ユーグレナ・出雲氏×イー・アクセス・千本氏×UBS証券・武田氏 「アントレプレナーと資本市場」 前編 

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水野弘道氏(以下、敬称略):「アントレプレナーと資本市場」というテーマで、本セッションにはユーグレナ創業者の出雲さん、イー・アクセスやイー・モバイルを創業した千本さん、そしてアナリストの武田さんにお越しいただいた。ファンド運営者として日本企業を上場させたこともある私としては、今日は投資家というユーザーの立場で日本市場に関しいろいろと質問を投げていきたい。そして千本さんと出雲さんには、資本市場における調達側というユーザーの立場でお話しいただこう。で、その中間にいる武田さんには調達側と資本を出す側を繋ぐアナリストとしてのコメントをいただきたい。非常に面白い組み合わせで議論できると期待している。まずは自己紹介を兼ね、資本市場における現在までの取り組み等を伺いたいと思う。(01:17)

30402 出雲充氏

出雲充氏(以下、敬称略):私たちは今、石垣島でミドリムシを育てている。当社は2012年12月、東証マザーズにデビューして資本市場との関わりをスタートさせた。IPO時の時価総額は50億円。マーケットからは10億を調達させていただいている。このときの公募価格は1700円だ。上場した12月20日当日は値段が付かなかったものの、翌21日にはおかげさまで3900円の初値がついた。で、次は昨年11月に公募増資(PO)を行った。そのときの時価総額は900億、調達金額は75億円となった。IPO時に10億、PO時に75億。加えて、8年におよぶそれまでの事業で15億貯めていたから、現在の純資産はちょうど100億になる。資本市場からお金を調達した訳だから、今後はそれをどう運用して会社を大きくしていくのか、資本市場に向けて継続的に説明していかなくてはいけないと思っている。(02:49)

我々が掲げる最大の目標は、東京オリンピック/パラリンピックが開催される2020年までにミドリムシから絞った燃料で飛行機を飛ばしたり、都バスを動かしたりすることだ。2020年、資源がない日本にやってきた2000万人の人々に、「飛行機にせよバスにせよ、なんだかいろいろなものがミドリムシで動いているなあ」と言われるような日本にしたい。「そんな日本は嫌だ」と言わないで欲しい(会場笑)。調達した資金を懸命に活用して、人々の移動や環境・エネルギー、あるいは健康に関する課題解決に貢献していきたい。オリンピック選手にもミドリムシを食べて健康になって貰いたい。(05:19)

あと、恐らく多くの方がミドリムシについて間違った認識をお持ちだと思うので、一つ申しあげておきたい。ミドリムシは虫ではない。芋虫や青虫を想像していらっしゃる方は多いと思うが、ミドリムシはワカメだ。…(会場を見渡して)ここは「ええ!?」と驚いていただくところだが(会場笑)。また、昆布等の海草と異なり、ミドリムシは0.1mm以下の単細胞微生物になる。だからミドリムシが増えても『ふえるわかめちゃん』みたいなもので、それほど気持ち悪い社会にはならないと思う(会場笑)。ぜひ、ミドリムシを応援していただきたい(会場拍手)。(06:22)

30403 千本倖生氏

千本倖生氏(以下、敬称略):私が起業したのは一世代前の1984年。それまでは日本電信電話公社で20年近くサラリーマンをしていた。で、NTTが民営化した際、対抗する巨大ベンチャーをつくろうと思って現KDDIの前身となるDDIをたった二人で創業した。相方は有名な稲盛和夫さんだ。当然、通信ベンチャーだから大変な額の資金が必要になる。そこで当時の取締役にはソニーの故・盛田昭夫さん、ウシオ電機の牛尾治朗さん、セコムの飯田亮さんといった方々に金屏風の如く付いていただいた。従業員30万人のNTTに対抗しようと、純粋な民間ベンチャーをゼロから興した。(07:37)

