くまモンは観光のためではなく県民のために作ったから成功した 

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日本を演出する ~おもてなしで“和”をデザインする~[3]

為末:では、ここで一旦フロアに開いてみたい。

会場:くまモンの話を伺ってみたい。

小山:この話は2009年頃、「観光で何かしていただけませんか」ということで、熊本県庁の方が僕のところへいらしたところからスタートしている。なぜ僕のところにいらしたのかというと、ちょうど「おくりびと」がアカデミー賞を受賞したから。それまでも何度か、いろいろな方が僕のところへ行けばいいと県庁の方に言っていたらしいけれど、「いや、よく知らないからダメ」となっていたそうだ。で、アカデミー賞を獲った途端に「小山さんしかいないと思ってました」と(会場笑)。

まあ、世の中ってそういうものじゃないですか。それは仕方がない。ただ、僕がそこで最初に思ったことがある。僕は、観光そのものがあまり好きじゃなかった。「観光というのは無理矢理する必要はないんじゃないかな」と。観光に向いているところもあれば向いていないところもあるので。で、熊本県の場合、天草や阿蘇は僕もたしかにいいと思う。でも、それ以外の地域は、そういう予算をもっと別の「生きた企画」に使ったほうがいいんじゃないかなと思っていた。たとえば観光予算1000万で「街に来て」というようなパンフレットつくるよりは…、どうせ県もパンフレットはつくるから、皆で焼肉大会をやれば地元の人がすごく喜ぶ。で、地元の人たちが食べていれば皆も面白がって来るかもしれない。そういった使い方をしたほうがいいと思っていた。

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だから、「観光キャンペーンの予算を自由に使える」となったときも、そこに暮らしている人たちが幸せな気持ちになるためのお金になればいいな、と。では、どうすれば幸せな気持ちになるのか。今の暮らしの「足るを知る」。今の暮らしのなかで、大きな価値があるのに見えなくなってしまっているものがある。熊本の場合、たとえば阿蘇に降った水が20年かけて美味しい湧き水となるのに、それが当たり前のようになってしまっている。僕も高校生までは熊本にいたけれど、久しぶりに帰ると、「こんなにお水が美味しかったかな」と思う。そんな風に、「観光客の目で自分の街を見回したとき、サプライズが実はいっぱいあるんじゃないか」と思った。それを県民全員で見つけましょうということで、「くまもとサプライズ!」という県民運動の企画を考えた。それで、水野学さんにデザインをお願いしたという流れになる。

すると水野さんは…、そこが冒頭で言った「想像を超えている」という話だけれども、僕はロゴマークをお願いしたのに、びっくりしているキャラクターもつくってきた。「ロゴマークはこれで、これはおまけです」って。それがくまモンで、それを県庁に持って行った。そこで、すごく良かったことがある。その仕事は、まあ、彼にしてはすごく安いギャラでお願いしていた。でも、県庁の人はデザインにお金を払うという感覚自体がないから、すごく高いと思っていたわけだ。で、そこに「このロゴマークです」と言って出したのは、感嘆符のようなマークで、「これは、俺も描けるよな」というようなものだった。でも、デザインってそういうものだ。あとで見せられると自分にも描けると思うけれど、「じゃあ、描いてみてください」と言われるとできない、みたいな。

そこで、「おまけのキャラクターがいるんです」と言ってくまモンを見せたら、県庁の人も、「あ、これはお得ですね。いいですね」となった(会場笑)。それで県庁のブランド課というところが、それを使おうことになった。そこは、そもそもくまモンを提出した部署ではなかったのだけれども、要するに横串が通った。普通、役所は自分の課が考えたものをほかの課にあげたくないし、ほかの課が考えたものに乗っかりたくない。でも、当時はたまたま僕がアカデミー賞を獲った直後だったから、県庁の誰でも僕の言うことを聞いてくれた(会場笑)。僕の言うことに騙されるというか、「あの人が正しいんだ」という錯覚を勝手にしてくれた。だから、「これ、使ったほうがいいですよ」と言ったら、皆が「そうですよね」となって、いろいろな部署が使い始めた。ただ、そこで県議会から「ちょっと待て。熊本に熊はいない」と言われて(会場笑)。

