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再生医療の推進、対外アピール…医療特区としてすべきこと

投稿日:2015/05/17更新日:2021/11/30

国家戦略特区“医療イノベーション”が拓く未来[3]

※前回はこちら

澤:続いて特区のお話も伺っていこう。まずは浅野さんに、国家戦略特区の現状をご紹介いただきたいと思う。

浅野:ご存知の方は多いと思うが、国家戦略特区というものがアベノミクスにおける日本再興戦略のなかに入っている。そこで規制を改革して、日本だけでなく海外からもプレイヤーを呼び込んで経済を再興していきましょうというものだ。それで、今は各地域が規制改革の項目を出している。「この規制を撤廃してくれ」ということを国に提案して、結果としては「こういう規制はないから皆さん来てください」という形を目指しているわけだ。それで関西地区も医療の規制改革を二つ要求して、獲得した。

一つは保険外併用療養で、もう一つが臨床研究における病床規制の緩和だ。これは、先ほど澤先生がおっしゃった、いわゆるトランスレーショナルリサーチで必要になっていく。デスバレーを超えて次の過程にきちんと送り、最終的にはプレイヤーに握ってもらって患者さんへ届けるというその枠組みのなかで、必ず有用になる。たとえば今は臨床研究を進めるうえでも病床の数が決まっていて、むやみやたらと増やせない。研究を進めるためには患者さんが寝てくれるベッドを用意しないといけない。そうした規制の緩和が関西でOKになった。その意味で、大阪大学を含めた関西地域は、そうした制度的な方法論は獲得している。

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それともう一つ。先ほど再生医療の話が出たけれども、これはすごく高額なものになる。また、プレイヤーが付かないものについては「先進医療B」という「評価療養」のステップになる。たぶん日本以外では世界のどこにもないと思うが、先生が独自に治験をするというものだ。普通は企業が治験をして承認申請をすると、医薬品や再生医療製品や医療機器を世の中に出すことができて、それが保険収載になる。でも、企業が付かずに先生が自分の使命として「これをやりたいんだ」と思って治験を行うと、それは「評価療養」。患者さんが自己負担もしながら、その治療を受けられるという制度になる。これは確実に患者さんへ届く。それが特区で認められることになった。(37:22)

企業側がついてこなくても先生方にやる気があれば、今は競争的資金を取る方法しかないけれども、国からお金をもらって先進医療を患者さんに届けることができるわけだ。これ、国としてはいつまでもそのままにして欲しくない。どこかで企業と組んで製品にして欲しいという思いがある。だから企業側のファンドも付かないとなると保険収載になるかどうかも分からないけれど、少なくとも患者さんに届けることは継続できる。先生方の思いと、藁をも掴みたい患者さんの意思がそこで成り立つわけだ。(38:11)

そのようにして、再生医療をはじめとした先端医療が患者さんに届く枠組みを、特に関西圏の医療特区で実現したい。今回の枠組みは大きな可能性を秘めていると、私は期待している。特に臨床が強い大阪大学としては京都や神戸とともに、患者さんに先進医療を届けたいし、未来医療センターでもそれを牽引していきたい。(38:58)

澤:国が考える国家戦略特区の全貌をお話しいただいたが、簡単に言うと、大阪的には「お金を使わずに儲かる方法を考えろ」といった感じだろうか。

浅野:それでうまく回るようになれば、国はあまり望んではいないけれども海外のプレイヤーさんが来てくれる可能性もある。だから、それを呼び込むというのもある。「ここはすんなり規制も通るよね。こんな方法論でできるね」と、地域から海外に発信していく。日本の、特に製薬企業があまり動かないのなら海外のビッグプレイヤーに来てもらったらいい。そこが投資をしてくれたらそれで済むので。海外の大学はそんな風にしてどんどん自分でお金をプールしながら臨床研究を行う。将来的には日本のアカデミアもそういう形を標榜するべきだと思う。いつまでも国やベンチャーキャピタルのお金を待っていてもダメだ。どんな風にして、自活的に新しいことをしていくか、大学としても考えなければいけないと思う。

澤:そう思う。アメリカにはプライベートの大学が多く、先ほどのスタンフォードバイオデザインも、日本には年間4500万を払うよう言ってきている。それを東大と阪大と東北大学でどうやって分けようかという話をしているのだけれども、彼らは同じことをインドや中国やシンガポールやアイルランドといった国々でやっている。それらがすべてスタンフォードに入ってくるわけで、とにかく教育でもグローバルにお金を稼ぐ仕組みがある。「賢いなあ」と思う。しかも、バイオデザインは現在、アメリカではMBA以上の人気だ。エグゼクティブな人々が次々受けていて、大学を出るよりもそれを目指すという人が多い。そんな風にして儲ける仕組みを教育でもやるところがしたたかだと思う。そういう面も含めて、原さんは医療でどのように打って出て行くべきだとお考えだろう。「こうすれば国も動く」といった秘策的なお話があればぜひ伺いたい。

