強いコミュニケーションを築くために、社のストーリーをビジョン化する 

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G1経営者会議 「企業のコミュニケーション戦略」

瀬尾:先ほどロビイングのお話が出たけれど、嶋さんは日本でもそうしたことをなさっていると思っていた。そこでの戦略みたいなものはあるのだろうか。(37:33)

嶋:今回のスプリント買収にあたってアメリカのロビイストとお付き合いをしたので、それで「日本とアメリカのロビイングは違いますか?」といったことをよく聞かれる。本質はどこでも一緒だ。人間のやることだから。ちなみに、アメリカのロビイストを見ていて「この顔はどこかで見たことがあるな」と思ったのだけれど、永田町にいる保守系のベテラン秘書と同じだ。如才がない。私のキャリアもすべて調べているから先生扱い。秘書って、立ててくれるでしょ? 気持ち良く仕事をさせてくれるといった手法も似ている。ただ、日本の秘書と違ってプレゼンはうまい。それであるとき、彼らが滔々とプレゼンをやろうとしていたから最初の5分で「分かった。もういい」と言った。ぱっと見た段階でほとんど分かったから。要するに同じことだった。(38:14)

では、そうしたことを日本ではどのように進めていったのか。たとえば「光の道」。2010年頃、総務省では2015年までに全国に光ファイバー網を敷くべきだという話が出ていたのだけれど、それを私どもが支持して大議論になった。また、2011年の再生エネルギー。今も大議論になっている。あのときも再生エネルギー法は通らないと思っていたのに、通った。そこでも私どもはいろいろなことをしていた。(39:24)

で、先ほど「アメリカも日本も一緒だ」と申し上げたけれど、日本はどちらかというと官僚が強いからロビイングはあまりできなかったという違いはある。ロビイングは議員に行うものだから。そして官僚には企業の渉外部がやっていたりするから、割りと密室に近い状態だった。一方、アメリカでは田中さんがおっしゃったとおり、すべてをオープンにしなきゃいけない。それを私は日本に導入したのかもしれない。当時は民主党政権に交代していたので官僚の言うことをあまり聞かない面があったためだ。それが良かったのはどうかはまだ分からないけれど、とにかくそういう状況だから議員たちは自分たちで議論してアイデアを持って、そして自分たちで法律をつくろうとしていた。アメリカに似たような空気だった。ただ、当時は日本最高のシンクタンクである官僚機構とぎくしゃくしていたから、彼らをうまく動かせなかった。そこに新たなシンクタンクとして私の存在のようなものがあった。だから動いたわけだ。(39:24)

瀬尾:政権交代のタイミングで偶発的に成立したような感じだろうか。(41:33)

嶋:政治的にどちらが正解かという話だと思う。アメリカのように共和党と民主党がぱっと変わるなら…、これは田中さんのほうがご専門だと思うけれども、それならロビイストという職業が成り立つと思う。立法府中心で政治主導だと成り立つ。(41:42)

瀬尾:田中さんは日本でのロビイングをどうご覧になっているだろう。(42:01)

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田中:嶋さんがおっしゃったように、実はほとんどのロビーが密室で行われる。民主党政権と現在の自民党政権で何が違うかというと、民主党政権では族がかなり廃止されていた。たしか、党内で「直接話に行くな」と言われていたと思う。でも、今は再び族の方々が活躍し始めていて、いろいろと密室で決められている。そういうことが日本にはまず一つある。で、二つ目の大きな違いは、アメリカのようなロビイング制度が基本的にない日本では、限られた人しか使えないということだ。アメリカのロビイング制度は誰もが使えるけれども、日本では、まず外資系は絶対に族議員の方々を使えない。お金の出入り等が少しでもあればアメリカでは罰則対象になるから。また、日本企業であっても、ある程度は業界に入り込んでいるか、ひとつの族に関係するところの一員でないとなかなか使えない。だから、ロビイング制度をどんな風にしていくかという議論は今後いろいろ出てくると思う。ただ、一つ言えることは、政府の使い勝手がグローバライゼーションでは大変重要になってくるということだ。(42:05)