で、当時のスタートアップ資金は40億〜50億円だったが、市外電話のサービスで瞬く間に成長して、7年ほどで東証二部、そして東証一部に上場した。上場で5万の株価は、たしか初値で550万ほどになった(会場感嘆で笑い)。ピークでは1000万ほどになって、森田さんには「200倍か。よく頑張ったな」と、銀座の料理屋さんでおごって貰ったのを昨日のことのように覚えている。そして、たしか48歳のときにDDIを携帯電話の会社にしようと考えて現auの事業を開始した。それから51歳のとき、DDIグループ内で今ウィルコムと言われている会社の前身となるPHSの会社を創業した。(09:13)

そしてDDIの一部上場を一つの機縁として、今後はもう少ししっかりと、アカデミアでアントレプレナーシップの教育をやるべきだと考えた。で、当時ちょうど大学改革の波を生んでいた慶應義塾大学から「ビジネススクールでアントレプレナーシップ教育を始めたい」とのことで教授に招聘され、日本で初めてアントレプレナーシップというものについて同大学経営大学院で教え始めた。52歳のときだ。素晴らしい環境で、出雲さんのような年代の若い社会人学生が数多く参加してくれた。いわゆるビットバレーといったものに象徴される1990年代のベンチャーブームという大きな流れのなか、アントレプレナーシップ教育を4〜5年行ったという流れになる。(10:51)

しかし2000年頃、日本にもインターネット革命が起こり、「これは教授なんてやっていられない」と。多くの人々がそろそろ定年を考える57歳でイー・アクセスという会社を創業した。ここではスタートアップ資金として45億円ほどのファイナンスを行った。ゴールドマン・サックス証券で第一級のアナリストだったエリック・ガンという、当時たしか36歳ぐらいだったが大変優れたパートナーとともに始めた会社だ。(12:08)

そこでファイナンスに関して非常に気を付けていたのは、世界で最も高級なお金を集めるということ。当時で言うと、まずはゴールドマン・サックス証券のお金だ。そのためにあらゆる努力を惜しまなかった。当時の同社CEOで後に財務長官となるハンク・ポールソンにもニューヨークまで会いに行き、国際投資委員会に諮って貰ったりした。それで、彼らはペーパー上の事業プラン以外何もない会社に20億円の投資を決めてくれた。次いで第2位のモルガン・スタンレーも同じぐらいの投資を行ってくれた。そんな風にして、私は基本的にまず世界で超一級のコーポレートにファンディングを行う。その後ほかのベンチャーキャピタルや事業会社が付いてくる感じだ。それで45億を集めたあと、カーライル・グループから第二次のファイナンスを行った。(13:18)

そうして63歳になり、「もう本当にリタイヤしようか」と思ったとき、現在CMでもよく見るイー・モバイルという携帯電話の会社を創業した。こちらはADSLのイー・アクセスよりもはるかに大きな資金調達が必要だったから、計4000億円を調達した(会場感嘆で笑い)。うち、およそ1400億がエクイティで2200億がデット。残りのおよそ400億がリースだ。その計4000億が、事業を始めた段階で手元にあった。エクイティにしてもデットにしても、そうした何千億円ものファイナンスをベンチャーが獲得した例は日本になかった。しかし、「エリック、やっぱりやろうよ」と。ゴールドマン・サックス証券だけでなく、ブラックストーン・グループや香港の巨大財閥である新鴻基といったところからも投資をして貰い、ともかくも4000億でイー・モバイルをゼロからスタートさせた。(14:37)

そして昨年、孫正義さん率いるソフトバンクにイー・アクセスとイー・モバイルを一緒にしてエグジットした。ソフトバンクとの株式交換だから大変な流動性がある。同社の1日のボリュームは日本で1〜2位だから、イー・アクセスの投資家も大変な倍率になった。流動性も非常に高い。1400億円を投資した機関投資家はじめ、皆が満足する形で数千億のエグジットを行ったことになる。ともかくも極めてグローバルな投資家および金融機関をベースに、日本の投資家や金融機関を交える形でファイナンスを行った。そんな、日本では数少ないシリアルアントレプレナーというか、五つの会社を興した経歴とファイナンスの経験を持っている(会場拍手)。(16:17)

