「問題」に怯まない組織をつくる(2)  -インフラ・思考プロセス・姿勢 

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ご好評をいただいてきた「問題解決の肝」も、ついに最終回。組織において問題解決の手法を実践し、定着させるポイントとして「目指す状態を共有すること」について詳説した、前回に続き、今回は、もう一つの重要なポイント「現状を“見える化”すること」について紹介していく。後段ではまた、「組織全体に問題解決の思考プロセスを埋め込む」意義についても踏み込み、検討する。

「現状」がスピーディに「見える」インフラをつくる

あるべき姿を具体化し、共有できたとしても、「現実がどうなっているのか?」をスピーディかつ正確に把握できなければ、問題の発見、問題箇所の特定には結びつかない。そして現状認識を組織内に正しく共有できなれば、「それは確かに問題だ」と納得してもらうことは難しい。「現状を“見える化”すること」が必要となる。

「現状を“見える化”すること」については、例えば、遠藤功氏の『見える化』(東洋経済新報社)など優れた著作もあるので、詳細はそちらを参照いただきたいが、ここでは「情報・データの蓄積」「感度のよい切り口の保存」という2点のみ指摘しておきたい。

「現実がどうなっているのか?」を捕捉する手法として、第3回4回で、「問題解決を行ううえで、Where?(どこが問題かを特定すること)が肝だ」と述べた。このステップでは、様々な基本的な切り口で現状を把握し、そこから問題を一網打尽にできる切り口を発見することが必要だ。しかし現実にはここが難しい。多くの場合、「問題を一網打尽にできるよい切り口が見つからない」「データ自体がないことが多く、いざ調べようとしてもデータ収集に時間がかかる」といった壁にぶつかる。

問題が起きるたびに切り口を考え、それに沿ってデータを一から収集、分析していては、時間ばかりがかかってしまう。また、そもそも「現状がどれくらいのレベルなのか?」がわからなければ、「標準」自体を適切なレベルで設定することはできない。前年比など時系列での比較や類似する商品とのベンチマーク比較などを行うためにも、継続的にベースとなるデータが把握され、メンバーに見えるようになっていることが必要だ。

そこでまず、「情報・データの蓄積」。常日頃からメカニズムを意識し、ブレイクダウンしやすい形で把握、蓄積していくことが重要だ。

売上・コストなど会計数値に残りやすいものはデータとして整備されていることも多いだろう。こうした情報も問題を考えるうえで必須ではあるが、しかし、それだけで問題箇所を的確に特定できるわけではない。たとえば「売上」が見えているだけでは「どこに問題があるか?」は捉えにくい。「売上」を「単価×数量」など、成果を構成する要素に分解していく。もしくは「認知率→問い合わせ率→申し込み率→成約率」というように、売上が立つまでの顧客の購買プロセスを見て、その各段階を変数化していく。さらに、そうした「結果指標(Output)」に加え、「活動量・投入資源量(Input)」がデータとして押さえられていれば、よりスピーディに問題を発見・特定することができる(ちなみに「Output/Input」が「効率」である)。

これは多くのビジネス上の問題が、「最終成果→成果を構成する要素やプロセス→それらを生み出す活動→その活動を支える資源」といった「Output→Input(Output)→Input」という関係の連鎖で捉えることができるためだ。こうした視点で重要な指標を選び出し、基本となるデータが蓄積・利用可能な状態にあれば、問題の発見・特定のスピードが格段に速くなる。

そして、「感度のよい切り口の保存」。基本となる成果量や活動量を押さえると同時に、ある問題について分析した際に、「問題のある/なしが峻別できた感度のよい切り口」を保存し、その切り口での集計・分析を定例的な記録・報告に織り込んでいくとよい。ある問題の発見につながった切り口・指標は、そのビジネスのパフォーマンスを図るうえで、キーとなる視点であることが多い。感度のよい切り口を見つけるのは難易度が高いものであるため、一度、見つけた切り口をその後も活用しないのは勿体ない。このように蓄積・洗練された切り口を、組織における重要な視点として共有することを考えるべきだ。

