スポーツもビジネスも「観察する力=人間力」が成功のカギ 

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スポーツとマネジメント ~Jリーグを経営するという仕事~[3]

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芹沢:では、そろそろQ&Aの時間に移ろう。

会場:今後、Jリーグがさらに稼いでいくための具体的アクションが何かあれば、ぜひ教えていただきたい。

会場:現在、他のスポーツ協会とコラボしていることは何かあるだろうか。

会場:3期連続の赤字は認めないとのお話だったが、具体的に各クラブはどういった流れで黒字化していったのだろうか。

村井:稼ぐ領域に関して言うと、そもそもスポーツビジネスの裾野は大変広い。ユニフォームやスポーツ用品はもちろんそうだし、たとえば鹿島アントラーズは先般、スタジアム内に診療所を開設した。チームでは針灸マッサージが行われていて、いわゆる東洋医学のプロもいれば、一般的なお医者さんもいる。そうした方々が週末はチームに帯同する一方、平日にはスタジアムの診療所で一般の方々を診るという試みだ。チームのリソースを活用して、そんなことがやれたらいいと思っている。

あと、僕は芝生というものに注目している。養生には手間や時間がかかる一方、スタジアム側の張替え技術は年々高くなっていて、今は2週間で全面張替えができるようになった。それなら、スタジアムの芝生でコンサートやビアパーティーを開いたりして皆に使ってもらいたい。それで芝生が痛んだら2週間で張り替え、剥がした方は養生地に戻す循環モデル。そのサイクルを短くしてどんどん社会で還元できるビジネスにしたら面白いかなと思ったりしている。そんな風に、とにかく夢はたくさんあって、語り出すと10~20分かかるから、一端としてその2つをご紹介した。

あと、コラボに関して言うと、究極は人材の行き来だと思う。先般、大河正明さんという常務をバスケットボール協会に持っていかれた(会場笑)。ただ、理念に「豊かなスポーツ文化を」と掲げているわけで、サッカーだけで人材を抱え込むのは良くない。「それでバスケットが良くなればいい」と。まあ、川淵(三郎氏:Jリーグ初代チェアマン/現日本バスケットボール協会会長)さんがいるからというのもあるけれど、今はサッカーとバスケの協会はすごく緊密にコミュニケートしていて、ノウハウの共有もできるようになった。そのほかにも、非公式ながらさまざまな団体とのコミュニケーションがある。そこで、たとえばセカンドキャリアのようなテーマも共有できると思う。

あと、赤字解消にはJリーグ経営の構造が関係している。スポンサー収入もシーズンチケットの売上もシーズン前にだいたい分かる。そのうえで、昨シーズンの入場者数を元に当日券の今期入場者数を考えると、収入の目処は意外と付けやすい。だからそれに見合った身の丈に会う支出を設計すれば、ある程度は赤字を回避することができる。もちろん、「じゃあ身の丈に合った経営だけで良いのか?」というと、身の丈を高くするような、入場数を増やすための経営努力も必要。そうした努力をしつつ、経営のボトムラインは比較的シミュレーションしやすい構造ということで、赤字回避も比較的しやすい。だからJ3でも黒字経営のクラブがいくつもあったりする。

会場:現在のJリーグを見ていると、現場や選手サイドに加えて協会側も変革が必要だと感じる。後者に関してはどういった施策をお考えだろうか。

会場:働きながら母校でバスケットの監督をしている。特にスポーツをしている高校生に、どういったことを伝えていけば良いとお考えだろうか。

会場:村井さんが考えるJリーグ百年構想のゴールを伺いたい。

村井:変革について言うと、クラブだけでなくJリーグ自体でもいくつか変えていかなければいけないことがある。まず、競技としての公平性や公正性は大事である一方、やっぱりプロスポーツは興行として成立させなければいけない。入場数を増やし、収益を上げていかなければいけない、と。で、たとえば大会方式に関しては、年間を通じたホーム&アウェイで勝ち点を競うというのが、競技としての公平性・公正性に鑑みれば最も妥当だと私も思う。ただ、一方ではそれを続けてきて入場者数が減り続けていたという状況もあるわけで、何かを変革しなければいけなかった。だからリーグでのイノベーションということで、入場数の増加などを目指して2ステージ制に変更した。これが1つの変革ポイントになる。

