リーダーに必要な習慣とは?――『ハーバードの“正しい疑問”を持つ技術』 

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本書の執筆者であるロバート.S.カプラン教授は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)でリーダーシップのクラスの教鞭をとる有名教授、上級副学部長だ。学者になる前はゴールドマン・サックス証券に22年間勤め、副会長まで務めたという実務家でもあり、ビジネス界に極めて広い人脈を持つ。その彼が、リーダーとしての経験やさまざまな業界の上級管理職に対するコーチングなどの実践経験を交えて著したのが本書である。

タイトルやまえがきでは「疑問を抱くこと」を強調しているが、内容はまさに優れたリーダーがどのような習慣を持ち行動すべきかを述べている、極めて実践的なリーダーシップ指南書である。基本的にCEOクラスの上級管理職向けのアドバイスが多いが、その普遍性は高く、ミドルのリーダーにとっても有益な示唆が多い。

本書は、以下の各論を扱った7つの章と、総まとめの最終章の計8章からなる。

第1章:会社の未来像を描く技術
第2章:時間を管理する技術
第3章:フィードバックを活用する技術
第4章:部下を育てる技術
第5章:迷走した組織を正す技術
第6章:みんなのお手本となる技術
第7章:自分の能力を開花させる技術
第8章:正しい疑問を持つ技術

各章の最後にはまとめがあるので、それを後で読み返して実行するだけでもリーダーとして一皮も二皮もむけるはずである。教科書以上に実践のためのガイドブックと言えるだろう。

さて、内容そのものだが、おそらく人によって、あるいは読む時期やタイミングによって「刺さる」ポイントはさまざまだろう。すべての章に面白いポイントはあるのだが、今回は多くのミドルのリーダーの方にとって耳に痛く、それゆえすぐに役に立つと思われる2章、3章、6章について紹介したい。

第2章でまず指摘されているのは、ほとんどのリーダーが時間の使い方(時間配分)を間違っているということだ。言うまでもなく、いまや一番重要な経営資源はリーダーの時間であり、またビジネスで勝つ鍵としてのスピードの重要性はますます増している。また、リーダーの時間の使い方は、部下に対する重要なメッセージともなる。それにもかかわらず、多くのリーダーは時間の使い方に無頓着であり、それゆえに個人としても組織としてもパフォーマンスが下がっているというのが著者の主張だ。

これを防ぐ最も手っ取り早い方法は、実際に何に時間を使っているかを測定してみることだ。そうすると、優先順位の低い仕事に過剰に時間を使っていることが判明するという。著者の提案は、業務のレベルを1~3に分類し、レベル1の仕事に集中せよということだ。他人に任せられる仕事はどんどん任せてしまってもよい。いままでの惰性に引っ張られることなく、時間配分を変えると、業務効率は劇的に高まる。リーダーが時間管理においてもお手本になれば、それは組織全体にも伝わり、そのインパクトは非常に大きなものになるという効果もある。まずは自分から始めて、それをどんどん部下にも勧めると効率的である。

第3章のフィードバックは、コーチングとも関連する重要テクニックだ。重要度は理解されているにもかかわらず、多くのリーダーがさぼりがちになるのがこのフィードバックである。事実、世界的トップ企業ですら、これらはなおざりになっているという。

理由はさまざまあるが、その1つは、準備に時間がかかるということだ。部下が増えれば増えるほど、当然その負荷は増すため、つい敬遠したくなるのである。それ以上に重要な理由は、人と衝突したくないということである。どれだけ建設的なフィードバックであっても、部下にとって耳の痛い話をするのはエネルギーを使うものだ。後回しにしたい、できれば避けたいと考える上司がいても無理からぬところである。しかし、それではいつまでたっても部下は成長しないし、間違った行動も是正されない。長い目で見たときには、建設的なフィードバックをされた部下は感謝するようになるという事実を強く意識し、ぜひ建設的なフィードバックに挑戦していただきたい。

第6章のみんなのお手本となる技術は、自分が部下にどう見えているか、そして自分が言葉通りに行動しているかを再確認する上で重要な章だ。筆者の経験によれば、多くのリーダーは、自分の行動が組織や職場に与える影響にあまり敏感ではなく、かつ知らず知らずのうちに部下を委縮させたり、勘違いさせる行動をとっているという。特に、強いストレスやプレッシャーにさらされたときにその傾向は強くなる。これは、組織に誤った非言語メッセージを発し、組織を間違った方向に導くことになる。

これを見極める一つの方法は、コンサルタントを雇うことだが、一般にはなかなか難しい。自分を正しく認識、理解するための質問をどれだけ投げかける習慣を持てるかが、長い期間では大きな差になるという。リーダーの責任が増すにつれ、自己意識を高め、自分と向き合う勇気を持つことが必要なのだ。特に、自分がどのような時にストレスを感じるかを理解しておくことは、自分のキャリア構築を考える上でも非常に大切である。

その他の章も示唆に富む内容が豊富に盛り込まれている。全般的に事例も多く、納得感をもって読み進めることができるだろう。ぜひこの1冊をヒントに、「適切な問いに向き合う」「時間とリソースを使うべき大きな問題を見極める」ということに意識を向けていただきたい。

『ハーバードの“正しい疑問”を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』
ロバート・スティーヴン・カプラン著、福井久美子訳
1,600円(税込1,728円)

 

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』(以上PHP研究所)、『利益志向』(束洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『グロービスMBAアカウンティング』『グロービスMBAマーケティング』『グロービスMBAクリティカル・シンキング』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA組織と人材マネジメント』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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