30404 武田純人氏

武田純人氏(以下、敬称略):アナリストの仕事についてご存知ない方もいると思うので、少し説明したい。会社のステージを上場と未上場で分けると、基本的には上場した会社さんを調べ、さまざまな視点で株価を評価するのが私の仕事だ。で、安ければ「買いだ」、高ければ「売りだ」と推奨するという、資本市場で適正な株価を形成するような役割を担っている。で、そう言ってしまうと少し堅いので、たとえば親戚には「株式市場における競馬の予想屋みたいな仕事」と説明しているが、決して賭け事ではないものの、「買いだ」と言って外れるとやはり怒られる(会場笑)。昨日も推奨していた会社さんが酷い決算になって株価も7%ほど下落してしまい、Yahoo!掲示板上で“殺されて”しまったりと(会場笑)。まあ、人格を否定されてしまうようなこともあるので、この仕事をやって10数年、精神的には強くなったと思う(会場笑)。(17:55)

今回は千本さんという起業家のレジェンド、そして将来レジェンドになられるような出雲さんという方とご一緒できてエキサイトしている。僕らは日々、いろいろな形で資本市場と付き合っているが、不満に感じている部分や海外と比べてストレスを感じるところはいろいろとある。ぜひ、今日はその辺について議論していきたい(会場拍手)。(19:24)

水野:ベンチャーと資本市場の関わりとなると最初はIPOの段階だと思う。ここに関しては過去10〜20年、経産省もいろいろやってきた。ベンチャーの資金調達を研究するため、日本から役人の方々がシリコンバレーにいらしていたのを私もよく見ている。そこで、「どうすれば日本で簡単に上場できるか」といった議論が進んできた。その結果として日本の上場基準は今、恐らく世界で一番緩くなっているのではないか。まずは日本で上場市場を活用するにあたっての問題点から議論したい。最後は提案等、前向きな方向で終わりたいが、活用されるほうの立場として「こういう点は使い勝手が悪い」といったご意見や、セカンダリ投資を見ておられる立場として「IPO市場のここが問題点では?」といったコメントがあれば伺いたい。まずは出雲さんから。(19:59)

出雲:たしかにIPOの基準は大幅に緩和されていると思うし、基準となる株主数をさらに減らし、たとえば100人以上なら上場できるようにすると上場企業も一段と増えるのではないかという議論もある。ただ、それほど増えても意味がないと思う。むしろ私としては、「発行体にどのような特徴があるか」、「IPO後に何をしようとしているか」といったことを説明する機会と時間が少ないことに衝撃を受けた。IPO後もほとんどのユーグレナ株主の方が、ミドリムシは虫だと思って買っている(会場笑)。(2108)

とにかく説明のチャンスがない。個人に説明するチャンスは皆無だ。IPO直前にロードショーで投資家やアナリストの方々を廻った際も、あまり時間をいただけなかった。海外事情は知らないが、少なくとも私のときは一コマ目が9〜10時で、そのあと30分の移動を挟んで10時30〜11時30。そのあと証券会社の方々とお昼を食べて、今度は13〜14時、14時30〜15時30、そして16時〜17時に話をした。で、そのあとブラックロックやインベスコ(・アセット・マネジメント)やフィデリティ(・インベストメンツ)といった機関投資家の方に説明した。ただ、「小さいIPOは17時30分からな」と。コアタイムはイー・アクセス等で忙しいので(会場笑)。だから呼ばれた時間に伺って説明をしたのだが、膨大な資金を持つ機関投資家とも1回1時間の面談があるだけだった。(22:07)

