イノベーションを起こして終わりじゃない、事業拡大や海外展開は? 

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地域発のイノベーションが世界を変える[2]

柳川:あえて一つ問いかけをしたい。会社をつくること自体は、開発に成功していればそれほど難しくはないと思う。難しいのは、そのあと。事業を広げたり海外に出たりする段階で、いろいろと難しい問題が出てくるように思う。会場にも今後の国際展開等について悩んでいらっしゃる方は多いと思う。壇上の皆さまはその点で相当良い位置にいらっしゃるし、今後のこともいろいろ考えていると思う。その辺のご苦労や、何をどうすれば「世界を変える」方向に行けるのかといったお話を引き続き伺いたい。

出雲さんはどうだろう。ミドリムシにマルチで活躍してもらうという方法は分かった。あとは、ミドリムシをどんどん生産すれば事業は成長し、国際展開できるもできるものなのだろうか。それほど安易でもないと思うが、どういった課題があるだろう。

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出雲:「会社を大きくする」「世界へ進出する」「世界一になる」というのはあくまでも結果だ。そもそも世界進出をしようと思ってミドリムシをやっているわけじゃない。事業は面白いし、ミドリムシは社会の役に立つ。少なくとも人の健康に役立つし、地球環境にやさしいことは間違いない。だから、それを一つひとつ形にしたいとは思う。

ただ、今は日本で認められていない状態だから、世界進出や海外展開というのは先の話だ。今は本当に必死の状態。まだ半分以上の人がミドリムシのことをイモムシのような虫だと思っているから、まずは正しく知ってもらいたい。従って、今考えているのは、「この新しい技術を社会にどう組み込んで浸透させていくか」だけ。すでに京都一、関西一、そして日本一の会社が世界展開していくというお話は昨日たくさん聞くことができた。ただ、我々ベンチャーが、少なくとも当社が現在、世界一になるために何かしていることはまったくない。

柳川:むしろ規模の拡大ばかりに集中してしまうと失敗するのではないかという気がする。今出雲さんは謙虚におっしゃっていたが、その辺はかなり大事なポイントになると思う。そのあたり、製造のほうは少し考え方が違うのだろうか。

小間:我々もまだスタートアップで、売上はまったく出ていない。超赤字企業だ。だから「今は売上を求めていません」なんて言うと多くの人々に怒られてしまうけれども、やっぱりものづくりにはお金がかかる。従って、そのお金をまずは請負という形でつくっていこうと思っている。自分たちが今までの5年間で培ってきた技術を、買ってくれるところに提供していくというのが最初のステップになる。

そして、完成車を自分たちの商品として売っていくのが次のステップだ。そうした一連の動きをさらに加速しようとしたとき、ベンチャーキャピタル(以下、VC)さんや個人投資家さん等々、我々に資金を提供してくださる方がいるわけだ。で、その方々が何をお考えになっているかによって、我々の方向性も決まってくるのかなと思う。

エンジニアは、「車なんて10年やそこらでできるものじゃない。時間をかけてつくるものだ」と言う。でも…、他セッションでそういうお話があったけれども、そこで社外取締役の方に私が思うところを言っていただくわけだ。「いや、スピードは大事だし、あなた方がスケールをしないと投資したお金を回収できないじゃないか」と。そういうときに鞭で叩いてくれる、某G社さんのような投資家さんもいる(会場笑)。

そこでバランスを取りながら我々は成長できていると思う。で、拡大するのは決して悪いことではないけれど、ある程度成長したとき、「本当に世の中に役立つようなイノベーションを起こすことができているのか」という問いが出てくる。では、我々にとってイノベーションとは何か。今後、自動車産業には家電産業と同じように各種新興メーカーが参入してくると私は見ている。トヨタやGMやホンダだけじゃなくなってくる。そこで新規参入しようとする企業に、我々のシャーシを、まずは自動車産業への入場券として提供できるのではないかと思っている。

そうして自動車産業に新しいプレイヤーを増やすことが、我々が考えるインベーションの一つだ。それが達成できたらどうなるか。今は大量生産の弊害というわけでもないけれど、車が同質化している。小さくて丸くて快適だけれども、やっぱり少し尖がったクルマにも出てきて欲しい。そうして、「ああ、やっぱりこのクルマを買うために俺ももう少し成長しようかな」と。そんな風に思えるようなクルマがどんどん出てくると、シェアではなく所有する喜びが再び生まれる。そういうモチベーションにつながるような自動車産業あるいは自動車文化をつくっていきたい。とにかく、そんな風にして面白いことを達成するというのが我々の目標であって、問題はスケールじゃないと思う。ある程度はスケールも必要だとも思うけれども。

柳川:スケールでなく面白さを追求するというのは大事なポイントだと思う。一方で、今おっしゃった通り、面白さを実現しようとすると資金が必要になる。で、これもベンチャー系の人たちにとっては大きな鍵だと思うが、「上場って本当に必要なの?」という議論がある。これに関しては日本経済が一つの転換点に迎えているように感じるし、上場コストの大きさがいろいろな面で問題になっていると感じる。その辺で出雲さんはいろいろとご経験がおありだと思うが、どうお考えだろう。

