MOVIDA JAPAN・孫泰蔵氏×福岡市長・高島氏×LINE・森川氏 「日本を変えるモデルをつくる 〜創業特区でのベンチャー生態系形成〜」前編 

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高島宗一郎氏(以下、敬称略):まず、今回申請が通った特区について10分ほどお話をさせていただき、それを元にしてさらに議論をさせていただきたい。先ほど(第一部全体会で)甘利大臣からお話があった通り、ベンチャー企業が新しく生まれるということは、新しい製品やサービス、つまり価値が生まれるということだ。買い物の仕方や通信手段、あるいはコミュニケーションを変えるような、そうした新しい価値は、それを生み出すベンチャー企業を大きく成長させるとともに、既存企業にも影響を及ぼす。たとえば自動車自体が変化しなくても、ナビゲーターという新しい製品が加わることで自動車に新しい価値が生まれる。あるいはiPhoneからBluetoothでデータを飛ばすことによって、車内で音楽等を聞くことができるようになる。自社製品に付加価値が加わって、より魅力ある製品やサービスになるわけだ。従って、ベンチャーの成長は既存企業にとっても大きな意味があるし、日本の成長という視点でも極めて重要だと思う。

それともう一つ、ベンチャーに関しては雇用の視点で考える必要もある。生まれてから3年以内の企業は全企業の8.5%を占めるが、実は、そうした新しい企業が生み出す新規雇用は全企業が生み出す雇用の4割近くにのぼる。創業10年以内の企業は雇用を増やし、10年以上の企業は雇用を減らしているという平均データもある。つまり、企業が新たに生まれなければ雇用は増えないということになる。

こうした二つの視点で考えても起業は大変重要だと言えるが、起業に関して日本には大きな課題がある。まず、欧米と比較しても日本の開業率は大変低い。先日も、「企業内で昇進を望むか、独立・起業することを望むか」というアンケートに対して、後者と答える人々の割合が過去最低水準になったとの報道もあった。独立・起業の意思を持った人が少なくなっているというのは危機的な状況だと思う。

そうした状況下、私たちは一昨年9月、孫泰蔵さん、小笠原(治氏・株式会社nomad代表取締役)さん、そしてイギリス政府のトニー・ヒューズさんらとともに、「スタートアップ都市ふくおか宣言」というものを行った。アジアのシリコンバレーを福岡につくるという取り組みだ。そこでありとあらゆる施策を展開・発信していく。私もスタートアップ関連の施策についてはできる限り自分で直接出向いてプレゼン等を行っている。

まずはその前提となるお話をしたい。福岡は日本の政令市のなかで開業率が最も高い。また、暮らしやすさもある。イギリスの雑誌「MONOCLE」の暮らしやすい都市ランキングでも、世界で12番目という評価をされた。アジアでは3番目だ。そうした暮らしやすさ、つまり価値が生まれやすいという状況に加えて、実際に開業率が高いということもあり、現在の政策に至ったという流れになる。

そうしていろいろな取り組みを行うことでベンチャーへの投資も大変盛んになってきた。民間でもピッチ大会等、数多く開催されはじめている。海外展開にも積極的に取り組んでいく。たとえばイギリス政府とMOU(協定)を締結し、行政府が見えている真ん中で安心してマッチングを行うことができるような形にもしたし、台湾との交流も活性化させていろいろとイベントを展開したりしている。甘利大臣が仰っていた、起業の検討期、創業期、そして成長期といったベンチャー生態系におけるそれぞれの段階で施策を展開している状態だ。今後はそれらの施策に併せ、失敗しても再度チャレンジできるような仕組みも含めた生態系を福岡につくっていきたい。

私はそこから日本を変えていきたいと思っている。そこで、「現在のような取り組みを日本中に広げよう」と、志ある首長と連携をとって、さらには中小企業庁と経済同友会(以下、同友会)とも一緒になって、「スタートアップ都市推進協議会」というものも設立した。実はその総会もG1ベンチャー開催前に行っている。そこで各都市の施策を共有し、新年度は新しくコーディネートまたはマッチング機能を備えたうえで展開していこうと考えている。同友会ともがっつり組んでそうした政策を進めていきたい。

そんな風にして、地方から国を変えていきたい。瑞々しく、若々しく、そして新しい価値が、日本から次々発信されるようなチャレンジを進めたいと思う。また、私たちとしてはとにかく人頼みにせず、地方ができることはすべて地方でやるべきだと考えている。ちなみに何故「地方から国を」ということを言うのかというと、地方の首長はいわば大統領であり、予算執行権を持つ唯一の人間だからだ。変えるにあたっていろいろと大変な手続きが必要となる国と異なり、地方では自分たちで変えることのできる政策が多い。

