「ストレスチェック」導入で自己効力感を上げられるか? 

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知見録読者の多くには、「ストレスチェック」のお知らせが届いている頃だろう。厚生労働省が労働者の健康を守ることを目的に始めたものだが、人事担当者でもなければ、多くの会社員にとって会社が実施しているアンケートの1つという受け止め方かもしれない。

メンタルヘルスの不調を未然に防止することがこの制度の目的である。ストレスの状況をチェックした上で、法律上は努力義務ではあるものの、それに対する対応を企業に求めている。マスコミでは過労死の問題が大きく取り上げられるし、最近ではブラック企業という新語と共に報道されることも多く、メンタルヘルスの問題は注目されている。

ストレスチェック自体は“体温計”であると考えると良い。つまり、心の状態を測定することであり、大切なことは測定結果をどのように分析し、次の行動を取るかである。体温が37度を超えれば身体は何らかの不調を抱えている可能性がある。その原因が風邪と特定されれば、栄養を補給し安静にするという処置が必要となる。ストレチェックの結果も同じである。不調があると判断された場合、何らかの対策を講じなければならない。測定だけで終わっては意味がないのである。

厚生労働省の「労働者健康状況調査」の結果を見ると、人間関係や上司とのコミュニケーションの難しさが示唆され、過剰な仕事量や困難な仕事よりも上位項目になる。職場における人間関係が悪いことが原因と表現してよい。

問題が特定の人間関係の悪化だとすれば、その関係性に焦点を当てるべきであろう。対人関係をうまくマネジメントできないということは、つまり自分の意図と相手の反応に齟齬が生じることであり、言い方を変えると、望ましい結果を出すための要因を自分で「操作できない」のである。

何かを操作している感覚によって、人間は有能であると認識できると言われる。逆に、操作できない経験が積み重なると、「学習性無力感」(セリグマン)が生まれると言われる。何をやっても意図通りの結果ができない状態が続くと、メンタヘルスにも悪影響を与え、うつの原因になるとも言われる。

日本的組織では仕事の成果よりも組織のメンバーとして和を乱さないことが重視される(濱口桂一郎などは「メンバーシップ型」と呼ぶ)。そのため、空気を読むことが必要となる。自分の業務が終了していても周囲がまだデスクで働いていれば帰宅できないのは典型例である。何が適切な判断基準なのかは、その場を構成するメンバーによって左右される。また、日本の場合、業務に人が配置されるのではなく、人に業務が割り当てられることが多い。そのため、特定の人間に業務が過剰に集中することもある。いずれも合理的な説明がない、つまり操作感がないまま日々の業務が進められていることを意味する。

メンタルヘルスに影響を与える要因は複雑であるが、要因の1つが人間関係であることは間違いないであろう。とすれば、メンタルヘルスチェック制度は自社の業務のあり方を見直し、さらに長く続いてきた労働慣習の特徴を自覚したうえで打ち手を考える機会であると言えよう。さらに積極的にアクションリサーチなどの手法により、メンタルヘルスを健全にするだけでなく、自己効力感(学習性無力感と反対の心理的状態)を誘発できれば、もっとイノベーティブな組織の実現に近づけるのではないだろうか。
 

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