麻生巌氏×榎本一郎氏×杉山敦氏「九州発・世界に躍進する企業を生み出すには」 前編 

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今は日本全体が新しい時代を迎えなければならない。その橋頭堡が九州(波頭)

29491 波頭亮氏

波頭亮氏(以下、敬称略):今日はすごいテーマをいただいた。ご案内にある通り、「九州が時代を切り拓くためのビジョンを語る」といった話になると思う。九州が経済的に大変高いポテンシャルを持っているのは歴史的にも地理的にも明らかだ。日本の産業近代化を極めて象徴的に具現化してきたエリアだと思う。20世紀には製鉄やケミカルや造船といった基幹産業が発展し、同世紀中頃には自動車産業や電機産業も九州で大きくなっていった。今はトヨタ自動車(以下、トヨタ)や日産の大きな拠点もある。また、高島(宗一郎氏・福岡)市長が別セッションでおっしゃっていた通り、たとえばゲームソフトに関しても九州で数多くのベンチャーが誕生し、活躍している。非常にバランスの取れた産業ポートフォリオで健全に産業構造の高度化が進んでいる。今日はそうした前提で、さらに新陳代謝を図りつつ日本経済をリードしていくため、九州がどのようなエリアになるべきかいうビジョンについて議論していこう。(00:52)

アジアが今伸びていることは皆様ご承知かと思うが、その経済規模は世界経済の約1/4。北米にメキシコを含めたグループと同じ規模だ。EUともほぼ同等。で、そのアジアにおいて日本は1/3を占める。ざっくり言えば中国も1/3で、あとは韓国が少し。つまり日本一国で中国・韓国以外の全アジアと同程度な訳だから、すでに巨大な経済圏ではある。ただ、ここ10〜15年の日本経済は0〜1%成長に留まっている。その間、東アジア・南アジア各国は平均成長率8%を示してきた。日本におけるかつての高度経済成長が15年間続いている状態で、そしてそれはまだ衰えていない。中国は多少飽和してきたと言われているが、たとえば南アジアでは10%成長を維持している国もある。今、世界経済の牽引者になっているのは東アジア・南アジアであり、それらの地域に対する日本経済の橋頭堡がこの九州と言えるだろう。(03:10)

今日はそんな大前提で新しいビジョンを考えていきたい。今までの延長線上で普通のことを普通にやり続けているだけでも、恐らくそこそこの果実は手に入るだろう。しかし、今は日本全体が新しい時代を迎えなければいけないフェーズにある。その橋頭堡となる九州には、ぜひ戦略的ビジョンを掲げて欲しい。それが日本全体の要望でもあるし、九州にとっても大変必然性が高い考え方だと思う。(05:23)

壇上の御三方はそうした議論を行ううえでベストな布陣だと思う。極めてバランス良く、かつ過去から現在に至るまで新陳代謝を繰り返しながら高度化してきた九州の産業ポートフォリオを、まさに体現する御三方だ。麻生さんはセメントという基幹産業で事業を展開する傍ら、ドワンゴでは情報通信の最先端事業を展開している。そして榎本さんは全産業のインフラとなる金融および不動産で活躍しており、さらに杉山さんは20世紀後半以降から日本の圧倒的主力産業であり続ける自動車産業に携わるほか、アメリカでのキャリアもお持ちだ。「ノイエ・コンビナチオン(新結合)」の言葉通り、新しいビジョンや価値は二つ以上の経験や発想あるいはアイディアを繋げたところから生まれる。マルチな経歴をお持ちである御三方には、ぜひそうした観点で「九州はこうしたらいい」というビジョンを語っていただきたい。まず杉山さんに伺っていこう。(06:07)

安定した仕事がある。それが人を増やすことに繋がる(杉山)

29492 杉山敦氏

杉山敦氏(以下、敬称略):いきなりビジョンを語るのは難しいので、まずは自己紹介をさせていただきたい。私はトヨタ自動車九州(以下、トヨタ九州)という会社に勤めている。別セッションでは麻生副総理から、「トヨタが来て宮若市(旧宮田町域)の出生率が日本一になった」というお褒めの言葉をいただいたが、社員達は子供ばかりつくっている訳でなく(会場笑)、車もつくっている。トヨタは現在、年間300万台ほどの車を国内でつくっていて、その1割前後をトヨタ九州でつくっている状態だ。トヨタは日本でつくった車の半分ぐらいを国内で売って、今は国内にもそれぐらいのマーケットしかないのだが、半分を輸出している。ただ、トヨタ九州でつくっている車の大半は「レクサス」ブランド。アメリカと中国がメイン市場ということで9割が輸出向けだ。(08:55)