それなら何故当社の株主になってくださったのかなと思う。我々の何を楽しみにしているのか、どのような成長を期待して買ってくださったのかといった、機関投資家からのフィードバックもない。商品を買ってくださるお客様とはすごく仲が良いけれど、発行体と株を買ってくださる方々とのあいだに接点がなく、なかなか話ができない。株主平等の原則等があるのでどの株主にも同じことを言わなければいけないし、「随分不思議な仕組みがあるなあ」と思いながら、今は1年半が経ったところだ。(23:34)

水野:武田さんに伺いたい。忙しくて時間繰りが大変なのは海外も同じだと思うが、一番の違いは千本さんが仰っていた「高級なお金」の部分だと思う。実際、証券会社は日本のIPO市場で誰に売ろうとしているのか。ご自身はセカンダリのご担当だが、証券会社はベンチャーの販売戦略としてどういうところを狙っているものなのだろう。株を買う人たちのどんなビヘイビアを想定して営業していらっしゃるかなと思う。(24:30)

武田:一般論であると前置きをさせていただきたいが、当然、ベンチャーだからと言ってすべての株が個人投資家さんに配分される訳ではない。ぴかぴかの、いわゆる機関投資家さん向けのアロケーションもある。ただ、IPOディスカウントという言葉は皆さんも聞かれたことがあるかもしれない。たとえば「企業価値として株価1000円が正しい」と合理的に判断した場合、当然ながらその値段では買っていただけないのでディスカウントして販売する。そのディスカウント率は会社や産業によってさまざまで、それこそ密室で決まってしまうところではある。従って、逆に言うと「IPOの株は買ったら上がる」という大前提というか、暗黙の了解で配分され、販売される。(25:17)

で、日本市場で特にベンチャーのIPOを考えた場合、もちろん個人投資家さんへの配分はある。ただ、たとえば出雲さんがIPOのタイミングで「直接説明したい」と言っても、大勢過ぎてなかなか説明できない。そこで証券会社が中間に入り、出雲さんたちが何を考えているかといったことをレポートや対面でお伝えする訳だ。そのとき、証券会社のロジックとしてIPOディスカウントのコンテクストが入ってくる。つまり顧客サービスだ。これは私見だが、そこで買っていただいた人たちが長く持ち続けるという前提でなく、利益が出たらプロフィットテイクする商品として売っている。そんなロジックではないか。恐らくそこに、発行体の方々、実際に販売を担う方々、そして実際に買っている方々という三者の関係があるのではないかというのが僕の考えだ。(26:28)

30405 水野弘道氏

水野:証券会社がお土産として渡すという顧客リレーションシップの結果として、買った人々はIPO後に株価が上がるとすぐに売ってしまうと。実際にはそれ以降に買う方々が長期的な株主になる訳だが、そこにアプローチできる仕組みが今はなかなかないというお話だと思う。ただ、現実問題として個人投資家の方々ばかりだとIRサービスは相当難しくなると思う。千本さんは資金調達にあたってニューヨークだけでなくエディンバラやロンドンにも頻繁に行ったと伺っている。そうした顧客層の違いは長期的な株価形成に影響すると感じるが、その辺りはどうお考えだろう。(27:42)

千本:非常に重要なご指摘だ。全般的に言って、残念ながら日本のベンチャーは一般的な外国人機関投資家たちから「ひ弱だ」という評価をされている。たとえばロンドンの機関投資家にマザーズなんていう市場はまったく知られていない。知っているのは日本の一部、個人のおばちゃんおじちゃん投資家だけ。けれども数百億〜数千億円といった資金は、やはり世界に通用する一級の機関投資家が面を並べているようなところでないと調達できない。(28:28)