出雲:ありがとうございます。その辺については言いたいことがたくさんあるけれども、一つに絞ってお話ししたい。我々が上場した年はおよそ39社が上場して、今年は80社ぐらいか。いずれ100社を超えるだろうし、新規公開企業が増えれば日本経済は活性化すると言われたりしている。しかし、それはもう前提が間違っている。

私どもが上場したのはマザーズという新興市場。で、G1関西で登壇している企業の皆さまは東証一部または二部。そうした本則市場には超優良企業が数多く上場していて、我々のようなベンチャー企業は新興市場に上場している、ということになっている。でも、実際には何も違わない。我々が新興市場でやらなければいけないことはソニーやパナソニックやトヨタ自動車が株主に対してやらなければいけないことと同じだ。だから日本の新興市場はベンチャー育成に少しも役立っていない(会場笑)。

もう、本当に大変だ。どれほど大変か、一つだけご説明したい。当社はまだ設立9年で会社の仲間は76人しかいない。でも、株主の方は7万人以上いらっしゃる(会場笑)。そんな会社、めったにない。7万人の方に1回郵便物を送るだけで印刷代含めたら何千万もかかる。我々はそのために上場したわけじゃない。でも、「他の企業は皆そうしてる。皆、今までそうしてきたんだ」と言われる。「なんだ、それなら上場しなきゃよかった」と言ったって、今さらMBOはできないし(会場笑)。もう本当に大変で、上場のコストの面で言えば、今は少なくとも新興市場やベンチャー企業を育成できるルールになっていない。そこを変えずに「ベンチャー企業を育成すれば日本経済が活性化します」と言うのは、だいぶおかしな話だなと個人的には思っている。

あ、批判だけじゃなくて提案もしなきゃいけないけれども(笑)、これを変えるのは簡単だ。新しくベンチャーを興す方は新興市場を目指しているわけですよね。新興市場で練習をするとき、たとえば開示の方法やルールというのは…、今はITの力があるわけだからすべて郵送で送らなくても電子投票で株主総会に来てもらえたらいい。いろいろと代替手段はある。だから、その点でベンチャーと本則の市場という風に内容を変えて、もう少しモデレートにすることは十二分に可能だと思う。

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柳川:あと一つ、上場しなくてもある程度の資金調達ができる仕組みをつくる必要もあると思うが、そこは日本でもずいぶん発達してきた気がする。今回はファイナンスのセッションではないけれども、やりたいことをやるためにもそういう仕組みを整えることは大事だと思う。一方では、澤田さんのところは、上場市場とはまた正反対の大学という領域でやられている。なぜ大学でやられているのかといった点も含めて、大学でイノベーションを起こすために必要なことを伺いたい。

澤田:大学で始めようというのは、これはもう総長の発想だった。戦後の食糧不足を解決するために、「水を耕しなさい。今後はそれが主流になる」と。従って、偶然始まった…、と言ったら総長に怒られてしまうけれども、そういうことだと思う。ただ、近大がそれを始めた頃は投資という概念もそれほどなかった。今のように広く集めるという概念がなかったから、自分たちで稼いで回していくほかなかった。もちろん初期の投資は大学から少しいただいたけれども、非常に苦労したという話は聞いている。

柳川:スピンアウトさせて株式会社になる大学発ベンチャーも多い。それをせず、大学で続けていく理由というのは何かあるのだろうか。

澤田:冒頭でご説明した、「重なっている部分」が大事だからだ。教育、研究、販売、そして生産を皆が共有していないとこの事業はできないと思う。それを分断してしまうと、たとえば販売の要求が生産や研究開発に通用しないし、産業にしていくような人材も教育できなくなる。だから必然的に現在のような形となっている。

柳川:養殖で求められるイノベーションとは、たとえば餌のやり方を工夫するといったものなのだろうか。もう少し本質的なジャンプが必要なのだろうか。

澤田:餌のやり方を工夫するというのは技術の話になると思う。で、それをきちんとできる人がいるかどうかがノウハウやスキルの部分。ただ、そもそも魚を卵から飼うという発想が当時は世の中のどこにもなかった。そこでジャンプが必要だった。

柳川:今も何か必要なジャンプがある、と。

澤田:はい。大学はスケールメリットを追求して大きく投資を募ることができない。スピンアウトすればできるけれども、私たちは大学のなかでやることが強みになるので、それができない。となると、再び大きなイノベーションを起こさないと続かない。それが非常に大きな問題だ。40~50年先を見通せるようなイノベーションを起こせるかというと、なかなか難しい。ただ、徹底的に突き詰めて何が必要かを考え、必要であれば絶対に何があってもやるということであれば、できないことはないと私は思う。

柳川:G1関西では、「関西ならでは」といった話が昨日から続いているが、壇上の御三方は根っこにある地域性のようものについてどうお考えだろう。それがこの先どれほど役に立つとお考えだろうか。まずは、もう関西に来ないかもしれない出雲さん(会場笑)。関西というか地域発という部分で何かポイントはあるだろうか。

