【テキスト】2020年までに何をつくり、その先何を残すのか? 

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2020年に向けた日本の都市と産業[2]

竹中:さて、2020年にはオリンピック・パラリンピックが開かれる。これはいろいろなことを実現するためのアクセラレータだと私は思う。オリンピック開催国では、「オリンピックだから仕方がない。コレもやろう、アレもやろう」ということで、結果的に国内のさまざま改革が進むというカリフォルニア大学の研究結果もある。「このチャンスを利用して官も民も新しいことをやろうじゃないか」というわけだ。(00:20)

ただ、それをコーディネートする仕組みが必要だと思う。オリンピック組織委員会というものがあって、こちらは森(喜朗)元総理がトップだ。ただ、これはオリンピックというイベントを行うための組織。それはそれでしっかりやってもらいたいが、オリンピック・パラリンピックに関連して「東京または日本全体をどうするか」と、もっと幅広い政策を考える仕組みがいるように思う。その点、今はどうなっているのだろう。オリンピック担当大臣をそのために置くといった準備もあったと思うが。(01:03)

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世耕:1年2カ月前、我々は死に物狂いで五輪招致に取り組んでいた。(01:34)

竹中:ブエノスアイレスの総会には行ったんですよね。(01:42)

世耕:行った。いまだにあの喜びは忘れられない。ただ、それはお祭りをやるためだけではない。「日本人のマインドを変えたい」と。「我々が力を合わせたらオリンピック招致はできるし、東京は世界から高い評価を受けている都市なんだ」と。自信を取り戻し、前向きな気持ちになる大きなきっかけがオリンピックだと考えていた。(01:45)

ただ、それから1年ほど経った今、熱が若干拡散してしまっているという感覚がある。そこで、もう一度オリンピックの体制を立て直そうということで、今回、オリンピック担当大臣を専属で置いた。今は下村(博文)文部科学大臣が各種教育再生と並行してやっておられて大変忙しい。そこで、一人の大臣にオリンピックに関わることをすべて集中させ、準備委員会とも連動しつつ街づくりやの国のあり方まで考えていく。地方都市とも連動についてもしっかりと考えてきたい。それで今国会にオリンピック特別措置法というのを入れた。大臣の数は法律をつくらないと増やせないので、オリンピック担当大臣というポストをつくる法律を国会に出させていただいている。(02:09)

竹中:この法律が国会を通れば数カ月のあいだにそのような変化が期待できると考えてよろしいだろうか。(03:04)

世耕:そうなる。国会日程はかなり厳しいが。(03:18)

竹中:この辺は民間も同じだ。オリンピックが決まったときは「あと7年」と言っていたが、なんだか分からないうちに1年以上が経って、もう残り6年弱になった。今は民間企業もいろいろと対策室やプロジェクトチームつくっていると聞いているので、今後はどういった仕組みが実現できるのか、のちほど会場の皆さんにもご意見をいただきたい。森さんは民間としてどのような対応をしていくのだろう。(03:27)

森:1964年の東京オリンピックが決まったのは、その5年前だ。そこから道路整備を行って、青山通りや環状7号線や首都高ができた。ただ、首都高をつくる際は土地を確保できず、結局は川沿いにつくって日本橋を塞いでしまった。なかば突貫でやったわけだ。新幹線もできたし、ある意味では都市基盤の整備が大変進んだ。(04:07)

けれども、今は特区も含めてなんとなく皆で横を見合っているような気がする。そこで、止まっていられないという危機意識を持たせるためにも2020年という節目はすごく大事だと思う。このままでは、「あっという間に1年が経ちましたね」「2年が経ちましたね」となって、今と変わらないまま2020年を迎えなくてはいけなくなる。(04:45)

では、民間で何ができるか。やはり東京の再開発および基盤整備をどんどんやっていくことで高度防災都市につながるとは感じる。ただ、各民間企業が個別にやっていくには限界がある。行政に導かれ過ぎるのもハッピーではないけれど、ある程度の方向性を出してもらって我々のプロジェクトを支援してもらいたいとは思う。また、それを広く一般の人々に周知してもらうといった作業も必要だろう。もちろん関係のない方もいるのですべてをオリンピックにつなげるのは無理がある。ただ、2020年に外国からのゲストを数多く迎え入れなければいけないのは事実だから、それに向けて今できることを官民で行っていくのがポイントになると思う。(05:03)

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竹中:50年前のオリンピックで象徴的だったと思うことがある。日本には土地収用法という法律があって、公的な目的と利益のためなら個人が持つ土地の所有権を制限してまで土地を収用・買収することができる。政治的になかなか使えないから成田空港のときも大変だったわけだけれど、オリンピックではその法律が初めて適用され、環七ができた。オリンピックではそうしたモメンタムが間違いなく働くわけだ。(06:01)

