多様性は成長戦略、女性活用はその1合目 -『2020年30%』に向けて 

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『2020年30%』に向けて ~女性のさらなる活躍推進~ 前編

40951 岡島 悦子氏

岡島悦子氏(以下、敬称略):本セッションのテーマは「2020年30%に向けて」。いわゆる「2030(ニイマルサンマル)」ということで、「女性管理職比率を2020年までに30%へ高める」との目標が掲げられ、今はアベノミクスのなかでもいろいろな活動が行われている。そこで今回はパネリストの御三方とともに女性のさらなる活躍推進をテーマに議論したい。まず、会場にお集まりいただいた経営者の皆さまにいくつか質問してみよう。ご自身の会社に女性活躍推進の専門部署があるという方はどれほどいらっしゃるだろう(会場2~3割挙手)。では、管理職割合の目標値を定めている会社さんはどうだろおうか(会場1割ほど挙手)。ありがとうございます。(01:40)

さて、森先生は大臣在任中も女性の活躍推進を掲げてさまざまな施策を進めていただいていた。また、フクシマさんも経済同友会(以下、同友会)で「2030」のイニシアティブを進めるためのリーダーシップをとり、企業に各種アドバイスをしていらっしゃる。そして西村さんは、骨太な女性活躍推進プログラムを進めているキリンホールディングスさんの経営に携わっていらっしゃる。西村さんは経団連でも同様のイニシアティブもとっていらっしゃるとのことだ。で、私自身はグロービス大学院の教授と自分の会社の経営を行っている。元々は経営チームのコンサルティングを行っていて、今回のテーマに関しても、これまで50社以上の企業に赴いて講演をさせていただいている。また、およそ5000人の女性とワークショップを行ったりもしていて、今は「ダイバーシティおばさん」として世の中で相当使い込まれている感じだ。(03:01)

そんな4人で進めたいが、今日は経営者会議ということで、企業、個人、そして社会インフラという各側面のなかでもとりわけ企業の側面に話を絞っていきたい。また、皆さまには釈迦に説法となるけれど、議論はなるべくCSR側へ振らないようにしたいと思う。女性の人権といった話ではまったくない。企業の成長戦略としてどのように組織OSをバージョンアップするかという議論のなかで、多様性の推進が出てくるということだと思う。従って、今日は「イノベーションを起こすための、多様性を受容する組織開発」といったところに論点を置いて議論を進めていこう。(04:29)

で、現在はどうかというと、同友会さんは2012年、早々に冒頭の目標を掲げた。また、2013年9月の国連総会でも安倍さんが「2030」を国際公約として発表している。けれども、世界経済フォーラムが先日発表した「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」によると、日本は残念ながら142か国中なんと104位。ここ数年は1年で1位ずつ順位をあげている程度だ。統計の母集団が132カ国から142カ国に広がっているし、インデックスが結果指数なので施策の効果が少し遅れてやってくるということもあると思うが、その辺はのちほどフクシマさんにもお話しいただけると思う。なお、本セッションでは最終的に「ダイバーシティ3.0」といった話にまで行けるといいなと思っている。「女性の活用を」とばかり言うのでなく、「多様性は成長戦略であって、女性活用はその1合目だよね」と。そのあとで、中途の方や若手、あるいはシニアや外国人の方々の活用といった、いろいろな話に入って行けたらと思っている。では、まずフクシマさんに「2030」の進捗を伺いたい。今は3回目のアンケート集計中と伺っているが。(05:28)

40952 橘・フクシマ・咲江氏

橘・フクシマ・咲江氏(以下、敬称略):同友会は、実は2012年5月の時点で本セッションのテーマとなる目標を掲げた。「政府に言われるのではなく民間から積極的にやっていこう」と。それで、今は同友会メンバーの経営者全員がこれにコミットしている状態だ。これを掲げたときはIMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事がちょうど日本へいらしていて、我々の目標を紹介したら大きな関心を持ってくださった。だから、私は同友会でも、「すでに世界に宣言した行動目標です」と申し上げている。これは、基本的には企業が率先して達成するもの。あとから政府にも後押しをしていただいたけれども、経営者自身が目標達成に向けて努力することを前面に出している。だからトップのイニシアティブが大変重要だ。まずは目標値を自ら掲げて、その結果を積極的に公表していく。そのうえで同友会メンバーは、「これは経営戦略である」という自らの意識改革をするということでコミットしている。(07:45)

