経営者が今まで以上に見られている感覚を持つ「スチュワードシップコード」 

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G1経営者会議 日本の資本市場とコーポレートガバナンス

水野弘道氏(以下、敬称略):私は昨年のG1経営者会議にも出席させていただき、いわゆるオペレーションサイドでは大変面白い議論を数多く聞いた。ただ、企業と資本市場または投資家との対話がどのように行われているのかといった点については少し消化不良だった面がある。それで、堀(グロービス経営大学院学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)さんから今年も本会議参加のお誘いを受けたとき、資本市場とコーポレートガバナンス、つまり企業経営との関連性について議論させて欲しいとお話しした。特に、今年2月にはスチュワードシップ・コードというものが公開されている。それによって、初めてと言っていいと思うが、目に見える形で資本市場と企業オペレーションとのリンクが見えてきた。そのタイミングを生かしたかったというのがあり、パネリストの御三方にもお声がけをさせていただいた次第だ。(02:13)

ちなみに、会場にお集まりいただいた皆さまのなかで、いわゆる投資家サイド、つまりスチュワードシップ・コードで企業に対する行動を迫られている方はどれほどいらっしゃるだろうか。…何人かいらっしゃる。では、逆に「このスチュワードに俺は何をされるんだ」と心配している側の方はどうだろう(会場多数挙手)。やはり経営者会議ということで経営側の方が多い。今日はそのあたりの不安を解消しつつ、経営側と機関投資家というか株主側との対話が、今後の日本経済成長にどのような形で結びついていくかという前向きな議論をしよう。(03:29)

まずは「スチュワードシップ・コードというのはこういうものだ」ということを少しお示ししたい。金融監督庁がつくったものは結構長いが、野村総合研究所が簡単な文書に落とし込んでくれたものをご覧いただければだいたい分かると思う。日本版スチュワードシップ・コードは次の7原則から成り立っている。(04:33)

原則1 スチュワードシップ責任を果たす方針策定と公表
原則2 管理すべき利益相反について方針策定と公表
原則3 スチュワードシップ責任を果たすための当該企業の情報の的確な把握
原則4 投資先企業との建設的対話に努める
原則5 議決権行使と結果の公表、明確な方針
原則6 顧客・受益者に対する定期的な報告
原則7 スチュワードシップ活動に伴う判断の実力を備える
(05:12)

今年2月にこういうものが金融庁から公開され、現時点で恐らく百数十社におよぶ日本の機関投資家がその受け入れを表明している。当然、GPIFも受け入れを表明している。第一生命さんも5月、機関投資家側が出すことになっている実行ガイドラインを公表された。川島さんにはまずその辺からお話しいただきたいと思う。(05:49)

そして、弁護士としてコーポレートガバナンスに関する造詣が深い塩崎さんには、いわゆるリーガルな観点からこれが今後どういった影響を与えていくのかを伺ってみよう。一部の経営陣には、「これで株主にいろいろ言われたことができなかったらどんな法的責任が発生するのか」といった不安もお持ちだと思うので。(06:20)

また、スタンダード&プアーズ(以下、S&P)の日本代表である三宅さんは、それ以前は外資系金融機関で経営に携わってこられたとのこと。その辺の観点も交えて、海外の格付け機関に日本のコーポレートガバナンスがどのように評価されているかといったご意見も伺いたい。では、まず川島さん。スチュワードシップ・コードと、そして恐らく来年発表となるコーポレートガバナンス・コードの全体像を、第一生命としてはどのように捉えていらっしゃるかを教えていただけないだろうか。(06:50)

4114 2 川島貴志氏

川島貴志氏(以下、敬称略):スチュワードシップ・コードをきっかけに、第一生命が投資家としてコーポレートガバナンス全体にどんな姿勢で臨もうとしているのか。また、それをどのように捉えているかという全体観に触れて、お話の導入にしたい。(07:39)

第一生命は今年5月、スチュワードシップ・コードに署名したあと、ご紹介のあった7つの基準に個社としてどう臨むかという方針を発表している。まず、企業価値を持続的に成長・増大させるという目的に対して、企業側がコーポレートガバナンス・コードの主役だとすると、投資家はスチュワードシップ・コードの主役になると我々は捉えている。「これは目的に向けた両者の共同作業である」と。それで、スチュワードシップ・コードは投資家に対し、7つの原則に沿った行動を促しているわけだ。(08:04)

