「本当に付加価値の高い仕事に集中できているか?」A.T.カーニー梅澤氏が経営者たちに問う -アジアで日本企業が勝つための戦略と組織(前編) 

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高橋亨:本分科会ではアジアに目を向けて、どうすれば海外で日本企業が活躍できるのかにフォーカスしたい。これまでもG1経営者会議では新興国をテーマにしたセッションが行われているが、今まではWHYとWHATの議論が多かったように思う。今日はそれを踏まえ、HOW、つまりどうやって進めていくかも議論したい。資料にある通り、今回はキーワードとして「実行力」を挙げている。別セッションでは、シンガポールが現在、都市の能力という点でも東京を追い上げてきたとのお話があった。私も今シンガポールで仕事をしているが、当地では物事が大変スピーディーに動いている。日系企業がそのスピードに勝っているかというと、残念ながらそうでもない部分が多いように思う。どのように実行するかで悩んでいる企業も多いだろう。では、どうすれば実行力が高まり、成長マーケットで活躍していけるのか。(01:33)

私からは3つの問いを準備した。まず、何が実行力に差をもたらすか。パネリストの御三方がそれぞれどういった問題意識を持っているか、お伺いしたい。で、その次に日本企業が乗り越えるべき壁がどこにあるのかを聞いてみよう。そのうえで最後の問いとして、アジアで勝つために何をすべきか、戦略面や組織・実行面で提言をいただきたい。そうした議論を通じ、お集まりいただいた皆さまの企業が少しでも実行力を高めることができたらいいなと考えている。まずは実行力に関する御三方の視点を伺いたい。その視点を持つようになった背景も併せてお話しいただけたらと思う。(03:20)

34362 中島好美氏

中島好美氏(以下、敬称略):私にとってもシンガポールはひとつのキーワードだ。私は2年半ほど、アメリカン・エキスプレス・シンガポールの社長を務めていた。今日は私がなぜシンガポールへ行ったのかというお話もしたいと思う。まず、実行力というと、ともすると新しい会社や新しい人たちが持っているものというイメージがある。しかし、アメリカン・エキスプレス(以下、アメックス)には160年以上の歴史がある。そうした歴史のなかで、私たちがなぜどう実行力を身に付けてきたのか。なぜ、私たちがこれほど買われてきたのかということも面白い視点になると思う。というのも、弊社は昔、運送会社だった。それが今はカード会社となり、今は金融会社として生き延びていくために実行力ある人間を育てているところだ。100年後も金融会社である必要はまったくないと思っていて、「では、どういった変節を経ていくのか」ということを今考えていかなければいけない。それは私がシンガポールに行ったひとつの理由でもあると思うが、それはまたのちほど詳しくお話ししたいと思う。(04:46)

34363 平手晴彦氏

平手晴彦氏(以下、敬称略):今月からコーポレートの仕事を新しく承ったので現在の肩書きになったが、先月までは中国を中心としたアジア事業の総責任者を務めていた。羽田からほぼ毎週中国へ通う4年間だったので、今日は少しお役に立てると思う。で、まずは実行力についてお話しすると、私は外資系で長年役職を務めたのち、4年前、武田薬品工業(以下、武田薬品)に呼ばれて参った。で、久しぶりに日本企業で仕事をしてみて1番強く感じたのは、戦略性のなさ、あるいはプライオリティが設けられていないということだった。広く浅くやらなければいけないイメージがあって、小さなものを捨てることができない。緊急性や重要性の軸をしっかり見ておらず優先順位が設けられていないから、どうしてもつまらないことで足を引き摺られてしまう。(06:47)

そこで、私は中国事業を成功させるために何が必要かを考えてきたわけだけれど、IRで出している数字を申し上げると、私は最初に「5年で300億円を使わせてください」という話を役員会で通し、投資を行った。それほどの投資は累積損失解消までに何年もかかるし、最初は投資が先行して赤字を出す。武田薬品の歴史では、そんな文化は認められたことがなかったそうだ。4年前の私はそんなことを知らずにまっさらなところから事業計画をつくり、それを通してしまった。それでも全会一致でOKをもらって出発したわけだが、「とにかく売上を伸ばしていこう」と。また、売上の伸びに伴って組織も大きくなるので、中間からトップまで含めたマネージャー層を厚くしないといけない。従って、‘Drive the Top-line’と‘Develop the people’の2つにプライオリティを絞った。「やることはそれだ」と、現地のマネージャー群を徹底的に洗脳するところから始めている。で、その結果として、4年前は年商20億円ほどだった赤字事業が、今は同600億円ほどになった。ひとつの成果にはなったのかなと思う。(07:46)