原:成長戦略としては、科学技術のシーズを活用し、時間をかけて新しい産業をつくることが非常に重要だ。お金を回してお金をつくるようなものは決して基幹産業にならないと思う。その科学技術として、新素材や情報・通信に加えて再生医療がある。これは基層的な領域に山中伸弥先生がいらして、それを心臓外科の臨床に応用されているのが澤先生だ。また、網膜では高橋政代先生が初めて手術を成功されたし、慶應大学の岡野栄之先生は脊椎の治療に関して同様の研究をなさっている。東大医科学研究所の中内啓光先生も血液や臓器をつくろうとなさっている。これほど基礎研究と臨床応用の双方で日本人が強い分野は少ない。その意味でも、やはり再生医療を生かす形の特区にしていくのが最も賢明だと思う。

で、再生医療に関して言えば、危険性は低いけれども効果の証明は難しいということがある。そこで考えていくべき規制緩和がある。たとえば、FDA(アメリカ食品医薬品局)は新薬の認可にあたって、フェーズIからフェーズIIIまで3段階を設けている。フェーズIは動物と人間で安全性が確認できることで、フェーズIIは動物と人間で有効性が確認できること。で、それをクリアしたらフェーズIIIに入る。大勢の患者を対象として、副作用を含む安全性や有効性を検査していくわけだ。

そこで、欧米の真似をするのでなく、米国あるいは世界の悩みが解決できるようなものを日本の特区で打ち出せたら、大変面白い流れになる。たとえば皆さんがALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかったとして、運が良くて余命7年になったとする。そのとき、仮に動物と人間で安全性が証明されて、かつ動物では有効性が証明されているけれども人間ではまだ分っていない薬があった場合、それ、使いたいでしょ? 今はそれが使えない。新薬開発プロセスの各種レギュレーションに引っかかる。

特区でその規制を緩和していく。また、再生医療の分野ではALSやアルツハイマーといった病気を治すための研究は数多くなされているので、日本にそのセンターもつくっていく。そうすると、ALS、筋ジストロフィー、マチルプルスクローシス、ハンチントン病、あるいはパーキンソン病に苦しむ世界中の人々が、日本の関西にやって来る。大阪大学や京都大学や神戸にやって来る。

また、フェーズIIまでクリアしたけれどもフェーズIIIがクリアできない企業だってあるわけだ。フェーズIIIは治験で大変なお金がかかる。ファイザーやメルクのような大企業でさえ1000億単位でかかる臨床のフェーズIIIに、お金を出せないときがある。だからフェーズIIIで止まってしまう会社も多い。その時点でベンチャーなら資金も途絶えて潰れてしまう。でも、フェーズIIまで来ているなら、必ずしも安全とは言えないが、有効ではある。それを関西に持ってきてもらう。これは病院の質による。副作用等が起きないよう、その薬だけに特化して提供し、何かあった場合には初期段階で対応できる医者や看護師が十分に揃っている病院で行えば、十分対応できる。

そういう病院を関西に整備すれば、フェーズIIまでクリアしているアメリカのベンチャーは、本社を大阪あるいは関西圏に引っ越す。東京で議論していると…、内閣にもそうした話がずいぶん持ち込まれるけれども、「外国の投資を呼び込むために外国人のための住宅をつくろう」とか「外国企業を減税しよう」とか、そういうことを言う人がたくさんいる。私は逆だ。「日本に来れば生き残ることができるんだから、税金を余計に5%払ってくれよ」と言っても、「それでも結構です。日本に行かせて欲しい」という形にしたらいい。そういうブレークスルーを、一つの案として私は考えている。

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澤:素晴らしい提案で、ぜひやるべきだと思う。山田さんはどうだろう。

山田:規制緩和も大事だけれど、今はとにかく、ライフサイエンスというか新しい再生医療の分野で人材の幅が圧倒的に不足している。大学には素晴らしい研究者の先生がいるし、企業にも一応人材はいる。でも、そのあいだが…、もちろんリスクの谷もあるのだけれど、人材がまずいない。だから、たとえば金融や工学系で活躍されていた方のような、異業種の人材にどんどん入ってきてもらわないと本当の意味での産業にならないと私は思う。大阪が医療のシリコンバレーになるためには、人材の層というかバリエーションを増やさなければいけない。この辺は澤先生がすごく考えていらっしゃることでもあると思うから、ちょっと交代ということで(笑)。