出雲:イノベーションと地域は、私は関連ないと思っている。だから、2箇所でやるというのはそれだけで無駄なんだ。証券取引所だって東京と大阪に2箇所あっても仕方がないということでJPXになった。だから、たとえば研究所も東京に集中してくれたほうが私としてはラクだ。私としては、一箇所に研究や生産あるいは営業といったファンクションを集中させることが重要だと思っている。

そのうえで、ファンクションが違うものを無理矢理一つに統合したとき、いろいろなイノベーションが起こるのだと思う。たとえば我々は東京で研究をして、石垣島でミドリムシをつくっている。東京と石垣島では日当たりがまったく違うから、生産に関しては当然ながら石垣島で行ったほうがいい。ただ、研究ということになると石垣島には学生も少ないし研究所もないわけだ。

また、たとえばミドリムシというのは動物と植物両方の性質を持っている。でも、動物の研究をしている人と植物の研究をしている人が接していろいろとアイディアを出し合ったりすることが、普段はない。しかし、その両者を採用していろいろ議論をしていくと、ミドリムシについて何か新しいことをしようというものが出てくる。ご年配の、40年間研究している大学の先生と、最近始めたばかりの若い学生が2時間真剣に議論するということがあまりないのだけれども。だから、とにかくファンクションを切り分けると同一性がどんどん強くなってイノベーションが起きにくくなる。だから、あえて遠くにあるものを持ってくることがすごく重要だと思う。ただ、特定のファンクションについては、分散させると移動時間やコミュニケーションコストが上がるので、一箇所に集中させる。それが物流でも研究でも大事じゃないかと私は思っている。

柳川:生産を石垣島でやっていらっしゃる理由というのは?

出雲:とにかく日当たり。1m2あたりの日当たり量は、東京や京都なら1日で15メガジュール前後だと思うけれども、石垣島では同25メガジュール。光の強さが1.5倍ぐらいだから光合成も1.5倍ほど行える。だから石垣島でやっている。

柳川:小間さんのところはどうだろう。

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小間:地域のメリットというのは、京都には結構あるんじゃないかなと思っている。他セッションで皆さまがおっしゃっていた通り、祇園があったり(笑)。また、学生や経営者に会えたりして地の利を生かせると思う。東京で得られる情報とは別の情報量がある。特に我々は製造業ということもあるので、土地のコストも重要だ。滋賀まで来ると結構安いし、何か大きなスペースでものを動かそうと思うと、ローコストで回せるのは非常に大きなメリットになる。これがほかのエリアだったらどうだったのかと考えてもなかなか想像がつかない。なので、結局はご縁で京都の地からビジネスをスタートして、そういう場で人が集まってきて、阿吽の呼吸で分かる会社さんができて、モノができてきて、それが売れていったらハッピーだと思う。

たとえば地域でインキュベーション施設を建てたりするのはどういう意味合いがあるのかというのを私も考えてみた。結局、その地域にベンチャーが根付いて最終的にはお金を落としてくれたらいいわけだ。だから、マッチング機能のようなものがあればいいのだけれど、「具体的に成功するベンチャーが何社あるのか」という点だけで評価していけば、何をするかがどんどん決まってくると思う。だから、そういう指標やKPIをつくって地方発ベンチャーの成功事例をビシバシ起こしていく。それでVC以外からも尻を叩かれるような強いベンチャーが育つのではないかなと思う。

柳川:澤田さんのところはどうだろう。

澤田:養殖では地域のメリットが非常に大きい。東京湾や大阪湾でマグロは飼えない。それで私たちは和歌山県を本拠にしている。まあ、他セッションでも関西広域連合の話でも一言も出てこないような(会場笑)、そういう県だ。私は和歌山出身なんで拗ねているけれども(笑)。ただ、一つ大きな点は、あまり中央に近いと自由な発想や方法でやらせてくれない。雑音が大きくなる。私たちも大学の本部は大阪にあるけれど、もしこれを大阪でやっていたらできなかったと思う。少し離れた場所で、「何をやっているか分からんけれども、まあ、なんとかやっているからいいか」みたいな、そういう「ゆるさ」がなければイノベーションは起きなかったと思う。いずれにせよ、産業の性質として飼える場所は決まっているので地域はきちんと選ばないと事業は失敗する。

柳川:地域のメリットというのはいろいろあるということだと思う。文化的な特性もあれば、「ここの海でなければいけない」「これだけ日光が当たっていないといけない」といった要素も含めて、それぞれの地域の特性に応じたイノベーションのあり方、あるいは企業の立地というのがあるのだと思う。「中央から遠い」というのも結構大事なポイントだなと思う。中央に近い大学で教えている私からすると(笑)、いろいろと良い面もマイナス面もあるのかなと思う。

※開催日:2014年10月18日~19日

→地域発のイノベーションが世界を変える[3]は6/20公開予定

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