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加藤久氏 -大舞台で活躍するために必要なのは 心の強さとコミュニケーション能力

投稿日:2007/02/27更新日:2019/04/09

今回は、元・日本サッカー協会強化委員長の加藤久氏をゲストに、グロービス東京校で2006年5月26日に収録された回の内容をお届けする。

松林:本日のゲストは元日本サッカー協会強化委員長の加藤久さんです。心とスポーツのつながり、コミュニケーションを主にお伺いします。加藤さんは今、沖縄で子供たちにサッカーを教えているのですよね?

加藤:2003年に、Jリーグを目指した社会人のチームを沖縄に作り、下部組織である小学生から高校生までのチームも教えていました。チームのスポンサーが1年半で撤退してしまったのですが、沖縄の子供たちには才能があると思ったので子供たちの指導は続けました。

指導者の仕事は選手の持つ力を引き出すこと

松林:以前、加藤さんから、沖縄の子供たちには、サッカーを教える前にコミュニケーションから始めたと聞きました。具体的にはどのようなことをされたのですか?

加藤:最初は、私の目を見てくれず、コミュニケーションが取れませんでした。仲間内ではよく話すのですがね。というのも沖縄には「うちなんちゅ」「やまとんちゅ(=内地、本土)」という言葉があり、県外の人にコンプレックスを持っているからでしょう。子供たちは私が話しても、目を見ているだけで話の中身は聞いていませんでした。話し終わって「やってごらん」といっても、話を聞いていないので何もできなかったのです。

私はまず、よそものが現地の中に入って行動するには、相手の懐に入り込まなきゃいけないと考えました。160人くらいいる子供たちに対して、名前を覚える、握手する、帰るときも握手してから帰る――というルールを設けたのです。子供たちは徐々に、目を見て挨拶ができるように変化し、そのうち向こうから挨拶や話をしてくれるようになりました。

このようなとき、監督である私が一方的に喋ってもダメで、彼らは理解しません。常に子供たちに問いかけていくようにしたのです。彼らは徐々に、自分でまとめて話をする力をつけ、会話が成立するようになりました。
1番の成果物は、子供たちが自分の言葉で意志を表現できるようになったことです。これができないと、いくらサッカーの能力があっても、それ以外の部分では評価されません。やる気がない、元気がない、何考えているか分からない、仲間とコミュニケーションがとれない――と見られてしまうからです。子供たちには「日本代表になりたいなら、この点を少しずつ改善していこう」と話し、根気強く取り組みました。

松林:我々も、組織として強くなるために戦術を考えます。が、現実には、挨拶などの基本的な行動に大事な要素が宿っている可能性がありますね。挨拶をきちんとできないマネージャーは、いくら難しいことを言ったとしても相手に伝わらない場合もあるのではないでしょうか。

加藤:子供の指導で学んだのは、自分自身の指導する姿勢です。僕ら指導者はどうしても、自分が持っているものを相手が持っていないという前提で、相手に教えてやるという気持ちになってしまいがちです。しかし、こういう気持ちでは相手は身構えてしまいます。

相手が既に持っている力を引き出すのが指導者の仕事。この感覚で接すれば間違いなく彼らの力は伸びます。「本土ではこうだよ」などと比較してしまうと、子供たちは劣等感を強く感じます。そうではなく、「お前たちはすごいな!」「こういうこともできるんだ!」という言葉をかけることで、子供たちは自信を持ち、成長していきました。

高いポジションを維持するには落ち込んだ気持ちを引き上げる訓練を

松林:コミュニケーションには、言語と非言語がありますね。非言語コミュニケーションとは、例えばアイコンタクトや距離感などです。そのような観点でも、伸びているチームと伸びていないチームを、試合前に遠くから見ているだけで見分けられるのですか?

加藤:はい。グラウンド外での雰囲気、選手の入場のし方、選手の顔つきで分かります。
心と体は切り離せません。体が疲労しているとき、心で持ち直すことはできません。同様に、気持ちが疲れているとき、体で引っ張ろうと思っても無理です。心と体のバランスのとり方が、非常に難しいのです。
「体力の限界」とスポーツ選手が引退のときに言うことがありますが、これはあり得ないと思います。体力は、まじめにトレーニングをしていれば、急激に落ちることはありません。ただし、心というのはある瞬間、ある出来事でガクッと(精神力が)落ちてしまいます。日常の些細なこと(ライフイベントと呼んでいる)でも落ちます。心がそういう状態の時は、元気がないことが見た目でも分かります。選手に一番大切なのは、心がガクッと沈まないように、そうなってもすぐに引き上げられるように訓練をすることだと思います。

これは、サッカー日本代表選手についても言えます。彼らは場数を踏んで心臓に毛が生えていると思われがちですが、それは間違いです。彼らは新聞記事をくまなく読んでいて、傷つくこともあります。しかし逆に、そうした感性を持っているから、相手との駆け引きの中で、相手のサインを読みとることができ、代表の立場につけるのです。そして、心の葛藤に勝つ習慣があってこそ、代表のポジションが維持できるとも言えます。

松林:以前、加藤さんは、「性格」という言葉は実は正しい表現ではなく、考える習慣が長い間蓄積されたものが「性格」のように見える、ということをおっしゃっていました。それと同様に、代表選手には心を引き上げる思考パターンができているのでしょうか?