為末:つまらん人がいますね(笑)。

小山:いるんです。「今まで熊本県に熊はいないというのを一生懸命発信してきて、ようやくそれが世の中に浸透してきたのに、なぜ今さら熊本で熊なんていうベタな話になるんだ」と。でも、県知事の蒲島郁夫さんは迷ったらGOという方だ。「皿洗いをせずに皿を割るよりも、皿洗いをたくさんやって、そのぶんだけ皿を割るほうがいい。とにかく失敗してもいいからやろう」という号令を掛けた。それで皆でくまモンを使い始めていったのが良かった。あと、やっぱり観光のためにつくったというより、県民の方々のためにつくったキャラクターというのもある。県が宣伝するためだけに、内側を向かず外側ばかりに向いてしまうようなことにならなかったのも良かったと思う。

為末:外から視点で見つめ直すというのは、日本がこれからやるべきことの一つかもしれない。

小山:そう。結局、ブランディングというのは感情移入だ。どれだけそこに感情移入してもらえるか。それで今、くまモンは「しあわせ部長」というのをやっている。営業部長として十分頑張ったので、あるとき、蒲島知事に「そろそろくまモンを昇進させてもらえませんか?」とお願いをした。すると、「次の役職は副知事になるんですよね」と(会場笑)。さすがにくまモンが副知事はダメだということで、県庁に「しあわせ部」というのを新しくつくっていただいた。これは、どうすれば県民の幸福度が高まるかを考える部署だ。で、くまモンをその部長にして、県内の民間企業にも「しあわせ部」をつくってもらう。そこで、各々CSRのような活動を行う。くまモンというキャラクターが生まれたことによって、民間企業の皆さんもそういう形でまとめやすくなった。普通なら、県が「『しあわせ部』をつくってください」なんて言っても、皆、言うことを聞かない。でも、「くまモンが部長です。皆さんの会社にも行きます」と言うと、喜んでつくってくれる。そんな風にして内側で皆を束ねる紐として、すごく価値ある存在になっている。

為末:オリンピック・パラリンピック開会式の演出を考えるとしたら、どうなるだろう。

小山:もし「好きにやっていいよ」と言われたら、開会式を日本以外の国から始めたい。僕はフランスの絵本を翻訳して、「まってる。」(千倉書房)という本を出したことがある。これは人の一生を綴った絵本だ。小さいときはクリスマスや母親の帰りを、あるいはケーキが焼けるのを待っている。そして、大きくなってからは恋人が来るのを待っていたり、戦争が終わるのを待っていたりする。「待っている」っていう言葉で人生を表現していくわけだ。で、主人公の男の子は大人になって結婚をして、子どもができて、やがて子どもたちは自分の元を巣立つ。そして奥さんが病気になって、今度は奥さんが亡くなる瞬間を待っている。もちろん待ち望んでいるのではなく、その瞬間が来ることを受け入れなきゃいけないということで待っている。そして、そのあとはまた、孫が生まれるのを待っているとか、そういう絵本だ。

それと同じように、僕らはオリンピックの開会式を待っている。でも、その一方でオリンピックが開会される時間に、世界のあちこちで他の何かを待っている人たちがたくさんいる。雨が降るのを待っている人が、流れ星を待っている人が、あるいは戦争が終わるのを待っている人がいる。そういう、そのとき地球上にあるすべての「待ってる」を提示しながら、「それ」がだんだん東京に近づいてくる。それで、日本の人たちは東京オリンピックの開会を待っている、という感じにしたい。

