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インターネットが変える新しい決済と貨幣、その課題とは?

投稿日:2015/08/28更新日:2019/04/09

インターネットが変える決済と貨幣の未来[1]

247910ec39245dbd298b9409882600bc 高宮慎一氏

高宮慎一氏(以下、敬称略):「インターネットが変える決済と貨幣の未来」という刺激的なタイトルで、本セッションには同業界のイノベーター御三方にお集まりいただいた。加納さんは日本初のビットコイン販売所を立ち上げた方であり、鶴岡さんはすぐ気軽にEC店舗をつくることのできる「BASE(ベイス)」というサービスを立ち上げた方。鶴岡さんは今後、「PAY.JP(ペイドットジェーピー)」という新たな決済・送金サービスもスタートさせる。そして舛田さんは、世界で月間2億人以上というLINEユーザー向けに決済や送金サービスを提供する「LINE Pay」の代表を務められておられる。今日はこの御三方とともに、決済のみならず「貨幣の未来」といった話にまで踏み込んで議論したい。まずはイントロとして、今あちこちで決済が話題になっているのはなぜかというお話をそれぞれ伺っていきたい。既存の決済にどういった問題があるということで、今は新しいものが求められているのだろうか。

22c842db82d615bf4a8e069ee448caaf 舛田淳氏

舛田淳氏(以下、敬称略):全般的なお話として、そもそもインターネットがはじまって20~30年経っているにも関わらず、実は決済も貨幣もたいして変わっていないという問題がある。既存の決済・貨幣の仕組みをそのままインターネット上に持ってきた状態が今まで続いてきているわけだ。で、旧来システムはすべてにおいて摩擦係数が高い。セキュリティに関しても資金移動のコストに関しても同じことが言える。とにかくすべての仕組みや役割や法律がリアルな世界を前提につくられていて、自分の資金をどこかへ移動するだけでも、そもそも銀行が対応していなかったり、国境が跨げなかったりする。また、自分のお金を個人間でやりとりするのに、なんだか分からない費用がかかったりしている、と。

決済も同じだ。たとえば自分のお金で決済したいのに、あちこちからお金を差っ引かれ、店舗様にあまりお金が落ちなかったりする。そんな風に、すべてにおいて摩擦係数が高い。それを、国境が溶け合って人もグローバルに移動しているという背景も踏まえ、インターネットとモバイルの力で変えていこうというのが今の状況になる。(鶴岡氏と加納氏を指して)お二方もそうしたチャレンジをしているのだと思う。

69615fceaf774958e5f595e5b45f23cc 鶴岡裕太氏

鶴岡裕太氏(以下、敬称略):我々は、今は主にショッピングカートを提供しているけれども、基本的には「経済活動の拠点をインターネット上につくりたい」という目的を持っている。で、その最初のアプローチがBASEという、誰でも簡単にオンラインショップをつくることのできるサービスだった。これは、カートと決済を一緒に提供している点が他の既存カートシステムと異なっている。それで、通常なら決済の導入に2~3週間かかるけれども、BASEの場合は1秒で審査が通る、と。そこが皆さんにウケていて、今はおよそ20万店舗に使っていただいている。そういうことがベースにあるので、一見すると単なるカートシステムに見えつつ、実際には「お母さんでも使える決済システム」というのがBASEの本質だ。

我々は最終的にインターネット上で経済活動拠点となる銀行のようなものをつくりたい。中心にそれを置いて、左側がBASEだとすると右側がPAY.JPになる感じだ。PAY.JPのほうは簡単に決済を導入できるという「Stripe」のような面もありつつ、本丸としては誰でも簡単に決済ができるというカスタマー向けサービスになる。今は左手にクレジットカードを持って右手でクレジット番号を打ち込むような状況だけれども、これは恐らく5~10年もすれば皆に笑われるような風景だと思う。なので、5~10年先のカスタマーに向けてインターネット上の決済を最適化したい。誰でも簡単に、スムーズにオンライン決済を行えるようにするというのが、今は一番やりたいことになる。

高宮:リアルでの決済が前提となっているものをネットに持ってきただけだから、摩擦係数が高い状況になるというご認識だろうか。

鶴岡:そう。それこそLINEのIDさえあれば本人確認だって簡単にできる筈だけれども、なぜかプラスチックで発行されたすごくアナログなクレジットカード番号に本人の与信枠を依存している。これ、明らかにオフラインを前提にしている。

