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M&Aの買収価格合意形成プロセスについて ~今、どこの値段の話をしているのか~

投稿日:2015/12/04更新日:2019/04/09

■スタンドアローンバリューとは?

今日は買収価格のロジックについて説明します。

図1 M&Aの買収価格合意形成プロセス

売り手企業やそのフィナンシャル・アドバイザー(FA)が売却案件を持ち込んできた場合、仮にそれが、30億円だとしたら、おそらく大半はゲタを履かせてあります。相対の取引で、

「30億円です」
「わかりました。30億円で買います」

ということはないわけで、実際の価格合意はもっと下のレンジになります。

それも踏まえたうえで、買い手企業で重要なのは、いきなり自社でこの売り手企業を買収した場合、いくらになるかを考えるのでなく、まずは、「この売り手企業の現在の正当な価値はいくらか」から考えることが、とても重要です。この企業価値のことを「スタンドアローンバリュー」と言います。
例えば、デューデリジェンスを行った結果、いくつかの瑕疵、リスクファクターが見つかり、セラーズバリュー(Asking Price/ 言い値)から、それを減算したバリュエーションValuation / 企業価値)がスタンドアローンバリューとなります。

全てはこのスタンドアローンバリューから議論が始まると認識しておいていただければと思います。

そしてこのスタンドアローンバリューに対し、自社の取引先と提携してもらい、顧客基盤を拡大することで、プラスのシナジー効果が出たりします(これを取ることがメインの目的です)。一方、取引先が重複し、購入量が拡大したりするので、結果として値引きさせられたりします(マイナスのシナジー効果)。

スタンドアローンバリューに、これら両方のシナジー効果の価値を、加算減算したものをバイヤーズバリューと言い、これは、企業価値(EV)を示しているので、株主資本、負債に分かれます。交渉の結果、この株主資本の価格よりも、高い株主資本で買収した場合は、その差分をプレミアムと言います。交渉では、「今どの部分の価格の話をしているのか」を把握しておくことが、重要です。

■スタンドアローンバリューの構造を把握する

スタンドアローンバリューを詳細に説明します。以下の図はスタンドアローンバリューを図式化したものです。

図2 買収価値の構造

スタンドアローンバリューの算定(プロフォーマー(試算)事業バランスシートの策定)

まずは譲渡対象事業の価値を算定します。事業の評価は以下の3つの手順で行います。

1. 会計上、貸借対照表に計上される資産(カテゴリー①②③)、負債を時価評価

2. 譲渡対象事業の営業権(カテゴリー④)の評価
営業権の評価には販売先や購買先との契約、協業避止条項、ノウハウ、顧客基盤、過年度において費用化した研究開発費で生まれる超過収益部分(ディスカウントキャッシュフロー法 / DCF法で算定)が含まれ、この部分を具体的に算定評価することで、営業権の評価を行います。

3. スタンドアローン純資産・譲渡事業価値の算定
上記の1と2を加算した金額が、スタンドアローンの純資産(売り手企業の固定費を除いたもの)として位置付けられ、さらに買い手候補先によるシナジーや競争による、買収プレミアムが計上され、これが買収価格となります。

また、それぞれの買い手候補先の経営形態により、「要・不要」である資産および評価が違う可能性が高く、買い手候補先の属性を十分に勘案しつつ、買収の条件交渉を行う必要があります。

■なぜ企業価値評価(バリュエーション)するにあたり、IPOはPERで、M&AはEBITDAマルチプルなのか?

これ、なぜだか、考えたことがあるでしょうか?

図3 各種経営指標の概要と用途

PERとはPrice Earnings Ratioの略称で株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される指標です。

株価 =  EPS(1株当たり当期純利益) × PER((株価収益率)

EPSは配当原資です。配当原資が大事なのは、株主です。IPOする株を買うのは、オーナー、経営陣ではない純投資目的のマイノリティ株主です。その株主にとって株を保有する目的はキャピタルゲインと同様に安定配当を目的としている場合が多いです。ですからその株主たちにとって大事なのは、当期純利益、EPSということになります。

一方のM&Aは、なぜEBITDAマルチプル、すなわち、EV/EBITDA倍率なのか。EBITDAは営業利益+償却(のれん含む)です。言い換えれば概ね営業キャッシュフローに近いのです。いわゆる営業で稼ぐ力です。この数字が重要な人とは誰でしょうか。そう、経営陣です。買収先企業の株主資本と負債の合計がEBITDAの何倍かということ、つまり何年でこの投資が回収できるのかということは、まさに経営判断です。経営陣はEPSも大事ですが、M&AであればEBITDAを見に行くことになります。

ですから、バリュエーションは、誰がその指標を重要視するのかということを、照らし合わせて評価することが大事です。

そしてそれをバックチェックで支えているのが、DCF法ということになります。このDCF法はとても深く、しっかりDCF法を回せる人は少ないように思います。この話はまた機会があればお話ししたいと思います。

次回はクロージングについてです。

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