『あなたのTシャツはどこから来たのか? 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実』 

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綿とTシャツというミクロな視点から経済、文化などの普遍的な本質を描いた力作

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"明日からすぐに役立つスキル本や、魂に火を点ける人物モノも確かにいい。でも、「ビジネスパーソンとしての教養」を高めるような書籍や、ビジネスパーソンの視座や視点の次元を高めるような書籍も必要ではないのか――。自分自身、ビジネスパーソン向けの本を作る立場にいて、こうしたことをしばしば感じていた。そんな中で手にした本書は、明日すぐに使えるというわけではないだろうが、社会や歴史におけるビジネスやイノベーションの意味を改めて考える上で、非常に有益でエキサイティングな書であった。
本書は、綿とTシャツという、ある意味ミクロな視点から、政治、経済、文化、技術、ビジネスの関係や、産業の盛衰、グローバル化の意義や問題点など、普遍的な本質を描き取っている。米東部名門校ジョージタウン大学マクドナウ・ビジネススクールの教授として金融・国際経済を教える著者、ピエトラ・リボリ氏の筆力は圧巻の一語。全米出版社協会最優秀学術書(金融・経済部門)をとったというのも頷ける話である。

さて、皆さんは、以下の質問に答えられるだろうか?

・なぜ、綿という農産物はいまだに、労働力の安い国々を抑えて、米国が市場を制覇しているのか?

・なぜ、綿製品の生産は、中国が、より労働コストの安い国々を抑えてトップに立ち続けているのか?

・労働力の安い国々で、先進国の基準から見れば劣悪な労働条件で生産を行わせることは、道義的に許されるのか?

・アメリカで捨てられたTシャツをアフリカの貧しい国々に売るというビジネスは、道義的に許されるのか?

中学、高校の世界史の時間、我々は、綿(日本では絹も)、そしてそれを使った製品が、いかに市民の生活の糧となり、歴史を大きく動かす原動力となるかを学んできた。例えば、アメリカの奴隷制や南北戦争、イギリスの産業革命や植民地経営において、綿産業はその中心にあった。しかし、こうした事柄が起こった歴史的必然性を肌感覚として理解できている日本人は、農業や繊維産業に携わる人口が激減した現代においては極めて少ないはずだ。私自身、本書を読んで初めて、綿の栽培の大変さを知った。確かに、こうした産業で勝つためには、(道義的是非はいったん置くとして)奴隷制は最善の解決策であったのだろう。

経営戦略で言うKSF(Key Success Factor:成功の鍵)を満たすプレーヤーがある時期ある国に現れるのは、もちろん偶然的な要素はあるにせよ、やはり必然的な側面があることを改めて思い知らされる。そしてKSFは、企業家的努力だけでは充足できず、政治、地理、経済、文化(時代の価値観)などの背景に左右される。こうしたことを理解しておくことは、往々にして視野がミクロにミクロにと狭まりがちなビジネスパーソンにとって、大きな意味があるはずだ。

そのように考えたとき、日本企業が次にKSFを実現できる産業はなんだろうか――そんなこともふと考えさせられた。天然資源が少ない我が国であるが、「ボトルネックがイノベーションを促してきた」という歴史は、日本人には大きな支えとなるだろう。

読者諸氏には、本書をきっかけに、自分自身の日々の仕事の歴史的・社会的意味をじっくり考えてみることもお勧めしたい。それは、自分自身の存在価値を再発見することにもつながるだろう。本書はまた、歴史に学ぶこと、それでいて最先端のファクトを知ること、そして何よりいろんなことに関心・興味を持つことの大事さも再発見するきっかけとなるに違いない。

なお、先に挙げた質問の回答については、是非、実際に本書を手に取られたい。様々な発見が得られるであろうことを、お約束する。

※次回は2007年3月20日に掲載の予定。世界的ヒットとなった1冊を取り上げます。"

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