とはいえ、言い出しっぺの同友会も責任を持ちましょうということで、現在は2つのフォローアップを行っている。そのひとつが6か月間の管理職育成プログラム。部長以上の方々23名ほどお集まりいただいている。その内訳は男性4割女性6割で、今は3サイクル目に入った。3週間に1度お集まりいただいて経営者の話を聞いたのち、皆さまで議論していただいている。このプログラムは非常に良かった。このプログラムでは最後に、ご自身を社長や部長の立場に置きかえ、それぞれ意思表示していただくということをしている。ただ、当初は自分の会社にシニアな女性がいないため、トップに女性を活用するよう言われてもどうしていいか分からないと言う執行役員の方もいた。「でも、ここで初めて他社の優秀な女性に接して、彼女たちの優秀さが分かったし、どうすればいいかも分かった。すごく良かったです」と、参加者の皆さまに言っていただいている。我が意を得たりということで今は進んでいる状態だ。(09:25)

そして、2つ目のフォローアップがアンケート集計になる。目的は、皆さんに現在の立ち位置を理解していただくこと。他社と比較して自分たちがどの辺にいるかを理解していただく。また、情報を共有することで他社がどういった施策を打っているかも知っていただきたいと考えている。で、その結果としては1年間で変化があった。女性役員の数というと皆さんもすぐにご想像がつくと思けれど、最初の年は執行役も含めて0.8%。標準より少し低い状態だった。それが1年で1.0%になった。これが大きな変化かどうかは議論があると思うけれど、3年目の今年はもう少し上がっているのではないかと思う。まだ数字を見ていないが、期待している。(10:52)

ただ、実は社外役員で人数を合わせているところもある。社外取締役の割合は初年度の4.5%から翌年には6.6%となった。特に興味深いのは製造業でその割合が高い点だ。初年度の7.5%が翌年は8.0%に増えている。一方で非製造業は初年度3.9%が翌年に5.9%。製造業のほうが社外役員の女性登用は多い。で、ここに内部の執行役を含めると残念ながらコンマ数%と、大変寂しい数字になる。ただ、もう一方では興味深い数字もある。冒頭の質問では数名しか手を挙げていらっしゃらなかったけれど、実は目標値を設定した会社の割合が大きく伸びている。初年度は5.1%だったが翌年は24.1%。「検討したい」という企業も含めると37.3%から55.0%にまで増えた。先日、ちょうど今年の細かい施策を60社分見たのだけれど、そこにも「目標値の設定なんてもう当たり前」という方向性がはっきり出てきた。以前はそこでかなり抵抗感があったのだけれど、「やっぱり、やるならそのぐらいやらないとダメだよね」という認識が出てきたのかなと感じている。(11:47)

岡島:私もマルイさんとアステラス製薬さんの社外取締役を今年からやっていて、それ以外にもたくさんのお話をいただいている。ただ、私がやっているところのお話ではないけれど、現実には社外取締役で数合わせをしていこうという会社さんも多いと思う。内部役員もこれから増えていきそうな感じだろうか。(13:24)

フクシマ:意思はおありだと思う。ただ、社内から上げると言っても、たとえば部長さんを突然取締役にするわけにもいかず、なんと言っても数が少ない。(13:52)

岡島:「まずは管理職の母集団を大きくしなければ」と。(14:03)

フクシマ:そう。それで採用を3~4割に増やしたという企業が、ぽつぽつとではあるけれども出てきているようだ。(14:07)

岡島:ポイントは数値目標や見える化だと感じた。森さんが大臣になってからは見える化もすごく加速したし、ホームページ等で関連情報を公開するといった行動も出てきた。また、森さんには安倍総理をまき込んでいただくという点で力強いリーダーシップを発揮していただいたとも感じている。(14:14)

40953 森 まさこ氏

森まさこ氏(以下、敬称略):フクシマさんが「トップのコミットメント」とおっしゃっていた通りだ。今、総理は「(大切なのは)女性の活躍なんだ」と、国内でも国外でも地方も、どこでも徹底しておっしゃっている。それで、海外でも国内でも、「あ、これからは女性が活躍できる時代になるんだ」という女性の自信につながったと思う。ご存知の通り、女性の活躍推進は女性のためにやるのではない。企業の収益向上と経済全体の成長、そして国の持続性確保を目的として行うものだ。それで、とにかくトップが「女性の活躍推進をやるんだ」と言い続けることで、すべての指標が向上している。(14:52)