そこで世耕さんにぜひお伺いしたい。やはり何か大きな目標というか、画がいる。先日、堀江貴文さんと議論したのだけれど、「面白いことをやるとしたら何がいいですか?」と聞いたら、彼は「この際、東京の満員電車を解消させる。電車をすべて2階建てにすれば解消できる筈だ」と言っていた。これ、空想の話だけれど、空想は知識より大切だとアルベルト・アインシュタインも言っている。そうした話から何か出てくると思う。世耕さんは、そういったものをどのように決めていこうとお考えだろう。あるいはご自身で何か考えておられることはあるだろうか。(06:43)

世耕:決めていくメカニズムに関しては、オリンピック担当大臣の下でしっかり考えていくという形になる。ただ、もう時間がない。で、私自身の個人的なアイデアとしていくつか申しあげると、たとえば水素ステーションを含めて燃料電池車を一気に増やすというのがあると思う。それで、東京のタクシーがすべて燃料電池で走っている、と。3万台前後のオーダーだと思うけれども、象徴的な作業としてやれるのではないかなと思う。あと、やはりウオーターフロントのようなところで目に見えて変わるような開発。たとえば大変長いボードウオークをつくるといったこともあり得ると思う。(07:25)

それともう1つ。後世に遺す資産として考えておかなければいけないもので、かつオリンピックとも密接につながるのは空港と、空港からのアクセスだ。羽田と成田をいかに便利なものとするか。高いお金を払ってでも早く来たい人は羽田を使ってストンと都心に入ってもらう。で、たとえば観光等でお金を節約しながら来たい人には成田を使ってもらう。少し遠回りだけれど、それでも便利に入ってきてもらう。羽田と成田の役割分担が必要だ。現在の枠は、理論上は目一杯となったが、管制やルートという点で工夫の余地が若干残っている。住宅の上を通ったりするとまたいろいろな問題が出るから整理は大切だけれど、もう少し枠を増やす工夫は必要だと思う。(08:06)

また、JR東日本などがいくつかアイデアを出してくれているけれど、今の鉄道網をうまく、たとえば線路を何kmかつなぐことで格段にアクセスが良くなる。これも後世に残すものとして、オリンピックを機会に絶対やっておかなければいけない。(09:03)

竹中:お伺いしたかったことについて、今まさにお話ししてくださった。2004年アテネオリンピックのあとに何が残ったか。極端な言い方をすると財政赤字が残った。それを見て2012年のロンドンオリンピックではレガシーを、何を残すかを強く意識した。その結果、現在のロンドンにはたとえば国際会議が開かれるようなホテルやMICEといわれるような施設が数多くできている。で、気がついてみると現在のヒースロー空港は350の都市とつながっているそうだ。東京は羽田と成田を合せても約100都市。ロンドンにはそれだけのものが残っている。(09:14)

従って、何を残すかを官民一体で、あと6年で考えていかなければいけない。都市開発については、10の大プロジェクトを2年で決定することが国家戦略特区で決まった。ただ、2年後に決まってから動き出して、いったい2020年までにどれほどのものを東京につくることができるのかという不安も少しある。森さんはどういったものをイメージしておられるだろう。(09:55)

森:実際にはプロジェクトを各民間デベロッパーが抱えるのだけれど、だいたい計画通りには進まない。土地をまとめるのも時間がかかるし、下手をすると建築コストが高騰してしまう。民間デベロッパーとしては採算が合わないプロジェクトになる可能性もあるので、あまりにも一時期に集中するのは結構タフだというのが正直なところだ。ただ、マーケットとして明らかに伸びるのなら我々も着手するべきだと思う。ホテル開発も今後、たとえばホテルオークラの建て替え等いくつか出てくると思う。(10:30)

あとは品川エリア。羽田および世界へのゲートウエイとして同エリアのポテンシャルは高い。操車場跡地の開発などが出てくると思う。ただ、これは2020年までは難しいと思う。2020年までに竣工を迎えることができるのは、すでにある程度話が固まっていて土地がまとまっているものでないと。ただ、いずれにせよ、動き出さないことには前へ進まない。できるところをとにかくやるという話だと思う。(11:14)

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竹中:もう1つだけ、基本的なことを政府にお尋ねしたい。少し極端な言い方になるので不愉快に感じないでいただきたいが、たとえば前セッションで甘利大臣はクラスターというものに言及されていた。政府が乗り出して、大学や企業といろいろなものを結びつける、と。「これは政府の仕事なのかな?」と。民間がきちんとしていれば自分でやっているのではないのかという思いがある。「大学があまりきちんとしていないから」というのは認めるとしても、政府がわざわざやる仕事なのかなといったものは結構あると思う。逆に、民間はそれに頼り過ぎている面がないだろうか。(11:53)

たとえば業界の自主ルール。金融担当をやっていたときもそうだったが、「それぞれ業界で自主ルールをつくってください」と言うと、必ず、「金融庁が取りまとめをしてください」と言ってくるような面がある。あくまでも一面だけれど、官と民はある意味で仲良くやっていて、1980年代ぐらいまではそのなかで行政指導が行われていた。行政が指導したのでなく、行政担当の部長や課長を中心にして業界の人が集まり、皆で決めるシステムだった。これに良い面もあったけれども、今はインディペンデントに物事を進めていく力となっていない。(12:45)