34364 梅澤高明氏

梅澤高明氏(以下、敬称略):私自身は今ニューヨークに本拠を移し、A.T.カーニーというグローバルなコンサルティングファームのひとつである産業グループでグローバルリーダーをしている。従ってアジアに関してあまりインサイトではないと思うので、その辺はお2人に期待したい。また、私はここ3年ほど、同じくA.T.カーニーでグローバルのボードメンバーを務めている。そこで、グローバルファームによるマネジメントと、クライアントとして支援してきた多くの日本企業によるマネジメントには、やはり大きな差があるという問題意識を持っていた。今日はその辺のお話もしたい。(09:41)

それとあとひとつ、大きな問題意識がある。今回は実行力がテーマとされているけれど、私としては実行力以前の話として、「目標がそもそも小さくないですか?」との思いがある。アジアでどのような目標を掲げているのか、そしてその目標を達成するためにどれほど骨太な戦略と資源投入ができているかということを、多くの会社さんに問いたい。平手さんのお話は、まさにそれを武田薬品さんのなかでひっくり返されたケースだと思う。逆に言えば、「中国でNO.1になる」という目標を掲げて、本気で突っ走ってきた会社さんがどれほどあるのかなと思う。アジアが成長するのも、その成長に乗っかるのも当たり前。でも、そうした「成りゆきプラスアルファ」で伸ばすだけでは、世界のさまざまな市場の成長スピードを上回る成長を目指し、事業を伸長させているグローバル競合とは差が開くばかりだ。アジア機軸の成長を掲げるのなら、「アジアの成長を上回るような成長を実現する」、「中国やASEANで断トツの地位を取る」というぐらいの目標から始める必要があると思う。そうしない限り、骨太な戦略にも、ましてやスピーディーな実行にもつながらないのではないかという問題意識がある。(10:24)

34365 高橋亨

高橋:御三方の問題意識や背景を深堀りしたい。まず、平手さんは万有製薬(現MSD)の社長を経てグラクソ・スミスクラインに引き抜かれ、その後、武田薬品の長谷川閑史社長(当時)に引き抜かれた。業界では仕事請負人と言われていて、本当にスピード感が違う。あるいはご自身がスピード感を変えてきたのだと思う。そうした平手さんの目から見て、結局はどういったところに問題があるのだろう。また、そこで平手さんはどのように立ち向かっていらしたのだろうか。中国事業または社内における意思決定など、そのあたりのお話をお伺いしたい。(11:50)

平手:4社ほど外資系企業で経営を行ったのち、4年前、久しぶりに日本企業へ戻ってきたときに感じたことがある。幹部が集まる朝の会議で、「平手さん、武田薬品に来て2ヶ月経ったけれども第一印象はどうだろう」と聞かれ、「困ったな。そのまま感じたことを本当に言っていいのかな」と(会場笑)。ただ、そこで、「これほどスピード感のない経営では心配です」という話を、他の幹部の皆さんとシェアしたことを覚えている。書類にいくつも判子やサインが並んでやっと決済になるとか、よく言われるようなイメージが強かったからだ。欧米やアジアの海外店と、大阪や東京にある本社のスピード感が少しズレているような感触を、当初から持っていた。(12:58)

当時は中国に最も強いフォーカスが当てられていた時期だ。「長年うまくいっていなかった中国をなんとかしてくれ」と言われて事業を預かったわけだが、それで実際に中国へ行った私は愕然とした。「これが日本で光り輝いる武田薬品か」と。日本では本当にプレスティージャスで、業界の皆が武田薬品の背中を見て仕事をしてきた。しかし、その武田に飛び込んで中国へ行ってみると、もうミゼラブルと言ってもいいほどひどい状況だった。「戦略的な投資で中国市場を獲りに行くということをしてこなかったんだな」、と。それで日本へ戻って幹部の部屋に駆け込み、「本当に中国を獲りにいく気があるんですか?」と訊いた。「それならお請けしますが、そうでないなら辞めさせていただきます」、と。それほどの決断を迫る場面があった。(14:13)

