カネボウ「きょう、人のこころにさわる」 

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しるし【カネボウの企業理念】

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【カネボウの志】
人を想いつづける
カネボウの全員、全仕事、全商品、それらすべての前提となるものが「人を想いつづける」です。あやふやで自己満足的な想いではなく、私たちが存在し、生きていくための使命が刻み込まれています。
【私達の約束】
こころを晴れにする
1.きょう、人のこころにさわる。何回「ありがとう」といわれたか。
2.仕事に厳しく、人にやさしく。仲間を信じて共に成長する。
3.上司のほうを向くな。いちばん厳しい生活者の目をもつ。
4.なぜ、なぜ、なぜ。現場、現実、現物に質問しつづける。
5.すぐやる。やり切る。世の中とのデッドヒートを。
6.挑戦者になる。できることだけやっても一流にはなれない。
7.正直でいる。透明にする。つぎの100年を刻む、きょう。
つねに本質を突き詰め、必死に具現化していく覚悟を示します。お客さまへ、世の中へ、そして自分自身へ、私たちが取るべき行動を、ここに約束します。
【カネボウビジョン】
一人一人が主役になって復活した
日本を代表するモデル企業
私たちの目標です。カネボウ復活は、ほかの誰でもないカネボウの一人一人が成し遂げたい、そこに日本企業としての新たな未来像をつくりあげたい、その決心を込めています。
※出典カネボウホームページ(http://www.kanebo.co.jp/)

「人」を中心に据えて従業員の力を引き出す

新生カネボウの経営理念で私が最も印象深く感じるのは、それが「人」を中心に据えたものであることである。

もちろん、大半の企業は多かれ少なかれ、「人」に関する記述を経営理念の中に直接・間接に盛り込んでいるものではあるが、ここまでストレートに「人を想いつづけること」「人のこころにさわること」と、それを全面に出している企業は、珍しい。

一般に、大企業が経営理念に全面に打ち出しているのは、社会に対し、いかに貢献していくかという覚悟や、戦略の前提となる価値観の定義である。例えば松下産業は、「産業人タルノ本分ニ徹シ社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ期ス」と、社会貢献を明示し、花王は「よきものづくり、絶えざる革新、正道を歩む」と戦略の前提を示した。

ではなぜカネボウは、再建を志すその決意の表れとなる経営理念に「人」を中心に据えた文言を置いたのか。私はそこには大きく2つの理由があったと、考えている。

一つは、再生途上のカネボウ内部の人間にとって、より身近で行動に結び付けやすい精神的バックボーンが必要であったという点だ。化粧品をはじめとする多角化事業の売却など、事実上の企業解体というマイナスからのスタートを切るにあたって、「ビジネスは人ありき」という原点を経営者が明示し、「自分達が居る限り、事業はまた新たに興せる」と、従業員全員に強く意識させることが、組織の求心力を高めるために、必要だったと思われる。

そしてその根底にあったのは、従業員同士あるいは従業員と経営陣が心を開き、本音の議論をすることこそが、改革を加速し、引いては顧客や株主の利益につながるという経営陣の考え方だ。

この、新たな経営理念の策定当時、産業再生機構から同社社長に就任していた小城武彦氏(現・産業再生機構マネージングディレクター)は、「いかに素晴らしい戦略を立てようとも、それを実行する人がいなければ絵に描いた餅で終わってしまう」と話し、人を動かすリーダーシップの核心は「人のこころにさわる勇気があるかということに尽きる」と、自らの信念と経営理念の一文とを照らし合わせて説明している。

古参の従業員にとっては“外様”に過ぎない、小城氏をはじめとする経営者が立てる戦略を、従業員全員がすぐに信じ、実行に移すとは考えづらい。表面化せぬ、古参従業員の不満や不満をすくい上げ、モチベーションを引き出し、再生に向かう戦略を実行させるためには、小城氏らにとって、まさに「人のこころにさわる」勇気を試され続ける日々であったであろうことは想像に難くない。

言わずもがなのことではあるが、それは無論、従業員を過保護にすることではない。必要に応じて褒め、叱り、一緒に悩む。そうしたことを通じて、社員の成長に本気で向き合う——これこそが、「人のこころにさわる」ということであり、21世紀に求められるビジネスリーダーの要件と、私は考えている。

株主重視の経営を脱し企業経営の未来像を示す

同社が新しい経営理念の中に「人」を据えた理由として、もう一つ考えられるのは、顧客や株主に対し、原点回帰の姿勢を明らかにしようとの覚悟だ。

消費財を手がけ生活者のライフスタイルを創造していこうとする企業として(同社の以前の経営理念はまさにこれをうたう“TheLifestyleCompany”であった)、肝心な顧客視点を喪失してはいなかったか。顧客という「人」を、本気で理解しようとしていたか。今、顧客にどのような価値を提供できるのか。

その自問と反省と決意が、「カネボウの全員、全仕事、全商品、それらすべての前提となるものが『人を想いつづける』です」という一文に凝縮されているように、見える。

企業には従業員、顧客、株主など、さまざまなステークホルダーがいる。その中で、資金の出し手であり、法律上の企業の所有者である株主を一番大事にしようというのが米国流の株主重視の経営であった。しかし、株主重視の経営は、株主だけを大事にする経営ではないはずだ。

まずは従業員を大事にする。そうすることで従業員は顧客を喜ばせることに集中でき、結果として株主も喜ぶ——こうした考え方が、最近、行き過ぎた株主重視経営の反動として、米国や日本で見直され始めている。カネボウの新しい経営理念は、こうした流れを如実に示すものと言えるだろう。

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