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「問題」に怯まない組織をつくる(1)  -目指す状態を共有する

投稿日:2007/03/22更新日:2019/04/09

これまで4回にわたって「問題解決の肝」を考えてきた。どれも当たり前のように見えて実際に行おうとすると難易度が高いものばかりだが、ぜひ参考にして、皆さんの問題解決能力の向上に役立てていただきたい。さて、ここまでは主に、問題解決の手法・考え方について検討してきたが、今回、次回の2回は視点を変え、組織において問題解決の手法を実践し、定着させていくうえでのポイントについて考えていこう。

目指す状態を具体的に共有する

ビジネスパーソン個々人が、問題解決の考え方を理解し、訓練によって身につけていくことは重要だが、その力が十二分に発揮されるためには、組織として「問題に対する構え」が必要だ。では具体的にどのような「構え」が必要なのか。

組織として問題解決を実践するうえで、その主導者にまず求められるのが「目指す状態を共有すること」、そして「現状を“見える化”すること」だ。「問題解決の思考プロセスが組織に埋め込まれて」いれば、さらに実行力は高まる。今回は、「目指す状態を共有すること」から詳説しよう。

問題解決に「What→Where→Why→How」の4つのステップがあることは第1回で述べた。では、この中で最も答えの幅が広いのはどこだろうか。

当たり前だが、それは「What(何が問題か?)」だ。自分がある状況について「これは問題であり、解決すべきだ」と当然のように考え、説明しても、他の人から「それは別に問題ではないのではないか?」「確かに問題だけれども、もっと大事な問題があるのではないか?」といった反応があることは日常茶飯事だろう。そもそも正解が用意されているわけではなく、同じ状況でも人によって、置かれた立場の違いや状況によって問題の捉え方は大きく異なる。たとえば営業部門では「顧客からの注文に即応できるようにある程度の在庫は確保しておきたい」が、生産・物流部門では「在庫は最小限にしておきたい」など、同じ社内においても利害が対立する場合も多い。それゆえに「何が問題か?」は組織内で最も議論が分かれる部分となる。片方にとって「大問題」でも、他方では「問題ではない」ことは容易に起き得ることだ。

従って、「何が問題か?」を多くの人が納得するまでには大変な労力・時間がかかる。そして、ここで議論がスタックしてしまうと一歩も先に進まなくなる。仮に、(合意が得られないまま)強引に事を進めたとしても、関係者が「それはすぐに取り組むべき重要な問題だ」という問題意識や、「この問題を解決しないと大変なことになる」という危機意識、そして「それは自分が取り組むべき問題だ」という当事者意識を持たなければ、力を合わせて解決に向けて行動を起こすことにはつながらない。

では、どのようにすれば問題意識はすり合わせられるのか。

ここで「問題となっているその状態自体」について、いくら議論を重ねても得るものは少ない。なぜなら、「問題」は「あるべき姿」と「現状」のギャップであり、何を「あるべき姿」とするかによって問題の認識は変わるからだ。まずは判断の基準となる「あるべき姿」に立ち戻り、共有する必要がある。

「あるべき姿」とは、ビジョン、理想状態など、様々な表現をすることができるが、重要なのは、「目的(=何のためにそれを実現するのか)」と「標準(=あるべき姿が満たすべき要件)」という2つを明確にすることだ。

人は自分の行動に、「理由」を求める動物だ。何のためにその仕事をするのかという「目的」を納得しなければ、そこに向けて本当に努力をしようとはしない。

「目的を納得する」のは簡単なことではない。一方的に誰かが目的を決めて与えても、その目的は力を持たない。じっくり時間をかけ、繰り返し、その意味・意義を腹落ちさせていくプロセスが必要だ。自分が目的の実現にワクワクでき、自分の言葉で具体的に説明できてはじめて、「目的が納得・共有できた」と言える。

特に、置かれた立場が異なり、利害が対立しているような場合には、それぞれの目的が異なっているため、そのままでは合意を得ることは難しい。そこでさらにそれぞれの目的からより上位の目的まで遡り、共有できるポイントを探すようにすると良い。

「標準」は体系性・具体性・シンプルさを意識せよ

さて、「目的」が共有できたとしても、それだけでは「あるべき姿」を共有したことにはならない。「目的」を実現するために、あるべき成果や状態はどのようなものかを具体的に認識・共有することが必要となる。これが「標準」だ。