1stステージが終わっただけの現時点でその成果を測ることはまだできない。ただ、メディアへの露出は、新聞が昨年同期比2.99倍。テレビでは時間あたりで同2.35倍になった。また、入場数は、昇降格要素等が同じ条件のクラブで比較すると昨年比108%。今は露出も入場者数も、ある程度は増えているというのが事実だ。ただ、それが本当に良いかどうかは分からないし、大会方式だけが入場者数増や売上アップに必要な要素なのかも分からない。だから、2ステージ制に反対する方も議論に加わることができるよう、今年1年が終わったら徹底的に情報開示しようと思う。

あとは、先ほどお話しした通り、デジタル化、選手育成、経営者育成、快適なスタジアムの実現、そしてアジア戦略といったものになる。ただ、そうした変革のためにはJリーグ職員側も意識を変える必要がある。そのために飲み会や会議を開いたりして、それでもなかなか刺さらなかったけれども、最近ついに発見した。チェアマン室を潰して1フロアにしたうえで、床を緑の芝生色に変えた。それで5.5mずつ濃い緑と薄い緑が交互に続く模様にしたら、皆の表情が一気に明るくなった。皆、サッカーが本当に大好きだから。今期は床の色を変えたことが一番の変革だった(会場笑)。

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あと、高校生の選手に向けて。以前、2004年にJリーグ入りした103人の選手たちが、その後2014年までの10年間でどうなったかを調べたことがある。すると、彼らのおよそ2/3がすでに引退していたりした。そこで、2014年時点に現役で活躍していたのはどんな選手かというのを、クラブ側の育成・強化担当にも徹底的にヒアリングしていった。そうすると、実は大成しなかった選手も残って活躍している選手も、技術や身体能力、あるいは戦うメンタルは大して変わらないことが分かった。違っていたのは観察する力だ。「雨が降ってきたな」「ドログバが出てきてスタジアムが騒然としているな。味方が緊張しているぞ」と、周りを見て観察する力。そのうえで、「このフォーメーションのほうがいいのか」「今はディフェンシブにしたほうがいいのか」と考えて判断する力が違っていた。また、それを仲間に伝える力、統率して1つのチームにまとめる力、徹底的にやりきる力、そして、それを最後に振り返る力。残った選手と残らなかった選手では、そうした力が違っていた。

これ、心技体以外のどういう力なのかと考えてみると、人間力としか言えない。だから、日本の学校は観察することが人生においてどれほど大事かということをもっと教えるべきだと思う。また、「考えるというのはどういうことなのか」と。W杯という戦いの場で、ベンチにいる上司の声が届かないピッチ上で、自分で考えて判断するということはどういうことなのか。今はそのようにして人間力を高めるということを、プロの世界でも皆が目指しはじめている。仮にプロの世界へ進まなくても、そうした力はビジネスでの成功につながる。だから、スポーツ選手かビジネスかのどちらかを選択するという発想をする以前に、とにかく人間力が大事だということをぜひ伝えて欲しい。

あと、個人的なゴールに関して。私自身は任期のある短期リリーフだから、その後の経営者を育てたい。それで、元サッカー選手だった人がチェアマンになるようなことが次々起きて欲しい。たとえば欧州ではミシェル・プラティニのようなリーグ最高選手だった人がリーグ経営をしていたりする。スポーツに人生を賭けて勝負してきた人たちは、先ほどの「人間力」を相当高いレベルまで磨いている。ただ、たとえばパソコンが少し苦手だったりして、社会にそのケイパビリティを翻訳する装置がないから周囲がダメだと思い込んでいる。それで客寄せパンダのようなセカンドキャリアを送ったりするわけだ。でも、本当に大事な能力は持っている。そういう人を僕の後継に引き上げるようなプラットフォームをつくりたいというのが、今の願いになる。