武田薬品は当時からグローバル企業として成功するという理念を掲げていたし、長谷川社長も「行くんだ」とはっきりおっしゃっていた。「中国市場での成功なしにグローバルで成功した企業になれるとは思わない。どうしても獲りに行きたい。成功させて欲しい」、と。それで、「それでしたら頑張りましょう」とお話ししたのを覚えている。やはりトップの決断というか、中国で絶対に成功するという意識がそこで確認されたこと自体、私にとっては最初の原動力だったし、それがなければ動かなかったと思う。(15:11)

高橋:日本企業の経営者100人に「本気で仕事をしているんですか?」と聞けば、「俺は毎日頑張っている」と、100人が答えると思う。実際、社長の皆さまは死ぬほど仕事をしている。ただ、その本気度はどうなのか。アジアだけでなく日本で成功するためにも同じだと思うが、どのような本気度が必要なのだろう。(16:01)

平手:責任を取る覚悟が日本企業では感じにくいと思った。私は多国籍企業で14年ほど過ごしてきた。そこで責任と権限を預けられて事業に投資を行っていたわけだが、それで結果が出なければどうなっていたか。私自身は背広のポケットに進退伺いを入れているような覚悟で仕事をしてきた。日本企業の幹部や役員がそこまでの覚悟を持って仕事をしているかというと、その迫力は感じなかった。(16:33)

高橋:その覚悟はどこに表れるのだろう。たぶん、「俺は辞めるつもりで仕事をしている」と(会場笑)、皆が言うと思うが。(17:16)

平手:たとえば経済同友会の幹事会で他社の経営者と意見交換をしていてもよく出てくる話だから、これは日本企業全体で一般的なことかもしれない。日本企業は新入社員の教育も中堅社員の教育も行うし、部長研修ぐらいまではやる。ただ、そこから上の、会社の中枢に上がる段階で勉強しなくなる。上に行けば行くほど責任は重たくなるのに。役員に対する経営の研修が徹底的に叩き込まれているかというと、どうもそうではないような気がする。(17:24)

欧米企業よりも弱い点が日本企業にもしあるとすると、向こうの幹部はCEOを目指して上に行けばいくほどめちゃくちゃ勉強するし、人の何倍も働く。生涯が勉強で、CEOが1番勉強している。日本企業の経営陣にはその迫力がない。どうも取締役が“アガリ”のポジションになっていて、人生そこまで頑張ってきたご褒美として取締役になっちゃう(会場笑)。で、黒塗りの社用車で10時頃に出社する。まあ、重役出勤は昔の話だと思うけれど、とにかく経営者の姿勢について、私も含めて反省していった企業から動き始めているのだと思う。そして、それができていない企業は、グローバルでは「経営者力」で一歩半歩遅れを取りかねない状況になっていると感じる。(18:17)

高橋:ちょっと耳の痛いコメントだったが、経営者教育にコミットして東大やグロービスでも講師をしている梅澤さんはその辺についてどうお考えだろう。(19:19)

梅澤:グローバル企業の経営者が死ぬほど働いていて死ぬほど勉強しているというのは、本当にその通りだと思う。これは経営者個人でなく組織全体の問題だ。特に経営者の教育に投資をしてこなかった。それと、実は組織運営のプロトコルが日本企業はすごく緩いというか、曖昧であるように思う。日本企業の経営者の方々も、仕事時間は長く、相当に忙しい。大切なミーティングのアポもなかなか取れない。ただ、「本当に付加価値が高い仕事に集中できていますか?」というと、たぶんできていない。高付加価値の仕事とそうでない仕事が山のように押し寄せて、皆さん、スケジューリングに苦労されている。結果として、大事な意思決定に時間とアテンションをかけて没入できていないように見える。(19:37)

これは恐らく個人というより組織の建て付けの問題だ。「誰がどの意思決定に責任を持つのか」、「誰がアカウンタビリティを持つのか」、「ほかの人が口を出していいのか否か」といったルールが極めて未整理だからだと思う。で、それは組織の運営やケイパビリティの問題という風に聞こえるけれど、ここで冒頭に申し上げた問いが関わってくる。どのような組織建てや運営にするかということは、実は戦略によって大きく変わる。だから、戦略がないところで「組織建てを進化させましょう」と言っても絵空事になる。そういった、根の深い問題があるように思う。(20:41)