ただ、地方ではどうしようもできない国の規制や税制といったものはある。これらは国の権限だ。そこで「どうしようか」となったとき、国家戦略特区の話があった。だから私たちは、国家戦略特区という提案があったからそれを獲得するためにやっていたという訳ではない。自分たちで変えていく取り組みを、そもそもしていた。そのうえで今回、「グローバル・スタートアップ国家戦略特区」という内容で、国にしか変えることのできない諸々の内容を提案し、結果として創業特区ができたという流れになる。

30513 高島 宗一郎氏

そうして、今回の創業特区には二つの柱ができた。創業の支援、そしてMICEとイノベーションだ。そこで、「開業率の向上」、「イノベーションの推進」、「新たなビジネス等の創出」という三つの目的を掲げている。また、大きな特徴として、今回の特区にはフィギュアスケートで言うところの「規定演技」と「自由演技」がある。規定演技とは何かというと、たとえば雇用関係の政策だ。また、外国人医師の活用、古民家活用、外国人の在留資格云々等々…、こうしたイシューはすでに国が用意をしていた規定演技になる。そうした規定演技に加えてどのような自由演技を加えることができるかで、創業特区がどういったものになるかが決まっていく。そこで5月には区域会議というものを立ち上げ、区域計画の第一弾を夏頃までにつくっていくという形にしている。

創業特区では規定演技をきちんと進めていくことも大切だが、それに加えて自由演技をどういったものにしていくかという具体案が欠かせない。これまで国にいろいろなことをお願いしてきたなかでも、やはり説得力を持って説明できていたのは実際のプレイヤーがいる分野だった。机上で「この規制も緩和したらプレイヤーもきっと出てくるだろう」と言っていても駄目。特区として認められたのだから、具体的なアイデアとプレイヤーがしっかりいることを前提にさまざまな規制改革をお願いしていく。

それで今はいろいろなアイデアを募集している状態だが、現状ではどんなアイティアが寄せられているか。イメージが湧くよう二つほどご紹介したい。まず、福岡市中央区に会社を構えるA社のご意見。今はインターンシップを受け入れると就活解禁前に採用の働きかけができない。いかに優秀な人材を確保するかというのは起業の成否を分ける問題だが、やはり4年制の大学を卒業していきなり創業2年目の会社に入ろうと考える学生は少ない。できれば大きく安定した会社に入りたいと考えるだろうし、実際、今はそうした志向が強い。従って、優秀な人材にベンチャーを選んでもらうためにはインターンが最良のきっかけになることもあって、「そこで人材もしっかり確保できるようにならないか」というご意見をいただいた。

また、東京から福岡に移住してきた起業家Pさんからは、「新たな業態としてルームシェアやカーシェアで事業を興したい」というご意見をいただいた。カーシェアといってもいろいろあって、たとえば車を貸す形のシェア、あるいは、たとえば軽井沢まで助手席が空いているからシェアをするといった形もある。「そこでビジネスを興したい」と。ルームシェアも同じだ。たとえば「海外に半年間行くので、そのあいだ部屋をシェアしたい」等、いろいろある。ただ、現状では旅館業法に阻まれてそれができない。「そういう部分をぜひ規制を緩和して欲しい。そうすれば自分はこういった仕事をやる」といった提案が寄せられている。福岡市としてはそういったお話をしっかりと受け付け、それを実際のプレイヤーとなる皆さんとともに精査していく。そのうえで、国に提案する規制緩和を区域会議のなかで決めていきたい。

今日は実際のプレイヤーである方々が数多くお集まりいただいていると思うので、ぜひ皆様にもご提案をいただきたい。そのなかには「皆様自身でチャレンジしてください」というものもあるだろうし、規制が絡んでいる問題もあるだろう。今は法人税の実行税率についても綱引きがなされている状態だ。安倍総理はダボス会議で明確にそのことを仰っているが、一方では財務省との綱引きもある。発信力のあるスタートアップ企業にはそうした部分でもサポートお願いをしたいと思う。いずれにせよ、私たちの創業特区は今ご説明したような状況だ。夏までに区域会議ができたら、あとはどんどん自由演技を加えながら形にしていく。そこでは、まさに皆さんのアイデアがすべてということになるだろう。まずは概略ということで、私からは以上になる(会場拍手)。