舛田:クレカって、イケてないですよね、そもそも。

鶴岡:当社に来ている20歳のインターンが僕のクレカでお弁当を買いに行ったりしている。こんな、ずぶずぶなセキュリティは本来ならあり得ない。明らかに10~20年で解決されると思うし、今はそれで頑張っている。

高宮:一方、加納さんとしては、「オフラインの大きな枠組み自体にも問題があるよね」というお考えもあるように思う。そのあたり、「そもそもビットコインとは何か」というご説明と併せて、今の枠組みの何が問題かというお話をお願いしたい。

Eb8c1c6b36aa401998e0c14f51349d82 加納裕三氏

加納裕三氏(以下、敬称略):ビットコインとは仮想通貨のことだけれども、他の電子マネーと違って発行体がない。SuicaはJR東日本さんが発行するポイントだし、ビッグカメラポイントはビッグカメラさん、マイルはJALさんが発行していて、それが通貨的に流通している。でも、ビットコインには中央集権的な発行体がなく、あくまでプログラムが発行量をコントロールしている。また、P2Pで中央サーバもない。世界でおよそ1万におよぶノード同士がコミュニケーションをすることで取引を管理する。

実際にどうすればそんな仕組みができるのかというと、すごく簡単な例として、我々はよく「電子署名付きメールの集まりです」という説明をしている。電子署名は絶対に本人であることを証明できるという前提で、たとえば加納から鶴岡さんに「100円送りました」というメールを書く。で、鶴岡さんから舛田さんに「50円送りました。よって残高は50円です」というメールを書く。これをリプライオールで書き続けたとする。そうしたメールが世界中の誰にでも閲覧可能なら、現時点で誰がいくら持っているかを把握できる。ここで大事なのは本人が書いたと証明されていて、皆に見える状態で、かつ改ざんがない点だ。それで偽造でないと保証されたらメールチェーンだけで、あたかも通貨のやりとりのようなことができる。これがビットコインの根本的な仕組みで、その特徴としては、やっぱり発行体がないのでリバタリアンのような方々にウケがいい。

高宮:既存の決済・送金に対してはどういったアンチテーゼになるのだろう。

加納:ビットコインの概念は2009年頃に書かれた「中本哲史」さんという方の論文からはじまっていて、恐らく、「中央銀行に支配されない通貨を」というところからスタートしている。中央のコントロールにも良し悪しはあるけれども、まず、コストが高い。たとえば日本なら日本銀行金融ネットワークシステム(以下、日銀ネット)、アメリカならFedwire(Federal Reserve Wire Network)を使ってトランスファーしたりしているわけで、システムコストもかかっているからなかなか安くできない。だから、たとえば日本からの海外送金手数料も1律4000円なんていうことになっている。その点、ビットコインはサーバのメンテナンスコストのようなものも大幅に下げることができる。

あと、匿名性が高いことも大きい。ビットコインはビットコインアドレスというもので取引されるけれども、それがお金の動きを監視されたくないというニーズにマッチした。当初はそれで麻薬や武器が買えたりして事件にもなったけれども。いずれにせよ、モチベーションとしては匿名で小額かつクロスボーダー。そして政府に干渉されず、自由にお金のやりとりをしたいというのがベースになっていると思う。

決済や貨幣の問題、どう解決すればよいのか?

高宮:では続いて、そういった問題に対して御三方がどんなアプローチしようとしているのか、それぞれ自社サービスも絡めて伺いたい。

舛田:私どもはLINE PayというサービスをLINEのなかに組み込んでいる。で、その機能はいろいろあるけれども、まずはサービス名の通り、オンラインで決済ができる。クレジットカードを一度登録していただければ、LINE Payの加盟店であればどこでも使えるというものだ。これが一つ。

それともう一つ。クレジットカードだけでなく銀行とも連携している。SMBCさんとみずほ銀行さんの口座をLINE Payの口座みたいなものと連結させることで、その間のお金の移動が無料で行える。また、LINE Payの口座にお金をチャージしたのち、たとえば「割り勘しましょう」ということにして1万円を送るという操作をすると、現金がそのまま送金されるという個人間送金の機能もある。さらに言うと、銀行だけではなくコンビニや「Pay-easy(ペイジー)」からのチャージも可能だ。今、日本ではそうした銀行間連携と個人間送金もやらせていただいていて、海外ではクレジットカードを連携させた決済機能を提供させていただいている。