なぜか。今のグローバライゼーションでは、社会主義国家が主戦場となることが多い。すると進出した先で政府とぶつかるケースが必ず出てくる。しかし民間企業は政府に勝てないから、自国政府を動かすしかない。だから、ヨーロッパにもロビイング制度があるわけだけれど、欧米企業は社会主義国家で政府といろいろぶつかったとき、自分たちの政府に働きかける。それでなんとか事業戦略を遂行するわけだ。ところが日本企業は政府の協力をなかなか得られない。政府の使い勝手が悪い。しっかりしたロビイング制度がないこともその一因だと僕は思う。「グローバライゼーション2.0」が本格的に進むなかで日本企業の競争力を高めるのなら、どの企業でも使えるロビイング制度がすごく重要になる。最近は日本政府が動いてくれないからアメリカ政府を動かそうと考えるような日本企業もあるけれど、やはり企業の国際競争力という視点でロビイング制度の検討が重要になると思う。(43:24)

嶋:今のお話にすごく賛成だ。我々はスプリント買収に成功したけれど、米国市場4番手のTモバイルUSのときはそのときほどの動きにならなかった。形式上、この動きについて我々は一度も発言していないけれども。ただ、とにかくスプリントのときは政府が、ある意味で「オールジャパンで応援する」といったことを言ってくれた。ときの総務大臣にルース大使が表敬訪問されたときも、大臣が「民-民の話であるけれど、ぜひ円滑に進めて欲しい」という話をしてくださっている。そのあと政権交代もあったけれど、次の新藤総務大臣にも引継ぎがあったためか、ルース大使が表敬訪問に来られたときは同様のお話をしてくださった。これは相当に影響したと私は思う。(44:51)

しかし、私がちょうど今年の3月に辞めてしまったこともあり、TモバイルUSのときは当社もそこまで動いていないと思う。良いか悪いかは別として、今は新しい国家資本主義的な動きを各国がしている。現実としてそれを実感していたから、私もそういう動きをした。それで、トヨタのときは相当揉めてから当時の前原国土交通大臣が出られたけれど、我々のときは出る前に言っていただいたから円滑に進んだ。これは私の体験だ。だから田中さんがおっしゃったように、これから日本企業が伸びていくためには政府にもその辺を考えて欲しい。日本政府は「民間にはあまり口を出さないほうがいい」といったことを言うけれど、今は違うと感じている。アメリカだって大統領がどんどん行っている。その辺をよく考えて、コミュニケーション戦略は外国で考えていただいたほうがいいというのが、体験から来ている私の提言になる。(45:52)

瀬尾:では、そろそろ会場からの質問を受けたいと思う。(47:04)

会場(丹羽 多聞アンドリウ 株式会社BS-TBS コンテンツ推進局局長 兼 事業部長 兼 統括プロデューサー):ファンづくり等を目的とした平時のコミュニケーション戦略と、危機のコミュニケーション戦略に共通点はあるのだろうか。たとえば企業スキャンダル等の危機に陥ったときのため、普段からどういったコミュニケーション戦略を取っておくべきかを教えていただきたい。(47:26)

茂木:私どもに関して言えば、幸いにしてスキャンダルというところまで行ったことはない。ただ、これは情緒的な話かもしれないけれど、やはり「この会社があって良かった」と言っていただけるような、地域あるいは地球社会にとって存在意義のある会社になることが重要だと思う。「そんな情緒的な…」と思われる方が多いけれど、商品を売って商品のファンをつくること自体はマーケティング戦略でできる。ただ、有事の状況になったとき、それでも会社を最終的に信頼していただいて、商品を買い続けていただけるかどうか。そこは会社のファンになっていただいているかどうかにかかっていると思う。その意味では、企業が普段からどういった企業姿勢を見せているかがすごく重要になると、私自身は感じている。(47:57)

田中:私はホンダにいた7年間、一貫していた姿勢がある。まさに茂木さんがおっしゃっていた地域社会における存在意義の部分だ。大切なのはそれを貫き通すトップの姿勢だと思う。当時健在だった本田宗一郎さんは1989年、日本人として初めて米国自動車産業の殿堂入りを果たした。当時は84歳でいらしたけれど、それで本人が、最も反日的な街であるデトロイトに来た。で、街にはコボセンターという大きなホールがあるのだけれど、本田さんはそこで1200~1300人の、アメリカで最も反日的な観衆を前にスピーチをなさった。もちろん英語なんて話せない。分かっているのはハローとサンキューだけ。それでどういう話をするのかなと思っていたら、開口一番「サンキュー!!」って大声で叫んだ。そこから日本語で話すのだけれど、どういう話かというと「アメリカの皆さん、ありがとうございます」から始まる。当時のホンダは…、これは彼の言葉ですよ? 「当時のホンダは日本から追い出されていた」と。これは当時実際にあった通産省との軋轢を意味しているのだけれど、とにかく日本から追い出されたホンダはアメリカに受け入れてもらえたからこそ4輪メーカーとして自立することができた。「だからアメリカの皆さん、ありがとう」というのがスピーチの趣旨だった。で、最後も「サンキュー、サンキュー、サンキュー!」と。(49:11)