堀義人氏(以下、敬称略):甘利大臣の基調講演に続き、高島市長からは特区のお話があった。今回のG1ベンチャーでは政治とベンチャーがどのように連携してイノベーションを起こすかということも大きなテーマになる。福岡市は今回、東京、関西、新潟市、沖縄県などとともに国家戦略特区として指定された。「グローバル・スタートアップ国家戦略特区」とのことだ。そこで今日はG1メンバーでもある高島市長にどういった形で特区の施策を進めようとしているかを伺いながら、会場にいらっしゃる皆様のご要望も伺っていきたい。福岡出身でもある孫泰蔵さんと、福岡を重要な拠点としているLINEの森川さんにも、どういったことができるかを伺っていこう。

ちなみに私は東京(都内9区と神奈川県並びに千葉県成田市)の特区にも期待していたが、まあ、こちらはどういう形になるか分からない。都内では9つの区だけが限定されたりして…、舛添都知事に先日お会いした際は、「ぼちぼちやっていきますよ」という感じで(会場笑)、「どういう意味なのかな」なんて思いつつ(笑)。とにかく、ベンチャーの生態系をつくりあげるためにも福岡市にはがんがん進めて欲しいと思うし、それを僕らも全力でバックアップをするべきだと考えている。僕は同友会のベンチャー創造委員会で委員長も拝命しているが、実は先般、同委員会の名前も「スタートアップ都市推進共同プロジェクトチーム」に変わった。同友会としてもベンチャー育成に務める自治体を全面的にバックアップすることが一つの使命となった訳だ。僕も今は各地域を廻りながらいろいろと動いているが、東京からだけでなく全国から同時多発的にベンチャーの創造を進めていくという目的を今は掲げている。

さて、孫さんと森川さんに、「特区で何をして欲しいか」、「自分たちは何ができるのか」といった視点で伺ってみよう。高島市長のお話に対する感想も含め、「こういうことをやれば良いのでは?」というアイデアが何かあれば教えていただきたい。

30512 孫 泰蔵氏

孫泰蔵氏(以下、敬称略):本当にお話が上手だと(会場笑)。ただ、それ以上に内容も大変充実していて、やはり勢いがあると感じる。私自身が福岡出身という贔屓目を抜きにしても、今のお話で「福岡でスタートアップをもう一度立ち上げよう」と、固く決意した次第だ。具体的なアイデアについて申しあげると、先ほど市長がいくつか仰っておられた通り、やはり規制緩和が重要だと思う。先日、シリコンバレーで大変強いベンチャーキャピタルの方々とお話をした。そこで「最近はどんな投資やインキュベーションをしているの?」と聞くと、「次に来るのはIoT(InternetofThings)。モノのインターネットという時代が来る」と言っていた。スマホやタブレットだけでなくありとあらゆるデバイスがインターネットに繋がったとき、「社会に与えるインパクトは非常に大きくなる」と。今後はその辺のスタートアップに徹底的に投資していくとのことだった。実際、グーグルもセルフドライビングカーというロボットカーの開発に取り組んでいるし、あちらでは公道実験もどんどん行っている。ただ、日本ではそれも簡単ではないだろう。恐らく陸運局や警察に許可を取らなければいけない等、各種規制がついて廻ると思う。やはりそういった部分で、まず実験ができる環境を特区でつくり、「IoTの中心は日本では福岡だね」といった形になればいいなと思う。

たとえば国を挙げてスタートアップ支援を行っているフィンランドで、エンジェルインベスターの方にこんな話を聞いた。彼らが最近投資した最も熱いスタートアップはゴミ処理の会社だと言う。バリバリのIT系に投資をしていらした方だったので、「ゴミ処理ですか?」と聞いたら、「ゴミ処理は熱いよ」と。そのベンチャーはゴミ箱にセンサーをつけて周るそうだ。そのゴミ箱は満杯になったら通信で知らせてくれるから、すぐゴミ回収に行くことができる。それですごく効率が上がったという話だった。ただ…、私も世界中でスタートアップの話を数多く聞いているので、「センサーをつけるだけなら簡単だな」と思った。ただ、その会社は政府のサポートを受けてヘルシンキ市で1年間、「いつ、どのゴミ箱が満杯になるか」というデータとともに、気象条件や気温といった各種情報を連動させ、分析していった。すると、「ここのゴミ箱は明日の夕方4時には満杯になる」ということが予測できるようになった。だから、「今日はあれとあれを回収して、明日と明後日は回収なし。明々後日はあれとあれ」といったスケジューリングが可能になったという。それで収集車の台数が1/3以下に減ったと。要するにゴミ処理のコストが劇的に減った訳だ。ヘルシンキでそれが証明されたため、そのスタートアップは現在、ストックホルムやマドリードといった欧州各都市の自治体と次々契約を決めているという。公共サービスでベンチャーがイノベーションを起こしている事例だ。同様の事例がモノのインターネットの時代には続々と起こるのではないか。