そしてドローンを低空で、海のほうから会場まで飛ばし、そのあいだに世界中の人たちが集まってくる。とにかく日本のものだけにしない。「日本を見て、見て」というのは、むしろ日本らしくないんじゃないか。それよりも、「我々は器だけれども、その器で世界の文化を和(あ)えました」という形にしたい。最後に映し出される競技場のほうでは当然日本の色を出すわけだけれども、それまでは、なにかこう、今地球の抱えている問題などを見せていく。そういう演出がいいなと勝手に思っていた。

為末:素晴らしい。パラリンピックはどうだろう。パラリンピックをやりたいし、やるべきなんだけれども、どういう風に扱ったらいいのかというと、難しい感じがする。パラリンピック関連で僕が最近感銘を受けたことが二つある。一つは、「ギネス」のCMだったと思うけれど、そのCMでは車椅子バスケのゲームで皆ががんがん激しくぶつかり合っているシーンから始まる。で、ゲームが終わって皆でビールを飲みに行こうという流れになるのだけれども、試合終了時に10中9人が立ち上がる。で、車椅子は一人だけだったというオチだった。それが一つ。

で、もう一つはマークス・レームというドイツ人のことだ。彼は去年、ドイツ選手権で優勝した。走り幅跳びで8m24cmを跳ぶのだけれども、彼はパラリンピアンだ。ロンドン・パラリンピックの金メダリストだけれども、8m24cmという記録はロンドンオリンピックの銀に当たる。で、今のところ世界ランキング1位になる。つまり、パラリンピアンのほうがオリンピアンより速く走れたり高く跳べたりする日が…、20年ぐらい先だと思っていたけれども、実は数年後に迫っているのではないか、と。これは、障害を持つことに対する見方を変える大きな機会になると思っている。なんというか、すごくざっくりした振り方になるけれども(笑)、僕としては日本らしくパラリンピックとオリンピックを和(あ)えたらいいなと思っている。その辺はどうお考えだろう。

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小山:考えたこともなかったけれども、たしかに、そういうことができたら素晴らしいと思う。答えになっているかどうか分からないけれど、僕がやりたいことをもう一つ紹介したい。僕は今、たまたまIOCスポンサーのパナソニックさんと仕事をしている。で、パナソニックさんに聞いたところ、今はホログラムというか、空中に映像を映し出すことができるそうだ。昔は煙を炊いて、その煙にプロジェクターで映し出したりしていたけれど、今は何もない空中に映せるらしい。それでやりたいことがある。たとえば幅跳びの世界記録は何mもあったりする。それなら、たとえば、その記録と同じ幅の川がある街は、「うちの川はこれだから」と手を挙げてもらう。で、そこへ行くと、世界記録やオリンピックレコードで跳んでいるところを、空中に映し出された映像で観ることができる。そういう場所を日本中で観光名所にしたら面白いと思う。そうして、パラリンピックで商店街を走っていたりもするわけだ。生活のなかでそういったものを観ることができたら面白いと思う。

為末:以前、「渋谷のスクランブル交差点は三段跳び世界記録の幅」とか「電話ボックスは走り高跳び世界記録の高さ」とか、そういった表現がされていたときがある。そういうイメージを実際に見せるという。

小山:そう。それを最先端のテクノロジーで、本当に人が空中を跳んでいるように見せる。で、それを各地の観光名所にしていくというのが面白いと思う。

為末:なるほど。もう一つ調子に乗って聞いてみたい(笑)。もし、「新しいスポーツつくっていい」と言われたらどうだろう(会場笑)。

小山:昔そういうのを企画したことがある。僕の企画だと「料理の鉄人」という番組が有名だけれども、それ以外で、まったくメジャーにならなかったものに「ジャイアント将棋」というのがある(会場笑)。これは、将棋盤のようなものがあって、そして、それぞれ「レスリング」といった競技名が書いてある駒が選手になる。その駒を動かして、王様同士が戦うというゲームだ。それをやりたい(会場笑)。漠然として分かりづらいけれども、天童市でやっている有名な「人間将棋」の競技場版みたいなものだ。それこそ安倍総理とどこかの国家元首が対決したり。で、横には参謀がたくさんいて、当然、羽生名人のような将棋的頭脳を持った方もいる。相手方にもチェスの強い参謀がいたりするわけだ。そこで、「為末さんの駒をここに置くと良さそうだけれども、水泳に持ってくとちょっと違うよな」とか言って悩んだりするという。