たとえば世代別労働力率の推移を見てみよう。今、子育て期となる25~44歳の女性の6割は、第一子を産んだときに会社を辞めてしまうというM字カーブが問題になっている。しかし、そうした女性たちも安倍総理が言い出した途端、ほぼ1年で82万人も働き出した。これは大きな成果だ。もちろん、彼女たちの就労を助けるために保育園の数も確保している。待機児童の受け皿に関してはこれまでの2~3万人分から、足元ではおよそ20万人分にまで増やした。保育園の箱も人も、そして質も向上させたうえで、それらすべてに財源を付けている。(15:48)

ただ、そうした政策も各種あるけれど、やはり大切なのは総理がまず高らかに言うことと、もうひとつが見える化だと思う。国や地方自治体、あるいは企業さんについても、やっていることをすべて透明化していく。先日お会いした、あるオーストラリア企業の社長さんも、「最も効果的な政策は見える化だ」とおっしゃっていた。私がいた内閣府でも男女共同参画局のウェブサイトに見える化のページをつくっている。皆さんも載せてください。企業名を出したうえで女性の従業員数や管理職比率、そして男性の育児休業取得率といった数字をすべて出している。これは任意だが、現在は上場企業の33.5%となる1191社が載せていて、毎日その数は増えている。(16:43)

これを始めたときは内閣府の官僚が全員反対した。「大臣、止めてください」と。日本企業は皆恥ずかしいと思っているんだから、見える化なんて誰もやりたがらない。女性管理職の数字は世界的に見て本当に少ないし、男性の育児休業取得率もほとんどの企業が0%。「誰が載せるだろうか」と。「誰も載せないような政策は止めてください。大臣も安倍総理も恥をかくし内閣にも傷がつきます」と言われた。そんな絶対反対という嵐のなかでも、「やるんじゃあ!」と言って進めたら、これほどたくさんの企業が載せた。そして、載せた企業はすべて株価や収益率が上がっている。これは世界の常識だ。女性の活躍推進をしている企業は株主資本利益率にせよ売上高利益率にせよ投下資本利益率にせよ、すべての経営指標が良い方向へ動く。やはり見える化という最初の1歩が最も大事なのだと思う。(17:49)

岡島:同じ業界のなかで、「あそこもやっているのに」といった、ビアプレッシャーのようなものがあるのだろうか。(18:58)

森:競争性の原理が働いたのだと思う。で、もうここまで来たのなら次は義務化ということで、有価証券報告書への女性役員比率記載を翌年4月から義務化するよう制度化した。また、今度の臨時国会には「女性活躍推進法」も提出していて、これは海外から注目されている。たしか昨日、その第1回目となる趣旨説明と質疑が衆議院で行われたと思う。もちろん、国と地方自治体にもより強い義務付けを課していく。そのうえで、企業の皆さんにはいくつかの指標から選択していただいて、その指標について見える化をしていただくという形だ。そうして、ビフォーアフターで投資家の皆さま、さらには就職する学生や消費者の皆さまにも見えるようにしていく。(19:17)

フクシマ:大臣がおっしゃった男性の育児休暇取得率も大事な指標だ。同友会のアンケートでも3.5%から7.5%と、1年で倍に伸びている。また、その目標値を定めた企業も5.2%から8.1%となり、「設定していないが検討したい」も含めると約4割に達している。そして今回、施策を60社ほど見たなかで言うと、それを100%達成した会社が2社、同20~80%の会社が4社あった。こちらもだいぶ進んでいる。(20:33)

岡島:すごくいいと思う。女性活躍推進の話になると、どうも「女の敵は女で、おじさんたちは高みの見物」といった構図になりやすいので。また、それによって置いてきぼりになってしまったような気持ちになっていた若手男性社員もモチベーションを上げると思う。男性の育児休暇取得については周囲の理解を得るのが難しい企業さんも多い。しかし、そこが見える化されると、短時間で生産性の高い働き方やフレキシビリティある働き方とはどういったものかという議論に向かっていくのではないか。続いて西村さん。私もキリングループさんのお手伝いは相当させていただいているが、かなり骨太な女性活躍推進・多様性推進のプログラムに取り組んでおられる。何よりホールディングスの三宅社長が「多様性推進は成長戦略だ」と言い切っていらっしゃるのが素晴らしいと思う。そこで現在の進捗を、事例も交えてお話しいただきたい。(21:17)

