バイオベンチャーは難しい?どうすれば成り立つの? 

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国家戦略特区“医療イノベーション”が拓く未来[2]

澤:再生医療の話題を少し出していただいた。これについてよく聞かれるのだけれども、僕は再生医療学者じゃない。再生医療学を研究している基礎研究者の方は数多くいらっしゃるが、私はあくまで心臓外科医。心臓を助けるためにあらゆる手段を日頃から講じて、それでも助けられない人がまだいるわけだ。そうした方々が、ひょっとしたら細胞治療を行うことで助かるようになるかもしれない。特にiPS細胞は心筋細胞だから。実際、動物実験ではその投与でほぼ良くなる例が出てきた。

そういうなかで、我々のようなアカデミアもしくは医者にできることなんて、ちっぽけ…とは言わないけれども大きくはない。科学の領域を抑えても、そこから先の仕組みづくりがまったくできないからだ。よく「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」と言われるものがある。まず、「あ、これは可能性があるな」と思ってマウスでやってみて、それでマウスが皆死んでしまったりするのが魔の川。で、その川を泳ぎきって「これはいけそうだ」となったのち、人に応用する段階で死の谷が出てくる。それを超えることができないわけだ。で、死の谷を超えたら次は企業に渡すわけだけれど、そこからダーウィンの海いう弱肉強食の海が待っている。そうした流れのなか、魔の川をなんとか泳ぎきって死の谷の手前にまで行くのがアカデミアというか、医者の仕事になる。

ただ、この分野では国としても最近すごく大きなうねりが出てきた。私たちがそれを認識したのは15年ほど前だ。2002年、大阪大学に未来医療センターというのをつくって、今申し上げたようなことを橋渡ししていこうということを始めた。それで現在は、そうした橋渡し研究に関しても、堂々80ぐらいのプロトコルが走っていると思う。かつ、それらが治験にまで進みだしている状態だ。

特に再生医療はルールが必要だ。たとえば、「ジェイス」という培養皮膚の製品。これはJ-TECという会社が開発し、我々はそれと同じ細胞のシート状のものをつくった。ところが、最初の「ジェイス」は医療機器で、僕らのものは医薬品だった。どう見ても、どちらも医薬品でも医療機器でもない。だから再生医療という新しい切り口のレギュレーションがいるだろうということで再生医療改革を立ち上げたら、厚生労働省がそれを受けてくれた。もちろん議員さんがいろいろと動いてくれたりしたからだけれども、国全体で再生医療の新しい法律ができた。そこで今は企業の大きなうねりも来ている。そういうところまで来た。

そこから先をどうするかというのが今日の議論になると思う。再生医療だけでなく医薬品や医療機器についても同じことが言える。新しいルールは書いた。で、世界で唯一、再生医療専用のレギュレーションができたということで、世界中の企業からも期待がかかっている。ただ、その素晴らしいルールでイノベーションが実現するかというと、そこでまだ大きなボトルネックがあると思う。そこで何ができるかを、まずは原さんに伺いたい。たとえばベンチャーというのも今一つ…、今一つと言ったら怒られるけれども(笑)、特にバイオ系のベンチャーは大変だ。研究には時間がかかる一方、資金を回すための仕組みが日本ではまだできていないかもしれない。

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原:バイオベンチャーは時間がかかるし、実は日本だけでなく世界中で資金が付かない状況だ。今年、アメリカベンチャーキャピタル協会の総会でも約30%の医療ベンチャーが廃業宣言をした。投資家が資金を出さないから。なぜ出さないのかというと、会社は株主のものだと考える人が増えてきたから。たとえば出資を受けた10年後に100億円の利益を出したとなれば、すごく立派だと昔は思われていた。でも、次第にそれが「9年で利益を出すように」となって、さらに「5年で」「3年で」「「1年で」となっていった。今ベストとされているのは今日投資して明日、あるいは午前中投資して午後に儲かるものだ(会場笑)。それがアメリカにおける投資家のメンタリティ。会社は株主のものだという株主資本主義だ。それを極めたところに金融資本主義があって、それが金融危機を起こす最大の原因だけれども、誰もそれを指摘しない。で、この考え方がバイオベンチャーの世界にも入っている。それで資金が出てこない。

私はアメリカのソーク研究所というところでも理事を務めている。ここはバイオケミストリーや遺伝子工学の研究者が50人ほど集まっていて、5人もノーベル賞受賞者を輩出しているところだ。深遠な科学技術を数多く世に出している。以前はそこに大企業が資金を投下して、研究開発のうえで製品化がなされていた。けれども、最近は投資家がまったく来ない。10~20年の時間がかかると聞いただけで敬遠してしまう。そうした状況を変えていくことが日本でもアメリカでも大きな課題だと思う。

澤:マネーゲームのような状況で投資家に期待されなくなってきた、と。

原:制度面でも問題が多い。税法、会社法、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、あるいは会計基準等々。現在成立している制度も、短期的な利益を追求する金融資本主義やマネーゲーマーに最も都合良い形となっている。英米でつくられたそうした制度が世界のデファクトとして広がってきた。だから、そこでどこかの国が制度的にも突破口をつくる必要がある。その意味でも、日本の国家戦略特区では中長期の投資に対してインセンティブが働くような制度をつくりたいと私は考えている。

澤:山田さんはどのようにお考えだろう。

山田:課題が多いのは事実だけれども今の日本にはチャンスも数多くあると、民間の立場からは感じている。先ほど申し上げた通りで、大手さんでもむしろ異業種の方々はかなり積極的だ。一方、最も保守的なのが製薬の大手さん。「この技術は本当に使えるのか…」と、新しいものにかなり懐疑的だ。ある意味、製薬企業という枠にはまり込んでおられるように思う。で、今は大手さんでも本業が厳しいところほど新しい領域への興味を持たれていると感じる。

我々も現在は、再生医療に関する知見をお持ちの先生方や技術を持つベンチャーの方々とアライアンスで組んでいる。日本には、そうした分野で地道な研究なさっている先生方や、それを事業化しようとして頑張っておられる方々が、僕らが知らないだけで結構埋もれている。そうした方々をつないでいくことで…、「死の谷」や「ダーウィンの海」を越えることができるかどうかはともかく、少なくとも小さな船を出すことはできる。船も出さないのに渡れるかどうかを議論しても仕方がないし、「とにかく船を出してみましょう」と。そうした領域でも日本にはチャンスがあると思う。

ただ、これは世界的な競争になっていく。日本国内だけならいろいろと壁を超えていくこともできると思うけれど、世界との競争では知財を抑えられて負けてしまうことも多い。それで、せっかくチャレンジをしても波が高くなって沈没してしまうことがある。従って、世界を睨んだ健全な危機感も必要だ。「国内だけを見るのでなく、前にどんどん進もう」という危機感が、全体的にはまだ少し欠けているかなという気がする。

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※開催日:2014年10月18日、19日

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