で、日本IR協議会がスチュワードシップ・コードの発表を受けて行ったアンケート結果を見てみると、「そもそもこれを知っていますか?」という問いには53%の企業が「知っています」と答えている。ただ、「それによって投資家との付き合い方等が変わりますか?」と聞くと、「別に変わらない。従来通りである」と(笑)。そう答えていらっしゃるところが59%もある。(09:07)

つまり、機関投資家側が「導入されたスチュワードシップ・コードに従った行動をとる」と言っているものの、現実に何が起こるのかに関して、企業側は手探りの状態というのが正直なところだと思う。従って、第一生命の課題は投資家として企業と交わす対話の頻度と内容をいかに充実させ、「やりとりする価値あり」と考えてもらうか。「これはWin-Winで、意味がある」と思える関係になることが最大の課題だと思う。(09:36)

それともう一つ。今はコーポレートガバナンス・コードのほうも議論されていて、今後発表されると思う。これが出てきた文脈は、今年6月に公表された政府の「日本再興戦略」改訂版において成長戦略の柱と位置付けられたことだ。アベノミクスの成長戦略における柱として、「稼ぐ力を取り戻す」というキーワードとともに、コーポレートガバナンス・コードの話が出てきた。従って、我々投資家側としては、企業が稼ぐ力を取り戻すことを目的としたガバナンス強化のためのコードであると理解している。(10:13)

つまり、これらは企業価値の持続的成長に向けた共同作業のなかの企業側規定と投資家側規定として、車の両輪になると捉えている。ひいては、各種企業ステークホルダーのなかでも特にリスクマネーを提供する株主に対して、これらの取り組みを通じて資本の効率を高め、企業の価値増大につなげるものになると考えている。(10:53)

水野:昨年公表された「日本再興戦略 -JAPAN is BACK-」にコーポレートガバナンスが入ったことは海外からも驚きの目で見られたと、外にいた私は記憶している。「ディフェンスだけじゃない」と。オフェンス的な考えに立ったガバナンス戦略が初めて日本の公的ペーパーに載った、歴史的な出来事だったのではないか。では続いて、企業と投資家、つまり資本市場またはステークホルダーの関係について三宅さんにお聞きしたい。本テーマの問題点として議論したいポイントは何かあるだろうか。(11:36)

4114 3 三宅伊智郎氏

三宅伊智郎氏(以下、敬称略):格付け業界も2010年以降はレギュレーションの下に入っている。S&Pはそれまで、マグロウヒルという出版会社における最大のビジネス部門だった。優秀なアナリストたちが自分の意見を書いて、それをマーケットに売るだけの会社だったわけだ。それがいきなり…、いきなりでもないが、エンロンやワールドコムの不祥事、あるいはサブプライム問題等、いろいろとミスをつけてしまった。その結果、「格付け機関を放置していていいのか」ということで、世界中で監督官庁の下に入った。そこで何が問題だったかというと、コンフリクト・オブ・インタレスト。格付け部門と利益を追求する経営部門は、きちんと分けろという話になる。(12:45)

で、私の立場はというと、「シングルA」といったような格付けをする、いわゆる格付け委員会には関わっていないことをご理解いただいたうえでお話ししたい。私は昨年9月から現在のポジションについているが、それ以前は7年間、外資系生命保険会社2社の経営を行っていた。また、さらにその前はそうした生保業界をはじめとする金融業界に、シティグループとして金融商品の売り込みをしていた。そういう背景を持った人間の話として聞いていただければと思う。(13:52)

まず、問題はスチュワードシップという言葉が日本語にならならい点だと思う。「何? スチュワードって。辞書を引くと『執事』だっていうじゃない」というところから始まっているのが、つい昨今の話だ。その少し前に出てきたガバナンスという言葉も同じ。「企業統制」や「企業統治」といった言葉を使うが、獏としてなかなか掴めない。そこで「機関投資家のスチュワードシップ・コードです」といきなり言われ、次は「事業法人のガバナンス・コードです」と言われ、もう何をやったらいいのかというところだと思う。(14:33)

私としては、ガバナンスとはあらゆるステークホルダーの価値やベネフィットを最大化することだと考えている。ただ、私が生きてきた金融法人の世界はレギュレートされているから、レギュレーターもステークホルダーに含まれる。金融法人にいらっしゃる方はひしひし感じていらっしゃると思うが、比重としてはそこが一番大きい。もう、ガバナンス=レギュレーター。「レギュレーターがハッピーになる形ならガバナンスはOK」というのが、今は日本の金融法人におけるガバナンスではないかなと思う。従って、皆が同じ概念を見ていない。私がS&P本社との議論でスチュワードシップやガバナンスという言葉を言うとき、会場の皆さまと同じものがシェアできているかというと、必ずしもそうではないだろうと思う。まずは、そういうギャップがある。(15:26)

