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リーダーがキャリアから脱線する瞬間: 謙虚さを持ち「成功の復讐」を避けよ

投稿日:2015/12/12更新日:2019/04/09

『グロービスMBAリーダーシップ』の第3章から「『脱線するリーダー』となるきっかけ」を紹介します。

成功するリーダーと脱線するリーダーを分けるものは何か――古くより、この課題に関して多くの研究者が取り組んできました。特に多くの組織で脱線するリーダーの方が多いことを考えると、その理由を理解しておくことは重要です。研究者らは、4つの要素を特に重要な理由として抽出しました。4つすべてに共通するのは、「過去に成功したがゆえに失敗する」という「成功の復讐」の要素です。能力面でも意識面でも、常に経験から学習し、時には自己否定しながら成長を続けないと、リーダーはいつの間にかタダの人になってしまうのです。そしてそのためには自分を客観視するメタな視点と謙虚さが不可欠なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

「脱線するリーダー」となるきっかけ

経験から学んで成功を収める経営幹部がいる一方で、有能であっても成功しない人がいるのはなぜか、という観点もある。同じくCCL(注1)では、リーダーとして成功しなかった人物に、反面教師的に注目した研究も進められた。経営幹部が脱線(ディレイルメント)していくプロセスの研究だ。

脱線とは、社内キャリアのトラックから外れてしまうことを意味する。キャリアの半ばでは非常に成功していたのにその後何らかの理由で脱線してしまった経営幹部を調査してみると、それまで成功していた理由が、脱線の理由にもなっている例が多く見られた。つまり、「成功が失敗の原因になる」のだ。そのダイナミクスを分析するなかで、以下の4つの要因が浮かび上がってきた。

1) 「強み」が「弱み」になる
2) 隠れていた欠点」が浮き彫りになる
3) 成功したことで「傲慢」になる
4) 「不運」

1) 「強み」が「弱み」になる

決断力があり、高い水準を追求すると評されたリーダーが、のちに傲慢で、独裁的で、横暴だと非難されることは、めずらしくない。人間の特徴として二面性があり、状況次第で良くも悪くも解釈できる。たとえば、専門知識の豊富さは一般的には「強み」だが、それに依存しすぎると、部下に自分の仕事のやり方を押し付けるようになり、「弱み」になるといった具合である。この傾向は、上司よりも部下のほうが仕事の内容をよく知っているような場合に多く見られる。

ケースの柴田(注2)は、だれよりも技術にくわしく、英語力もあることで、自分の基準で新鋭工場の立ち上げ計画を立て、外資系エンジニアリング会社をパートナーに選定し、そのことでメンバーたちに無理を強いている面があった。

成功に導いた「強み」が問題となる原因は、成功それ自体にある。時間が経ち、周囲の状況が変わったとしても、かつて役に立った「強み」を捨てることは難しい。古いスキルに置き換わる新しいスキルが開発されなければ、旧来の手法やスキルを手放すことはなかなかできないものだ。

2) 「隠れていた欠点」が浮き彫りになる

脱線した経営幹部について最もよく報告される欠点で、成功した経営幹部との際立った相違の1つが、「インセンシティビティ」(無神経さ)である。

顕著な実績を残した人は、昇進したり、重要なプロジェクトに任命されたりと、仕事の環境が頻繁に変わることが多い。しかし、新しい環境でも明らかな「強み」によって成功を続けると、自信が深まることと相まって、潜在的な「弱み」を軽視するか、その存在を忘れてしまいがちになるものだ。ところが、その強みをうまく生かせない状況にいったん陥ると、それまで目立たなかった弱みだけが残されてしまうことになる。

柴田の例でも、頭脳明晰で分析力に優れている強みが生きる局面では問題にならなかったが、技術部長として工場に赴任した後は、他者への配慮に欠けるという弱みが浮き彫りになっている。

3) 成功したことで「傲慢」になる

傲慢さは、才能と成功から生まれる。自分は特別だという思い込みが膨らみ、一般のルールには従わなくてもよいと思うようになり、周りの人々はそうした態度に不快感を覚えるようになる。かつては有能だった人物が、だんだん現実を直視しなくなり、他者への影響に鈍感になり、脱線してしまうのだ。

柴田は必ずしも傲慢になっていたわけではないかもしれないが、自らが立てた計画のとおりに事が進まないことを、客観的かつ謙虚に容認できなかった。そのため工場の従業員たちに非現実的な無理を強いてしまい、それが遠因となって大きな事故につながったのである。

4) 「不運」

本人のまったくあずかり知らない、純粋に「不運」な環境の悪化によって、成果が上からないこともしばしばある。とはいえ、そんな場合でも脱線者の行動や態度がまったく無関係なのではない。能力のある人や成功を収めた人の多くは挫折経験があまりないため、経験学習によってそれに対処する方法を身につけていない。きっかけは不運であっても、そのピンチを乗り越える方法や、好転させる知恵が出ないために、失敗してしまうのだ。そして、そのことによって当人の能力不足が露呈することになる。まずいのは、そこで失敗の現実を受け入れることができず、隠ぺいしたり、責任を他者に押し付けたりすることだ。そういう態度をとると、無能さや責任感の欠如といった欠点がよけいに目につき、周囲からの評価も極端に悪化する。

また、不運は注目を集めるという面もある。実績を残してきた人がうまくいかなくなると、それが本人のせいではなくても、周囲の無用な粗探しによって当人の弱みや欠点に注意が向けられてしまうのだ。そして、そればかりがクローズアップされ、ときには強みや長所よりも大きく見られてしまう。そうなるとリカバリーはかなり困難になる。

柴田の場合も、事故の発生は不運だったが、事故によって彼のマネジメント力不足に注目が集まり、異動させられた可能性はある。柴田がこのトラブルをどう受け止めたかは、ケースでは語られていないが、不運が本当に外的要因であっても、失敗を自分の行動に対する責任として受け入れられない人は、結局は脱線者となる。

注1:Center for Creative Leadershipの略称。米国の著名なリーダーシップ研究機関
注2:本論に先立つケースの主人公

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院 竹内秀太郎)

次回は、『新版グロービスMBAリーダーシップ』から「リーダーシップ・パイプライン」を紹介します。

◆グロービス出版

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