高宮:リアルの高コストな仕組みを経由していたことで高くなっていた決済や送金を、インターネット経由で安くしたという理解でいいだろうか。

舛田:そう。お金が動かすのにコストがかかること自体、またはそれに制約がかかること自体、できるだけなくしたい。だから今連携している銀行は2行さんだけだけれども、基本的には全銀行さんとつながるべきだと思っている。そうすればLINE Payをハブにしていろいろなところに現金を移動できるし、個人間の移動だけでなく、場合によっては法人への振込みもできる。(既存の仕組みでは)当然ながら振込みにはお金がかかる。でも、そこでLINE Payが間に入ることで、BtoC、CtoC、CtoB含め、お金が動くことによるコストという摩擦係数をなくすことができたりする。

先ほどビットコインに関してアカウントのお話があったけれども、LINE Payも同じだ。LINEのアカウントがあれば、あとはLINEメッセージと同じ。メッセージを送るのと同じぐらいの操作感・操作コストで、お金を動かすことができる。ただ、今のところ、日本国内ではお金を移動できる一方、マネーロンダリングの問題があるので国境を超えるとなるといろいろと問題が出てくる。また、各国の銀行は各国の法律に従っているわけだから、「いろいろあるよね」と。なので、今はそういった問題を一つずつクリアしながら、摩擦係数の少ないお金の移動を実現しようとしているところだ。

鶴岡:当初はクレジットカード決済の導入コストが圧倒的に高いことを解決したいと考えていた。それで「決済の導入すら意識せず決済を使わせたい」と思ってつくったのがBASEだ。だから、たぶんBASEユーザーさんは、他のカートシステムでは決済導入で別途契約しなければいけないこと自体を知らない。それほど決済を簡単にできたと思う。で、そういうことをやればやるほど決済側のムダが露骨に見えてきた。とにかくクレジットカードは圧倒的にオフラインに影響されている。恐らく今の環境でクレジットカードと同じ概念を生み出そうとしても、ああいうカードの形にならないと思う。

もっと言うと、1,000円札や10,000円札のような貨幣ですら最適なインターフェースじゃないと僕は思っている。たとえば僕が舛田さんとフェイスブックでチャットをして、そこで舛田さんからありがたい言葉をいただくとする。それは価値をもらっているということだ。けれども、お金をもらうときはなぜか1000円札のようなインターフェースでないといけない。「言葉をもらうのも1000円札をもらうのも同じ概念なのにな」と思う。本当はそこまで価値の交換というものを落とし込むべきだと思うし、とにかく、あのインターフェースでやりとりをするコストがヤバい。もう、ありえない。価値の交換をするのにモノで受渡しするなんて…、ヤバくないですか?(笑)

高宮:バーチャルなデータの交換が価値の交換になればいい、と。

鶴岡:そう。今はもはや1000円札というインターフェースで価値を表す必要がないと思う。もちろん古い歴史を受け継いでいるところもあるし、仕方がない部分もあるとは思う。ただ、今このタイミングで「新しく価値を生み出そう」という話になったら、それは電子になるし、紙幣というインターフェースに落とし込まれないと思う。恐らく今後20~30年でオンライン側からはそういう概念が普及してくるのではないか。だから、今はそちら側のチャレンジを頑張っているという部分がある。本質的には何も(物理的に)動かさないようにするというのがミッションになる。

高宮:新サービスのリリース前夜という風にも聞こえたけれども。

鶴岡:具体的にはお話できないけれども、まあ、そういう世界を目指していると (笑)。決済にはアクワイアリングとイシュイングという概念がある。で、ちょっと難しい話になるけれども、人からお金をいただく部分というか、世の中の各種ウェブサービスにおける課金部分はアクワイアリングと言われている。で、クレジットカード会社の用語では「誰かからお金をもらいます」という会社をアクワイアラーと呼ぶ。一方、個人に与信枠、つまり価値を設定するイシュアーという人もいる。「この人は何円まで使っていいですよ」ということをイシュイングしているわけだ。で、GMO-PGさんのような決済代行会社はアクワイアリングをメインにしている、と。でも、僕はどちらかというと先ほど申し上げた通り価値に興味があるから、イシュイング側に興味がある。それで、今はそちら側をいろいろと調べている。

