新装版・個を活かす企業 

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グロービス経営大学院講師の嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。今回は「自律型組織」「自律型人材」の重要性に、いちはやく言及した名著『個を活かす企業』を取り上げる。

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" 時代に朽ちない名著を読むのは楽しい。今回は、時代を先取りした名著『新装版・個を活かす企業』(クリストファー・バートレット、スマントラ・ゴシャール著、グロービス経営大学院訳)を取り上げる。本書は、1997年にグロービスが翻訳出版した『個を活かす企業』が新装版で復刻されたものだ。初版当時から意識レベルの高いマネジャーから高い評価を受けていたが、著者の1人であるスマントラ・ゴシャール氏が逝去されたこともあり、改めて「永久保存版」として出版されるものだ。本書で提示するメッセージは、時間がたったからといって時代遅れになってしまったということは全くなく、むしろ今の日本企業にこそ参考になるものである。

近年、さまざまな経営者の方とお話しているなかで、組織や人材がテーマとなったときに必ず出てくるキーワードが「自律型組織」「自律型人材」だ。つまり、急速に変わり行く経営環境において、上の指示を待ってそれをこなすだけの人材では競争に勝ちきれない。自ら主体的に考え、判断し、行動できる人材をどれだけ育成できるかが競争力に直結するという発想である。

逆に言えば、いわゆる「学校の偏差値」が高い人間の集団でなくても、あるいは天才の集団でなくとも、自律的に動ける人間をたくさん育成できれば、競争に勝ちうるということだ。これは企業にとって大きな機会でもあり、反面、脅威でもある。

さて、「自律型組織」「自律型人材」の重要性に意義を挟む人はいないだろう。難しいのは、それをいかに実現するかということだ。もちろん、今でもその方法論が確立したわけではなく、さまざまな企業が試行錯誤を続けている。確立した方法論がないとは言え、そのベンチマークとなる企業を見出し、そのプラクティスや根本にある信念についてスタディすることには大いなる意味があるはずである。

本書は、まさにそのスタディを行い、「自律型組織」「自律型人材」を生み出すヒントを提供するものだ。たとえば、本書でも重要な研究対象として取り上げている3Mは、まさに「普通の人が並外れた成果」を出せるような環境を整えることで、長年好業績を保ち続けている。欧米企業だけではなく、日本企業の花王も取り上げられており、日本の読者にも親しみやすい。

本書で示すキーワードはいくつかあるが、その中でも重要なのは「当事者意識」「規律」「支援的な企業文化」、そしてその背後にある「人間の可能性への信頼」ということになるだろう。これは小職自身、経営あるいは経営学の世界に長く身を置くにつれ、改めてその重要性を実感している。どうすれば「当事者意識」「規律」「支援的な企業文化」を醸成できるかは、ぜひ本書をご一読いただきたい。

ところで、一般論として「自律型の組織を目指すのは時代の流れ」と理解をするのは容易だが、実際にその転換のために、どれほど優先順位をおいて取り組んでいるか、その本気度には、企業によりかなりの温度差がある。弊社は企業を相手としたマネジメント研修を行うことで自律型人材育成のお手伝いを行っているが、うまく機能しているのは、それぞれの組織文脈の中で育成の位置づけが明確になっており、かつ人材育成にかけるマネジメントの熱意が高い場合である。「組織は人なり」は口先で唱えるだけでは機能しないのだ。

かつて「周回遅れ」だった日本企業が、ようやくその遅れを挽回し、いま新たな成長へ向けたシフト・チェンジを試みている。本書は、そうした時代における新しい組織と人のあり方を構想する上で格好のテキストと言えよう。組織作りや人作りに悩む経営者・管理者はもちろんのこと、今後、どのようなビジネスパーソンが望まれ、そのようになるためには何をしなくてはならないかを模索されている若い方々にもぜひお読みいただきたい。"

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