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異文化理解力——相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』を監訳した、グロービス経営大学院教員の田岡恵。ソニーの社員として1993年から20年にわたり9カ国に海外赴任し、『日本人が海外で最高の仕事をする方法——スキルよりも大切なもの​』を執筆された糸木公廣氏。二人の対談を通して異文化マネジメントにおいて重要なポイントをお伝えしていきます。第2回は糸木氏の海外赴任体験を元に、日本人海外赴任者にありがちな行動をあぶり出していきます。(全4回)

糸木公廣氏が9カ国の赴任で学んだこととは?

司会: 次に、糸木さんとの対談に移っていきたいと思います。糸木公廣さんは北海道大学工学部卒業後、株式会社東芝を経て1990年ソニー株式会社に入社。約20年にわたり9カ国に赴任、3カ国で販売会社社長、欧州本社でマネジメントなどを歴任され、現地法人の設立、経営、工場経営、合弁・工場閉鎖などを経験されました。最後の2カ国、ベトナムと韓国では、本社より優秀業績賞である社長賞を受賞。2012年にソニー株式会社を退社後、現職であるシンクグローブ・コンサルティングを設立し、9カ国の赴任の経験に基づいた海外赴任者の現場への溶け込みと、現地社員のマネジメントに特化したコンサルティング・研修を行っていらっしゃいます。

それでは、準備が整ったようなので、対談に移っていきたいと思います。よろしくお願いします。

田岡: まず、糸木さんが執筆された『日本人が海外で最高の仕事をする方法』。こちらの本を書かれた経緯といいますか、どのような思いがあってお書きになられたのか、最初にお伺いしてもよろしいですか?

糸木公廣氏: 実は、できるということじゃなくて、できなかった事例をたくさん入れているんです。

と申しますのは、20年前のインドからはじまって、9カ国赴任しまして、こういう本で事前に勉強できたら、失敗もっと少なかったと思うんです。ところが、何の勉強もせず、いきなり出されてしまったのが20年前。最初の赴任地、インドでまずは大失敗。現地に代理店がありまして、そこをサポートする役で、初の赴任者だったんですけど、行ってひと月後くらいに、「お前、帰れ」と怒鳴られて。それが実は、私の赴任人生の始まりだったんです。今考えると、まさにここで書かれていること、全部やっていなかった。もっと端的に言うと、本社目線で現場に行っていたということなんですね。

そんなことで失敗が始まりまして、でも失敗から七転八倒、9カ国で学んできて、いざ9カ国終わってみると、やはり心の中に、こういうことは確かに大事だなと思うことがたくさんできまして、それを今、日本の企業でこれから海外に出る方に、私のような失敗を少しでも少なくしてもらいたいという思いでこの本を書いたというのが経緯です。

田岡: ありがとうございます。確かに、失敗から学ぶことは非常に多いということは、多分皆さん経験されていることだと思います。この本を読んでいればもしかしたら失敗は少なかったかもしれないとのお話ですが、どの辺りが特にそのように思われた点でしょうか?

糸木: 1つは、我々日本人が当たり前だと思っていることは世界の標準ではない。むしろ、心持ちとしては、自分たちは異端だと思って世界に出るくらいのほうが、海外の現地の文化に溶け込みやすいし、そのほうが日本のことを説明するにしても、相手の心が開きやすいということをいざ行ってみると学ぶわけなんですけれども、その中のいろんな要素がこの本には詰まっています。ローコンテクスト、ハイコンテクストの部分もそうですし、相手に合わせた話し方というのもそうですし、権威によるマネジメントより合理的なマネジメント、国によっても全然違いますし、ここに書かれている国のことを読んで、まさにそうだと思いました。

田岡: 赴任された国の名前をいくつか挙げていただけますか?