たとえば「お客様に継続的に当社を選んでもらうために、最高の接客を提供する」と言っても、どんなことをどれくらいすることが「最高の接客」なのかイメージできなければ、現状の接客に問題があるのか?どの程度問題なのかが判別できない。この状態のままでいくら議論をしても「そこまでやることはない」「それはあなたの好みの問題ではないか?」となってしまう。あるべき接客を構成する要素を分解し、それぞれどのようなレベルまで実現することが必要かを具体的なイメージとして共有することが必要だ。

「標準」を定める際には、「体系性」「具体性」「シンプルさ」の3つがポイントだ。ひとつでも欠けると、組織において実際に問題解決に役立つものにはならない。

まず、「体系性(必要な要素の網羅)」。一部の条件にのみ偏った標準を定めると必ず問題が起きてしまう。特にビジネスでは、「スピードと品質」など実現すべき特性が相反する場合も多い。例えば「スピード」に偏重した「標準」にしてしまうと「品質」が疎かになっていく。望ましい状態をしっかり要素分解し、体系的に組み上げることが肝要だ。

次に「具体性」。現状を評価する「ものさし」として各要素を機能させるためには、なるべく具体的に定義され、人によって解釈がブレないものにすることが重要だ。

人によって解釈が最もブレないのは「数値」だ。このため、標準を考える際には出来る限り数値化することが望ましい。

しかしここにはひとつ大きな落とし穴がある。「数値で定めるべき」と考えるあまりに、「簡単に数値化でき測定できるもの」だけを「標準」にしてしまう間違いだ。

「標準」においてまず大事なことは「望ましい状態」を具体的に共有することであり、「簡単に測定できる」こと自体ではない。「本当はこうした視点も大事なのだが数値化・測定できないので標準にしない」という発想ではなく、「こうした視点は大事だ。ただ簡単には数値化・測定できない。ではどうしたら具体的に共有し、現状を評価することができるだろうか?」という姿勢で考えるべきだ。

たとえば「お客様がどれだけ感動したか?」は直接測定できないが、質問を工夫したアンケートを取る、フリーコメントの量自体の多さを測る、そこに「自分の将来の行動に関する前向きなコメントがあるか?無いか?」をチェックするなど様々な代理となる変数を見つけることもできる。もしくは、「望ましい状態」をイメージが沸く具体的な言葉で表現し、レベルの違いがわかるようにした評価シートを作成することで、(人による甘辛は多少あるにせよ)一定の評価をすることは可能だ。そして、複数の人の目で評価することで、「主観の集合」として一定の合理性を持たせることはできる。

最後に重要なのは「シンプルさ」だ。あまりに見るべき項目が多すぎる、体系が複雑で理解しづらいものは、それを意識して行動することができない。人が常に意識し、判断の際に活用できるようにするためには、大項目で最大5つ、できれば3つ程度に絞り込むとよい。そして細目の数もそれぞれ3つ程度までにするのが実用的だ。ぜひ皆さんの仕事において何が「標準」か考えてみて欲しい。「標準」として押さえたい評価項目をいくつか洗い出し、それぞれ2~4段階程度、それぞれの状態を言語化したマトリクスを作ってみる。実際にやってみるとわかるが、決して簡単なことではないが、自分の仕事を深く振り返る機会になるだろう。

「標準」を明確に定義することは難しい。最初から完璧なものを作ろうと力んでしまうと良いものはできない。まずたたき台を作り、試しに現状を評価してみる。そして見直していくと良い。

たとえば「現状を評価してみたら、全ての項目で『問題なし』と判定された。しかしどうも違和感を覚える」というのであれば、何か重要な視点が抜けている証拠だ。あるいは、「評価をしようとすると、何をどの項目で評価すべきか判断に困る」のであれば、体系性やシンプルさが足りないということだ。

こうした標準の作成・チェックは一人で行うのではなく、関係者に素案を提示し、意見を出してもらいながら一緒に作っていくとよい。この標準策定プロセス自体が「あるべき姿の共有」の最も有効な手段とも言える。そして関係者の衆知を集め、練り上げられた標準こそ、まさに「組織の知恵の結晶」とも言える価値を持つことになる。

そして、一旦作成した「標準」を、常に進化させる対象として捉え、改訂を繰り返していく。ほとんど「標準」を満たし、「問題がない」となったら、その「問題がない」状態が「問題」となるよう「標準」を高めていく。このサイクルを繰り返すことが、組織が「一見誰もができそうで、実はできない」レベルの競争優位性を持つことにつながっていくのである。

次回は、「現状を“見える化”すること」、そして、「問題解決の思考プロセスを組織に埋め込むこと」について検討する。

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