40954 西村 慶介氏

西村慶介氏(以下、敬称略):「2030」という数字に関して言うと、とてもその領域に達していないのが当社の現状だから、自慢話ができるようなことではないと思っている。ただ、私どもは2007年から、女性の活躍推進については会社としてかなりコミットしてきた。当時は、社長が「女性活用のアファーマティブアクションにコミットする」と宣言して、それに呼応する形で女性社員が全国から集結したという流れになる。そして「キリンウィメンズネットワーク」(以下KWN)という組織が自主的に立ち上げられた。これが現在も女性活躍の大きな推進母体になっている。もちろん会社としての各種施策もある。ただ、ボトムアップで女性社員自らが自分たちのキャリアを考え、互いにアドバイスをしていくような草の根的活動もセットでないと、実際に女性の意識や活躍の場は広がっていかないと感じている。私どもの取り組みではそこが特徴かと思う。(22:44)

ご存知の通り、私どもはビールや飲料あるいは食品を製造・販売していて、お客さまの半数以上が女性になる。また、売場でも実際にどなたが商品を取り上げてくれているかというと、圧倒的に主婦の方々。そうした意味もあって、我々にとって女性の活躍推進というのは本当に正面から向き合わなければいけないテーマだと考えている。たとえば、これまで男性視点で行われていた商品開発も今は少しずつ限界に行き着いている。そこで女性の視点を開発やマーケティング戦略に取り入れていくというのは非常に重要な考え方だ。その意味でも女性活用はまさに成長戦略であって、企業競争力を高めるためになくてはならない施策だと考えている。(24:05)

たとえば今夏は「氷結® アイススムージー」という商品を、主に野球場で発売した。シャーベット状になっていて、それを吸いながら野球を観ましょうという商品だ。これは女性リーダーの下で発案・開発されたもので、パッケージも女性を対象にしている。また、特にビールの苦味が得意でない女性には、本商品のようなRTD (Ready to Drink)という、少し甘みのあるお酒が大変好評だ。そこで、夏場、しかも人前で飲んでいてもあまり格好悪くないといった商品が、女性リーダーの下で開発された。(25:34)

それから、「キリンフリー」。これも梶原さんという女性が開発した商品だ。ただ、彼女が目指していたのはヒット商品をつくりあげることでなく、世の中のためになる商品をつくることだった。そうした発想から商品コンセプトを練り上げた結果、アルコールがまったく入っていないビールのような味のする飲料が生まれた。これ、当初は「飲酒運転による悲惨な事故を無くしたい」という彼女の思いから開発された商品だ。ところが、つくってみると意外とそれ以外にもニーズの広がりがある。妊娠中あるいは授乳中の女性でもビールが飲みたいというときはある。そうした方々にとっては本当に朗報というか、腰が抜けるほど喜んでいただいた商品だ。あるいは病気でアルコールを接種できないお客さまにも大きく広がっていった。結果的には当初の狙いを大きく上回るお客さまの層を勝ち得た商品と言える。(26:21)

このほか、「世界のKitchenから」という、キリンビバレッジが出している商品もある。コンセプトは、「世界のお母さん方が、おいしいものにさらに一手間をかけて、家族のためにつくった伝統的な飲料」というものだ。これも女性視点から生まれた。そんな風にして女性の視点が商品開発に生かされ、大成功を収めた事例がある。やはり女性の活躍や活用は企業にとって必須のテーマだと思う。(27:33)

そうしたなか、我々は2013年に「KWN2021」という女性活躍推進計画を定め、そこで具体的な数値目標も掲げた。ただ、現時点では管理職に占める女性割合も4.2%=100人に過ぎない。これを2021年までにおよそ3倍となる12%=300人にするというのは、先ほどの「2030」と比較してもまだまったく足りていない。ただ、まずはこの辺を現実的目標にして達成していこうということで今はやっている。(28:21)