高宮:「これがすごいんです」といったキラーファンクションが何かあれば。

鶴岡:要はクレジットカードもお金も使うことなくモノを買えるのが一番のキラーファンクションになるのかなと思う。

高宮:データで価値をやりとりするという思想自体はビットコインとも近いと感じる。加納さんはその辺に関してどのように問題解決を図っていらっしゃるのだろう。

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加納:「何で送るか」ということに関して言うと、僕はなんでもいいと思っている。本人が特定できれば、送ったように“見せかけることのできる”仕組みをつくるというのが、たぶん僕らがやっていること。本当は何も動いていないけれども、ユーザー側で送ったように感じることができるなら「それでOKです」というのが基本的にはある。

ただ、我々のサービスではビットコインを売ったり買ったりできるけれども、日本ではEC(のビットコイン決済)が進んでいない。だから、お客さんに「bitFlyerさんでビットコインを買いました。で、次は何をすればいいんですか?」と聞かれたら、「じゃあ、もう売ってください」となる。日本ではビットコイン自体を買うことと売ることしかできない(会場笑)。これが辛いところだ。鶏と卵の関係で、我々もGMO-PGさんに出資を受けているし、なんとかECを貼り合わせたい。いずれにしても、今はそれに加えてリアルな店舗へのビットコイン決済導入も目指したりしている。

あと、ビットコインにはもう一つの切り口があって、投げ銭が可能という点は大変面白いと思う。たとえば数百円の貸し借りで銀行決済というのは今まであり得なかったと思う。その辺はまさにLINE Payさんもやっていくところだと思うのだけれども、たとえば10円を誰かにあげようとしても、「そのために300円の手数料をかけて銀行振り込みをするの?」という話になっていたわけだ。だから、ユニセフに100円寄付したくても振り込み手数料が500円ではなかなか進まない。

でも、ビットコインなら手数料を5円前後にできる。それで10円なり20円なりを寄付するわけだ。たとえば記事の冒頭部分だけが無料で、続きを読むためには会員登録が必要というニュースサイトは多い。そこで「会員登録は面倒で嫌だな」と思う一方で、その記事だけでも「20円なら払おうかな」といったシチュエーションはよくあると思う。それなら、そこで会員登録と少額の支払いのどちらかを選択できるメディアがあってもいい。それで20円ぶんのビットコインを払うと全文を読むことができたら、たとえばそれが若手のジャーナリスト育成につながることだってあると思う。

あと、小額という意味では国際的な決済でも有効だと思う。最低でも海外送金手数料で4000円を払って、リフティングチャージという謎のお金も払って、そして為替手数料も払うといった現在のバンキングシステムでは、たとえば海外のワーカーさんに仕事を頼むのも大変だ。インドのワーカーさんに1万円で仕事をお任せするとき、4000円の手数料は払えない。でも、それが5円になるというか、実際には業者がいろいろ抜いたりして数百円になる。それで、たとえばアニメの色塗りを海外に発注したりできる。日本のアニメーターというのは大変厳しい労働環境にいるけけれども、そこでアニメの…、枠を描くのは技術がいるかもしれないけれども、「指定された通りに色を塗るのなら外注でもいいんじゃないか?」と。そういったクロスボーダーのジョブシェアリングみたいなものが可能になるのも小額決済ならではのメリットだと思う。

高宮:bitFlyerさんとしては将来的にどんなビジョンをお持ちなのだろう。

加納:基本的にはビットコインに関わることをすべてやりたい。今は、いわゆる「ビットコイン2.0」と言われる動きもあるので。昨日、面白いニュースがあった。オーバーストックという会社が、SEC(米国証券取引委員会)に目論見書を提出した。ただ、これは証券取引所に株を上場させて資金調達をするというものでなく、なんとブロックチェーンに上場させ、そこからビットコインで資金を調達するというものだ。IPO(Initial Public Offering)をもじって「ICO(Initial Coin Offering)」と呼ばれたりしている。これが認可されたらすごく面白い。証券取引所への上場という手法だけでなく、ブロックチェーンという誰にも監視されないところに上場して資金を調達し、配当もビットコインでお配りする、と。そんな新しい世界が待っていると考えるとすごく楽しみだ。

→インターネットが変える決済と貨幣の未来[2]は8/29公開予定

※開催日:2015年4月29日

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