加藤:「性格」や「気質」は先天的なものであると思われていますが、そうではありません。ある現象が起こったときに、人は必ずそれを自分なりに捉え、どう対処しようか考えます。この現象の「捉え方」を指導者は子供たちに学習させるべきなのです。
例えば、レギュラーを外されたという現象は子供にとってストレスになりえます。この時、「力がないからなれない。お前はダメだ」と言うのではなく、「今回はレギュラーになれなかったけど次のレギュラーは決まっていない。レギュラーに戻れるチャンスもある。それに向かってがんばろう」という考え方を引き出してあげるようにします。日本代表選手たちもレギュラー落ちという経験をのりこえて代表になっている――と教えるのです。レギュラー落ちは自分を成長させるために必要な出来事だと思うことにより、人間は成長します。

チームで成績を出すにはコミュニケーションが不可欠

松林:多くの選手が、体格や運動能力の点で優れている中、大きな舞台で活躍できる要因や資質とは何ですか?

加藤:大きく3点あります。

1.セルフコントロール(心、体ともに自分をコントロールすること)
2.Will to Win(どんなことがあっても自分は上に行くという意志)
3.社会性(サッカーはチームで行うスポーツなので、特にこれが不可欠)

勉強ができなくても、サッカーで優秀な成績を出す選手は大勢います。一番大事な能力は、相手に会った瞬間に「今日元気ないな。悲しそうだな」あるいは「嬉しそうだな」と感じられる心。それを感じた時に、パッと気の利いた言葉をかけて相手を元気づけられる機転。これが本当の賢さであり、社会性だと思います。そのため、子供たちには「自分が他の人に対していい影響を与えているかを考えてごらん」と言うようにしています。

松林:具体的な選手名を出すと、中田英寿選手(当時。2006年7月に引退)は、昔は孤立しているように見えましたが、最近はどんどんコミュニケーションを取るように変わってきているのですか?

加藤:彼は以前、チームの中で自分の仕事をパーフェクトにこなすことだけを考えていました。残り10人に仕事や役割を与えるのは監督の仕事だ――と。それが、年齢が上がってきて変化したのです。

松林:中田選手はスペイン語もかなり話せますし、語学をすごく勉強されています。これはスポーツ選手としてすごく強みになりますよね?

加藤:確かに語学も強みですが、それ以上に、コミュニケーションをとる努力をする姿勢が、今では彼の強みになっています。

また、大黒将志選手は、2006年1月、フランスリーグ2部のグルノーブルに移籍(当時。同年8月にセリエAのトリノに移籍)しましたが、フランス語をほとんど話せないにも関らず、仲間に溶け込んでよい関係を築きました。例えば仲間とレストランに行けば、厨房にいって仲間のためにワインをついできてあげたりしていました。人がうれしいと思うことをやってあげられることが重要なのです。

松林:なるほど。最後に加藤さんの心に残る言葉ですが、恩師堀江忠男先生(故人。早稲田大学名誉教授)の「真理は単純にして平凡である」ですよね。

加藤:その言葉をいただく前、堀江先生に「学問とスポーツは両立するか」と聞いたら、「両立するに決まっている」と返ってきました。「情熱と工夫があれば何だって出来る」というとてもよい言葉をもらいました。

その後、「単純にして平凡である」と教えてもらったのです。サッカーならば、うまくなればなるほど、ごく平凡な行動で一瞬にして場面を変えられるのです。例えば、ジーコ(元サッカー日本代表監督)は、ワンタッチで局面を変える力を持っています。シンプルな行動で結果を出すのは、実は練習や経験が蓄積されてこそできることであり、難しいのです。

堀江先生は経済学博士であり、ベルリンオリンピック代表でもある。全く違う2つの分野で、自ら「真理は単純にして平凡である」という言葉を実践されました。この言葉は、あらゆる世の中の営みに共通する原理原則ではないかと思います。

 

次回は、元ローソン取締役の青木輝夫氏をゲストに迎え2006年4月28日に収録された回の内容を掲載する予定です。

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