その育成方針に関してお話しすると、特に若手女性社員のキャリアアップを会社として積極的にやっていこうと考えている。女性には出産や育児といったライフイベントがある。育児休暇制度等を使ったのちに会社へ戻ってきたとき、本人もなんとなく自信なさげになってしまう。また、彼女たちを受け入れる側のリーダーも「大丈夫かな」という不安感を持ってしまう。これをなんとか払拭しようということで、今は男性よりも早く、いろいろなキャリアを積ませようと考えている。同じようなチャンスがあって同じような能力なら、まずは女性のほうに一皮むける機会を与え、自信を付けてからライフイベントに入ってもらう。そうすれば戻ってきたときも以前の経験から自信を持つことができるし、受け入れるリーダーとしても実績という意味で安心感を持つためだ。(29:01)

岡島:すごく効くと思う。女性とのワークショップで必ず出てくるのは、女性自身が管理職になりたくないという話だ。また、ロールモデルがいないという課題もある。で、それ自体はよくある言い訳だと思うけれど、キリンさんのように20代で3つぐらいのキャリアを経験させるとその状況も変わってくる。育休中に人員補充が行われたため元の部署に戻れず、復帰後、初めての部署に配属されてしまうというケースは多い。それで辞めてしまう方もいる。しかし、20代で営業や本社勤務といった3つほどの場を経験していると、変化にも比較的適用しやすくなる。今、こうした施策を進めておられる企業さんは多いと思うが、キリンさんも積極的に推進していらっしゃると。(30:15)

西村:そういう形になる。ただ、先ほど申し上げた通り、とはいえ女性活躍推進はトップダウンとボトムアップがかみ合わないとなかなか進まないという現実がある。従って、会社側ではトップダウンの施策として、たとえば制度的な整備や管理職を対象にした研修も行っていく。また、前倒しのキャリア開発に関しては、女性社員1人ひとりに対応した個別のキャリア計画作成をリーダーに義務づけている。毎年の面談で女性社員とリーダーが話し合い、彼女たちの将来や育成計画をともに考えていく。一方、ボトムアップとしては、女性社員が中心になって運営している自主的組織がいろいろな活動を行っている。当然、こちらにも人事部が支援をしている。そこで企画・発案された各種イベントは会社の勤務時間内として認めるといったことも行いながら、今は活動内容もどんどん進化してきている状況だ。(31:22)

岡島:経営層のコミットメント、女性からのボトムアップによる意識改革、そして森大臣がよくおっしゃっている「育ボス」という、女性の上司となる方々の意識改革。その三位一体でやっていかないと難しいのだと思う。キリンさんは女性のキャリアフォーラムに、そうした育ボスの方々もかなり巻き込んでいると思う。(32:34)

西村:基本的には、そうしたセミナーに彼女たちのボスもセットで出席する。(33:16)

岡島:今年のキャリアフォーラムには三宅社長はじめ役員の皆さま方もいらしていたし、育ボス200人と女性400人を巻き込む大々的なものだった。(33:23)

森:政府でも育ボス研修をやる会社には補助金を出しているし、そうした研修に講師を派遣・推薦したりもしている。育ボスというのは中間管理職にあたる方々だ。育ボス研修ではそうした課長さんや部長さんだけを集め、女性社員の育成や男性社員の育児休暇取得をマネージするための方法論を学ぶ研修になる。(33:40)

岡島:特に多いのは、「体力的にきついのでは?」「いつか辞めてしまうのでは?」と考えてしまって、なかなか女性社員に機会をあげないケースだ。しかし、先ほど西村さんがおっしゃっていた通り、早めに機会をあげるほうが将来的には良いこともあるわけで、そうしたことを育ボス研修でやっておられるのかなと思う。(34:19)

森:そのほうが会社にとっていい。せっかく育てた社員が辞めてしまうことほど企業にとって大きな損失はない。なぜそれほど面倒なことをするのかと思うかもしれないけれど、そうやって育てたうえで働き続けてもらったほうが会社にとってもプラスだから。彼女たちは大変なパフォーマンスを出す。男性も含め、育児を経験した人間はどんな業種でも必ず会社に役立つ人材となる。育児を通して多様な視点を得るし、マネジメント能力や忍耐力、あるいはコミュニケーション能力も高まっているからだ。あとは会社をお留守にしていた期間の知識を会社のほうで少々フォローしてあげれば、ずっと会社にいた社員にとっては目から鱗のようなアイディアを出してくる。ですよね?(34:38)

西村:おっしゃる通りだと思う。(35:38)