それでスピーチが終わると千数百人のスタンディングオベーション。これは何を象徴しているのかというと、先ほど茂木さんがおっしゃった通りだ。商品のファンづくりも当然大事だけれど、商品の背後にある風景、つまり誰がつくっているのかというところでも共感を生んでいくことが大切になる。この点、僕がホンダにいた7年間のなかで感じていたのはトップである本田宗一郎の、「我々はアメリカという他所の国で仕事をさせてもらっているんだ」という思想だ。「だからアメリカに貢献しなきゃいけないんだ」と。存在意義をしっかり持って、「アメリカのためにやらなきゃ」という発想が「サンキュー」という言葉になって出たのだと思う。当時のホンダは恐らくキッコーマンさんからも多くの示唆をいただいたと思うけれど、とにかくアメリカで存在意義のある企業になるためには何をすべきかについて、本田宗一郎はじめ上の人間から全員徹底していた。日頃からそうした企業姿勢を示して、商品の背後にある企業の風景をきちんとつくっておくことがクライシスでも大きく役立つ。(51:12)

2009年に起きたトヨタさんのリコールに関しても同じことが言える。あのときは豊田章男社長が公聴会に来て、そこからガラっと変わった。アメリカ人が見ていたトヨタの背後に、それまでと違った風景が見えた。きっかけは、豊田章男さんが公聴会ではっきり謝ったことだ。すごく日本的な発想だったと思う。本田宗一郎も、そこで仕事を「させてもらっている」という発想からありがとうという言葉が出ていた。豊田章男さんの言葉も同じで、「お客さまに迷惑をかけてしまった」という一点で真剣な謝罪から始まった。そして、トヨタが2010年のそのときまで培ってきたいろいろな関係性があったからこそ、その一言が生きたわけだ。平時の関係性がなければ単なる言葉だけの謝罪にしか受け取られない。だから日頃からコミュニケーションを欠かさず、進出したそれぞれのマーケットで存在意義ある立ち位置をつくっていくことが重要なのだと思う。(52:31)

瀬尾:僕は『フライデー』や『週刊現代』で企業のスキャンダルもたくさん取材していたけれど、企業として最悪の対応は嘘をつくこと。あとで必ずばれる。で、次にまずいのは黙っていることと、無視すること。一番いいのはオープンにしてしまうことだ。材料を出しつくしてしまう。芸能人の話に置き換えると分かりやすい。最近の芸能人は「熱愛報道」みたいなことがあると、「いいお友達です」と答える。これが一番いい回答。友達であることは認めるけれど、深い関係かどうかは誰も分からないから、そこは認めない。そういう対応をしていたら、芸能人の誰と誰が付き合っているかといった話はもうスキャンダルにならなくなった。そういう情報に価値がなくなってきた。芸能人というのもある種の商品ブランドだけれど、彼らにとってそのブランドを守る最大の手段は情報をオープンにすることだ。取材する側から見るとそういう風に感じる。(53:57)

会場(神原弥奈子氏:株式会社ニューズ・ツー・ユー代表取締役会長):企業の寿命は個人よりも長い。そうした歴史のなかで企業トップが替わるときのコミュニケーション戦略に関して、何かお考えがあればお聞きしたい。また、ソフトバンクは孫さんという非常に個性ある創業社長がいらっしゃるわけだけれども、次の世代へのコミュニケーション戦略として嶋さんが何かご準備なさっていたことはあるだろうか。(55:39)

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嶋:去年スプリントを訪れた孫は、同社の幹部が集まった場所で「我々は300年続く企業をつくる」と言った。アメリカ自体が建国して300年経っていないのに、そういう話をした。ただ、我々はそれを本気で考えていた。私が社長室長だった当時は…、後任も同様に言われていると思うけれど、孫にはローマとモンゴルの歴史を研究するようによく言われていた。「ローマはシーザーが広げた領土をその後どうしていったか」「チンギス・ハーン亡き後のモンゴルはどうなっていったか」といった話だ。(56:22)