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高橋:「皆でなんとなく、子ども参観ではないけれどもあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているのでは?」という、いつもながらの厳しいコメントだった。中島さんはどうだろう。アメックスはそうした組織経営のプロトコルやガバナンスに関して厳しい会社だと思う。中島さんはそのなかで、しかも日本人として初めてアメックスシンガポールのヘッドを務められた。これ、アジア人としても初めてだろうか。(21:33)

中島:アジア人で海外の社長をやったのは私が初めてになる。(22:02)

高橋:アメックスからすれば当たり前かもしれないが、女性経営者ということもあって、実はシンガポールの日本人社会では中島さんが大変注目されていた。(22:08)

中島:日本企業がアジアで勝てるかというのは、米国企業がアジアで勝てるかという問いと同じだと思う。そこで、「ここはアメックスが勝てただろう」という点をひとつ挙げたい。我々はサクセッションプランを常につくっている。責任を取らなければいけない立場にある以上、自分に何かあったとき、あるいは自分がプロモーションしたとき、部下が従わなければ組織が動かなくなる。だから着任したその日からサクセッションプランを考える。では、誰を自分のサクセッションにするか。日本企業では人事の方がいろいろ面倒を見てくださったりするし、ご自身の考えが入ることもあると思う。しかし米国企業はそこがすごくフェアで、「全体で考えて誰が1番良いか」というものをショートリストにして、それをどこまでも突き詰める。ある意味で過酷な競争が入る。(22:20)

そこで実行力に関してお話をすると、もちろん失敗されても困るが、何もしないというのも困る。それで私はよく、「アメックスで何か失敗してクビになった人は少ない。でも、何もしないということで辞めてもらった人は多いよ」と、社員に言っている。失敗の仕方によるのだと思う。「カリキュレーテッド・リスク」というが、リスクを計算し、バックアッププランを取ったうえで失敗する。また、失敗しても学ぶものがあれば「それはそれでよし」と。そのうえで…、私自身は進退伺いを胸に入れていないけれど(笑)、成功を信じてやっていることが、特にアジアで成功している要因のひとつだと思う。(23:27)

特にシンガポールには富裕層が多いので、もたもたしていると市場シェアをどんどん食われてしまう。そのときに悩んでいても分からないのなら、「じゃあ、テストマーケティングをしてみようか」、と。たとえば日本なら「九州で少しテストマーケティングをしようか」といった話もできるけれど、シンガポールは小さいのでそれができず、国ごとのテストになってしまう。それでも、「それならやろう」と考える。そのうえで、「そのときのリスクは何か」、そして「うまくいったらこうしよう」「万が一ダメだったらこうしよう」ということまで考える。また、そこでは経営者だけではなくワーキングレベルの人間まで責任を取る。それでスピード感も、日本語で言うところの一致団結したチーム力も生まれる。そのうえで、特にシンガポールは他民族国家だから皆の言うことを業務の上でどう集約させるか。経営者としてはその辺が腕の見せ所だったのかなと思う。(26:16)

高橋:平手さんからも梅澤さんからも、「経営者が最も鍛えられなければいけない」とのお話があった。中島さんは経営者になるため、どのような準備をしていらしたのだろう。あるいは現地でどのような訓練があったのだろうか。(25:20)

中島:会社では、たとえば「シンガポールはこういう国で、これをやっちゃいけない」といった基本的なカルチャートレーニングがある。ただ、自分自身へのコミットメントとして、「私が失敗したらあとがない」というプレッシャーがあった。というのも、それまでのアメックスシンガポールには、だいたいアメリカやイギリスの人間が落下傘部隊でトップとしてやって来ていたからだ。また、ワンダウンの方もエクスパッドが多いので、カルチャー的には、「現地の方々」対「イギリスまたはアメリカ系」という形になっていた。そこに私が来たものだから、「うわ、日本人だ」と、大騒ぎになった。しかも、YOSHIMIという名前が男か女か分からず(笑)、まさか日本人女性が落下傘で来ると思ってなかったそうだ。ただ、とにかく私のほうは日本人が私ひとりだったということもあり、会社あるいは日本のいろいろな方々からの期待を感じていた。(25:59)