芹沢:では、時間も迫ってきたのでもう1つだけ質問を受けよう。

村井:ダメだね、俺は。どうしても短く喋るのが苦手で。このセッションのあとも僕は会場に残るから、どうしても聞きたい方は前に来て欲しい。

会場:2018年のW杯ロシア大会と2020年の東京オリンピックで、日本サッカーはどんな目標を置いていくのだろう。定量的または定性的に伺いたい。

村井:順位で言うと、オリンピックはメダルと獲ること。当然、優勝を狙うと思う。あと、2018年についてはいろいろ意見があるけれども、少なくとも前回はグループリーグ敗退しているから、決勝トーナメントはマスト。で、日本は今までラウンド16に2回進んでいるから、その高みを超えるということでベスト8を目指す。このあたりが現実的な勝負どころだと僕は思う。ただ、予選突破自体も本当に難易度が高いと見ている。

芹沢:本会場にはスポーツ経営を志している方もたくさんいらっしゃると思う。会場の皆様に向けて、ぜひ最後のメッセージをいただきたい。

村井:グロービスの会議と同じだと思うけれども、スポーツには日本社会が抱えているテーマを一挙に解決するポテンシャルがある。たとえばシャッター通りを抱える地方都市にJ3で隔週3000~4000人が集まるだけで、若者が街に出てくる。これは地域再生の大変重要な要素になる。あるいは、自分たちの街のクラブがAFCチャンピオンズリーグに出場したらどうだろう。街の子どもたちが地域単位で、外務省がやるようなものとは別の国際交流できる可能性だってある。

教育問題でも同じだ。学校ではなかなか教えてもらえないけれども、プロの選手が身近にいてくれたら、子供たちが「ここは絶対に頑張るんだぞ」といったことを学ぶことだってできる。それが教育改革の重要な要素になるかもしれない。お年寄りの方々にとっても同様だ。たとえば松本山雅FCは今、プロのメディカルスタッフがお年寄りにストレッチ等を教えたりする教室を開いている。そういう活動を通じてお年寄りに生きがいを感じもらい、健康寿命を伸ばすことがスポーツならできるかもしれない。

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ビジネスでも大きな可能性がある。クールジャパンと言うけれども、今は数多くの外国人が浅草や秋葉原でなくスタジアムに現れはじめている。アジア中の人が大好きなサッカーを日本で観ようという話になれば、これはスポーツツーリズムのキラーコンテンツになるかもしれない。僕が子どもの頃、アメリカに行った人は皆が「マディソンバッグ」を買っていたし、ニューヨークに着いたらまずスクエアガーデンに行ってバスケットを観ていた。バスケットが好きじゃなくても、だ。同様に、「日本に行くっていうことはJリーグだろ?」となったら、そこからさらなる国際交流にもなるし、温泉や食といった観光資源のプレゼンテーションにもなる。

また、以前はレ・コン・ビンというベトナムの選手が来たことでコンサドーレ札幌は8000万人のベトナム国民に知られることとなった。イルファン・バフディムがヴァンフォーレ甲府に来たことで、チームは2億4000万人のインドネシア国民に広く知られた。中田英寿選手がペルージャに行ったとき、日本中が「ペルージャってどんなクラブ?」となったのと同じだ。日本人はあまり気付いていないが、アジアの人々は今、Jリーグを通じて日本を見ている。その意味でもスポーツには日本を変える大きな可能性を秘めている。だから志は高く持っているし、そこに経営者の方々が伴走してくれたら間違いない。皆さんの参加を心から待っている。今は立命館にも「今後はいろいろな教育機関とタイアップするよ?」ということで了解を取っているし、グロービスの皆さんとも何かできたらいいなと思う。今日は3時間ぐらい欲しかったね(会場笑)。

芹沢:また次回やりましょう。最後は熱いメッセージをいただいた。村井さんに改めて拍手をお願いします(会場拍手)。

※開催日:2015年7月4日~5日

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