糸木: シンクグローブ(糸木氏が設立した会社名)ってローマ字で書きますと、シンクはthink、その後はgruvなんですね。そんな言葉無いんです。「あんた、海外の仕事をやってたのに英語できないの?」って言われることあるんですけど、これ造語でして。私が赴任した国の頭文字を全部並べて作ったんです。ですから、‎Turkey、Hungary、India、Netherlands、Korea、Germany、Romania、UK、Vietnamなんですね。赴任した順ではないのですが。

田岡: 多くの人から聞かれたと思いますが、一番楽しかった国、ちょっと大変だった国って選べますか?

糸木: 韓国が一番印象に残っていますね。入ったときにものすごく苦労したので。皆さんお察しいただけるかと思いますけど、日本の電機メーカートップとして、しかも私より前の先代の社長さんはみんな韓国人だったんです。ですから、凋落の中で「日本人が社長かよ」と。韓国人はヒエラルキー意識強いですから、面と向かって言わないんですけど、聞こえてくるのは「お手並み拝見だね」と。あるいは、何をやっても「パフォーマンスだよ」と言われちゃうんです。ところが2年後に劇的なドラマチックなことがあって、この本にも書いてますけれども、苦しみながらも記録的な売り上げを上げることができたんですね。そういう意味で韓国ですが、どこの国も面白かったですけどね。

田岡: やっぱり、そうなりますよね。文化は、最高のエンターテイメントと言って良いでしょうか。結局、苦しみが必ず伴うものではあるものの、わかりあった後の喜びはひとしおですよね。

糸木: 本当にそうだと思います。

田岡: その中で、韓国が一番大変でいらした。それぞれ赴任期間はどれくらいですか?

糸木: 3年から4年でしたね。ちょっとハンガリーだけ短かったんですけど、3年から4年ですね。

田岡: その3年とか、4年という期間は、異文化で結果を出される上では最適でしょうか?

糸木: いえ、短いと思います。赴任されてない方、あるいは赴任前の方だと、これから3年、4年赴任すると長い、大変かなと思われると思うんですけど、実は純粋に成果を出すのに使える時間というのはものすごく短いんです。というのは、最初に赴任すると、慣れたり、その文化に融和するのに、やっぱり2カ月や3カ月、長ければ半年かかった。それと同時に現地人の心を掴んで、現地の仕事のやり方を理解し、自分なりのやり方を試行してみて、合わないから現地に合わせて定着させて、さらに発展させて任務を達成する。で、帰っていいかというとそうじゃなくて、そのまま帰っちゃったらヒット・アンド・ランなんですね。

田岡: それ、よく批判されますね、日本人。

糸木: 残して帰ってこなくちゃいけない。その、残すまでの時間を取っておかなきゃいけない。とすると3年というのは非常に短い。多くの赴任者が失敗されるのは、入って早々、本社とか事業部に言われた任務をいきなりやろうとするんですね。

田岡: 言われたとおりに、やらなくちゃと思うわけですね。

糸木: でも、現地の人間と一緒にやるわけです。現地の人間に残していかなきゃならないとなると、ここに書かれている、現地文化をどう自分の中に上手く溶け込ませて理解するかということと、現地の中でもそれぞれ違う、現地人のひとりひとりの心をどう掴むかというところにエネルギーを注がなきゃいけないと思うんです。

田岡: 特にトップマネジメントの方は。

糸木: そうですね。でも、どこの世でも私はそうだと思いますけどね。非常に厳しいのは、でもそんなことに時間を費やしていると怒られちゃうんです、本社から。となると、どう戦略的にその部分をやるかということなんですね。この、異文化の人の心を掴むということ。

田岡: 今のは、糸木さんが日本人として海外に赴任されて、現地の法人でそのように感じられたという話なんですが、もしかしたら、こちらにいらっしゃる方で言うと、外資系に勤められていて、海外の本社からボンとやってきたボスがいろんなものを突然、新しくやり始めると。ローカルの言っていることは全く聞いてくれない。そういう経験をされている方は、逆に受け手側としていらっしゃるかもしれないですね。なので、全く同じ状況が逆に起きるというわけですね。

日本人の海外赴任者にありがちな行動とは?

