「なぜ(Why)を5回」の前に 「どこ(Where)を30回」繰り返せ 

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「What→Where→Why→Howの順番で考える」という、問題解決プロセスの全体像を示した第1回、その第1歩となる「何が問題かを明確にする(=What)」ステップについて詳説した第2回に引き続き、今回は、「どこが問題かを特定する(=Where)」ステップについて、具体的に議論していく。

皆さんは、「なぜを5回繰り返せ」という言葉をご存じだろうか。問題解決手法に興味を持たれた方なら、一度は耳にしたことがあるだろう。トヨタ生産方式の祖、大野耐一氏の名言である。問題の表面だけを見るのではなく、なぜ問題が起きているのかを、粘り強く、深く考えろ、という意味だ。

様々な事象の背後に隠れた真の原因を明らかにすることは極めて重要なことであり、その意味では「なぜを5回」は問題解決において必須の思考姿勢だ。しかし同時に、これは極めて難易度が高いプロセスであることを肝に銘じる必要がある。

たとえばあなたが企業の人事担当だとしよう。業績も好調であり労働条件も他社に比べて遜色はない。どの部門も人が足りず、「こっちに人をくれ」との声がひっきりなしにあなたのところに入ってくる。採用活動にはかなり力を入れていて、それなりに採用はできているが、一方で最近、社員の退職率が上がっている。このままでは採っても採っても人が足りない、という状態から抜け出すことができない。そこであなたは「退職率が上がっている」という問題に取り組むことにした。

さて、ここであなたはまず何を考えるだろうか。わざわざこうした問いかけをするとあまり出てこないが、実務の中でよくやりがちなのは、「人が辞めないようにするにはどうすればよいか?を考える」。つまり「解決策を考える(=How)」だ。給与など条件を良くする、上司の部下への接し方を改善する、入社時における採用判断の基準を変える、など様々な案が出てくる。

確かに「解決策」は問題解決のゴールなので、すぐにそこにたどり着ければ最も効率的ではあるが、このアプローチではうまく行かない。なぜならそれだけでは様々に考えられる策の中で、なぜそれがBestなのかを断定することはできないからだ。このためある策を提案したとしても、「もっとこんな策もあるのでは?」「問題は他のところにあるので、その策では解決できないのでは?」など、当然の質問が噴出し、関係者の理解を得られない。

冷静に考えれば、いきなり対策を考えるのは、かなりの無理があることがわかる。そこで出てくるのが、先に挙げた「なぜ(=Why)」だ。

問題の真因となる、「なぜ、辞めるのか?を考える」、人が辞める理由を調査し、そこに手を打つというのである。一般に、ビジネスパーソンに上記のような状況設定を示したうえで問いかけると、8割がこう答える。しかし実は、このアプローチもたいてい失敗する。なぜか。

「なぜ?」からのアプローチが問題解決を失敗に導くワケ

ここでよく陥りがちな状況の一つは、たまたま目についた原因に飛びついてしまうことだ。たとえば調査を始めて最初にインタビューした2人が「上司との関係に問題がある」と答えたとする。そうすると、「上司に問題があるらしい」と考えてしまうのだ。

するとその後の調査において「上司の問題」に関する情報に特に着目しやすくなり、どんどん思い込みが強くなっていく。「上司との関係に問題はなかったですか?」などと聞けば「言われてみれば確かにそうした面もあります」という答えが返ってきてしまうのは、当たり前のことなのだが、それすら気づけなくなる。

このような形で思考を進めていくと、一見、分析の流れは出来ているので、自分も他人もその間違いに気づきにくい。しかし実行してみると、手を打つべきところが誤っているために問題が解決しないという結果に終わりがちだ。

陥りがちな状況のもう一つは、考えうる原因があまりにたくさん出てきて整理がつかなくなるということだ。たとえば「なぜ辞めるのか?」を明らかにするために、ヒアリング調査をしたとしよう。すると、よほど明らかな原因がある場合でなければ、一人の人でもいくつかの理由を挙げるだろうし、人が変われば千差万別な理由が出てくる。このため「調査の結果いろんな理由が出てきました。ある程度傾向はありますが、まだいろいろな理由が考えられます。このためもう少し調査が必要です」などとなってしまう。つまり分析ばかりで結論がない状態に陥るのである。

この、情報が増えれば増えるほど結論から遠のいていってしまう状況について、もう少し掘り下げて考えてみよう。

この状況が示す問題点の一つは、「網羅性をチェックすることが難しい」ということだ。退職率の事例に関わらず、こうした状況は数多あげられる。たとえば「部下の成果が上がらない原因は何か?」と考えると、「部下の能力」「部下の意欲」「指導方法」「報酬」「指導方法」「目標の設定方法」「人間関係」「健康」「仕事の難易度」「採用方法」「運」・・・など様々なものが出てくる。ある程度までは洗い出せたとしても、他にも何かあるのでは?という感は拭えない。

加えて、「原因相互の関係を把握することが難しい」。先の「部下の成果が上がらない原因」についても、「成果」という結果に対する距離感の異なる原因が混在していたことにお気づきだろうか。たとえば「意欲」と「報酬」を比較すると「報酬」はより間接的(「報酬が上がる期待がある」→「意欲が高まる」→成果)だ。

また、「原因は一つではなく、複雑に絡み合っていることが多い」ことも問題を複雑にする。ビジネスなど社会現象の場合、ある原因が単独で結果を生むことは稀であり、複数の原因が絡み合って結果を生じる。たとえば「報酬」は、「成果によって報酬が上がることがわかっている」「成果に対する個人の貢献の評価が納得できる」「報酬を上げることが本人の意欲を高める上で重要なものとして認識されている」といった条件(原因)が整わなければ必ずしも「意欲」に結びつかない。

