「人材教育が鍵だ」(武田薬品・平手氏) -「アジアで日本企業が勝つための戦略と組織」(後編) 

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高橋:では、質疑応答に入って議論をさらに深めたい。(52:39)

会場(廣瀬聡氏:株式会社ベルシステム24 常務執行役員):ここ1年ほど、会社で10人ほど外国の方を雇ったりしてきた。それを通じて日本人の経営チームを強くしたいという思いがある。そのために日本人の次の層をどう育てるかという点で悩んでいる。日本の経営者に覚悟が足りないという平手さんのお話は本当にそう思うし、教育だけでそれが解決するものなのかと思う。「かなり思い切った世代交代や海外赴任が必要になるのかな」と思ったりしているが、その辺についてどうお考えだろう。(53:01)

平手:やはり海外経験が大切になると思う。私も最初の赴任先であるドイツに5年ほど滞在していた。シンガポールやアメリカにいた時期もある。あるいは義理の姉がアメリカ人ということもあり、いろいろな面で日本を外から見る貴重なチャンスがあった。国内のニュース番組と独Heuteや英BBC Newsでは日本の取り上げ方もまったく違うし、それを知らないと、やはり井の中の蛙になりかねない。外から日本を見るということを、将来会社を任せたいと思う人には経験させるべきだと思う。

「外国人に来てもらうのならいろいろな経験をした人を」というのも本当にそう思う。社長であった何年かを通じ、私は経営における最大の両輪はファイナンスと人事だと思った。その2つがしっかりしていれば社長室ががたつくことはない。だから、その人材を妥協しない。今回、武田薬品がフランス人の社長を採ってくる前、最初に採用した経営幹部はイギリス人の人事マンと、フランス人のCFOだった。経営のなかで最も大切な人事とファイナンスを欧米の人間に任せ始めたときは、清水の舞台から飛び降りるような気持ちだったと思う。ただ、その人事のヘッドは当社に来る直前までヒルトン上海で、上海だけでなくヒルトンの人事を広く、しかも上海に赴任して見ていた。そういったアジアを知る人間が、今度は東京に来て武田薬品でグローバルな人事のヘッドをやるわけで、アジアや日本に対する理解もすでにある。しかし、生まれてこのかた海外に出たことがないような海外の方が突然東京に来て成功するかと言うと、やはりグローバル化の種付けにはならないだろう。従って、そこは日本人も外国人もなく、グローバルな経験を持つ人材が必要になると、今は痛感している。(55:30)

会場(内山英俊氏:ANALOG TWELVE 取締役):元々梅澤さんとA.T.カーニーで働いていたこともあり、戦略をつくることの重要性は理解する一方で、現実にはその弊害もあるのかなと感じている。私自身が最も強くジレンマを感じているのは、経営が戦略を考えれば考えるほど現場がついてこなくなる点だ。そこで懸命にコミュニケーションを図ってもついてこない。だから、私は「君たちが考えなさい」ということで、経営陣は考えないほうが良いという判断を一時期していた(会場笑)。そこで2つ、ご意見を頂戴したい。アジアで勝つために、そもそも経営を考えるのは誰であるべきなのか。また、それがトップマネジメントであれば、どのレベルまで考える必要があるのだろう。(57:26)

梅澤:そのやり方ではグローバルで勝てないと思う。ご指摘の件については、企業の発展段階や事業環境に応じてやり方が変わるという話かなというのが私の認識になる。では、グローバルな立ち位置やアジアにおける事業ポートフォリオをトップマネジメントが決めるという前提で改めて考えるとどうか。カントリーマネージャーや事業のディビジョンヘッドなりに落とした時点で、彼らが迷わなくなるところまで、トップマネジメントのチームが戦略を定義すべきだと思う。その定義とは必ずしもHOWではないが、WHATは定義しなければいけない。「中国でNo.1を取りなさい」「このセグメントではアジア全域でこれぐらいの事業規模を実現しなさい」と。また、「そのための原資として1000億までは考えます」と。WHATと、それに必要となる投資の規模感を、トップマネジメントがまず下に落とし、そこからやりとりを始める。事業部長やカントリーマネージャーからの具申を聞いてアジャストするのはいい。ただ、最初にガイドラインを落さず、「上げて来い」と言って待っているマネジメントでは世界で勝てないと思う。(58:44)

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会場(紺野俊介氏:株式会社アイレップ 代表取締役社長CEO):私は6年前、インターネット事業を始めようとしたとき、まずインターネット事業をしている日本人を雇って、そのあとに日本語を話すことのできる外国人を雇った。そしてクライアントをつくって拠点をJVでつくり、そのあと独資でつくり、今はやっとM&Aの段階まで来た。ただ、戦略を立ててはいるものの会社の規模がそこまで大きくないこともあり、やりたいことができていない。親会社からも、「もっと選択と集中をしろ」と言われて焦っている。自分としては「やれる」と思ったゴールをセットしているが、その時間軸と規模まで考えると、最初の段階ではどこまで意思決定をするべきかという悩みがある。そうした状況の会社に何かアドバイスがあればぜひ頂戴したい。(01:00:32)