このとき、一旦決めた指標や切り口を、一定の期間で見直し・更新していくことを忘れないようにしよう。単純に切り口・指標を増やしていくと、かえって混乱してしまうし、以前は有用だった切り口も時間の変化、問題の変化によって有用性が低下し、その切り口・指標しか見ないことによりかえって思考を止めてしまう危険性があるからだ。

たとえば最初は「新規顧客獲得数の顧客属性別データ」が大きな価値を持っていたとしても、ビジネスが進化するにつれ、「顧客満足度」や「リピート率」が重要になってくるかもしれない。また「顧客満足度」も最初は全体のレベルが現状を把握するうえで重要だったとしても、だんだんとそのバラつきや「極めて大きな満足」の比率が重要になってくるなど、見るべきポイントは変わってくる。

特に変化が激しい業界、成長著しい企業などでは、こうしたベースとなるデータの蓄積自体が後手に廻ることが多い。まずはできるところから基礎データを蓄積し、感度のよい視点に絞り込んで継続的に現状を見ていくことを意識しよう。一方で、長期にわたって変化が少ない業界、一定以上の規模の企業などでは、データは山ほどあるものの、データ集計や報告書作成自体が目的化し、見る視点が硬直化して、問題発見、問題箇所特定にはつながらないまま膨大なエネルギーが割かれていることが多い。「何を見るためにそのデータを収集しているのか?」「そこから本来明らかにすべきことは何なのか?」を見直していくことが重要になる。

問題解決の思考プロセスを組織に埋め込む

さて、ここまでは「組織において問題解決を効果的・効率的に進める」ための、いわば「インフラ」となるものについて考えてきた。インフラをつくることは重要ではあるが、それだけでは不十分だ。実際に問題解決を行うのは「人」であり、組織メンバーに「問題に対して怯まない意識・姿勢」と「問題解決の考え方・手法」が埋め込まれていることが求められる。

いくら問題解決の達人であっても、組織内で起きる全ての状況を把握し、問題解決を行うことは不可能だ。一定以上の量的な成果を上げようとすると、多くの人がそれぞれの持ち場で、できるだけ早く問題を発見し、問題解決を行なえるようにすることが必要になる。商品の差別化や戦略の賞味期限が短くなってきている中では、企業間の優劣を決めるのが、組織全体の「問題解決能力の質×量×スピードの標準レベルがどれくらい高いか?」に絞られてくる。そこで重要なのが、「問題解決の思考プロセス自体をできるだけ標準化し、組織メンバーが共有すること」だ。

思考プロセスの共有は難易度の高い取り組みだ。時間をかけて組織メンバーを教育・訓練することが必要になる。その際、特に意識するとよいのは、「答えを示すのではなく、あるべき問いを示し、考えさせる」ことだ。「こうなる」という結果のみを伝えた方が早いが、それではいつまで経っても思考プロセスは共有されない。

「あるべき問いを示して考えさせる」うえで、最も効果があるのは、「問い」自体をテンプレートにして、日常の報告・相談のフォーマットにしてしまうこと、つまり「問いを標準化すること」だ。

たとえば提案や問題の報告書の書式自体を「何が問題か?どこが問題か?なぜそうなっているか?どうするのか?」という項目にしてしまう。むろん最初はそれぞれの部分で適切な内容を書くことはできない。しかし、「そもそも何を、どこから考えたらよいか見当がつかない」状態で無駄に悩むことがなくなり、「この問いはどう考えるべきか?」という一段高い悩みレベルから議論を始めることができる。トヨタ自動車で用いられている「A3資料」(※)などは、その典型例だ。「お客様対応の問題を報告するテンプレート」「マーケティングプランのアイデアを出すためのテンプレート」など、自分の仕事で見るべき視点、考えるべき問いを洗い出してみよう。こうしたプロセスを経て作られたテンプレートは、まさに組織における仕事の「型」となり、その型の中でさらに深く「考える」ことにつながっていく。