だからIPOしてからというもの、私どものIRは本当に忙しかった。四半期に一度ずつ、たとえば1週間かけてサンフランシスコに行く。デンバーにも通信分野で重要な機関投資家が多い。そしてダラスにニューヨークに、当然ボストンにも行く。ヨーロッパならパリにアムステルダムにフランクフルト等々。もちろんロンドンは世界の大中枢であるし、意外とエディンバラも重要だ。とにかく、そうして各都市内で1日かけて10箇所ほど、お昼も食べずに廻る。恐らく孫さんはプライベートジェットで一気に廻ると思うけれど、私なんてたとえば飛行場からタクシーに飛び乗って、あっちへ行ったりこっちへ行ったり…。しかもすべて英語で行わないといけない。(29:28)

日本のベンチャーがひ弱と言われる大きな原因の一つに、国際性のなさがある。何しろ英語で説明ができない。標準語である英語できっちりと経営内容、パフォーマンス、フォーカスト、あるいは経営ビジョンを説明できないと駄目だ。(世界一流の機関投資家である)彼らとは何回も会っているが、彼らは昔のメモをきちんと持っている。「3年前に貴方はこう言ったじゃないか」と、当時のメモを見せながら、「今の話と整合性が取れない。最近、経営思想がおかしくなっていないか?」なんて言ってくる。(30:46)

当然、取締役会も基本的にはすべて英語だ。我々は7割が社外取締役で、アメリカ人もイギリス人も香港人もインド人もいる。日本人もいるがガバナンスとしてマジョリティは外国人で、同時通訳もなく英語で議論を行う。そうでないと世界で一級のお金はIPO後も集まらないからだ。日本のベンチャーがこれから世界で活躍し、世界でお金を集めるためには、そうした真の国際性を持たなければいけないと思う。(31:38)

水野:機関投資家と個人投資家、そして外国人投資家と日本人投資家という二つの観点が出た。で、後者に関して言うと私自身もツイッター等で何度も書いているが、日本株に最も長期的信頼を置いていないのは常に日本の機関投資家だ。実は海外投資家のほうが圧倒的に長期保有している。にも関わらず、何故か外国のお金は短期のお金という思い込みが日本にある。ユーグレナのIPOでも海外投資家はほとんど入ってこなかったと思うが、現時点で彼らが買っている感触はあるだろうか。(32:28)

出雲:IPO時、海外投資家の方々とはまったく接点がなかった。ただ、IPO翌年には当社が話題となり、「今年の日本株はガンホーとミドリムシだ」なんていう風に雑誌等でもいろいろと紹介されはじめた経緯がある。それで海外でもアナリストの方がちょこちょこ伝えてくださった結果、翌年2〜3月ぐらいから急に海外からアナリストの方々や投資家の方々が当社オフィスを訪れるようになった。そのほとんどは香港かアメリカからだ。それで、以前は日本語だけに対応していた資料やオフィス受付の案内パネルも英語にしたりして、どうにか上手に伝えるための努力をしている。(33:33)

水野:言語の問題は一つあると思う。武田さんがカバーしているのはアナリスト20〜30社だと思うが、そのうち英語でレポートが出ているものはどれほどあるのだろう。(35:14)

武田:私のレポートは日英で同時に出るし、海外投資家の方々に国内投資家向けと同じ情報をリアルタイムで伝えることは極めて大事だ。ただ、それとは別に、とりわけベンチャーに対して海外から投資が行われない背景として一つ実感していることがある。私も3ヶ月に1度ぐらい1週間ほどアジアや欧米を訪れ、自身が主に担当するインターネットおよびエンタテインメントのセクターに関して現地の機関投資家といろいろと議論を行う。そこで、日本のベンチャーに投資をしない投資家さんの共通項として、僕が「Aという会社はすごく良いです」と説明しても情報ギャップがあって理解できない面があると感じている。どうしても物理的に離れているから、「その会社のことを知りたい」と思っても時差があるし、すぐに訪問できないという面はあるのだろうと思う。(35:25)

