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異文化を理解するために必要な8つの物差し

投稿日:2015/12/14更新日:2019/08/20

異文化理解力——相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』を監訳した、グロービス経営大学院教員の田岡恵。ソニーの社員として1993年から20年にわたり9カ国に海外赴任し、『日本人が海外で最高の仕事をする方法——スキルよりも大切なもの』を執筆された糸木公廣氏。二人の対談を通して異文化マネジメントにおいて重要なポイントをお伝えしていきます。第1回は田岡恵が『異文化理解力』を監訳した背景と共に、異文化を理解するために必要な8つの物差しについて語ります。(全4回)

今、異文化を理解する力が必要なワケとは?

田岡:皆さんこんにちは。田岡恵と申します。東京麹町にあるビジネススクール、グロービス経営大学院で教鞭をとって7年になります。それまでは、ロンドンとニューヨークで9年ほど会計の仕事をしておりまして、日本に帰ってきて、筑波大学の英語のMBAを取得した後、社会人教育、MBAのパワーというかインパクトに非常に感銘を受けて、縁があってグロービス経営大学院で教鞭をとらせていただいております。

なぜ私がこの本の監訳に携わることになったかと言いますと、ちょうど今から1年前、私どもの経営大学院で新しい科目を開発していたんです。「異文化マネジメント」という科目なのですが、私がその開発チームのリーダーで他にメンバーが3人いました。

どこどこの国の人と会ったら深くお辞儀をしようとか、どこどこの国の人宛てにEメールを送るときはこんなふうに書こうとか、いわゆるコミュニケーション上のティップス等を習える場所やセミナー、トレーニングというものは巷にあると思います。ですが、我々が目指していたのは、実際に大学院にいらっしゃるMBA候補生の方々が、海外赴任、あるいはいろんな国からいらしたビジネスパーソンと仕事をしていく中で、コミュニケーションのティップスを超えて、効果的にリーダーとして処していくためにはどうすればよいのかということを、ケース(具体的な事例)を使って議論していく場を作ることでした。

クラスで実際に扱っている国は、インド、バーレーン、中国、アメリカ等々。いろんな国のシチュエーション、いろんな局面、いろんな立場の人の、異文化における意思決定というものを深く議論していく場になっているんですが、要は、その科目を教える上で、皆さんが何か参考にできるようなコンセプトを学べる書籍が欲しかったんですね。基本的な異文化のコンセプトなり考え方というものを包括的に学んだ上で、具体的なケースで議論を深める、こういう方法論を考えていたので、何かいい本がないかなと探していたところ、このメイヤー教授の本が2014年5月に発売されたばっかりだったんです。英語のタイトルは“The Culture Map”というんですけれども。

ちょうど開発チームのメンバーの1人が、フランスのビジネススクールのINSEADでメイヤー教授の講義を受けた経験があり、「そういえば、そこで面白いフレームワークあったな」と教えてくれて、探してみたらちょうどメイヤー教授の本が出版されたばっかりだった。早速アマゾンでポチッと押して、買ってみて、読んでみて、これは素晴らしいと。これを授業で使いたいんだけれども、日本語のバージョンは無いものかと探したら無かったので、じゃあ翻訳してしまおうということで、ご縁があった英治出版さんに端的に、「訳したいんですが、助けていただけませんか」とお願いして。するとトントン拍子で話が進んで、今ここに至ります。8月22日の発売だったかと思うんですが、増刷が決まりまして非常に嬉しいなと思っております。

その裏には、素晴らしい本の書評を書いてくださった方がいらっしゃいまして。佐藤さんという方なんですが、HONZという書評サイトをご存知でしょうか。そちらで非常に刺激的なタイトルで書評を書かれていて、それが、「残念ながら、日本人の8割にこのビジネス書は要らない」。本当にそうなのかというところを、今日は皆さんと議論したいなと思っています。

文化の違いを可視化する8つの物差しとは?

この本の特徴は、まず「文化」についてビジネスのシチュエーションに特化して話しているんですね。いろんな文化を、友人関係とか、いろんな関係で皆さん経験されているとは思うんですけれども、ビジネスの場面に焦点を絞った書籍が実は意外とないんですね。代表的なのは、比較文化論の大家、ホフステードが書いた異文化関係の本、『多文化世界』という本です。それ以来ずっとアップデートが出ていなくて、それこそ20年ぶりくらいですね。異文化関係でビジネスにフォーカスした良い本が出たのは。

また、この本の素晴らしいところは、ビジネスパーソンがすぐに使えるということ。コンセプトとしては理解できるけれども、具体的にはどうしたらいいんだというところでつまずいてしまうと、面白かったけど役には立たなかったということになりかねないと思うのですが、この本はじゃあ具体的にどの場面で、どういった行動で文化的な差異が出てくるのかを、物差しを使って可視化してくれるんです。