で、実はそこでひとつ、日本的なものが役に立った。「根回し」という日本独特の文化だ。「根回しなんてするからスピードが落ちるんだ」という声はよく聞く。でも、特に他民族国家で多用な考え方がある場合、「1対n」でわけのわからない話をするより、「塊」ごとに話すほうが良いこともある。そこで、「この人はこういう話で説得する」「この人にはこういう風にする」という風に、鍵となるメッセージをいつ、どのタイミングで伝えるのか。これは、多くの日本人が持つ資質ではないかなと感じる。そのおかげで、てんでばらばらだったオペレーションも今はかなりうまくいっている。我々はマレーシアにコールセンターを持っていたけれど、マレーシアとシンガポールの距離感を縮めるうえでもそれが役に立った。マレーシアにはマレーシアの、シンガポールにはシンガポールの論理がある。そこに両者とまったく異なる人間が来て話をしていったため、なんというか、ある意味では触媒のような効果になったと思う。(27:18)

高橋:欧米企業がアジアに来る場合、落下傘部隊が一気にやってきて、「これやれ」「あれやれ」と言うケースが多い。で、言われるほうも、「まあ、給料高いからいいか」と。アメックスの経営陣にそれを変えたいといった思いがあったのだろうか。(28:33)

中島:結果として、システムがワークするということを皆が確証できたと思う。どの国でも同じような人事制度や仕事の進め方があるわけだけれど、そこにはカルチャーがあり、ターゲット・オーディエンスがいる。だからまったくのアメリカ本社流ではワークしない。そこに、その国の人間でなく日本人が来てシステムがワークした。だから、「あ、揺るぎないものがあるな」、と。コーポレートカルチャーが共通することを証明できたのではないかと思う。(28:54)

梅澤:今のお話にあったような人事が当たり前に起きる会社はグローバルで勝つ。これを特別だと思っている我々が、明らかに世界のスタンダードから少し外れているのだと思う。現地で最も優秀な人材を集め、その人材をなるべく長くリテインして、結果的に事業が強くなるグローバス企業ってどんな会社か。平たく言うと、最も使い倒してくれて最もキャリアオポチュニティが豊かな会社に、1番優秀な人材が来るし、かつ残ってくれる。裏返すと、グラスシーリングがあって、トップはいつも本社から落下傘で降りてくると見切られた会社には、その国の最優秀人材は…、1度は就職するかもしれないけれども2~3年で辞めてしまう。「その点、日本企業はどうでしたっけ?」、と問いたい。現地の人材にとって最も魅力的な職場にする必要があると思う。(29:50)

さらに言うと、たとえばプロクター・アンド・ギャンブルやIBMのような…、アメックスさんもそうかもしれないが、昔からグローバルな事業展開に注力している会社は、それぞれローカル人材から経営幹部候補を選んだのち、今度はそれをグローバルで廻し始める。だからシンガポール人には、シンガポールのトップになるチャンスも、本社でCXOあるいはCEOになるチャンスも、リアルに見えてくる。それが今世界で戦っているグローバル企業の現実だ。「日本人がシンガポールのトップになった程度で驚いていては、日本企業はダメですよ」といった話だと思う。(31:01)

高橋:中島さんの件はシンガポールの日本人社会ではエポックメイキングとして受け取られていた。アメックスにいるアジアの人たちにも勇気を与えたと思う。(31:42)

中島:やはり頭で分かっていただけでなく実際にそのシーンを見て、かつその人が何をやっているかを見ることで元気になった方はいた。ただ、それを狙うためにはそれなりに人材を動かせるだけのものが必要だ。先ほど申し上げたサクセッションプランがないと、駒を動かしたあとが続かなくなってしまうということはあると思う。(32:04)

高橋:こうした話をしていると、よく「じゃあ外資系になればいいの?」と聞かれるが、そもそも日系と外資系という分け方が問題だという話がある。米国企業にとっても日本企業にとっても、アジアで勝つための視点はもしかしたら同じかもしれない。その意味で、次の質問へ進む前に、平手さんに少し伺いたい。たとえばトヨタであればトヨタらしさを世界で共有するという話もあると思う。「トヨタはトヨタであって外資になっちゃいかん」、と。武田薬品でもそういった議論があったのではないか。(32:34)