澤:振っていただいてありがとうございます(笑)。「医者が足りない」と、よく言われるでしょ? でも、医者が足りないわけじゃない。医者が医療以外の仕事をやらされ過ぎている。看護師もそうだ。医療従事者が書類作成もすべてやっている。検査データをまとめて、もちろんカルテも書いて、そして患者さんが持ってきた任意保険の書類にもすべて病歴を記載してハンコ押したりしているわけだ。

その点、羨ましいのはアメリカだ。心臓外科医なんて僕の5倍ぐらい給料もらっている。それで朝6時半ぐらいに出勤して回診をして、7時になったら手術室に入る。で、それを11時ぐらいに終えて、そこから12時頃までランチ。そして12時から次の手術に入って、3~4時ぐらいにそれが終わったらもう終了だ。5時頃に帰宅する。僕も朝は6時半頃に行っているけれど、まずは書類の仕事(笑)。で、さんざんメールを見て回診をして外来もして、それから手術室に入る。で、やっと終わったと思った6時頃から別の仕事を始める。山ほど溜まった書類を処理して、若い人の論文を読んで…。で、そろそろ帰ろうかと時計を見て、「今日中に帰れるかな」と。セブン-イレブンより働いている(会場笑)。まあ、僕は特殊かもしれないけれど、看護師だって皆いろいろなことをしていて、ものすごく働いている。

そうじゃない。海外ではそこで雇用が多く、病院一つで街ができているようなところもいっぱいある。メイヨー・クリニックもクリーブランド・クリニックも、病院一つで何万人も雇用している。雇用の規模という意味で、一つの産業になっているわけだ。典型的なのはピッツバーグ。かつては製鉄の街だったけれども、日本の重工業発展とともに潰れてしまって…、ピッツバーグに行くと「お前らがつぶしたんや」といまだに言われるけれども、しかしそのあと医療が立ち上がった。1960年代当時、全米一の肝臓外科医であったトーマス•スターツルという人を呼んできた。で、その人の肝臓移植がうまいからということで、患者が少しずつ集まってきて病院が栄えていった。すると、「スターゼル先生にこれを使って欲しい」ということでいろいろなものがさらに集まって、さらに町が大きくなった。で、今や全米一のバイオ・ハイテク地域と言われている。

そういう街が世界には結構ある。医療が一つのネタになっているわけだ。日本では病院というと医者と看護師が働く場所というイメージしかないと思う。そうじゃない。海外では病院の周囲にも大変なビジネスがあり、産業が広がっている。そういうものをいくつも目の当たりにしている私としては、「なぜ日本でこれができないのかな」と思う。そこで何かの仕掛けがいるだろうと常々思っていたとき、特区のお話が出てきた。その仕掛けとして、原さんがおっしゃったように仕組みを変えて、お金をかけずに世界の企業等を呼び込む、と。これは大阪としてもすごくリーズナブルで割りの合う話だなと思う。日本には資源がほとんどないわけだし、それで中国等の競争相手に勝つのなら、あとは科学技術だけだと思う。

それともう一つ。日本の医療はすごくウケる。あるとき、私はカタールから来た患者を手術したことがある。カタールという国は一人当たりGDPが10万ドルで、その頂点はモーザ王妃という方だ。無血クーデターを起こして旦那の王位を息子に譲渡させたほど強い。で、そのモーザ王妃が来日された際、「自国の患者が入院しているから」ということで阪大病院へ見舞いにいらした。で、総長のところだけでなく私たちのところにもいらしたので、お話をすると「日本の医療はすごい」とおっしゃる。「患者から聞いた。ジョンズ・ホプキンスで手術して治らなかったこの患者が阪大で治った」と。また、医療レベルもさることながらホスピタリティも細やかですごいとおっしゃる。それで、「日本はアメリカより優れた医療を提供してくれている。極めて感謝する」と、カタール1の女性に言っていただいて感無量だった。日本の医療は世界でもウケると思う。

