経営のプロを育むMBAの価値 -新生銀行CEO ティエリー・ポルテ氏 

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第4回は、新生銀行CEOを務めるティエリー・ポルテ氏に、MBAがグローバルリーダー育成に果たすべき役割について聞いた(本稿は2006年7月25日に開催されたポルテ氏のご講演「グロービス・インターナショナル・スクール開校記念セミナー」の内容をまとめたものです)。

経営のプロの要件は知識・スキル・態度

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ポルテ氏は、米国Harvard Collegeを卒業後、モルガン・スタンレーに入社。1982年にHarvard Business SchoolにてMBAを取得。同社日本法人社長を経て、2003年11月に新生銀行に執行役員副会長として入行し、2005年6月24日、現職に就任した。日米双方で企業経営の現場に携わった経験を踏まえポルテ氏は今、MBAの存在価値をどのように定義するのか。

ポルテ氏の認識は、MBAの歴史的起源に立脚する。「ビジネススクールは、医師を育てるメディカルスクール、法律家を育てるロースクールなどと同様に、“プロフェッショナル”を育成する目的で、20世紀初頭の米国に生まれた」。つまり、「経営のプロを育てる」という目的を十全に果たしているかが、ビジネススクールの価値を測る指標になるとも言える。

では、経営のプロに求められる要件とは何か。

ポルテ氏はそれを、「知識(knowledge)」「スキル(skill)」「態度(attitude)」に分けて説明する。ファイナンス、アカウンティングなどの知識、プレゼンテーション技能、能力評価、チーム管理などのスキルに加え、「リーダーシップについて語る際には、高潔さ・自信・判断力・洞察力・努力といった“態度”が、とりわけ重要な意味を持つ」というのが、ポルテ氏の持論だ。

「個人として、自分自身の仕事に誇りを持つこと、常に最高の知識を持ち続け、一流であるべく努力すること、受身にならず主導権を持ち、また先見すること。チームとして周囲が働きやすいよう配慮すること、周りの意見に耳を貸し、批判も受け入れること、自らもチームの一員として誠実に務めること」。リーダーにとって何より大切なのは、「仕事に価値をもたらし、顧客に最善の結果を提供する“志”であり、これを実践するための“態度”である」と、ポルテ氏はまとめる。

ケースメソッドの体験が対人力の強化を助けた

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ポルテ氏が、経営のプロに求められる要件として“態度”を強調することと、昨今、各所で聞かれるビジネススクールに対する批判とは無論、無関係ではない。

例えば、エンロン事件ではJeffrey Skilling氏など(ポルテ氏の出身校でもある)Harvard Business Schoolの卒業生が不正経理に関与していたことが分かり、ビジネススクールに懐疑的な見方をする動きも広がった。いわく「MBAホルダーは知識、スキルばかりを重視しすぎる」、或いは「理論重点となるあまり、実社会で倫理にもとる行動を起こしやすい」といった意見である。

これについてポルテ氏は、「MBAの価値を考えるとき、知識やスキルの醸成のみが強調されるきらいがあるが、実際には決して態度が軽視されているわけではない」と、反論する。

例えば、ビジネススクールの一つの特徴である、ケースメソッドによる意思決定の体験は、「実社会に極めて近い感覚で、ビジネスにおける決断と行動のプロセスを経験できる“優れた実験室”のようなものであり、私自身、対人力を強化できたと実感している」と振り返る。

Harvard Business Schoolのクラスは、世界各国から集まった人種も背景もまるで異なる85~90人の学生で構成され、それ自体があたかも1つの会社や社会の縮図を為す。そうした環境で現実のビジネスの事例を用いながら議論を繰り返すことで、チームで協業する価値や、トップとして意志を通すべき瞬間の重要性を見出し、結果として人間性を深められるというのが、ポルテ氏の主張だ。

また例えば、Harvard Business Schoolはじめ多くのビジネススクールには、「ビジネス倫理」など、企業の社会的責任を中心に、何が正しく、何が企業を破綻させるかを問う独立したクラスもある。またHarvard Business Schoolでは、過去には、学長自らが先陣に立ち、教授の意識向上に取り組んだ経緯もあった。

授業でビジネスリーダーが持つべき正しい態度の全てを教え切れるわけではないのは、いわずもがなのことである。むしろ、その大半は本来、様々な経験を基に生涯を通じ、個々人が醸成すべきものだ。ただ、だからといって、ビジネススクールが態度などのソフト面を軽視しているわけではなく、またそれによって、経営に係る知識、スキルの意義にまで疑念を持たれるのは不本意なことと、ポルテ氏はビジネススクールを擁護している。

国、地域に関わらず普遍的な価値

知識、スキル、態度といった要件に加え、では、活躍の場面をボーダレスな環境に移したビジネスパーソン~グローバルリーダー~ならではの、必須要件はあるのだろうか。

この論点を受け、ポルテ氏は「リーダーシップとは、K.ブランチャードの言うとおり“他者と働きつつ目的を達成すること”、グローバルを“複雑さの増す世界のどの状況下でも働くことができること”」と定義し、「グローバルリーダーには次の4ステップが求められる」とまとめる。

まず第一に「方向を提示する」こと。リーダーとしてミッションを定義し、将来像を描けなければならない。第二にこの方向性に対して「コミットメントを獲得する」こと。目的、ゴールにチームを向かわせなければならない。第三に「実現する」こと。そのためには計画、フォローアップ、説明、努力が必要だ。そして最後に、「自らが実例を示す」こと。

「どんな小さなことでも、リーダーが“価値に基づいて行動する”のが何より大切なことです。その姿を見せ続ければ社員は自ずとついてくる」と、ポルテ氏は経験を踏まえ、訴える。

様々な国のビジネスパーソンと目的達成のために動く必要を持つグローバルリーダーには、言葉や文化の違いを理解し、それに基づき様々なテクニックを持って実践することが求められる。ただ、そうした差異を超え、「世界のどこにあっても普遍的な、こうしたリーダー像、価値観をもってすれば、どのような壁も打ち破れる」。ポルテ氏は力強く、そう締め括った。

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