堀:地方のさまざまな公共サービスもベンチャーが担っていくべきだし、特区ではとりわけ思い切った売却や民営化の発想が必要だろう。発想を入れ替えてその会社を上場させてしまう等、いろいろなことができると思う。森川さんはどうだろう。福岡では新たにビルも建てる予定とのことだが。

30514 森川 亮氏

森川亮氏(以下、敬称略):僕たちは2008年から福岡に拠点を設け、いろいろと事業のサポートをしてもらっていた。実は震災があったときに東京本社の機能を一時福岡に移していて、僕も福岡に暮らしながら仕事をしていた時期がある。そこで感じたのは、とにかく環境が良いということ。海もあって山もあって、地域の方々は皆明るくてポジティブ。また、韓国・中国にも非常に近く、アジアの拠点となる点も大きな強みだ。空港も近いし、利点は多いと思う。それで今、自社ビルを建てたり人を採用したりしている。

堀:本社機能や東京と福岡との関係性はどうなるのだろう。

森川:基本的に本社は東京で、福岡には別途会社をつくる。今はいろいろと開発をしているけれど、アジアにも近いということもあるのでそこはそこで強化したい。

堀:創業特区に関して「これをやって欲しい」ということは何かあるだろうか。

森川:細かいご相談は、実は以前からいろいろとしていた。先日もそうだ。あるイベントを予定していたのだけれど、諸事情あって前日になって会場が使えなくなったことがある。それで急遽ご相談したりして…、とにかくいろいろなことをやっていただいている。そういう面も含めて福岡にはすごく柔軟性があると感じる。特にベンチャーの場合はスピードが大事だ。何かやろうとしたときにすぐ対応していただけるのは大きい。

お願いがあるとすれば、可能であれば税金の面。誰にとっても同じだと思うが、特にベンチャーはそうした煩雑な業務を可能な限り減らして本業に集中したい。その辺がよりクリアになると良いなと思う。あと、一番大きいのは人材面だ。特にIT企業はコストのほとんどが人件費になるから、いかに優秀な人材を確保できるかが鍵だ。その意味では人材教育という面で、たとえばITに特化した学校なり教育があるといいなというのが一つ。また、外国の方々が安心して仕事のできる環境も必要だと思う。インターナショナルスクールをつくっていただく、あるいは家を借りる際の保障や敷金・礼金といった日本独特の仕組みを改善していただけると、より良いのかなと思う。

堀:あとで会場からもいろいろと話を聞きたいが、その前に高島さんにもう少し、「これをやる」という具体的なお話を伺ってみたい。

高島:喫緊の話としては、5月に区域会議ができたら夏までに具体的にプランをつくるということで、今はスピード感を持って進めている。従って、その部分はいわゆる規定演技が中心になると思う。具体的には雇用に関することだ。特に雇用ルールの明確化。それから外国人の方々に関するお話では在留資格の議論もある。また、医療環境の話も必要だろう。そうした規定演技についてまずは夏までに、着実に進めていきたい。今はそれと同時進行でアイデアを募集している状態になる。具体的なプラスアルファということで、いわゆる自由演技をくっつけていきたい。

それと、孫さんがお話ししていた公共サービスの領域では、ビッグデータやオープンデータの話があると思う。今、その辺についてはG1メンバーの首長さんたち…、特に熊谷千葉市長がこの分野に大変明るいので、活用の具体例をどんどんつくっている状態だ。あと、ゴミのお話に関して言えば、福岡は密集したコンパクトシティなので、「こっちとあっちの2箇所に行くのなら、そっちも寄っていったほうが」という話になるのかもしれない。ただ、もう少し人口密度の低い地域では収集所同士が離れているし、土地がある場所なら共同コンテナを置けばそうしたこともやりやすくなると思う。

あとは税金だ。今、地方の法人税と市民税は地方がもらっているが、国の割合がすごく大きい。しかし、少なくとも創業5年以内の企業に関しては儲けた利益をさらなる成長のために使い、会社をしっかり安定させていくことが大切になると思う。従って、創業5年間は法人税率の実効税率を下げて欲しいという話はし続けている。麻生財務大臣にもお会いするたびにそのお話をしているし、特区に決まった日も電話をして「ぜひよろしくお願いします」とお伝えした。

堀:創業特区として、一つひとつは小さいことであっても実績を積み重ねていただきたいと思う。

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