で、ソフトバンクの場合、トップ交代時が一番の発展期でもあるしピンチでもあると認識している。そこで何をしているかというと、創業30周年で孫正義の後継者を教育するための「ソフトバンクアカデミア」というものをつくった。当時の社員数は2万人ほどだったけれど、そのなかから200人と、そして外部からも…、企業にいたままでいいのだけれども、外部からも100人を呼んだ。それで3ヶ月に1回ほど、孫の話を聞く。そして、新事業の企画をプレゼンする。良いものがあれば孫の前でプレゼンするし、良ければそれを実現させる。そうした競争のなかで成長していった人間が、いずれ孫の後継者候補になるというシステムをつくった。(57:30)

実は、ソフトバンクの社長室長というのは時代ごとに異なる任務を持っている。かつて社長室長を務めた方々を見てみると、まずはヤフーを始めた井上さん。インターネットの時代が始まるとともにヤフーを立ち上げ、その社長になった方だ。で、次が三木雄信さん。彼はヤフーBBをやっていた。そのあとが私になる。私は恐らく、携帯電話事業を始めて、たとえば総務省ともお付き合いをしながら伸びていく時代の社長室長だったと思う。ちなみに私が社長室長になったときは売上高1.1兆円で営業利益は赤字だった。で、この仕事を卒業するときは売上高が6.7兆円でおよそ6倍。営業利益は1兆に達した。ただ、私の仕事はあくまで国内のものだ。これからは世界に行かなければいけないから、それに相応しい人間でないといけないと思っていた。(58:35)

何が言いたいかというと、私の後継となる社長室長にはソフトバンクアカデミア1期生を指名した。私のように8年間やる必要はない。2年ぐらいでいい。そうすると8年で4人の社長室長が4人出る。このポジションは孫にとって最も教育しやすいと思う。今は大変だそうだ(笑)。シリコンバレーにいる孫から夜中の1時頃に電話がかかってきて、「今、朝食をとりながらミーティングをしている。聞いとれ」と言われるらしい(会場笑)。それで2時頃まで聞いていると、「ということで昼までにまとめておくように」と言われて電話を切られる(笑)。それで、「嶋さんのときはどうでした?」と聞いてくるから、「いや、私は国内だったから少なくとも時差はなかった」って(笑)。とにかく、そんな風に新たな後継者を育てている。彼がそうなるかは分からないし、ほかの人が出てくるかもしれないけれど。ちなみに彼は現在47歳。三井物産から来た人材だ。そういう人がいるのでご期待ください。(59:51)

茂木:私どもが醸造をはじめたのは17世紀なので三百数十年の歴史になる。で、醸造家が8家集まって現在のキッコーマンをつくったのは1917年。で、当時は野田醤油株式会社という社名だったのだけれど、そのときに「合併の訓示」というものをつくった。「会社がどういったフィロソフィーに則って運営されていくべきか」というもので、実はそこに普遍的でいいことがたくさん書いてある。当然、経営という視点で見れば社長が変わる際は折々の経営環境に合わせて新しいことをしていかないと企業は死んでしまう。ただ、その根底に流れる価値観は、1917年に醸成されたものを今でも引き継いでいるというのが私どものやり方になる。(01:01:25)

ちなみに、先ほど嶋さんがローマ帝国の歴史というお話をなさっていたけれど、意外と面白いのが世界の、長く続いている家の家訓。これ、日本のものだけを見てもいろいろと共通項があるけれど、たとえばユダヤ系のおうちであるとか、世界中に存在する同様の家訓を見比べてみても意外と同じことを言っている。「贅沢しちゃいかん」とか。もしかすると、そういうものも参考になるかもしれないと思った。(01:02:35)

会場(木村尚敬氏:株式会社経営共創基盤パートナー 取締役マネージングディレクター):キッコーマンさんやソフトバンクさんと違い、いわゆるサラリーマンの方が社長になった企業は有事のコミュニケーションで負けてしまうときがある。会見で事前にレクを行っても、マスコミの方からいろいろな質問が変化球で飛んでくるとつい負けてしまう経営者が結構いらっしゃる。武田薬品工業の長谷川会長のように有事でも堂々とお話ができる方はいらっしゃるが、どのようにしてそうした強いコミュニケーション力を、特に有事に備えて企業のなかに植え込んでいったらいいのだろう。(01:03:27)

