なぜ三人寄って「愚者の知恵」を出すのか? 

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諺に「三人寄れば文殊の知恵」というものがあります。抜群に頭のいい人間でなくとも、三人集まって考えればそれなりに良い知恵が出るという意味です。事実、何人かで議論をしたがゆえに、一人では到達できなかったアイデアや結論に至ることが出来たという経験を持たれている方は多いでしょう。

「量は質に転化する」という効果もあります。特にブレインストーミング(ブレスト)などでは、一人よりも三人で考える方がアイデアはたくさん出ます。当然、その中に「当たり」のアイデアが混じっている可能性は高まります。スクリーニングで候補を落とすのは簡単ですが、良いアイデアを思いつくのは簡単ではありません。アイデアの量を稼ぐ上で、多すぎない程度に参加者を増やすのは効果的なのです。

では、常にこの「三人寄れば文殊の知恵」は機能するのでしょうか? 答えから言えば、むしろ集団で考えたがゆえに好ましくない結論にたどり着いたという例も少なくありません。その一つが「集団浅慮」(集団思考、グループシンクとも言います)です。集団浅慮は、往々にしてリスキーシフトと呼ばれる現象を招きます。これは、グループでの意思決定は、しばしば極端な方向に振れやすく、組織に大きな危機をもたらすことがあるという現象です。今回はこの集団浅慮について考えます。

集団浅慮の例としてよく挙げられる歴史上の事件としては、ケネディ政権下のキューバ・ピッグス湾事件、ニクソン政権下のウォーターゲート事件などがあります。日本では第二次大戦開戦の意思決定などが該当するでしょう。

どれも、明晰な頭脳の持ち主たちが集まって議論し導いた結論だったわけですが、極めて好ましくない結果をもたらしました。そしてその背景として、意思決定の根拠に重要な誤解や瑕疵があったり、リスクが十分に検討されていなかったりという重大な落ち度がありました。なぜそれほどのメンバーが集まっていたにもかかわらず、「三人寄って愚者の知恵」を導き出すという現象が起こってしまったのでしょうか。

集団浅慮の研究で著名な心理学者アーヴィング・ジャニスは、集団浅慮を「凝集性の高い(まとまりが強い)内集団で、意見の一致を重視するあまり、取り得る可能性があるすべての行動の現実的な評価を無視する思考様式」と定義しました。

ジャニスは、集団浅慮が発生しやすい状況として、1)集団凝集性が高い、2)クローズドな環境である、3)外部からのプレッシャーが大きいなどを指摘しており、これらが複数重なった時が、同調圧力が強くなりやすく危険と指摘しています。

例えば、先のピッグス湾事件の際は、上記の3つがすべて該当する上に、ジョン・F・ケネディというカリスマ性の高いリーダーがおり、異論を差し挟みにくいという状況がありました。それに加え、時間がないことから、十分に根拠やリスクの検討ができないという状況もありました。こうしたことが重なり、「もうこの結論で行こう」という強烈な同調圧力につながったのです。

また、『「空気」の研究』で著名な山本七平は、こうしたジャニスの指摘に加え、日本では、「『空気』の支配」というものがあると指摘しています。これは、当事者以外には説明しにくい「場の空気」に誰も逆らえない結果、誰が決めたということが曖昧なまま、意思決定がなされてしまうというものです。第二次大戦開戦の意思決定もこの「空気」によるところが大きかったと山本は指摘しています。

ジャニスは、集団浅慮を避けるテクニックとしていくつかのものを提案しています。以下はその一部です。

・リーダーは、最初から自分の好みや期待を述べることを控えて、数多くの選択肢の探索を行うように部下をモチベートする
・集団の外に、別のリーダーによる評価グループを設置する
・外部から専門家を招いて、集団の中核的メンバーの意見に挑戦させる
・多数意見に対してあえて反論を述べる「悪魔の代弁者」(Devil’s advocate)役を設ける
・最善の策と思われるものについて一旦合意に達した後、最終合意を得るためのミーティングを改めて開く

この中で、2つ目と3つ目はある共通項があります。それは、凝集性の高い組織の人々とは違う視点を持つ人間の目を入れようということです。一般に、凝集性の高い組織では、皆が似たような視点、似たような思考パターンを持ちがちです。過去自分たちが成功してきた思考の型に頼ってしまうのです。そこに第三者の目を入れることで、隔たった思考に気づかせることができるわけです。

ちなみに、コンサルタントの価値の1つはまさにその部分にあります。業界のプロがどっぷり浸かってしまった思考パターンとは違う観点で意見が言えるからこそ、仮にそのコンサルタントが「業界の素人」であったとしても、議論をより効果的な方向に導き、バリューを提供できるのです。

もう1つ別のポイントをも指摘しておきたいと思います。同調圧力に逆らうのは勇気のいることではありますが、それに押し流されてしまうのは、厳しい言い方をすれば当事者意識が欠如しているから、ということもできます。

特に、外部からのプレッシャーが高い状況でもないのに、周りの空気に流されて、自分の思うことを言わないというのではリーダー候補失格です。よく「あの場ではそんなこと言える雰囲気じゃなかった」と言い訳をする人がいますが、それは単なる責任回避です。集団浅慮を避けるテクニックも大事ですが、一人ひとりが当事者意識を強く持つこともそれと同じくらい大事なのです。

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』(以上PHP研究所)、『利益志向』(束洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『グロービスMBAアカウンティング』『グロービスMBAマーケティング』『グロービスMBAクリティカル・シンキング』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA組織と人材マネジメント』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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