思考プロセス、言い換えれば「自分に対して何をどのように問いかけ、考えていくべきか?」をメンバーに定着させるには、「その型の中で実際に考える」経験がどうしても必要だ。このため標準化された「問いのフォーマット」は作っただけでは機能せず、「それを使ってどのように考えるのか?」の実践と訓練、そして適切な指導やアドバイスが必要だ。

その際、指導する人間に必要なのが「ファシリテーション・スキル」。相手の考えを引き出し、問いによって相手に気づきを与え、考えるべきポイントに適切に思考を誘導する力、相手が言っていることの裏に隠れた前提や思考の枠組みを読み解き、そこに適切な刺激を与えられる深い理解力が求められる。これを身につけることは容易ではないが、「自分が決め、指示し、実行させる」スタイルから「引き出し、決めさせ、自ら問題解決させる」リーダーシップスタイルを実現するうえで大きな武器になるはずだ。

「問題がある状態」を「問題」にしない

最後に、組織において問題解決を行ううえで、全ての根本として押さえなければならない点を述べてこの稿の終わりとしたい。それは「問題」そして「人」に対する基本的な姿勢である。

我々は「問題が発生すること」を嫌悪し、また「問題が表に出ること」を避けようとする。「問題がない状態が理想だ」という前提、そして「問題があるということは、自分が責められるのではないか?」という恐れが多くの組織を支配しているからだ。

この「思い込み」を覆すのは容易なことではない。その根底には、「自分は間違ってはいけない、常に完璧であらねばならない」という過度の潔癖主義や自分への過信がある。特に組織の中で上位の役職に就く人に、そうした傾向が表れがちだが、これは注意しなければならない。

留意すべきポイントは3つある。まず人間はミスや間違いをするものであり、それをなくそうとするのではなく、むしろ一定の確率でミスや間違いを起こすことを前提として、それをいかに早く発見するか?いかに被害を拡大させないようにするか?を考えることだ。

次に、問題の原因を人に帰着させない思考習慣をつけること。人は「失敗の原因を人の内面にあるものに帰属させやすい」という傾向を持っている。何か問題が起きると、どうしても「メンバーの問題意識が低い、注意力が足りない、能力が低い」などと考えがちだ。そこで思考を止めず、「なぜ問題意識が低いのか?注意力が足りないのか?能力が低いのか?」とWhy?を繰り返すことが必要だ。粘り強く考えていくと、そこには何らかの構造的な原因が隠れているものだ。

最後に、現状に満足しない貪欲さが必要だ。一見「これでよい」「もう無理だ」と思っても、そこに対して「もっと高められる、まだまだ・・・」と挑戦していく姿勢が求められる。そして自らあるべき姿を高め、問題を作り出し、それにチャレンジし続ける強いマインドを持ちたい。

考えてみると、これは大変厳しい要求であることがわかる。この厳しい要求に組織メンバーが応えるようにするには何が必要だろうか?筆者は、それは「人への信頼」であると考える。ここで言う「信頼」とは、「あの人は能力が十分にあるから安心だ」といったものではない。たとえ根拠がなくとも、「人の可能性」を信じることができるか。そして「人への信頼」をメンバー相互にどれだけ持ち合えているか。その強固さが最終的には組織全体の問題解決力を向上させる源泉となる。

無論、こうした「相互に信頼する組織風土」をつくるのは容易ではない。誰かがそれを準備してくれるわけではないからだ。
読者の皆さんには是非、「自分はどれだけメンバーを「信頼」できるだろうか?」と、自らに問いなおすところから始めていただきたい。そしてまた、「メンバーが相互に信頼できる姿勢をつくるのには何が重要か?」ということを、「情報公開」「プロセス」「価値観」「対話」「自信」など、さまざまなキーワードと対峙しながら日々、検討していただければと願っている。

※トヨタ自動車で定式化されている、「トヨタの問題解決」という思考プロセスを、そのままA3の紙1枚に表現する書式

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