従って、極端な言い方になるが、官は官でしっかりとマクロ経済環境をつくり、民はしっかり儲けましょう、と。「今キャッシュを積んでいるのは、現金という資産に今は投資をしているからです」と言うのならそれでもいいが、もっと別のビジネスチャンスだってあるのではないかと思う。経済学を勉強している人間としては、そうしたことを日頃から感じている。この点について一言だけいただきたい。(13:33)

世耕:おっしゃる通り、昔の民間は完全に役所のコントロール下で相談をしながら、ズブズブにやってきた。それが一時期批判をされたことで、今度は過度に離れてしまった時期があると思う。そのあと混乱が続いたのち、現在はというと、官は官で「民がなかなかやってくれない」、民は民で「官がなかなかしっかりしてくれない」と、互いにコミュニケーションをしないままじっと眺め合っているのが現実だと思う。私は、ここは現実的に動くべきだと思っている。アメリカだってそうだ。NIHもそうだし、インターネットはもともと政府の技術から出てきた。そこで官民がうまく混ざり合って、最終的には民に手渡していく現実的なメカニズムができているわけだ。我々もそういう形をつくりたい。だから、たとえば日本版NIHのような形にした。(14:02)

あるいは官民ファンドもつくらせていただいた。なかなか民間のリスクマネーが入ってこないから、「官が一緒にやれば入りやすくなるだろう」と。我々は「呼び水機能」と呼んでいるが、そんなこともしながら今後は官と民がうまく役割分担していけばいいと思う。ただ、私は官民ファンドに関して監督の役割をしているが、1つの案件を成功させたら解散すればいいと思う。1つ、「こういう風にやればできるんだ」と分かれば、「あとは民間でやってください」と。早く民間へ渡すことが重要だ。(14:59)

森:まったくその通りだと思う。官と民の役割分担という点では、すべて民でやっていくと、たとえば先ほどお話しした景観の問題も出てくる。自分の土地で自分だけでつくって、そして乱開発になってしまう。経済的には最も合理的だから。さらに言えば、ビルの屋上に看板ばかりつくってしまう。これが都市の景観として良いのかということを誰かが考えて、コントロールしなければいけない。ただ、コントロールというとまた「規制だ!」ということで民間からの反発がある。従って、ある程度の指針をまずは官に示してもらって、民はそのなかで動くということが大事なのだと思う。(15:36)

加えて言うと、官には説得力がある。たとえば地元の方々にも森ビルでなく行政が話をすれば、話もより進めやすくなる。そういう部分では我々も官の力を使いたい。そこでうまく役割分担をしていく。ただ、誰が最終的なマスタープランやゴールを描くのかというのは非常に難しい問題だ。官にその能力があるかというと、なかなかそれも難しい。民間の一企業にそれがあるかというと、これも難しい。だから調整するところが必要なのだと思う。役割分担はとても大事になる。(16:12)

竹中:今は公務員倫理規定が大変厳しく適用される。そのもたれ合いで互いに接待漬けとなるような時代が、特にバブルの頃はあったからだ。現実問題として、そういうことは避けなければいけない。国民の厳しい目もあるわけで、官と民は一定の緊張感を保っていなければいけないというのは重要だと思う。(16:47)

ただ、情報交換や問題意識の共有はきちんとやっていかなければいけない。私は金融担当だったとき、金融界の方とは食事なんてできなかった。実際、やってはいけないと思う。だから、「アメリカやイギリスはどうしているのだろう」とも思っていた。で、いろいろなやり方があるけれども、そのなかで辿り着いた1つの結論がコンファレンスだ。一緒にテーブルを囲んで議論できる。官民による対話の場所として、コンファレンスの役割は極めて大きいと感じる。日本では本当のことを言うだけで「失言だ」と叩かれたりすることもあるけれど、コンファレンスなら相当フランクに、踏み込んだ議論ができる。その意味でも今日のこの場は重要だ。先ほども大臣がいらしたし、官房副長官がいらっしゃる。これは私の認識としてぜひ申しあげておきたい。いずれにしても一定の緊張感を持ちながら情報交換が必要であり、そして新しい大臣の下、オリンピック・パラリンピックはアクセラレータになることも申しあげておきたい。(17:11)

最後に1つ、インフォメーションとして申しあげたいことがある。今度の成長戦略のなかに、「『改革2020』というものをつくる」という1行が盛り込まれた。2020年に向けて改革のモメンタムを高めるために何をすれば良いか、政策として議論していくというものだ。実は、「改革2020」の取りまとめの主査を私がやることになった。これもアクセラレータだ。「こういうことができるのだ」という一つのショーケースにしたいという話だと思う。ぜひ民間の皆さんからいろいろと声をあげていただきたい。(18:31)

→日本の強みは「目に見えない魅力」。第3回はこちら

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