会場(西恵一郎:グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター/顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事 副総経理):3年前に中国でグロービスを立ち上げた。ただ、日本とまったく異なるスピード感やロジックで動く組織を成長させるようとすると、本社にそのつもりがなくとも結果として本社が邪魔になってしまうことがある。そういった要素をうまく調整しながら現地の事業を成長させる考え方があれば、ぜひ教えていただきたい。(01:01:49)

平手:私は徹底的に現地化した。武田薬品に限らず多くの日本企業は、たとえば欧米で展開するビジネスでも東京の常務会がほとんどのことを決めている。あるいは、毎月常務会がやってくるその日まで物事が決まらず、現場が1ヶ月待たされるといったことが多い。そこで私は、現地で徹底的に優秀な人間を探して、最初の2年間は血眼になっていい人材をほじくり返していった。それで中国や台湾や香港といった大中華圏に優秀な人材を置いて、そのうえで偉そうなことを言わず彼らに任せていった。また、私自身も上海に駐在はせず、あくまでも東京にいた。(01:02:40)

そのなかでひとつ、現地の人間とすればすごく助かっただろうと勝手に思っていることがある。中国の事業が動きはじめると、東京本社でいろいろな質問が出てくる。「平手さん、これどうなってるの? ちょっと上海に聞きたいんだけど」、と。それを私はブロックしていた。余計な質問が現場へ行かないようにして、「現場はとにかくお客さんを向いて仕事をしてくれ」と。そして現場に権限を与え、本社はディレクティブでなくサポーティブに、現場が信ずることを全面的にバックアップしていった。その代わり、きちんと現場の声が上がってくる仕組みにして、余計な質問をしてくる人たちにその声を伝えて「これはこうです。黙っていてください」、とそうすると現場は突っ走る。(01:03:45)

これはその前のご質問にもつながるが、本社を説得するのなら現場の声以上のパワーを持つものはないと思う。「現場はこうなんだから、分かっていない執務室の方がああだこうだ言わんでください」、と。で、私自身は4年間で少なくとも月に3回は中国に通い続けていた。羽田が国際化して本当に良かった(会場笑)。それでとにかく現場をサポートして、現場からの声を聞いて戻ってきて、そして本社のなかで対策を施してまたサポートに出るという感じだった。答えになったかどうか分からないが。(01:04:34)

会場(女性):中国、インド、香港、韓国といったアジアの競争に対し、日本企業にはどんな強みや弱みがあるとお考えだろうか。私は今ニューヨークにいるが、外から見る限り香港は随分変わってきて、下手をするとシンガポールにすべて取られそうだと感じる。そうした状況下で、日本企業は今後どうすれば良いだろう。(01:05:29)

平手:日本企業が欧米企業と差別化してアジアでより大きな成功を収めるためには、私は人材育成がひとつの答えになると思っている。社内の人材育成だけでなく、ターゲットとなるアジア市場の取引先や子会社の社員、あるいは工場で雇うエンジニアを育てるという点で、日本企業は優れていると思う。たとえば今は中国企業がアフリカに進出して悪い評判も立てているようだけれど、中国人を連れて行って利益を根こそぎ持って帰るといったことをすると、アフリカの人材が育たない。しかし日本企業群は長年、たとえば東南アジアで現地の人材育成に大きく貢献してきた。それを今後も国家戦略として外さないようにすべきだと思う。人材育成が上手な日本企業はそれをぜひアジアでアピールして、「この会社と付き合えば人材を育てることができる」といった思いを持ってもらいたい。そういう評判を勝ち得たら、他の会社よりも日本企業を選ぶという結論出てきやすくなる。当社も中国でそういうことを考えている。人を使い捨てる企業にならず、「この会社に入ると成長できる」という評判を確実につくりたい。今は少しずつそういう評価も出てきたと自負している。(01:06:42)

梅澤:やはり日本が持つ1番の強みはさまざまな分野における技術力だと思う。基盤技術についても製造技術についても同じだ。今まではそれに胡坐をかいて商売を後回しにしていたから、技術を商売にする点で長けている他の企業にやられてしまっていた。それをどう再強化するかがひとつ目の最重要課題だと考えている。あと、2つ目の課題は、日本の消費者や消費マーケットが持っている極めてレベルの高い洗練された美意識や感性を、企業に移植すること。そのうえで、高いブランド力を持ってアジアの、特に中流以上の層にアピールできる企業にする。この点は大きなポテンシャルを秘めていると思う。その思いもあって、私自身も長らく、クールジャパンというテーマで政府とも一緒になって活動をしてきた。(01:08:39)

