来によって売れる、売れない、審査に通る、通らないがあるとはいえ、誰にでもフラットにチャンスがある。組織としても同様で、入社年次や年齢に関係なく、やる気がある人間にはどんどん仕事を任せます。

例えば、去年の2月にインターンで入った明治大学4年の学生がいます。彼はやる気があって、成長著しい。もともと起業家志望ということもあり、「だったら、海外を一度経験しておいたら?」とそそのかして(笑)、台湾の責任者を任せています。学生でもできる人間ならそれぐらい十分やれますね。

伊藤: 任せるのは言うは易しですが、それをやり切るのは大変なのでは。

古俣: そうですね。原点はガイアックスの上田(祐司)社長かもしれません。上田社長はインターンだろうが何だろうが、それこそ何億円の決裁でも任せますからね。で、最終的な責任は取る。そういった上田社長の姿勢に多分に影響を受けている気がします。

上場しても達成感が全くない

伊藤: 社員が増え、組織が大きくなっていく中で、マネジメントスタイルは変わっていきましたか。

古俣: そうですね、取締役の遠藤(健治)はガイアックスの元役員なので、上場に値する組織というものを経験しています。「その目線で経営者としての僕を見たときに全くそのレベルに達していない」というようなダメ出しを半年間、毎日のようにしてくる。その時期はかなり憂鬱でした。

憂鬱というのは遠藤がどうとかいうことではなくて、今の状況を乗り越えないと、会社はこれ以上成長しないんだろうなということが理解できたんです。

伊藤: ずいぶん自分を客観的に見ていますね。チームを率いながら、チームをどうするかだけでなく、自分はいかにあるべきかということも常に考えているのですね。意識的にそうしているのですか。

古俣: 結構していますね。電車に乗っているときなどに、自分はどうなったら本当に幸せなんだろうとか、今の立ち位置でいいのかとか。創業から10年で一定の規模になって、株式上場もできた。周りの人はすごいと言ってくれる。でも自分としては達成感が全くない。それはなぜなのだろうと最近よく考えていました。そう自問する中で、自分にはまだまだ目指す別の目標があるのだということを再認識しました。

伊藤: 飽くなき高い目標があるんですね。

古俣: はい、僕のエゴで勝手に高い山を設定しちゃっていて。そうなると満足している場合じゃない。

伊藤: きっと事業を続ける限り、そうなんでしょうね。

古俣: 一応、これくらいいったら、死んでも後悔しなさそうだなという数字はあるにはあるのですが、そこ達したときにどうなるかは自分でも分かりません。

伊藤: 自分自身を客観的に見るのはまだしも、他人からだめ出しされるのはあまり気分のいいことではないでしょう。古俣さんはなぜ感情的にならず、指摘を耳を傾けられるのですか。

古俣: そもそも感情的になることがほとんどありません。会社で社員を怒ったこともないんじゃないかなあ。自分でも不思議なくらい感情的にならないんですよね。

伊藤: うらやましい。どうしたら怒らなくなるのでしょうか。

古俣: ピクスタをつくって、大きくして、ここまでやっていきたいという想いは僕のエゴなんじゃないかと思うことがあるんですよ。社員からしたら「そこまで大きくしなくていい」と考えているかもしれない。それでも僕に付き合ってくれているという感覚があるから、怒らないのかもしれない。

それに自分でも不思議なのですが、ものすごい劣等感で自信がない自分と、世の中をなめきっているような自分が、僕という人間の中に共存しています。そういう自分を両立していると、人より有利だとか優秀だとか思わない。

伊藤: 劣等感だけだと動けないけど、自信があるから動くし、何かあっても劣等感があるから謙虚になれるんですね。


リーダーシップとは?

伊藤: 古俣さんにとってリーダーシップとは何ですか。

古俣: 登る山を決めるとか、進む道を決めるのはたぶんリーダーの役割で、そこに向かって一人ひとりが力を発揮できるような環境づくりをすることでしょうか。

伊藤: 「おれについてこい」タイプのリーダーもいますが、古俣さんの場合はそうではなさそうですね。最大の力を引き出すために、サポートできることはサポートするし、聞くべきことは聞く。メンバーそれぞれにやりたいように取り組んでもらい、ベストな働きができるように整理するというか。

古俣: 僕はそういうスタイルです。ただ日本を代表するメガベンチャーをつくってきた人のほとんどはワンマンな人。本当に上を目指すなら、そっちのほうがいいのかなと思うことがあります。

伊藤: 確かに今まではそういう経営者が多かったですね。でもこれからは古俣さんのようなリーダーシップスタイルの人がものすごく大きな事業を一代で育て上げ、社員みんながいきいきと仕事をしている、そんな会社をつくってくれると期待しています。たぶんそのほうが社員は幸せだと思うんですよね。

古俣: おこがましいのですが、『ビジョナリーカンパニー2』に登場する経営者、あれはまさに僕のことだなと思いました。僕のようなスタイルだと、一代で巨大企業を築くのは難しいかもしれないけれど、将来ビジョナリーカンパニーとなるための土壌を今つくっているのかもしれないと考えることがあります。

インタビュー後記

古俣さんは、事業にかける情熱がとても熱くていらっしゃると同時に、親しみやすく、ひょうひょうとされていて、誰に対しても肩肘張らずお話しされる、不思議な魅力をお持ちの起業家です。こういう方が、どのような感じでリーダーシップを発揮され、周囲を巻き込み、結果を出されてきているかを知りたいなと思い、今回インタビューをお願いしました。

色々お伺いして見えてきたのは、「サーバントリーダー(支援型リーダー)」の姿です。環境づくりをする、任せる、怒らずに任せきる。古俣さんは、支援しながらチームを巻き込み、盛り上げていく、ということを徹底されていました。あれやこれや言われて仕事をするより、真に任せられるチームは、主体性を持って仕事に取り組むことができ、モチベーションもあがることと思います。

ご自身のやりたいことを爆速で進めたいのが経営者です。特に急成長を遂げられる会社はスピードが命です。チームが自分の思った通りに進まなかったり、スピードが上がらなかったりしたりすると、ついついガンガンに口を出し、叱ったりたくなるものでしょうが、古俣さんは、決してそうはならないそうです。

なぜか。元来の性格的なものも、人から学んだことも大きいのでしょうが、印象的だったのは、「自身の事業に対する思い、設定しているビジョンは自分のエゴのようなものだから、そこにつき合ってくれるチームには(感謝こそすれ)怒らない」と仰っていたことです。

感謝があるから、支援をする。このような思いがあるから、事業にかけるご自身の熱い情熱と、(自分より)チームを活かすサーバントリーダーシップがしっかりとバランスしているのだな、と理解しました。

印象的なお話の数々、本当にありがとうございました。ピクスタは今後もユーザーとして応援し、使い続けますし、リーダーとしての古俣さんも心より応援しています。

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