物差しが8種類あるんですけれども、1つはコミュニケーションにおけるローコンテクストハイコンテクスト。ローコンテクストというのは、言うべきことをちゃんと全部言葉に出して言う、明快に言うということですね。言ったものが全てである、額面どおり受け取ってほしいというのがローコンテクスト。ハイコンテクストというのは、皆まで言うなと。言外に含んでいることも、いわゆる日本人で言うと「空気を読みましょうよ」というところに入ってくるんですが、コミュニケーションの仕方として、全部、100%言い切る文化と、そこまで言わずとも伝わるよねというところで、ローコンテクスト、ハイコンテクストという物差しが1つ。

もう1つは、他人に評価を伝える。ビジネスの場で特に部下やチームメンバーに評価を伝えるときに、ネガティブな内容のことを直接的に伝えるか、あるいは間接的に伝えるか。「ここが駄目でした」と言うのか、それとなく別のことで伝えるかというのが2点目。

3つ目は、相手を説得するときの優先順位ですね。原理主義なのか応用主義なのか。こういう事例があるからこうだというのが応用主義で、そもそも考え方としてこうだというのが原理主義ですね、どうやって相手を説得するか。4つ目は、リーダーとして組織をリードするときに、階層の上の人、偉い人が偉いという話か、ポジションは関係ないという平等主義。5つ目は決断、みんなで合意して決断に至るのか、トップダウンで決断をするのか。6つ目が、信頼はお互いをよく知った上で人間関係から作っていくもなのか、あるいは仕事の善し悪し、上手くできた、できないで築いていくものなのか。7つ目は対立しそうなときに対立を回避をするのか、がっつり対立をするのか。8つめが時間感覚で、直線的に時間を管理する文化、スケジュール通りできちきちしている文化と、柔軟に対応しましょう、時間というものは柔軟なんです、という考え方があると。

今ご紹介したこの8つの物差しにおいて、どの国がどこに、どの辺りに位置するのかということを、ちゃんと図で書いてくれているんです、この本の中で。物差しがあって、平等主義と階層主義でいうと、どの国がどの辺りに位置するのかということを端的に書いてくれているので、皆さんが他の国の方とビジネスをするときに、だいたい自分の位置関係、相手の位置関係がベンチマークできる。もちろん、個人個人、いろんな差異はありますので、それが必ず全てではないんですが、そういうふうに使えるということですね。要は、すぐに役に立つということがこの本の素晴らしいところかなというふうに感じています。

あと、先ほどの書評のタイトルの話ですが、「この本は8割の日本人には必要ない」って言われると、日本人として何となく侮蔑されたような印象を受けるかもしれませんが、私が言うとすれば、この本はアメリカ人の9割には必要ないだろうなと。だいたい、グローバル化と言いつつも、国の中でグローバルに仕事をしている人としていない人っていうのは、ものすごく今の時点では分かれているところがあって、自分には全く関係ないなと感じる人と、これは私の日々の苦悩そのものなんですって感じる方と、結構しっかり分かれるだろうなというふうに書評を読みながら思いました。

「異文化マネジメント」という科目でクラスで議論をしているときも、日本人が大半のクラスだと、異文化間のぶつかり合い、対立なんかの議論になると、「ああ、そういうこともあるんですね」という、「ふーん」という感想的なリアクションが多いんです。でも、私が担当している英語MBAのクラスでは、意見が本当に対立してしまう、みんながディスアグリーし合うという場面になって、生きたカルチャーが実際見られるということで、この本に書いてあることの実感の仕方には幅や違いというのはあるだろうなんていうふうに感じています。

そういった状況で、この本が今、日本のビジネスでどういう価値を持っているかというところなんですけれども、まず分かる、要は知識を持つということは、何事においても大事ではないかと。我々の異文化マネジメントのクラスでも、文化的知性、カルチュラルインテリジェンスという話をするんですが、この文化的知性というものには3つの要素があって、まず最初はやっぱり知っている、違う文化に対しての知識を持っているということがまず大事である。知識。もう1つは、我々はそれぞれ違うんだ、文化間には違いがあるんだということを、きちんと意識できるということですね。意識。3つ目が、分かったことを実際の振る舞い、行動に落とせるスキルです。

この3つは全部違う能力だと思っています。文化的知性の中でも、この3つは全く違う能力なので、「分かる」と「できる」は違うって、我々のクラスではしょっちゅう言うんですが、まず分かっていないとそもそも始まらないですよねというところで、この本は文化間でこのような違いがあるんだなということを網羅的に知る上で非常に参考になると。その上で、具体的にどういうふうな処し方をしたらいいのかということも、メイヤー教授は提案として入れてくださっていますので、そういう意味でも、実際に行動に起こす上でのヒントもたくさん得られるかなと感じています。

※この記事は、2015年10月19日に行われた【英治出版×アカデミーヒルズ】『異文化理解力』出版記念トークイベントを元に編集したものです

→次回「日本人海外赴任者にありがちなNG行動とは?

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