田中:非常にいい質問だと思う。一言で表現すると、クライシスが起きたときに最も被害者意識を持つのがトップだ。大きな組織ほどそうなる(笑)。「俺!?なんで!?」って。だから、個別に名前を挙げると怒られてしまうけれど、「え!? あれほどの経営者がどうして?」というケースは多い。そこで重要なのは、その被害者意識をいかに当事者意識に転換するか。要するに覚悟していただければ、記者会見で広報が書いた読み上げ文も当事者意識で読むことができるし、質疑応答も同様の意識でできる。ただ、本当にこれができない。結局、そこでどのように覚悟させるかが大事なのだと思う。豊田章男社長は公聴会で覚悟ができていた。完全にギアをシフトさせていた。その前までの記者会見と見比べるとレベルがまったく違っている。結局、いかにトップの意識を被害者意識から当事者意識にギアチェンジできるかが鍵になると思う。(01:04:25)

で、そのためには組織論も不可欠になる。有事の体制論を日本企業はまだほとんど持っていない。平時にマーケットで戦うためのブランディングやマーケティングはいろいろ持っているけれど、有事に対応できる組織論をきちんと持っていない。組織論には基本的に三つの要素がある。嶋さんのほうからも少しご指摘があったけれど、まずはインテリジェンスから始まる。情報収集を行って空気を読む。で、その次に、「じゃあ、どういうメッセージを今出せばいいのか」。メッセージをつくるわけだ。そして、それを発信する。すべて発信でなく受信から始まる。そういう要素を組織的に揃えている会社が、日本にはあまりない。組織論としてはそういうことがある。ほとんどの日本企業は縦構造になっているから、何かあったときも情報が縦に上がってきて時間がかかるし、情報に色がついてしまう。だからトップに上がってきた時点で判断のための分析がなされておらず、判断できない。「じゃあ、どう発信するの?」と。今後はその辺の組織的な体制論を検討していく必要がある。特にグローバルに打って出て行けば365日有事になるので。(01:05:41)

それともうひとつ重要なのが、平時に何をしておくか。やっぱりトップのメッセージ性というか、ストーリーを明確につくっておく必要がある。特にサラリーマン社長の場合はそうだ。オーナー社長や(茂木氏と嶋氏を指して)お二方のところはそこが非常にしっかりできていると思うけれど、普通は調整役をしてきた方がトップであることが多く、それでいざというときに発信できない。だから、いかにその人のストーリーをいつくっていくか。どういうことかというと、「何をしたいのか」。中期計画を紐解いていくとだいたい何をしたいのかが分かるけれども、それを明確にビジョン化する。また、そのビジョンに、自分が今まで歩んできた道を再構成したうえで意味づける。そうして、「自分の過去と現在はこういうことで、だから今この立場でこのビジョンを追及している」と、今を語るようなストーリーをしっかりつくっておく必要がある。(01:07:11)

会場(大久保和孝氏:新日本有限責任監査法人シニアパートナー):日本にはすごく固有な空気のつくり方があると思う。まず、メディアの根拠なきバッシングがある。報道もバラエティ化して、事実に関係のない感想のようなものが世論をつくっていく。そこでどのように対応していけば良いのか。また、司法の構造も歪んでいる。たとえば最近は私の友人でもある美濃加茂市長が贈収賄で逮捕されたが、明らかに検察がおかしくて、今度は裁判官が検察側の承認喚問を要求するという異常な事態になっている。しかし、今なお中日新聞は市長を被告人扱いしている状態だ。こういったことは企業にとっても他人事ではないと思う。実際にそうなればブランドはどんどん毀損されて、事実と関係ないところで厳しい状況に追い込まれる。そうした状況において、どのように世論と立ち向かうべきだとお考えだろうか。(01:08:37)

会場(矢定俊博氏:新日本有限責任監査法人 シニアパートナー):海外に飛び出した企業が現地で存在意義をアピールしていくために、日本側とはどのようにコミュニケートしていけば良いとお考えだろうか。また、現地トップやその参謀は現地の人々にするほうがいいのか、あるいは日本からの駐在員にするほうがいいのかというのも教えていただきたい。(01:10:34)