平手:思い返すと4年前、幹部といろいろと議論していたとき、「国際化には2つあるね」という話になったことがある。トヨタのように日本方式を維持して、それを世界に打ち出す国際化もあれば、ソニーのようにアメリカ市場ではアメリカ化して現地に馴染んでいく形もあると。日本のやり方を押し出すのでなく、世界のマーケットに入り込んでトランスフォームしていくような国際化もあるといった話をしていた。ただ、今はそうした分け方さえ消えていて、多国籍に事業展開するうえでどういった能力とファンクションが必要かという議論になっている。で、そのためにはどんな人材が必要かということで、国籍を問わず人材を集めたらたまたま外国人が結構いたという感覚だ。(33:28)

日本で上場している日本企業だし、本社が大阪と東京にあることに変わりはないので、日本の会社であるアイデンティティを無くすつもりはまったくない。ニューヨークに本社を移すといったこともまったく考えていない。ただ、日本発の会社で、かつグローバル化した姿をお見せしたいという思いが今は社内で強くなっていると思う。(34:40)

中島:アメックスジャパンの経営陣は、10年ほど前は外国籍の方がかなりいたけれど、今はほとんどが日本人だ。日本の方を対象としたビジネスだし、経営陣全員が海外から来ているのでは、「なんのためのアメックスジャパンか分からない。これならニューヨークと直接やりとりをしたほうがいいよね」となるので。ただ、経営陣が世界的な視野をまったく持っていないのも問題だ。それで何年かかけて人材を育ててきた結果、今はたまたまそうなっているだけ。逆に今後は、アジアの人材が育ってくれば、日本で役員の何割かが中国やシンガポールやタイの人間になる可能性もある。(35:20)

従って、外国人VS日本人という考え方でなく、そこに相応しく、専門性を持った人材をどれだけ確保できるかという考え方が大切なのだと思う。また、その際は社員にとってアトラクティブでなければいけない。「ここで終わりですよ」という話でなく、いろいろとオポチュニティがある方をどのように連れてくるかという課題をクリアしなければいけない。そうでないと、「ちょっと海外から連れてきました。とりあえず3年いてね」となって、3年後に本国へ帰るだけなんていう話になりがちだ。その点に関しては、シンガポールに来ている日本企業の方々も悩んでいらしたように感じる。(36:29)

平手:多国籍企業で14年間を過ごしてきた私は国籍を意識しなくなっていたし、日本人か外国人かといった議論自体、職場にはほとんど存在していなかった。サッカーW杯が近づいたときだけ、「あいつはデンマーク人だったのか。スウェーデンかと思ってたよ」なんていう話になって、皆が自国代表チームを応援して初めて国籍を意識していた感じだ。普段は国籍をまったく意識していないと言っていい。そういう領域に行かなければいけないのだと思う。(37:20)

今、武田薬品では壮大な実験をしている感じだ。恐らく10~15年前、アメックスジャパンにも外国の方がたくさんいらして文化を注入していった時期があったと思う。武田薬品ではそれを今行っていて、外国の方の経験を一気に注射しているような場面がある。1人の日本人として申し上げると、10年後、国際的な経営ができる日本人経営者がもっとたくさん育ってくれたら嬉しいなとは思う。ただ、今はその劇薬的注射が会社を一気に国際化するための、ひとつの良薬になっていると信じたい。(38:13)

高橋:では最後の質問に移りたい。「どうすればアジアで勝てるのか」。(39:01)

梅澤:その前に、平手さんのお話に関連してひとつコメントしておきしたい。私がA.T.カーニーのボードで人種を意識していないかというと、意識はしている。具体的な構成は、アメリカ人が3人、ヨーロッパ人が4人、アジア人は私を含めて2人だ。で、私は戦略ポートフォリオ・コミッティというところのメンバーでもある。従って、どの地域や国でどれほどの成長目標を掲げ、どういったM&Aやパートナー採用を行い、逆にどの国でキャッシュアウトして収益を上げるかという、グローバルなポートフォリオ戦略の舵取りもしてきた。そのメンバーで議論していてつくづく思うことがある。メンバーがそれほどいろいろな国から来ていて、かつ、特にヨーロピアンはアフリカでの経験も豊富だったりする。だからそのチームで議論していれば、細かい見逃しはあるかもしれないが世界の大きな流れを見逃すことはほぼないという感覚がある。(39:35)