それともう1点。格付けのフレームワークに沿ってお話をすると、「こうした項目を評価した結果、格付けを出します」というクライテリアの1項目にコーポレートガバナンスがあるわけだ。ただ、これは個人的な考え方だが、今はそれが過小評価されていると思う。クライテリア全体に占める比重として、ガバナンス評価はほんの一部にしかなっていない。それよりは圧倒的に数値的なものが結果につながる。この点は社内でも議論を行っているし、あるべき姿に持っていきたい。その辺が私の問題意識だ。(16:49)

水野:おっしゃる通りで、ガバナンスにしてもスチュワードシップにしても、日本語でぴったり当てはまる言葉があれば、そもそも日本語にしていた。それができないからやむなく英語にしているわけだ。で、その割には説明ができていない。なんとなく、イメージで話が進んでしまっている。たとえば金融庁のウェブサイトにもスチュワードシップ・コードの解説はあるけれど、そもそもスチュワードとは何かといった解説はない。本来、外来語というか海外の用語をそのまま導入するのなら、その言葉を丁寧に説明するというのは、別に本件と関係なく必要なことだと私は思う。いずれにせよ、この議論を通じて、皆さまがそれぞれのお立場でスチュワードシップおよびガバナンスという言葉をどのように位置づけているのかも明らかにしていけたらと思う。(17:39)

続いて塩崎さん。今回のスチュワードシップ・コード導入後、たとえばお客さんから「この点が不安だ」といったご相談をもし受けていたら、その辺もシェアしたい。(18:42)

4114 4 塩崎彰久氏

塩崎彰久氏(以下、敬称略):スチュワードシップ・コードとは何かというのは本当に分かりにくい。今朝、3連休の最終日ということで子どもに「お父さん遊ぼうよ」と言われたのだけれど、「ごめんね、お父さんスチュワードシップ・コードについて話してこなきゃいけないから」と言って家を出た。家族はまったくの無反応だ(会場笑)。「この人は何しに行くんだろう」と。ただ、実は最近、5歳と7歳になるうちの子どもがなかなか勉強しないので、二人の机を個室からリビングに移動して壁際に置いた。これで机に向かって座ると背中がリビングの中央を向くので、勉強の効率がすごく上がる。今までまったくやっていなかったドリルをどんどんやるようになった。「お父さんが後ろから見ているんじゃないか?」という恐怖感で作業効率がずいぶん上がったわけだ。(19:01)

スチュワードシップ・コードも似たようなものだと思う。経営者の方々が、今まで以上に見られている感覚を持つ。皆さんの後ろで、「お父さんが腕組みをして座っている、かもしれない」と。実はその辺がポイントではないか。で、それは日本企業の経営効率をはじめ、いろいろなものの生産性を高めるプラス効果につながると感じる。(20:02)

機関投資家の方々による適正なモニタリングは、コーポレートガバナンスにおける最後の砦として大きな意義があると私は思う。3年前、留学から帰ってきた私が最初に手掛けたのはオリンパス事件だった。当時、マイケル・ウッドフォードさんという背の高い外国人のおじさんが、「大変なことがあります」と、事務所に飛び込んできた。それでご相談にあずかったことがきっかけだ。で、話を聞くと、「なるほど、そういうこともあるのか」と。それで証券取引等監視委員会と警視庁、そして東京地検にそれぞれ告発して、あとはご存知のような展開になっていった。(20:39)

そのとき強く思ったのだけれど、コーポレートガバナンスには当時から問題になっていた原発と似たようなところがある。何層にも安全弁が構築されていて、従業員が不正をしたら経理部門や監査部門が内部統制のなかできちんとチェックをする。そこで漏れていたら担当の取締役が取締役会でチェックするし、そこで漏れても監査役がチェックする。しかし、オリンパス事件では従業員も取締役会も会計監査人も含め、すべての安全弁が次々突破されていった。そこで最後に残るのが機関投資家だ。(21:32)