為末:その人のスペシャリティと、置かれた場所でやらないといけない競技が違っていたりするという。

小山:それも、進んでいくことでまた変わっていったりする。そういう、知能と体力を一緒にしたようなものがやりたかった。それ、…ダメですよね(会場笑)。

為末:いやいや(笑)。最近は「eスポーツ」と言われているけれども、テレビゲームが一応オリンピック入りしようとしている。レスリングが一度外れて再びオリンピック種目になろうとしたとき、10種目ぐらいが順番待ちしていたけれども、そこにもうeスポーツが入ってきていた。

小山:へえ。

為末:それで、VRヘッドセットみたいなものを付けてゲームをする。すると、理屈上は世界同時リーグができる。で、オンライン上で戦うけれどもプレイヤーは真っ白な正方形のなかに入って、その状態で体を動かしながら戦ったりすれば、一応はスポーツっぽくなる。もしかしたら2040年頃のオリンピックではそれが入るかもしれない。今はまだデジタルテクノロジーが入ったスポーツはオリンピック種目になっていないけれども、そういうものが入ってきても面白いのかなという気がする。

小山:たしかに。今まで考えたこともなかった。

会場:おもてなしというものにはお金の香りがしないけれども、日本にはホスピタリティがないとも思う。海外では、たとえばアメリカオリンピック委員会(USOC)のハウスなんかに行くと、お金を払っている人たちにはすごいサービスをしてくれる。スポンサーはなんでもOKだ。ただ、スポンサーじゃないとダメ。一方で、日本のJOCハウスに行けば、たぶん怪我した人は入れてくれる。でも、スポンサーが行ってもお酒すら出してくれない。しかし、そういうホスピタリティがないと、日本のおもてなしの良さというのもなかなか出せないような気がする。

為末:一般的なおもてなしはあっても、すごくハイクラスの人向けのホスピタリティがないというか、お金を払ってもさほどサービスを享受することができないという感じだろうか。話がずれるかもしれないけれど、選手がスポンサーに対して感謝の言葉を述べずに会見が始まるのは日本だけだと言われている。良くないのは、どこからお金が出ているかということが協会等から説明されない点だ。僕が現役のときもそうだった。多くの選手は、「どこかから出てきているんだろうな」という程度にしか思っていない。でも、本当は企業や国が払っていたりする。そういう感覚がないというのもあって、これは日本スポーツ界の良くないところかなという気がする。

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小山:その辺に関しては、お金に関する教育を日本でもっと進めたほうがいいなと思う。僕がいつも思うのだけれども、「お金はその人に対する拍手である」と。チップってそういうものだ。でも、日本だとお金を持っていることが悪いことのように言われてしまうことがある。あるいは、「お金を使う人はダメな人」みたいな風潮もある。そういう文化が変わるよう、小学校からでもお金にまつわる授業をきっちりやるべきじゃないかと思う。財務省がお金に関するキャンペーンなんかをやったらいいのに、と思う。

為末:そろそろ時間が迫ってきたので僕のほうでまとめたい。今日は話があちこちに跳んでしまってすみません。ただ、日本らしさというものについてすごく考えさせられた。僕は「苺と大福を混ぜちゃえ」とか「あんこをパンに入れちゃえ」みたいな考え方が好きなのだけれども、そういう感じで「和」を演出していくのが日本にとってはいいんじゃないかと感じた。あと、今日ご披露いただいたようなアイディアを、小山さんはどんな風に考えついていらっしゃるのかということにも興味があった。皆さんも興味があれば、今日は会場にいらっしゃるとのことなので、またお話を聞いてみて欲しい。それでは、これで終わりにしたいと思う。どうもありがとうございました(会場拍手)。

※開催日:2015年3月20日~22日

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