同僚の頼みごとには応えるべきか? 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

みなさんも同僚から頼みごとをされたり、逆にお願いをしたりというシーンは多いでしょう。今回は、会社の中で相手の頼みごとに応じることが本当にいいのかということを考えてみます。

普通に考えれば、同僚の頼みごとを聞いてあげるのは悪いことではないように思えます。無下にそれを断ることは人間関係を悪くしますし、自分の評判を下げることにもつながりかねないからです。ちょっとした頼みごとであれば、素直に応じてあげることは人間関係の潤滑油としても有効なのは間違いありません。

それ以上に重要なのは、頼みごとを聞いてあげると、相手に「貸し」を作ることになるため、別の機会にこちらの言うことを聞いてもらいやすくなるという効果です。これは、「返報性」と呼ばれる人間の心理で、ロバート・チャルディーニが表した『影響力の武器』の中でも最も重要な人間心理の1つとして解説されています。

返報性とは、相手に借りを作ると返さないといけない気分になる、逆に、相手に貸しを作ると頼みごとをしやすくなるという心理です。人間は貸し借りのバランスが崩れると不安な気持ちになるものです。相手のちょっとした頼みごとを聞いてあげることは、この返報性の心理を有効に活用できる下地を作ることになりますから、簡単な頼みごとであれば応えてあげるのは得策なのです。

その他にも、同僚の頼みごとを聞いてあげることは、自分の組織の中での評判を上げる、あるいは自分の他者に対する影響力を高めるうえで効果があるなど、大きなメリットがあります。

一方で、安易に同僚の頼みごとに応じることのデメリットもあります。これが今回の主題です。

同僚の頼みごとを聞いて効果があるのは、それがあまり自分にとって負荷がなく、かつ相手にとって大きな貸しになる時です。典型的なのは、ちょっとした疑問に答えてあげるとか、自分の知人を紹介するなどといったケースです。

ところが、もしその頼みごとを聞いてあげるのに、5時間の時間を費やす必要があるとしたらどうでしょうか? いうまでもなく、いまやビジネスパーソンにとって一番重要な経営資源は時間です。安請け合いをして、自分の時間を5時間費やすことは、多くの場合、あまり得策ではありません。

特に、そのタスクをもっとうまくできる人間がいるときに、その傾向は強くなります。たとえば、別の人間がやれば3時間で済むところを、自分が5時間かけて対応するのは賢いやり方とは言えません。自分のポジションが上がり、上級管理職になるにつれてその傾向はより一層顕著になります。上級管理職は忙しいものです。戦略を立案したり、その実行プランを考えたり、部下のコーチングをしたりなど、時間はいくらあっても足りません。その貴重な5時間を、たとえば一般の社員でもできるような仕事(例:資料作り)に費やすことは、ミクロで見てもマクロ的な視点で見ても大きな損失なのです。

しばしば、「忙しすぎる」と愚痴をこぼす上級管理職の方がいますが、その時間の使い方をよくよく調べてみると、実は自分が対応する必要がない仕事、例えばスケジューリングやアポ取りなどに時間を使っているものです。これは会社にとっても大きな損失です。上級管理職には、彼/彼女にしかできない仕事というものがありますから、そこに本来は時間を使うべきだからです。

上級管理職にとって、特に若手からのお願いごとに安易に応えてしまうことのデメリットは他にもあります。それは、若手の成長の機会を奪ってしまうということです。往々にして上級管理職は、「あいつがやるより、自分が引き受けてやってしまった方が、仕事が早く済む」という思いを持つものです。特に、自分が得意としている仕事に関してはそうです。例えば、私自身、「こうした文章を書いてほしい」と頼まれれば、しばしば安易に「いいよ」と答えてしまいがちです。

これは短期的には確かに正しいように見えますが、長い目で見ると若手の成長機会を奪ってしまうことになります。特に直属の部下からの頼みごとについては、多少時間がかかっても、あえて任せて成長の機会とすることが、長い目で見ると効果的なことが多いのです。

同僚からの依頼を安請け合いすることのデメリットは他にもあります。それは、お願いがエスカレートしても、それを断りにくくなるということです。人間には「一貫性」という心理も強く働きます。これは、他人から一貫した態度をとっているように見られたいという心理です。一度お願いごとを聞けば、それに応え続けることで、「彼/彼女は話の分かる人間で、多少の無理でも聞いてくれる」という評判を維持したくなるのが人情です。その評判はどんどん広がり、頼みごとをしてくる人間もどんどん増えていきます。

ただ、これが続くと、どんどん自分の時間は減っていきます。先に述べたように、本来、ポジションが上がれば上がるほど、自分にしかできない/自分がやるべき仕事は増えるものです。それにもかかわらず、自分がやるべきではない仕事を引き受けていると、本来なすべきことが疎かになってしまうのです。そのデメリットは非常に大きなものがあります。

優れたリーダーの要件の1つは、時間配分の適切さです。自分にとっても会社にとっても価値を生み出せる時間配分をどれだけ適切に実行できるかが、彼/彼女のパフォーマンスに大きな影響を与えます。それを意識せずに、むやみに自分の仕事を増やしてしまうのは、パフォーマンスを下げるか、ワークライフバランスを崩すことにつながってしまうのです。

人間には、人から嫌われたくないという感情が強く働きます。また、大きな負荷なく頼み事に応えてあげることは、自分のパワーを拡大する上で確かに有効です。一方で、それが過剰になって、トータルで見たときにマイナスの効果の方が大きくなっていないかはしっかり意識しておきたいものです。そのバランスを正しくとれる人間こそ、良きリーダーになれるのです。

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』(以上PHP研究所)、『利益志向』(束洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『グロービスMBAアカウンティング』『グロービスMBAマーケティング』『グロービスMBAクリティカル・シンキング』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA組織と人材マネジメント』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

名言

PAGE
TOP