では、その議論を日本人10人の経営チームで行ったらどうだろうと、たまに空想すると空恐ろしくなる。どれほど海外経験が豊富な役員さんが3人混じった10人だったとしても、だ。ただ、8割の日本企業ではそれが現在の実態だと思う。武田薬品さんのケースは、それを打ち破る本当に劇的なチャレンジだと思うが、残り8~9割の会社はどうか。世界のほとんどが見えないことだらけの10人で、ああでもないこうでもないと議論して、それで世界で戦おうとしている。「本当にそれを続けるんですか?」と問いたい。機能主義で考えたら外国人が何人か混じるのは当たり前で、日本人についても海外経験のある方を中心にしてボードメンバーを組む。そこで議論をして初めてグローバル企業とイコールフッティングに近い経営議論のレベルになると思う。(40:51)

もうひとつ。「日本企業ってなんですか?」という問いが先ほどあったけれど、それは本社の位置で決めるのか。本社の位置は、割りとどうでもよくなりつつあるという気が私はしている。A.T.カーニーの例で申し上げると、登記上の本社はロンドンで、オペレーティングヘッドクウォーターはシカゴ。で、ボードミーティングはロンドンで年2回、シカゴで年2回行って、もう1回は新興国で行う。ロンドンやシカゴに引っ張られることはない。大事なのは10人のボードメンバーがどんな意見を持ち、提案をして、議論をするかというその中身だ。ロケーションはほとんど関係がない。(41:51)

何故そうなっているのか。ひとつには、さまざまなイノベーションのハブが実はすでに分散化されているからだ。シカゴやロンドンでイノベーションが起きているわけではない。消費財や小売やコスト・トランスフォーメーションといったテーマではアメリカがハブになる一方、企業のポートフォリオ戦略やソーシャルイノベーションといったテーマでは日本がなハブになる。そして、互いにそのハブで行われていることを見て学びつつ、「自分たちもイノベーションを起こそうね」、と考える。そういうオペレーションだから、ほとんど誰もシカゴが本社であるとも、アメリカ企業であるとも意識していない。それが少なくともA.T.カーニーのありようだ。で、今はイノベーティブなグローバル企業の多くがそうなりつつあるように思う。いわゆるトランスナショナル戦略だ。(42:37)

高橋:「“アジアで勝つために”というテーマ設定をしている時点で、アジアで勝つためのマインドセットや体制ができていないのでは?」と言われた気がする。(43:30)

梅澤:そう言ってなくもないかもしれない(会場笑)。世界で勝つというテーマ設定がまずあるべきだ。で、アジアで勝てば世界で勝てるという、ある程度の確信があるなら、アジアで勝つことにブレイクダウンする。では、世界で勝つためのアジアでの勝利とは何か。冒頭の問いに戻るけれど、もうアジアの大市場はすべて抑えるぐらいでないと世界での勝利にはつながらないというのが平手さんのお話だったと思う。(43:56)

それともうひとつ。皆さんもよくご存知の通り、アジアをひとつの地域で括ってひとつの市場戦略が適用できるかというと、できるわけがない。日本も中国もインドもオーストラリアもニュージーランドもすべて違う。そこで、どの市場にどれほど突っ込んで、どれほどのポジションを獲得するかといったカントリーマーケットのポートフォリオという発想が不可欠になる。仮に「パン・アジア」ということで、ひとつの商品やディストリビューション戦略で攻めてみるとどうなるか。どのマーケットでもサブスケールになって、それぞれのマーケットでNo.1プレイヤーに打ちのめされて終わるというのが現在のアジアだと思う。この点に関しては、グローバルなA.T.カーニーの戦略を見ていても、クライアント企業のアジア戦略を見ていても、明解な解が出てこなくて困っている。(44:31)

高橋:では改めて…、一言で表現できるわけはないと思うが、「アジアで勝つために何をするべきか」という問いに対して、御三方から一言ずついただきたい。(45:26)