岡島:「女性管理職の比率を増やそう」という話になると、どうしてもCSRやHRやPRといった、いわゆる「R職」に推進室等をつくりやすくなる。ただ、西村さんのお話にあったようなマーケティングや営業といった、お客さまに近いところで管理職が増えていくのはすごくいいと思う。同友会のほうではどうだろう。具体的な取り組みに関して何か良い事例はあるだろうか。差し支えない範囲でご紹介いただけたらと思う。(35:39)

フクシマ:今は業界によってかなり差が開きつつあるように思う。たとえば生保のように女性比率が大変高い業界では、非常に積極的な施策が進められている。日本生命保険さんは岡本会長ご自身が旗を振られて「育児休暇の取得率を1年で100%にします」と宣言なさったのち、去年、本当に達成された。他の生保さんでも、昔は比較的低かった女性の登用率がどんどん上がっているし、育児休暇取得率で100%を達成したところがほかにもある。(36:22)

あと、戻ってきたときのポジションはまったく変えないと決めている企業もある。その代わり、育休期間中のつなぎとして本人とのコミュニケーションをICTも活用しながら行っていく。会社でどういったことが起きているか、その人たちにも分かるようなコミュニケーションをとっているわけだ。また、上司の評価項目に「どれだけ女性を登用したか」という項目を入れていらっしゃる企業もある。たとえば5年以内に3人なり4人なり、部下の女性を上に引き上げるということにコミットして、それによって評価を変えている。そうした意味ではだいぶ進んできている気がする。(37:02)

それともうひとつ。去年と今年の差で最も強く印象に残っているのは、男女ともに業務効率をどのように高めていくかという部分で仕組みづくりがなされている点だ。この点に関して言うと、育児休暇を取得した男性によって制度が変更されていった事例がある。ある男性リーダーは今まで部下にいろいろな指示を出していて、きちんとコミュニケーションを取っているつもりだった。しかし、育休を実際に取ってみたら自分がどれほど情報をきちんと渡していなかったか、よく分かったという。だから、ある会社では育休から戻った方が部下とともに、「誰が休んでもお客さまに迷惑をかけないようなコミュニケーション方法ってあるんだろうか」ということを検討した。それで今は誰が突然休んでも分かるような仕組みにしたという。それが業務効率向上につながっていった。そんな風に、結果的には業務効率にフォーカスした施策を進めている会社もある。制度に関して言えば日本企業はすごく恵まれている。海外に行くとつとに思うのだけれど、「え!? 育児休暇が1年も!?」と、あちらの方にはびっくりされたりする。ただ、その運用ができていなかった。でも今は運用に加え、「なんのために?」と聞かれても、「業務効率を高めるためです」と言えるところまで話が進んでいる気がする。(38:06)

岡島:企業さんにお話を伺っていると、長時間労働をベースにした評価制度や働き方が、時短で働く方々にとってボトルネックになってしまっていると感じる。ただ、労働生産性の向上は性別に関わらず望ましいことだし、女性活躍推進の議論は労働生産性向上の議論とセットになると思う。今はその運用部分が制度に追いついていない。これは文化の話にもなると思うが、キリングループさんでその辺にフォーカスした文化活動というか、運用を根付かせるために行っていることは何かあるだろうか。(39:46)

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西村:おっしゃる通りで、制度的には多くの企業がほぼ整え終わっていると思う。あとは制度を使う側の意識。そこを本来の趣旨と合致させていくことが次の課題だ。従って、我々もキャリアフォーラムや研修で、フクシマさんがおっしゃったような業務効率を高めるための議論を行っている。で、この点について言うと、たしかに「子どもが生まれてから逆に仕事の効率が上がった」と、はっきりおっしゃる女性も増えている。そうした声を女性やリーダーのあいだで浸透させる必要があるのだと思う。まあ、やはりどうしても「会社に長くいたほうが勝ち」みたいな文化が現実にはまだある。従って、そこはたとえば国家制度の抜本的見直しも含め、時間は長いより短いほうが少なくともプラスだという文化や価値観を組織に浸透させていく必要がある。もちろん、それは会社としても社員個人としても向き合わなければいけない課題だと思う。(40:30)

岡島:私はマッキンゼーにいた頃、長々と働いていたら「君は本当に仕事ができないね」と言われて評価を落としたことがある。日本企業でもそうした部分が変わるといいなと思う。2人のお子様をお育てになっている森さんはどうお考えだろう。(41:57)