オリンパス事件では社長が告発を行い、会社側はガバナンスを放棄する形で第三者委員会をつくり、第三者委員会が会社をすべて調査する形になった。それで当時取締役だった方々は責任を取り退任されたけれども、「では、そのあと誰が会社を経営するのか」という点でプロキシーファイトが起きる恐れがあった。ウッドフォードさんや現経営陣がそれぞれに意見を言い合うわけだ。そのとき、機関投資家の出番になる。問題が発生して、そこで会社内部に構築されたガバナンスの仕組みがすべて突破されたとき、最後に議決権を行使する形でどのように適正化を図るのか。(22:28)

遡ってみると、議決権を持った機関投資家がどれほどしっかりとモニタリングをするかが、ガバナンスに関して会社が日頃からどれほど真剣に取り組むかといった点にも影響してくる。オリンパス事件は、そうした最後の砦なくしては内部のガバナンスもきちんと働かないのではないかという思いを強くさせた一例になる。(23:17)

私は危機管理や不祥事案件の対応が多いのだけれど、相談にいらっしゃるのは、従業員の方、取締役の方、そして監査役の方等々、いろいろだ。ただ、いずれにせよ日本企業が持つ文化のなかでは、疑わしいことがあったときに社長と喧嘩してでもモノを言うことができるのかという問題がある。一度言って反対されたあと、もう一度言えるのか、と。その辺で社外取締役や監査役の皆さんは大変悩んでいる。(23:43)

なぜか。会社にとって良いことをしても、「それで誰が褒めてくれるの?」となるからだ。「見てくれている人があまりいなのでは?」という感覚を、現場の方々は持っていると思う。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードを通じ、そうした「見られている感覚」が入ってくる。そうなれば日本企業の実績にプラス効果を与える面でも、マイナス効果を防ぐ面でも、効果が出るのではないかと期待している。(24:20)

4114 1 水野弘道氏

水野:今回は「日本版スチュワードシップ法」でなく「コード」になっている。必ずやらなければいけないのでなく、‘comply or explain’というルールだ。「従うか、従わないのならその理由を自分できちんと説明しなさい」と。で、法ならやらないわけにはいかない。コンプライアンスの問題だから分かりやすい。でも、今回のようなコードに関しては、「どこまでやれば‘comply’または‘explain’したことになるのか」と、極めて曖昧で不安感を増長する気がしている。法とコードの違いはどう考えたらいいのだろう。(25:00)

塩崎:とても大切なポイントだ。ここ3~4年で日本のコーポレートガバナンスを巡る議論は大きな転換点を迎えている。従来型の法律、つまりハード・ローによる牽制と抑止から、ソフト・ロー、つまり罰則や裁判所による執行を伴わないモラルや倫理あるいは規範といった形に、ガバナンスの仕組みが大きく変わってきたと感じている。(25:51)

たとえば社外取締役の義務付け。今までさんざん議論されていたが、「いろいろな会社のスタイルがあるんです」といった反論が出てくる。そこで、「分かりました。社外取締役を入れるかどうかは皆さんで判断してください。ただ、入れない場合はその理由を株主にきちんと説明してください」という形で今回の会社法改正は最終的に収まった。ハード・ローの世界ではあるけれど、実は極めてソフト・ロー的な建てつけなっている。(26:36)

ことほどさように、会社の形態や事業、あるいは金融機関と金融監督庁との関係にはいろいろなタイプがある。従って、それらを一律に「コレはいい。ソレはダメ」といったルールで線引きする形では、現在のように多様でスピードある時代に付いていけないのではないかという考え方があった。だからこそ、コードベースのガバナンスからプリンシプルベース、つまり指針や価値観や大きな方向性をきちんと説明していくガバナンスへの変化がある。今回の件はそうした説明責任の連鎖を通じてガバナンスを行って、世の中を良くしていくといった形に変わってきた、ひとつの象徴だと思う。(27:15)

ほかにも、そうしたソフト・ローが増えてきた。たとえば日弁連が出した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」。日弁連は法的執行機関ではなく、単なる民間団体だ。でも、彼らが「第三者委員会を設けるならこういうことに従ってもらわないといけないよね」と定めて公表すると、それが少しずつ社会的スタンダードになる。「なんちゃって第三者委員会」のようなものがつくりにくくなっていく。不祥事が起きたときにお友達弁護士を連れてきて、たとえば「3ヶ月調査します」という話にして3ヶ月間説明責任を免れるといったことがしづらくなってきた。法的強制力はないが、そうしたルールやコードをつくり、「社会的な期待値と説明責任を通じ行動原理を変えていこう」と。これは大変効果的なレギュレーション手法だと思うし、今後も増えていくと思う。(27:57)