平手:当社に限ってみれば、アジア、特に中国だ。将来、中国のマーケットで勝てなければグローバルで勝ったことには絶対にならないという判断がある。アジア全体で中国が7~8割を占めているわけで、「中国市場を獲りにいこう」、と。では、中国をどう攻めるのか。いくつかヒントがあるように思う。私はこの4年だけでなく、過去にも中国の仕事をしたことがある。そのなかで中国人に教わったのは、小さな投資をしても砂漠に水を撒くようなもので、リターンはほぼゼロということだ。「中規模でもほとんどリターンはないでしょう。クリティカルマスを超えた、ある程度ミーニングフルな投資を行ったときにだけリターンがあります」と、中国人ははっきり言う。(45:58)

中国で失敗している日本企業を見てみると、どうもそこが中途半端で、怖々と投資を行っている。たとえば債権回収のリスクは、中国ではほとんど心配する必要がないと私は思う。ミャンマーやベトナムのほうがよほど怖い。当社はカントリーリスクによる各国のファイナンシャルリスクを4段階に分けているが、そこで最も安全な日本とアメリカに続いて中国は2番目のグループに入っている。政治的なリスクという見方はあるかもしれないが、私自身はこの4年でそれを感じたこともない。共産党との付き合い方も大切なノウハウだが、それを身に付けたらきちんと扱ってもらえる。中国への貢献も考え、こちらもリターンをもらうという形でやっていけるやり方があると思う。(47:00)

梅澤さんから戦略のお話があったけれど、我々も相当にストレッチした目標を設定している。他社より秀でたゴールを無理にでも置いて、そこに到達するための戦略を設定し、その戦略を支えるプロセスや組織が最後についてくる。ゴールや戦略の設定なしに組織だけを触る経営者は多い。で、それでうまくいかないとまた組織を変えるわけだ。しかし、なんのために組織を変えるのかが分からないと下は付いてこない。特に中国人は絶対に付いてこないと思う。まずはゴールと戦略があって、そこに向けた大きな投資が必要なら、その決断力が必要になってくるという順番だと思う。(48:04)

中島:勝つという意味では2つのものが必要になると思う。ひとつはプラットフォーム。何がアジア、そして世界で共通なのか。それはコーポレートカルチャーや基本理念だ。そういうものはどの会社にもあるが、それをどこかの壁に貼るだけでなく社員1人ひとりが理解して、そこへ向かう必要があるし、それが大きな求心力になる。で、もうひとつは、「金太郎飴のようになっちゃっていいの?」ということで、ダイバーシティ&インクルージョン。違いを楽しむ。何故そこに5人いるのかと言えば、5人が違うからそこにいるということを実践する必要がある。今はダイバーシティというとジェンダーの話になることが多いけれど、大切なのは年齢も国籍も何も関係なく違うことに価値を見出すこと。それを経営者として楽しめるような2段構えの考え方がないと、アジアあるいは世界では勝てないと思う。逆に、それができれば勝てるのではないか。(49:06)

また、各国でロールをクリアにして、それぞれの市場で何が求められているかを理解する必要もある。たとえば日本のロールは非常にクリアだ。トップライングロースもボトムライングロースも求められる大きな市場と言える。では、中国や新興国には何を期待するのか。それを皆が理解していないといけない。なんとなく皆で頑張って、それで「うまくいったね」「うまくいかなかったね」といった中途半端な結果では評価できないので、評価基準をクリアにしておく必要がある。(50:22)

梅澤:ダイバーシティのお話を日本企業のトップにしてみると、「いや、分かってるけど適任者がなかなかいないんだ。社内にもいないし、外から連れてくるのもハードルが高いし」と言われることが多い。ただ、振り返ってみると、特にリーマンショック以降は製造業でもサービス業でも、日本の大企業はかなり大きなクロスボーダーM&Aを行ってきた。で、少なくともそうした案件の何割かで、現地にいい経営チームがいるという話になっている。「このチームに任せておけばこの国の事業は少なくとも何年か伸ばせそうだ。かなりポテンシャルの高い事業とチームだね」と言って買収をしているように見える。本当に買収した企業に優秀な経営者がいるなら、グループ全体のマネジメントチームに迎えたらいい。全体のリージョンヘッドや国際事業の統括を任せるというやり方だってある。そこまで考えたうえでM&Aを行って経営資源を取り込み、社内で、特に経営レベルでのダイバーシティを高めるべきではないか。そういうところまで一気に踏み込む準備ができつつある日本企業が、今は増えてきたと思う。(51:02)

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