さらに、これらの問題を乗り越え、ある程度までは原因を洗い出し、また相互の関係を把握できたとしても、その次には「それら原因の中でどこが強く結果に影響を与えているのかを判断することが難しい」という壁が立ちはだかる。たとえば「仕事に対する意欲」に影響を与える要素には「仕事自体への興味」「仕事の難易度」「仕事によって得られる報酬」「仕事を通じて得られる自己成長の度合い」など様々な要素が関係するが、どの要素が大きく影響を与えるか?を定量的に判断することは難しい。多数のサンプルを取り、統計的に分析することである程度推定することは可能だが、それには大変な時間と労力がかかるし、現実的なやり方とは言いがたい。

「どこ?」からのアプローチで原因の所在を絞り込め

これまでの議論で、「なぜ?」という因果関係の把握は重要ではあるものの極めて難易度が高いということはご理解いただけたと思う。ではどうすれば良いのだろうか。

その秘訣が「なぜを5回」を始める前段階にある「どこ(=Where)」を明確にするステップなのである。限りなく出てくる原因のカオスに入り込む前に、考えるべきことを絞り込み、「なぜ?」との格闘を少なくする。

たとえば今回の課題、「人が辞める」であれば、「なぜ辞めるのか?」という問いを一旦横におき、「入社後何年目の人が辞めているのか?」「どの部署・職種の人が辞めているのか?」「いつから辞める人が増えたのか?」などの切り口で、「辞める人が多い」という状態を分類していく。これによって、「人が辞める」という問題が「起こっているところ(Where)と起こっていないところ」を事実に基づき峻別するのだ。

そうすると、たとえば辞める人が他と比べて多いのが「入社2年目の営業職で大手クライアント担当」「入社7年目の研究職で初級管理職に登用後」というようなことが分かる。このように属性が絞り込まれると、それに紐づく原因がかなり共通項を持って浮かび上がってくるはずだ。

たとえば、「入社2年目の営業職で大手クライアント担当」であれば、「営業の基本ができたところで大手のクライアントを任されるが、顧客の要求がそれまでとは一段厳しく、一方で先輩からの指導も少ないため、重い責任をどう果たすか一人で問題を抱え込んでしまう」といった具合だ。またたとえば、「入社7年目の研究職で初級管理職に登用後」であれば、「これまで自分の研究成果を追及していれば評価されたが、昇格によりマネジメント力が求められるようになった。しかし従来、身に付けてこなかったスキルや資質を要求されることがストレス要因になって悩みが深まる」といった原因が明確になるかもしれない。

このように、ただ漠然と「なぜ辞めるのか?」を考えるのに比べると、「どこ?」を絞り込むことで、かなりピンポイントで原因を特定できるようになる。

「なぜ?」の前に「どこ?」を徹底するメリットは大きい。まず網羅性のチェックが「なぜ?」に比べて格段に容易であることだ。たとえば「少子化問題の原因を考えろ」と言われると、「女性の社会進出が進んだ」「教育費が高すぎる」「家が狭い」など、数限りない原因が考えられてしまい、どこまで考えても終わらない。しかし「どのような特性を持ったカップルの子供の数が少ないのか?」「カップルになる率×出産する率×平均出産人数」といった要素に分解し、事実を確認していくのは比較的、容易だ。なぜなら一つ一つの分解が単純であり、チェックしやすいからである。一つ一つの分解・チェックが容易ということは、数多くの視点でチェックして見落としを減らすことができるということでもある。

そして先にも述べたとおり、ある部分に問題箇所が絞り込まれることで、それに紐づく原因の数が劇的に減少する。たとえばもし「カップルになる率×出産する率×平均出産人数」の「カップルになる率」に問題がある場合であれば、「カップルにならない原因」の部分だけを考えていけばよい。もし「平均出産人数」に問題があれば、「なぜ1人は子供を持つのに、2人以上持たないのか?」を考えていけばよい。これらは相当に異なる原因が紐づいているので、問題がない部分の原因を考える必要がなくなる(ちなみに、政策提言や企業の戦略立案において、極めて多数のアクションプランが並んでいることがよくある。確かに必要な場合もあるだろうが、「どこ?」の絞り込みが不十分であるために多くの策が並んでしまったということはないのだろうか。全て実施できれば良いが、結果的に実行にかかる資源の分散を招き、かえって実効性が高まらないということが多いように感じられてならない)。

「どこが問題か?」を明確にすることから始めるのは、組織における問題解決やコミュニケーション面でも意義が大きい。前述のとおり、「どうする」「なぜ?」の議論は「なぜそこなのか?の判別・判断が難しいため、このレベルで議論をしていても結論が出ないことが多い。それに対して「どこが問題か?」の議論は、情報さえあれば「退職率が高いのは営業部門の3年目社員に多いので、ここに手を打つべきだ」「20代男性に対する売上が競合に比べて劣っている部分なので強化すべきだ」と、事実に即した生産的な議論をすることができ、結論に対する納得性を高めることにつながる。

このように「なぜ?」の前に「どこ?」を考え、問題箇所を絞り込むことは、まさに問題解決の「肝」であるが、なかなか上手くできる人は少ない。私は多くのビジネスパーソンに問題解決手法のトレーニングを行っているが、「問題を一網打尽にできるような上手い切り口が見つけられない」「実際に考え始めるとたくさんの切り口がでてきてしまう。その中でどれを選べばよいかわからない」「たくさんの切り口を考え調査していると、時間がかかって仕方がない」と、相談されることが非常に多い。そして彼らは「どこ?」の途中で挫折してしまうか、中途半端な状態で「なぜ」に飛び込んでいってしまう。

では、どうしたら「どこ?」を効率的・効果的に考えることができるのだろうか。次回はその肝に迫っていく。

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