水野:ハード・ローであれば基本的には裁判所が最終的判断を下すが、ソフト・ローであれば説明責任を果たしているか否かといったことが、今回であればスチュワードの判断に委ねられるというお話だと思う。そうした説明責任の連鎖を通じ、「ソフトにガバナンスして方向性を変えていきましょう」と。逆に、そう考えるとスチュワードというか機関投資家側にもその責任が生まれてきているという風にも捉えられると思う。(29:05)

川島さんはどうお考えだろう。私は第一生命さんが出されたスチュワードシップ・コードの運用ガイドラインに感銘を受けた。名前は出さないが、他の生保会社に比べると格段に具体性があり、「本当にスチュワードシップ・コードをベースとしてやっていくんだ」という強い意欲を私は感じだ。それで渡邉社長に、ぜひ本セッションで第一生命さんにお話していただきたいとお願いした経緯がある。今お話ししたような観点で考えると、第一生命さんとしてはどういった責任をお感じになるだろうか。また、今はそこで社内体制をどのようにしていこうとお考えになっているのかを伺いたい。(29:38)

川島:世界各国の20年以上にわたる株価推移をグラフで表現してみると、なかなか恐ろしいことになる。アメリカやドイツあるいはイギリスといった先進国の株価推移と比較しても、先進国のなかでは日本の株価が最も低い。(30:21)

第一生命がスチュワードシップ・コードに関して前向きに取り組んでいるのはなぜか。我々は株式市場に対して約3兆円ぶんの株を保有している。これは契約者様からお預かりした保険料を基にきちんと契約を履行するためであり、さらに言えば有利に運用することを目的とした行動の一環というのもある。それで、およそ32兆円におよぶ全体の1割弱を株式に投資しているわけだ。では、安全かつ有利に運用するためにはどうすればいいのか。国債を持っていれば安全かもしれないが、「有利に」という話ならどう考えても株式投資だ。これは結果論ですよ? 事前にこうなることがすべて分かっていた人はいない。ただ、今ご紹介したグラフのようになってしまっているのであれば、「結果としては有利ではなかったのでは?」ということだ。(30:53)

で、その責任が誰にあって何が原因だったのかというと、国の経済運営や日銀の金融政策といった、いろいろな要因が重なるという話になる。それで失われた20年のデフレを反映してしまっているのかもしれない。ただ、機関投資家の一翼を担う立場としては、それを上に引っ張り上げる作業に寄与しないといけない。(31:53)

そこで、今回発表されたスチュワードシップ・コードを通して企業と共同作業を行っていくわけだ。投資家は企業にリスクマネーを投資している。銀行のように融資をしたうえで、あらかじめ決まっている金利をお約束通りもらえるわけではない。だから、「頑張って企業を成長させ、利益を出してください」。結果を出していただけるようお願いして、リスクマネーを提供していく。では、その対価が何かと言えば、配当と、株価が上がるということの足し算になる。(32:21)

翻って日本はどうだろう。配当が低いといった議論もある。ただ、少なくとも株価上昇という点では欧米企業と歴然とした差がある。「ただ、それをぜんぶ日銀や国による経済政策のせいにしてもなあ」と。だから第一生命も、ひと肌脱ぐという言い方は妙だけれど、機関投資家の責任として、そして契約者から預かったお金を有利に運用するためにも企業にモノを申していこう、と。それで、「御社にリスクマネーを投じていますが、どのように使いますか?」「資本効率は大丈夫ですか?」「利益率は高まっていますか?」「中長期的にはどうお考えですか?」と、発信や対話を行うわけだ。(32:59)

第一生命の運用スタイルは「売った」「買った」の短いサヤ取りで儲けようというものではない。長いスパンで投資を行い、企業の成長自体を利益にしたい。だからこそ長期の機関投資家としてモノを言う責任があると自覚して、今回の署名に至った。「我が社流に解釈した結果、こういう風に運営していきます」という方針をお示ししたうえでやっていく。それによって、大きく言えばミクロの企業成長を通じて国富が増えることになり、経済のなかで誰もがその結果を享受できるようになる。また、第一生命としても契約者さまのためになる。少し話が大げさだけれど、そんな文脈で考えている。(33:48)