森:私も同じ経験がある。私は専業主婦であった2年間、海外で子育てをしていた。で、その頃は子どもをアメリカの小学校に通わせていたので、学校では外国人がうちの子どもだけだった。ただ、場所はワシントンD.C.だったからお母さんたちは全員キャリアウーマン。女性弁護士、女性医師、女性社長、女性官僚、女性政治家、等々。けれども保護者会は木曜日の4時に始まって、そこに親御さんも全員来る。ママもパパも来る。また、その学校には平日に親子遠足というものがあって、その日は1日バスに乗って隣のニュージャージー州まで行っていた。マイカーではないから、「先生、緊急事態です!」なんて電話がかかってきても隣の州だからすぐには戻れない。それなのにキャリアウーマンのママたちは全員来ていた。「おっかしいな~」と思ってママ友の1人に、「あなた、どうやって法律事務所抜け出してくるの? 私も弁護士だけど」と聞いたら、「雅子、何を言ってるの? 親子遠足に来なかったら私のキャリアに傷が付くのよ?」と言う。最初は何を言っているのか分からず、「んん?」って。(42:13)

つまり、育児もきちんとやれない人間は仕事もできないという文化と慣習が根付いているということだ。実は、そのときは追跡調査もしている。次の日、彼女が勤める法律事務所に行って(笑)、「ちょっと皆さん、彼女が昨日どこに行ってたか知ってる?」と聞くと「遠足でしょ?」と言う。だから、「彼女のことをどう思う?」と聞いたら、「子どもが風邪になったらすぐ休むから素敵。すごくデキる弁護士だ。彼女みたいに優秀な、子育てもする弁護士になりたい」と、独身の女性弁護士も男性弁護士も皆が言う。だからそのときは職場でどうやって仕事を回しているかも聞いたけれど、やはり誰が休んでもチームで結果を出していけるように仕事の内容が組み込まれていた。(43:23)

岡島:女性の活躍推進を積極的に進めていらっしゃるカルビーさんには福山さんという執行役員の方がいらして、この方は毎日4時に帰社しているという。860人からなる中部の部署をすべて受け持っていらして、福山さんの下には工場も営業もある。けれども、そこで流通さんに対しても松本会長と伊藤社長が、「この人は大変優秀だけれども子育てをしていて、接待は時間の関係上まったくできません」ということをおっしゃったそうだ。トップの…、スポンサーシップと言えば良いのか、そういったことがよく分かる事例だと思う。その辺について、フクシマさんはどうお考えだろうか。(44:14)

フクシマ:日本ではまだその言葉自体が浸透していないけれど、部下が安心して働けるような、まさにスポンサーシップをトップや上司がどれほど持てるかが鍵になると思う。日産自動車さんでは、たとえば課長への昇進が決まっていた方に子どもが出来たとして、その方は戻ってきても課長になるといった制度がある。上司の方がきちんと見ていて、「この人は今課長ができるんだから育休後もできるだろう」というわけだ。それもひとつのスポンサーシップではないかなと思う。(45:06)

岡島:そのためにも前倒しにキャリアアップをさせて、管理職に早く慣れてもらうという考え方があるのだと思う。(46:00)

フクシマ:そう。従って、「男性と女性で能力が同じぐらいなら、まずは女性をどんどん上げなさい」ということをトップがおっしゃっている会社は結構ある。ただ、そこで最も気をつけなければいけないのは、十分な経験をさせないまま引き上げてしまうこと。6割の経験で引き上げ、それでうまくいかなかったら、「あ、やっぱり女性はダメだな」というのが最悪のパターン。ただ、それが8割程度なら少々経験が足りなくても優秀な人を上げるという風にするべきだと思う。また、それをスポンサーがきちんとフォローするということもしていかないと、なかなか増えないように思う。(46:07)

岡島:その辺についてはやはり女性が大きな不安を抱えていると、ワークショップでも感じる。「子どもを産んだらやっていけないのでは?」と考えて、転職してしまう女性もいる。それでいろいろ聞いてみると、彼氏もいない独身女性でも将来の子育てを心配しているような方がいる。だから、私としてはやはり早く打席に立たせるというか、機会を与えることが鍵になると思う。それで期待するということを上司がどれほど早く行えるか。そしてその事例が出てくることが重要ではないだろうか。(46:43)

 

→西村氏が女性に対して早く機会を与えることに対して感じる「女性の特徴」とは。後編はこちら

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