それともう一つ。私が担当する案件でも、「“割安だから”というバリューで買うのか、成長への投資として買うのか」と言えば、圧倒的に後者が多い。ただ、そうした成長ストーリーに関して日本の企業経営者が直接コミュニケートできているかというと、できる人たちは増えてきたが未だ少ない。日本語で伝えるときと同じ情熱で何度でも、海外投資家の方々に伝えることができないのは問題だ。特定の会社に肩入れする訳ではないが、「調査の結果、この銘柄は資本市場でもっと投資されるべき」となれば、そこで投資が進んでいない実情とのギャップを埋めるのが我々の仕事になる。ただ、いかんせんアナリストが一人で担当できる会社は20社前後が限界になる。(36:46)

水野:千本さんのお話を伺っていても大変なご苦労というのは分かるが、「その苦労をする価値があるのか?」という問いもある。英語でカバレッジができるアナリストが付いて、かつ経営者自身も英語で説明できるベンチャーと、そうでないベンチャーで、株価のスタビリティやレベルが変わらなければそもそも意味がない。その辺について実際にコニュニケーションを行っているお立場ではどうお感じだろう。(37:53)

武田:何かデジタルな証拠を提示できる訳ではないが、私は変わると思っている。だから間に入って努力をしているし、事業会社さんにもそれをお願いしている。(38:28)

千本:決定的に変わると思う。まず、たとえばフィデリティのような超一級の機関投資家はなかなか売らない。日本の機関投資家のほうがはるかに、売る(会場笑)。しかし水野さんのご指摘通りで、どうも日本人のベンチャー経営者には「国内投資家のほうが売らないから安心できる」といったマインドセットがある。しかも日本語しかできない訳だ。母国語でしか説明されないビジネスプランや母国語でしか運営されないボードミーティングというのは、世界では少数派だと思う。私は海外でもいくつかの会社で社外取締役をやっているが、どこでも英語で運営されている。その意味で、まだ日本のベンチャーは世界のなかで決定的に国際化が遅れていると思う。(38:46)

また、世界に出て一級の機関投資家に入ってもらうと大変な信用力がつく。で、会場に日本の機関投資家の方々がいたら申し訳ないが、それを横目で見ながら日本の機関投資家が付いてくる。そんな事例が数多くあった。従って、世界一級の機関投資家がやっているようなアナライズを日本の機関投資家もきっちり行い、長期的に投資できるような体質にまずなって貰いたい。それでフィデリティのようなところが後ろから付いてくるような世界になれば日本のベンチャーも本質的に変わると思う。(40:08)

武田:もう一つ、共有させていただきたいことがある。海外の投資家は、必ずしも日本株を買わなければいけない訳ではない。3〜4年前の話になるが、自身が担当していたインターネット関連会社に対する海外ファンドのアペタイトというか、関心が猛烈に減衰しているのを感じた時期がある。アジアのネット企業によるIPOでグローバルに投資できる会社が一気に増えたからだ。それで、それまで日本のネット関連株に投資しなければいけないと考えていた人たちが、「別に日本じゃなくてもいいじゃん」となった。特によく言われるのは、「日本国内でやっていても、人口1億人でしょ?」と。グローバルなら、中国なら成長の桁も異なるという風に比べられてしまう。(41:00)

従って、相手はグローバルだから英語によるコミュニケーションも当然必要だが、それだけでは不十分ということもご認識いただきたい。それともう一つ、上場会社さんとコミュニケーションをしていて強く感じることがある。失礼な言い方になってしまうが、「良い会社なら、良い事業プランなら、黙っていても世の中のお金が会社に入ってくる」と思っていらっしゃる経営者の方は意外と多い。現実は違う。プロアクティブに自分たちのバリューを伝えに行く努力を、国内でも海外でも経営者が一生懸命やっていらっしゃる会社にお金が入る。精神論に聞こえるが、その努力も不可欠だ。英語力に加え、そうしたマインドセットが産業側にも我々側にも必要だと強く感じる。(42:12)

「グレイヘア」の役割を全力で担う、と千本氏が語る。後編はこちら

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