人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか 

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グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。今回は、週刊東洋経済が選ぶ「この経済本がすごい!2007上期決定版」のトップにも上がったベストセラー書を取り上げた。

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"経済学は「科学」の中でも特殊な位置を占めている。かなりの高等数学を駆使する点は物理学などと同様であるが、大きく違うのは、人間の行動を対象としている点だ。それゆえ、物理学で追究する真理がおそらく時代を超えて普遍的であるのに対して、経済学で追究する「真理」は、その時代時代の人々の思考様式や技術インフラなどに強く影響を受ける。つまり、経済学における「真理」は、ある前提条件において成り立つ「限定的真理」にすぎない。

これは言い換えると、環境が変われば、経済を説明するための別の概念やモデルが必要になるということだ。もちろん、ある日を境にして有効な概念やモデルが急に変わるわけではないが、それでも、時間とともにある概念やモデルの有効性は変わっていく。20世紀中葉から後半にかけては非常に有効であったケインズ経済理論も、現代ではその限界や前提条件を理解すること抜きに用いようとすると逆に大きな禍根をもたらしかねない。

本書は、1995年を境に、経済のメカニズムが大きく変わったことを、圧倒的な定量的な分析をもとに説明している。その背景にあるのはITの進展と、それをベースとした資本のグローバル化だ。建前的にはすでに多くの国で資本は自由化されていたが、ITの進化により、真の意味での資本のグローバル化が促進され、資本は高いリターンを求めて世界をさまようことになった。こうした時代には、1国1国のスコープで経済政策を考えるのではなく、グローバルな関係性の中での意味合いを今まで以上にしっかり考え抜くことが求められる。

本書の重要なキーワードは「帝国化」である。ある国の外交政策に対してのみ影響を与えられるような国は、現代のグローバル経済では負け組みになってしまう。他国の内政に干渉できる力を持った国がグローバル経済を牽引するという洞察は非常に興味深い(個人的にはやや疑問はあるのだが)。また、これは以前からさまざまな人々が言っていたことではあるが、マネー経済が実体経済を振り回す力を持ったことの意味なども、本書によって再確認できよう。

さて、経営学を教えている立場から本書の面白さを改めて指摘すると以下のような点が挙げられる。

第一に、ビジネスパーソンの教養としてのマクロ経済に関して、非常に興味深い視点を提供してくれている。往々にしてビジネスパーソンは所属企業や業界といった微視的な視点に縛られがちになる。政治や技術と連関したマクロ経済環境における自分たちの位置を知ることは、ビジネスパーソンにとって必須なのではないだろうか。近年のイギリスやアイルランドの繁栄を見るにつけ、その意を強くする。

第二は、ものごとを仮説を持ちながらブレークダウンしてみることの価値だ。日本経済の成長率をそのまま全体で見ても得られるものは少ない。ところが、「グローバル経済圏企業」と「ドメスティック経済圏産業」を分けてみると、二つの全く違う動きが同時進行していることが見えてくる。クラスでも言っていることであるが、「森も木も林も見ること」が重要だ。

第三に、共通点を見極め、キーワードやモデルで考えることの力だ(ただし、これは一方でリスクも伴う)。先述した「帝国化」あるいは「金融化」というキーワードを抽出しそれを軸として物事を見ることで、複雑な事象に芯が通ってくる。

経済学の専門用語も多く、必ずしもスラスラ読める本ではないかもしれないが、ぜひご一読されるといいだろう。知的好奇心も刺激されるし、かならず新しい発見があるはずだ。"

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