瀬尾:メディアに関してお話ししたい。やはりマスコミがメディアスクラムを組んで、テレビも雑誌も今話題になっている話に乗ってしまう。あと、情報ソースに関して申し上げると、新聞社は特にそうだけれども、たとえば何かの取材をして「業界の情勢はこうだ」といった噂を聞いたら通常はそれをデスクに上げる。すると裏が取れているのかを聞かれるのだけれど、その裏とは霞ヶ関や警察といった役所の情報だ。役所に当たってみて「そうだ」と言われたら、それは事実として捉える。逆に言えば警察や霞ヶ関がくれる情報は真実として扱うのが日本のメディア独特のルールというか慣行になる。これは本当に変えなければいけない。今はその兆しとしていろいろなネット媒体が出てきたし、ブログやソーシャルメディアもあるからそこで冷静な議論ができるようになりつつあると思う。メディアがようやくチェックされる時代になった。今までメディアは権力をチェックすると称していたけれども自分たちはチェックされていなかった。でも、今はその意味では本当の緊張感が出てきている。それでいい方向に行って欲しいと思うし、そうしたソーシャルメディア等はどんどん活用すべきだと思う。(01:11:19)

田中:基本的にはご指摘の通りで、今は周囲から勝手に「塗られる」時代だ。それが事業戦略に影響してしまうという、かなり危険な状況になっている。でも、瀬尾さんがおっしゃったようにメディアのチャネルが多様化していて、メディア自身も世論に晒される時代になった。では、そこで企業側はどうするか。先ほど「空気を読む」というお話をしたけれど、それは相手のメッセージを読み取ることじゃない。自分がどう見られているかをまず知ることだ。それが分かってきたら、「あ、ここは手を付けておかないと」という部分が見えてくる。そこから空気をつくるという作業に入っていける。だから、あらゆるステークホルダーから自分たちがどう見られているのかを察知する力が不可欠になるのだと思う。そこで問題があれば、それを解決するためにどんな空気を新たにつくらなければいけないのかという発想をする。ただ、日本企業はそれを組織論に落としていない。平時の組織論は十分に持っているが、いざ有事になったときにどうするかという組織論が今は不在だ。その組織論をしっかり持つべきだと思う。(01:13:34)

あと、もうひとつはやっぱりトップの意識だと思う。今はとにかく発信することが危険な時代になった。だから発信する前に空気を呼んで、「これを出して大丈夫?」ということをしっかり見極める必要がある。今はこちらが発信したものの99%が誤解されるか曲解される世界だと思って欲しい。想定外の世界だ。それほど、現在の企業経営をとりまくコミュニケーション環境は厳しい。そうした視点をトップが持って、きちんとした組織論に落として進めていくことが重要だと思う。(01:15:18)

瀬尾:最後に茂木さんと嶋さんにも一言ずつお願いしたい。(01:15:55)

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茂木:今のご質問に関連して申し上げたい。取り扱う商品やサービスによっても違うと思うけれど、私どもは醤油という商品を扱っている。だから現地化はしているが、日本で昔からやっているというそのヘリテージというか、歴史のようなものはマーケティングのどこかで使えるのではないかと思う。一方、アメリカでの経営を考えると、私どもは製造会社と販売会社があるものの、製造のほうはまだまだ。やはり日本で新しいノウハウや技術を開発して向こうに持っていくことがあるので、それを完全にアメリカ人に移植するのは難しい状態だ。ただ、販売に関してはアメリカのお客さまにアメリカでつくった商品を販売しているわけだ。だから、フィロソフィーをきちんとシェアできるようなトップマネジメントがいれば、当然現地化で問題ないと考えている。(01:16:03)

嶋:「先達はあらまほしき」。私どもはアメリカに進出する際、トヨタさんにずいぶん教えていただいた。キッコーマンさんのことをもう少し早く知っていたらと思う(笑)。いずれにせよ、「愚者は自分の経験から学び、賢者は他人の経験から学ぶ」とはよく言われる。今日もそういう場だったと思う。今後も、キッコーマンさんにもいろいろ教えていただきつつ、アメリカでの事業をさらに進めていきたい。(01:17:08)

瀬尾:御三方に拍手をお願いします。有難うございました(会場拍手)。(01:17:45)

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