会場(堀義人:グロービス経営大学院 学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー):経営共創基盤の冨山(和彦氏:同社代表取締役CEO)さんが以前、「世界で勝つ企業とは現地の“匂い”がぷんぷんする企業だ」と言っていた。サムスンは韓国の匂いがするし、トヨタは三河の匂いがするし、イケアはスウェーデンの匂いがすると。一方、ソニーはそれを失ってどこの会社か分からなくなってしまったと感じる。グローバル化に伴って多様化が進むなか、そうした理念や文化を維持する必要があるとお考えだろうか。そうであれば、どう維持するべきかも伺いたい。(01:10:05)

中島:当社は、たしかに社名にはアメリカという言葉が残っているけれど、今はほぼ全世界で事業を展開している。そのなかで今はアメックスのブランドが強烈にフォーカスされていると思うし、米国企業ということよりそのブランドを大切にしている。日本企業か米国企業かという視点を離れ、サービスに特化することで生まれたそのブランド・プロミスが、「この会社とお付き合いをすればデリバーされる」と思っていただき、それで生き残りを図る。そのブランド・プロミスがなくなってしまったとき、わけのわからない無色透明の会社になってしまうのかなという恐れはある。ただ、そのブランドさえあれば、たとえば将来社名が変わったとしても、あるいは現在のクレジット企業とまったく異なる企業になったとしても、この会社は続いていくのではないかなと思う。(01:10:49)

平手:武田薬品は創業232年という歴史のなかで、「企業は社会の公器である」といった企業理念を粛々と守り続けてきた。たとえば我々は東日本大震災で復興支援の一環として、アリナミン類の収益の一部拠出を決めた。ただ、これは数十億円の規模となったもののオープンに話してはいない。そうした考え方は日本企業らしくていいのかもしれないが、欧米の人間にそれを話すと、「良いことをしているのならアピールしたらいいじゃないか」となる。そうしたコミュニケーションひとつとっても、インディレクトに阿吽の呼吸で相手に伝える日本と、ダイレクトコミュニケーションが大切とされる欧米では異なる。「では、どっちを大切にするの?」というと、私は日本企業のアイデンティティのようなものは失いたくないと強く思う。その良さを保ったまま国際化したい。従って、自社の経営理念を書き記した「タケダイズム」から脱線しないようにしようといったことを、外国籍の経営者も含めて社内で繰り返し議論している。(01:12:06)

梅澤:堀さんのご質問に対して端的に答えると、社内が多国籍化していろいろな人が混じれば混じるほど、企業理念の重要性が増すという話だと思う。それがなくなってしまうと社内を統合する拠り所が権力だけになる。これは組織運営として極めてよろしくない状態だ。それともうひとつ。日本企業はこれまで、皆があまり口に出さずともなんとなく雰囲気で、理念や暗黙知を共有できていたと思う。当然ながら、多国籍化した組織ではそれが通用しない。従って、繰り返し口に出して共有するためのいろいろな仕掛けを意識的に施す必要があると思う。日本人から見るとこっぱずかしくなるような活動を続けるしかないのかなと思う。(01:13:48)

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高橋:最後に皆さまへのメッセージを一言ずついただきたい。(01:04:40)

梅澤:事業で勝ち残ることが企業存続の必要条件だとすると、そのための要件は揃えなければいけないし、そこから考え始める必要があるのだと思っている。では、十分条件である「我が社らしさ」や「日本企業らしさ」…、私は日本企業らしさというのはあまり好きではないけれど、「我が社らしさ」はどのように突き詰めていくか。そこは事業でしっかり成長して勝ち残るなかでじっくり考えていただきたいと思う。(01:15:04)

中島:日系や外資系といった枠を超えて組織で共通するのは、求心力やリーダーシップだし、それは経営者だけでなく全従業員や関連会社の方々も持つものだと思う。では、どうやってそれを実現するのか。やはりトレーニングやコミットメントという形で表れる我々の行動を皆は見ているわけで、経営者はロールモデルになるべきだと思う。また、そこに対する批判も常に受け入れなければいけないと思う。(01:15:45)

平手:「アジアで勝つために」という視点に絞って申し上げると、私はやはり人材にこだわりたい。そこで大切なのは、アジアでは上から目線を持たないこと。これは成功の秘訣というより必要条件だと思う。10年前の中国では「指導してやる」と、上から目線でいっても付いてきた人がいたかもしれない。でも、今はもう大国意識があるし、少しでも上から目線になろうものなら「明日から来なくていい」という話になってしまう。欧米企業はそこに関して…、彼らも変わりつつあるが、アジアで失敗しているケースを最近は目にする。そこで同じアジア人として、アジアの人々と対等の目線で付き合いができる人材を日本企業が持つと、勝ち目が出てくるのかなと思う。(01:16:25)

高橋:それでは時間となったので終了としたい。御三方に拍手をお願い致します(会場拍手)。(01:17:30)

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