田岡: 糸木さんのご本を拝読して非常に素晴らしいなと思ったのは、最終的には何人であれ、人間として信頼を築くにはこういうことが大事だというお話。そういう境地に至る手前には、もしかしたら、日本人の赴任者に対して当てはめられがちなステレオタイプをうまく乗り越えられたのかなと。ステレオタイプというのは、日本人の赴任者というのはいつもこうだとかみんなこうだという、いわゆる固定観念ですけれど、やはり『異文化理解力』の中の物差しをとってみても、日本文化の特徴というものをそのままとれば、相当強烈な日本人像が出来上がると思うんです。

先ほどお伝えした8つの物差しの中で、日本というのは、どれも一番極端な、物差しの端っこに居るんですね。これはまさに、先ほど日本文化というのは異端であるっておっしゃったそのもので。具体的に申し上げますと、日本というのは、サンプルの中で最もハイコンテクストな国。皆まで言うなと。言外に含んでコミュニケーションするということで、一番そういう傾向が強い国。ネガティブなフィードバックを絶対にダイレクトにしない。相手が間違っている、良くないということをダイレクトに伝えないということでも物差しの一番端にいる。階層主義という上下関係でいうと、一番それを意識する。偉い人は偉いということを思っている文化なのに、決断はみんなで決めましょう、と。トップダウンじゃなくて合意で達しましょうということをする。これも物差しの一番端っこに居る。で、ビジネス上の信頼は人間関係を最も大事にし、対立は徹底的に避け、感情は全く表に出さず、時間管理にはとても厳しい。というのが日本文化の特徴で、すべての物差しの中では本当に端っこの方に位置づけられています。

この特徴を、例えば海外で赴任される日本人リーダーに当てはめてみると、よく誤解されがちな点に現れます。はっきりものを言わないので、秘密主義な人物である、もっと極端に言うと卑怯である。きちんと言ってくれない、卑怯である。あるいは嘘をつく人たちだというふうに言われがちなのと、ハイコンテクストなので、はっきり言わないがために、そもそもこの人は説明する能力が無いんじゃないかと。トップでやってきたけれども、説明する能力すら無い人で、偉いポジションのくせに決断すらしない。全然仕事をしていない。あるいは、もしかしたら決断する能力すら無いのかもしれない。あと、知らない人、特に外国人を信頼しない人たちである。感情表現が無いので冷たい。時間とスケジュールに杓子定規であると。これ、結構言われますよね?

糸木: そうですね。おっしゃる通りだと思いますし、もったいないと思いますね。と申しますのは、日本企業で海外赴任に出される方というのは、やっぱりそれなりの方だと思います。専門能力については間違いないから海外に出されますし、人格的にも優れた方が海外に出られると思うんです。ただ問題は、語学がいろんな日本人の共通の欠点だったりして、その点だけ自信がないまま出てしまうことが多いんですね。そうしますと、せっかく専門能力や素晴らしい人徳を持っているのに、それを隠してしまう、開かないんですね。言葉ができないからというだけで、みんなより1歩引き下がったり。

そういう意味では、私は「自己開示」という言葉を良く使うんですけれども、海外において、日本人がまず最初に心がけることは自己開示ではないかと思うんです。自己開示というのは、何でもかんでも見せろというわけではないんです。ただ、パーソナリティとか、自分の人柄だとか、この国にどういう思いを持ってきたとか、そういうことは積極的に開示していったほうがいいと思うんです。ただ、海外ですから、自己提示という、役職に合わせた提示の仕方というのも大事だと思いますけれども、基本は開示じゃないかと思います。そうすると、相手も衣を脱いでくれる。先ほど言ったように、戦略的に早く関係を作らなきゃいけないところでは、そういった人間の心のメカニズムも積極的に使ってやっていくのが大切じゃないかと思います。

田岡: 自己開示って、異文化に関わらず特にリーダーにとっては究極的に求められるものというか。やっぱり理屈だけで話していても伝わらないものがあると、最終的にその人の人間性が問われると思うんですが、これはみんな頑張ればできると思いますか?

