『カイシャ』 

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"アベグレン氏を悼んで――。
『日本の経営』、そして『新・日本の経営』で著名なアベグレン氏が、日本的経営について、「競争原理」の観点に徹底的にこだわりながら解説した本書。そこには、現代にも通じる氏の鋭い指摘が盛り込まれている。"

日本を愛した「青い目の日本人」

"アベグレン氏の著書を初めて読んだのは、まだ20代前半の頃だ。当時、先輩から「このくらいは読んでおきなさい」といわれて手に取ったのが、「日本の経営」だった(ちなみに、その先輩は、マネジメント・コンサルタントとして直接アベグレン氏の薫陶を受けた方である)。

当時の感想は、「外国人がこんな本を書くなんてすごい」という単純なものであった。今読めば、いわゆるソフトイシューが日本的経営の土台となっていること、日本企業の競争志向がさまざまな要素と相まって経済発展を促したことなど、その慧眼と広く高い視点・視野に注目が行くのだが、当時は残念ながらそこまで読み取る力はなかった。

その後、弊社が大学院を作るにあたって、アベグレンさんを名誉学長としてお招きしようということになった。そこで初めて実物のアベグレンさんとお会いしたのだが、柔和で物静かな人当たりの裏に、いまだ衰えぬ好奇心や研究意欲があることを知り、そのバイタリティに感銘を受けた。別荘にお招きいただいた時には、日本のコンサルティング業界の草創期のお話など、日本を愛するアベグレン氏の視点に立った非常に興味深いエピソードもお聞かせいただいた。

まだまだご活躍いただけただけに、この5月2日にご逝去の報に接したときは非常に残念な思いをした。謹んでご冥福をお祈りしたい。"

日本的経営=勝利の方程式ではない

" 今回取り上げた「カイシャ」は、1980年代後半に、欧米で発売され、日本向けに翻訳されたものである。一般に、アベグレン氏の著書としては、前出の「日本の経営」、そして数年前に上梓された「新・日本の経営」が著名だ。後者では、「日本の失われた10年」に対してポジティブな意味づけをし、日本経済にエールを送った。
この「カイシャ」は時期的にこの2冊の中間に当たる。まさに「Japan as No.1」が喧伝された時期であり、バブル前夜の、日本の最も輝いていた時期の書籍でもある。こうした時期的な背景もあり、全体的に楽観的なトーンが強いものの、当時多かった無節操な日本経済礼賛本に比べると以下の2点で一線を画している。

第一に、日本の克服すべき課題を的確に指摘している。具体的には、グローバルでのビジネス体制の構築、外国人社員のマネジメント、若者が活き活きできる柔軟性の高い研究開発、若者の価値観が個人主義へと変わることへの対応、などである。「若者が活き活きできる柔軟性の高い研究開発」などは、その後アメリカがシリコンバレーのITベンチャーやウォール街の金融革新で復活したことを考えると、非常に先見性の高い指摘といえるだろう。

第二に、日本的経営を評価しつつも、それを絶対視していないことである。当たり前のことであるが、日本的経営は、当時の世界レベルで見た社会環境、経済環境、政治環境とうまくフィットしたからこそ成功モデルとなった。アベグレン氏は、環境が変われば、それ自身新たな変化を遂げなくてはならないという点を強く述べている(なお、バブル後、そうした対応が出来ているのかいないのかは、『新・日本の経営』などもお読みの上、読者自ら考えていただきたい)。

どのような経済環境であれ、その中には、明確な勝者と敗者がいる、という指摘も重要だ。どれだけ有利な環境にあっても、プアな経営では勝てない、という当たり前のことを再確認させられる。言い換えれば、自分たちの現在の好調(あるいは不調)のうち、どれだけが環境要因によるもので、どれだけが経営によるものなのかをしっかり意識しておかないと、打ち手を間違ってしまうのだ。

このほかにも、豊富な数字に基づく裏づけや、企業の戦略分析など、読みどころは多い。個人的には79ページの日本の2つのシナリオが気になった。「成熟産業の衰退シナリオ」と「新たなる成長シナリオ」である。これはいまだに結論が出ていないが、はたして我々は「新たなる成長シナリオ」に向かえるのだろうか?"

中にいると気づかない「当たり前のことのすごさ」

" しばしば仲間と話しているときに話題になるのは、「自分が当たり前にやっていることのすごさって、自分では気づかないよね」ということだ。それゆえに、近年、さまざまな視点を盛り込むことで、自分自身気づいていない暗黙知を形式知化しようという動きが、さまざまな企業で盛んになっている。

アベグレン氏のすごさは、まさにアウトサイダーの視点により、「日本人が気づきにくい日本経営のすごさ」を見出し、それを構造化したことだ。社会学の天才、マックス・ヴェーバーは、「学者の重要な才能は、物事に驚くことだ」と喝破した。何かに驚き、その裏側にある背景を構造化していく――日本という異国の地でこれを成し遂げ、日本人に対して自身と勇気を与えてくれたアベグレン氏に、一日本人として感謝したい。"

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