それと、あとは早く承認されるほど早くビジネスにつながる。これほどいい仕組みはない。IT技術ならすぐ世の中に出る。コンセプトが固まって、つくるためのラインができて、知財も確保していたらすぐビジネスになるわけだ。あとは「どのように販売しようか」と。でも、医療はそこから最低でも5年ぐらいかかる。治験を行わないといけないから。人と動物の両方で有効性と安全性を確認しようと思ったら大変な時間がかかる。その仕組みをどのように変えることができるかというお話だった。また、人材をどのように育成するかも大変重要だ。そういったことを特区でやっていくというのが皆の思いだけれども、それを最終的にはどう実現していくのかを、浅野さんに伺いたい。

浅野:大阪大学は臨床研究中核病院に指定してもらうための努力をしているところだ。来年4月から臨床研究中核病院という法的カテゴリーができる。これは世界標準の治験が行える、「ICH-GCP」(ICHにおいて合意されたGCPガイドライン)というハードルをきちんと超えることが前提だ。大学内にきちんとした倫理委員会があり、生物統計家がいて、そして薬や医療機器はもちろん、再生医療を、治験を通して患者さんに届けるだけの枠組みが揃っているところに冠として付けられる。たぶん日本で15個ぐらいになると思う。

そこに我が大阪大学はノミネートしようとしている。当然、病院内でそうしたエコシステムが動くよう、人財も適切に配置しなければいけない。治験の計画書一つとっても、きちんと書くことのできる人を集める必要があるし、すべてがきちんと機能するシステムまたは大学として組み立てなければいけない。この臨床研究中核病院は特区とオーバーラップする。保険外併用というのが一つのインセンティブとして与えられるのだけれども、特区でもそれを言っているわけだ。その意味ではひょっとすると損をしたのかもしれないが、とにかく国の枠組みを使って、大阪大学としては臨床研究中核病院となるための努力を重ねている。

ちなみに、関西圏では京都大学も同様の取り組みをしている。そんな風にしてどんどん集まっていけば、イノベーティブなものを出せるようになると思う。ただ、原さんがおっしゃっていたように、早期の承認に関しては我々としても規制改革を謳っていかないといけない。当然、安全性は確実に担保する。また、患者さんに投与したあとは全臨床を追いかけていくことを宣言しながら効果・効能を見ていく。で、効果・効能が認められるなら保険収載、そうでなければその治療を諦める、と。再生医療はそれが11月から法的に可能となるわけだけれども、医療機器でも薬でも同様に、患者さんへ早く届けられるような規制改革を謳っていきたい。

澤:世界初の仕組みだと思う。成功させるためのポイントは何だろう。

原:制度の改革以外で言うと、中核病院をしっかりつくること。関西圏に一つ、東京圏に一つ、何が起きてもリスクコントロールができるような病院をつくる必要がある。それがないと、日本では事故が起きると大変だから。そのうえで、フェーズIIまでクリアしたものを、「リスクが高いけれども使ってみたい」という患者さんがいたら、お医者さんとしっかり対話してもらう。「リスクがあっても使いたい」という人もいれば、「リスクは絶対に嫌だ」という人もいる。いろいろな人がいるから、そこは明確にする。

例の心臓移植を行った和田寿郎教授もやったときは英雄で、しばらくしたら殺人犯といった取り扱いをされた。従って、はじめのうちは医療特区でそうした治療を受けることができるのも外国の方々だけにすればいいと思う。それで最初の500人ぐらいがすべて成功したら、何か起きたときに国内で最も攻撃をしてきそうな朝日新聞あたりに(会場笑)、逆に「日本人にもやらせろ」という世論を喚起してもらう。そこで日本人にも開放する形にして、メディアのリスクコントロールをする必要がある。

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澤:それはすごく面白い。

原:それともう一つ。たとえば、心不全で階段を2階まで登れないという方々は、最終的には心臓移植や人工心臓になるわけだけれども、澤先生の治療は非常に安くて安全性が高い。それをインドやアフリカをはじめとした途上国に広めていくことも重要だと思う。日本の成長にとっても世界にとっても。今後、ロシアも含めた先進国の人口は、2050年には全世界の12%以下になる。88%が途上国だ。そうした途上国で心臓に問題を患った方を救うのが日本だ。あるいは、交通事故も世界で増えていく。事故で下半身不随になって生涯車椅子という人を、たとえば岡野先生の技術でまた立って歩けるようにしてあげる。それが日本から来た技術となればどれほど感謝されるか。そうしたことを特区で実験的に行えるようにしたい。

澤:すごく特区らしいお話だった。山田さんはどうお考えだろう。

山田:関西が前へ進んでいくためには、とにかく仲間がいる。多くの人にもっともっと医療の世界に入ってきていただきたいと思う。

※開催日:2014年10月18日、19日

※次回はこちら

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