糸木: それは、なかなか人によってやりづらい方は居ると思います。特に男性で年配になってきたりすると、どうしても衣を着てしまう。権威とかタイトル(肩書)に依存してしまうってあると思うんですね。私は研修で自己開示の授業をするとき、傾聴とかクリエイティブなシンキングなんていうことを言うんですけど、なかなかやりづらいですという方は多いです。その方には、でも、明日もとの職場に戻ってやろうとしたらやりづらいでしょう、まわりの人も知っているし、急に自己開示したらおかしいんじゃないかと思われるんじゃないかと。ただ、赴任した場合、あるいは出張した場合というのは、そこは俳優で言えば新たなステージなんだから、新たな自分の像をつくってみたらどうですかと。しかも、人ってなかなか変われませんから、むしろ変わる必要はなくて、理想の赴任者像、出張者像を演じてみてくださいというお話をするんです。そうすると、変わるということより少し簡単にできるようですね。そんなことをやっていくうちに、だんだん板についてくるということがあるんじゃないでしょうか。開示の結果として、相手が開示してくれたことを知れば、非常にそれに対しても理解が深まると思います。

田岡: 演じるということが自己開示というコンセプトと逆な意味合いにとられる方もいるかと思うんですが、そこは非常に冷静なご判断をされているんですね。具体的に、どういう役割を演じられたことがありますか? 例えば、本来の自分とは違うんだけれども、こういうふうに振る舞ってみたみたいなもの、ありましたか?

糸木: 例えば、この本の中でもありましたけど、海外では「決断」というのはすること自体に意味があると思うんですね。日本ですと、ちょっと持ち帰って検討したいという慎重さというのが尊ばれると思うんですけど。海外では、特に赴任者の場合、日本の本社からそれなりの人が出てきて自分たちのリーダーになったとしたら、彼には決める権利があると期待されているわけですね。それをしないことというのは、できないことと言われてしまう。

田岡: 問題に見られますよね。だいたい個人の能力として、この人は判断の能力がないんだと思われますよね。

糸木: ええ。ですから、例えばさっきの、演じるであれば、自分の中で十分まだ自信がなくても、まずは決めて発表してみるとかするんですね。後から変更するのは、実はそんなに難しくないんです。それなりの立場で出てきていますから。

田岡: 確かに。

糸木: ただ、決めるということをやはり積極的に見せてあげるだとか、そういうことが1つだと思いますし、自己開示にしても、自分の写真使ったり、ブログを使ったりして、自分を積極的に出してみる、自分が心地よいと感じる以上に出してみるということは、1つの「演じる」だと思いますね。

田岡: それ結構、今の世の中的には大事ですよね。すごく積極的にソーシャルメディアを使っていらっしゃるリーダーもいる中で、自分を出していくということは1つの大きなきっかけになり得るということですね。

糸木: 特に、自己開示の重要性は、我々が逆の立場に立ってみれば想像しやすいですね。現地の社員から見ると、今度来る赴任者というのはどんな人だろう、果たして自分たちのこと考えてくれるのか、と。あるいは私が若い頃失敗したみたいに、本社目線で来るんじゃないかとか、自分たちが今までやってきたことを尊重してくれるんだろうかとか、いろいろ不安があるわけです。だからこそ、自分というのはこういう人間だと、早いうちに、着任したときから見せていくということが、相手の不安感をとる意味で効果的じゃないかと思います。

田岡: それは、どの文化の方が相手でも効果的であると?

糸木: 概ねそうだと思います。

※この記事は、2015年10月19日に行われた【英治出版×アカデミーヒルズ】『異文化理解力』出版記念トークイベントを元に編集したものです

→次回「多国籍企業のマネジメントで大切なのは『可視化』

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