変革を担う経営者の条件は くぐり抜けた「修羅場」の数 

産業再生機構COO・冨山和彦氏―寄稿・人を育てる 
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激動の日本経済で企業の将来を担う経営リーダーの人材をどう育てるか。トップ企業の経営者に聞く「人を育てる」第1回は、数々の企業再生を手がけた冨山和彦・COOに経営者の資質について聞いた(「週刊ダイヤモンド」2006年2月11日号に掲載、聞き手はグロービス経営大学院大学教授・研究科長の田﨑正巳)。

経営者に問われるのは ビジネスの目的の持ち方

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田﨑:これまでに産業再生機構でいくつもの不振企業の経営の債権策を講じ、実行に移してきた冨山さんからご覧になって、優れた経営者あるいは変革リーダーというのは、どのような素質を備えているべきであると思われますか。

冨山:優れた経営者の条件は、自分にとって何が大切かということを常に問う生き方をしてきたこと、これだけですね。

物事には必ず目的と手段があるわけです。ビジネス自体の目的は収益を上げることですが、それ以前に経営者には何がしたいか、どうありたいかという一つ上の次元の目的があって、ビジネスは結局その手段にすぎません。手段は合理性でその良し悪しを判断できますが、目的というのは経営者個人の主観なので、それに理屈もへったくれもないんですよ。

たいていの経営の問題は、経営者がその価値選択をちゃんとやってないことに発するのです。自分は何が大事だと思っているのかが、きちんと詰められていない。そういう価値基準の選択をきちんとできない経営者というのは、ギリギリの判断を迫られたときにぐらつくんです。

田﨑:その価値基準というのは、もともと備わっているものですか、それとも教育などで何か変わるものなのでしょうか。

冨山:両方あると思いますね。人によって違うんじゃないですか。性格的に自分のことは自分で決めたいと思っている人もいるでしょうし、職業柄そういうものを持たないように訓練されている人もいます。

たとえばシステム・エンジニア(SE)は、そういうのはダメなんです。システムの仕様は決められていて、彼らはその手段を延々考えるのが仕事ですから、「そもそもこのシステムの目的は…」とか考えてしまう人はSEには向いてないし、誰もそんなことをSEに期待しない。みんながみんな、経営者的なマインドを持つ必要はないわけです。

価値選択の積み重ねが 自らの価値基準を生む

田﨑:最近の経営者は、若い人には志を感じないと言いますが。

冨山:そんなのは戦後教育を受けてきた今の経営者だって、似たり寄ったりですよ。「若い人が」というのは、年を取った人が勘違いしているだけです。六十も越したいい年して、馬鹿なことを言ってる経営者なんて、いっぱいいるじゃないですか。 日本では戦後、道徳とか哲学とか宗教とかを教えてきませんでしたから、全体的にそういうマインドを強く持つ人が減ってるのは事実でしょうけどね。

田﨑:そういう志を育てる教育というのは、可能でしょうか。自分の価値基準を明確にするためには何をすれば良いですか。

冨山:簡単です。苦労することです。自分にとって、どうしても決断しなければいけない選択肢のうち、合理的に見たら不利だとしても自分にとって魅力的と思える選択肢と、逆に合理的で自分にとっても有利だけれども、それを選ぶとどこか空しいと感じるような選択肢がよくあるんです。そのどちらを取るかといったギリギリの体験を繰り返すと、自分にとって何が本当に大事なのかが分かってくるんですよ。

人によっては、その価値観が「やはり自分にとっては仕事より家族が大事」というものでもいい。ただ、その価値観は仕事と家庭の狭間で苦労する中からつかみ取ったものでなければ、揺るがないものにはならないんです。

大事なことは、その判断が揺るがないこと、ぶれないこと。われわれから見ると、経営者が手段の部分でぶれるのはいいんです。それは状況変化によって変わるものですから。しかし、目的の部分でぶれる経営者とは、おつき合いできない。

田﨑:修羅場をくぐらなければ、そういう価値選択の体験というのはできないのでしょうか。修羅場はどうすれば体験できるのですか。

冨山:うちに来るような不信企業に転職すればいいんですよ。修羅場はそこら中にあります。

じつは、私の後輩が一年ほど前にとある企業に転職したのですが、その後、その企業の業績が急速に悪化しましてね。絶妙なタイミング。僕は彼に「おめでとう!」って言ってあげましたよ。

田﨑:なるほど。修羅場はあちこちにあるんですね。

冨山:あるある。たくさん転がってますよ。

田﨑:修羅場にいる当人は「やった!修羅場だ」なんて思わないでしょうけれど、それがその人を高みに引き上げるための試練になるんですね。

冨山:世の中全体で見ると、そういう経験ができるところはたくさんあるのに、日本ではエリートがそういう場を踏める機会が少ない。それは、自社の将来を担う人材はそういう危ないところに出さないで、地道に努力させるべきという価値観がまだ根強いからですね。

よく「ネットベンチャーならいざ知らず、伝統的企業の社長が四十代に務まるか」という議論がありますが、カネボウという120年の歴史のあるガチガチの伝統企業で、知識賢治さん(社長兼COO)という41歳に社長が務まるわけですよ。経営は人間を扱う仕事なので決して子どもの仕事ではありませんが、日本のどんな企業だって40代以上であれば社長になれるということです。

田﨑:変革リーダーを育てるためには、まずはそういう人材に修羅場をくぐるチャンスをもっと与えよということですね。

冨山:そう。あとやはり、そういう修羅場の正しいくぐり方を、新兵としての若いうちに学ばせるべきです。銃の扱い方、手榴弾の投げ方、壕の入り方を知らないと、戦場でコロッと頓死しますからね。その意味で経営学を体系的に学ぶMBA(経営学修士)は、いわばビジネスという戦争の基本技術として役立ちます。

優れた経営者の要件は 人間的魅力ではない

田﨑:価値判断の基準、戦う技術、それ以外に経営者に必要なものはありますか。人間的魅力というのはどうでしょうか。

冨山:魅力というのは結構いい加減なもので、人間としてすっごくいやな人でも優秀な経営者というのはいます。だから人間的魅力があればいいのかというと、そういうわけでもない。

経営者にとって大切なのは、他人を思い通りに動かせるかどうかということです。本人はぼんくらだけど、すごい人の息子だっていうだけでみんなが言うことをきくことだってある。

大事なのは魅力の要件ではなく、自分の能力と組織の特質とをどう重ねるかというマキャベリズムなんですよ。目的のためには手段を選ばない。将棋の「玉」であると同時に、将棋を指す人にもなれるというのが、経営者に必要な才覚だと思います。

(文:グロービス経営大学院大学研究員・川上慎市郎、写真:清水盟貴)

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