水野:利回りが出ない現実に対して、マクロ経済政策だけでなく投資家からも働きかけようというのが、これをきっかけにようやく出てきたのだと思う。そこで次の質問に移りたい。日本版スチュワードコード・シップの原則4は、英語では‘engagement’と言われるもので、野村総研さんは「投資先企業との建設的対話」と訳している。「目的を持った対話をせよ」と。運用機関として運用成績を上げることが目的ではあるが、その目的ある対話とはどのように定義すればいいのだろう。企業とすれば、「明日、株主が目的ある対話に来るらしいぞ」と。「今まで目的なかったのかよ」という(会場笑)、そういうツッコミも入るように思うけれど(笑)、とにかく企業はそこでどんな体制を構築して準備すればいいのか。三宅さんが外資系で経営をされていた頃は、常にそうした目的ある対話を海外の投資家にも経営陣にも求めていたと思うが。(34:54)

三宅:ガバナンスを広く考える必要があると思う。先ほど申し上げた通り、全ステークホルダーのベネフィットを最大化するという意味では、必ずしもリターンが大きいという話ばかりにはならない。たとえば私が経営していた生命保険会社なら、「オペレーションミスで契約者に迷惑をかけない」「反社会的勢力に屈して評判を落とさない」といった話もあるだろう。そんな風にすべてを含んだガバナンスとして受け取ると、「目的ある対話」とは、経営者がどこまで自分のリスクセンスでビジネスを見て、ステークホルダーに十分な利益が届く状況をつくるかという話になると思う。(36:41)

ただ、たとえば機関投資家が事業法人とどこまで深く対話して、どこまでその会社を理解できるかとなると、時間はかかると思う。スチュワードシップとガバナンスの両方でコードができたとして、それを本当に実効性ある対話に今むすびつけることができるのか。恐らく、大変な時間をかけて多くの議論をしないと難しいと思う。(37:37)

水野:そのあたり、第一生命ではどういった議論がなされているのだろう。(38:11)

4114 5

川島:今回の7原則は、英国版のスチュワードシップ・コードをたたき台に日本版ということでつくられたものだ。ただ、日本版にあって英国版にないコードが二つある。第4と第7だ。で、先ほど水野さんと三宅さんがおっしゃっていた通り、まさに第4は「投資先企業との建設的対話に務める」ということで一番の肝になる。(38:16)

また、第7の「スチュワードシップ活動に伴う判断の実力を備える」というのも英国版にはない。「当たり前だろ」という話だからかもしれない(笑)。ただ、日本の金融庁、あるいはこれを考えた関係者は、「発展途上ではこの原則をきっちりと入れないとダメだよね」と考えたのではないか。企業と投資家でWin-Winになるよう、投資家が、いわばビジネスに対する目利きの能力やモノを言う能力を高めなければいけない。そうでないと、「これ、企業のためになってるのかな?」と感じるような、一方的対話になってしまう。某生命も某信託も某投資顧問もがんがん押し寄せてきて、「そのお相手をしているだけで実のある建設的対話になるのか」と。それだけでは好循環にならない。(38:56)

企業さんとしても、「なるほど。これは一理あるわい」となるようなものでなければいけない。また、定量的にも定性的にも、いろいろな意味で企業価値が高まり、最終的には投資家サイドにとっても意味があるものでなければいけない。そうした好循環を招くためにも第4と第7は必須だったというのが、日本版にあって英国版にないものが入ってきた文脈だと、私は理解している。(39:57)

ということで、第一生命は現在十数名ほどのアナリストを抱えているけれども、今後はそこを増強して、企業との建設的対話を年間何千件という単位で行っていきたい。投資先の数も多いので大変な回数と労力になるけれど、第7の原則に従ってそうした能力を引っ張り上げていくということを、今はやっているところだ。(40:25)

それともう1点。今、たとえば年金投資の世界にはパッシブ運用という、東証一部上場企業を丸ごとすべて、そのまま均等に買うという投資スタイルもある。これは簡便かつ便利だから結構流行っている。ただ、こういうスタイルで投資家サイドが目利き能力を高めることができるかというと、疑問だ。機械的に買うだけだから。我々はそこにアンチテーゼがある。我々はそれを「価格発見能力」と呼んでいるけれど、どのようにして良い企業さんに良い株価をきちんとつけるかという、投資家サイドの目利き能力が必要だと考えている。企業の実力の見極め、それを引き出すための対話能力だ。それらをすべて一体にして考えたうえで、正しい株価をつける責任もあると思う。そうした目利き能力と対話に足る能力を、発展途上ではあるけれども高めていきたい。(40:52)

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