実は私、実際に来るまで九州には縁もゆかりもなかった。愛知県で生まれ育ち、大学時代のみ東京にいたのだが、家の事情で就職時に地元へ帰らなければいけなくなったということでトヨタに入った。そして現在のキャリアとなって初めて九州へ来たのだが、その前はアメリカで6年間暮らしており、そこで初めて日本という国を外から見ることとなった。そこで何を感じたか。やはりアメリカは資源も食料も自分のところでつくることが出来るから、非常に豊かだ。一方、日本は食料をたくさん輸入しなければいけないし、エネルギーも自給出来ない。一つの家に例えると、エネルギーと食べ物に必要なお金を何かの形で稼がなければいけない国ということがよく分かった。国内でモノをつくり外国へ売ることで、それを稼いでいる訳だ。それで、私自身は「日本に戻ったらもう一度モノをつくる仕事に直接携わりたい」と考え、工場の仕事を希望したところ、運良く九州で拾っていただいたという経歴になる。(10:20)

副総理のお話にもあったが、九州経済を成長させるために何が必要かと考えると、やはり一番大事なのは人を増やすことだと思う。トヨタが九州に来て、そこで大勢の社員の方を長く雇い続けていったことで子供が増えた。そういうことを国全体で続けることが根本的な少子化対策になるのではないかということを、九州に来て以来、非常に強く感じている。子供をつくろうと思えば結婚しなければいけないし、結婚するのなら家族を養う稼ぎがないといけない。仕事をしてそれを稼ぐ訳だから、長く務めることの出来る安定した仕事があるかどうかが、まず一つの大事な条件ではないか。(12:23)

ただ、それだけでは今の人達はなかなか子供をつくらない。うちは子供を持つ社員が多く、一番多い社員には7人もの子供がいる。何故それだけ多くの子供を持つことが出来るのか。奥さんも働いているためだ。そして、近くには子供の面倒を見てくれる親や兄弟がいるから。それが出来るのは自分も親兄弟も生まれ育った地域に住んでいて、かつそこでずっと仕事が出来ているからだと思う。統計データを見ると驚くが、九州・沖縄8県のうちの6県が都道府県別出生率トップ10に入っている。とにかく、それがどんな仕事でも良いと思うが、そこに生まれて育った人達が他地域へ行かなくても仕事が出来る環境をつくる。そうすればその地で結婚して子供もたくさんつくる人が増えるのではないか。そうした環境をどのようにつくっていくかが課題だと思う。(14:08)

私は車づくりの仕事を今ここでやらせていただいていて、おかげさまで当社の社員も安定して雇うことが出来ている。従って、今度どのような変化があるかは分からないが、とにかく今雇っている人達を今後も雇い続けていきたいし、これから社会人となる人達も一人でも多く雇うことが出来るようにしたい。そのためにはどうしたら良いかということを考えながら毎日仕事をしている。(16:11)

波頭:ご承知の通りトヨタは全社的な戦略として、雇用を守るため、部品やプロダクションといった当面のコストを犠牲にしてでも極力国内に拠点を置いている。それがコスト高に繋がって上手くいかないかというと、グローバル戦略は大変上手くいっているし、今期も営業利益予測2兆4000億という素晴らしい業績な訳だ。これは日本全体で考えるべき話だと思う。目先の効率化やコストダウンのために拠点を次々海外へ出すのでなく、国内に拠点を置けば地域の需要創出と経済成長にも繋がる。(16:49)

自動車産業の祖であるフォードも最初に従業員の給料を倍にした。それで従業員達は庶民にとって高値の花であった車を購入出来るようになった訳だ。先に給料を上げるのか、それとも業績を上げることで給料がついてくるのか。これは鶏と卵のような話だし、トヨタのような日本を代表する企業だからこそ国の経済を発展させるために雇用を維持するというマクロスケールの戦略も可能なのだと思う。ただ、それは九州全体で考えても極めて妥当で真っ当な方策だと感じる。では続いて麻生さん。(17:51)

弱さを強さに。イノベーションスピリットの強い九州が生まれる(麻生)

29493 麻生巌氏

麻生巌氏(以下、敬称略):九州から世界的なものを生み出すというテーマで、二つの視点があると思う。一つは九州の持っているアドバンテージがなんなのか。世界的な企業や活動をこの場所から生み出すのであれば、逆に言えば、九州が持つアドバンテージをある意味で吹き飛ばすようなものが必要とされるのだと思う。(18:53)

私としては、日本の1/10という経済圏でしかない九州の弱さが、逆に十分な強みでもあるのではないかと考えている。福岡の方であればお分かりいただけるかもしれないが、私の地元は福岡のなかでも大きなディスアドバンテージがある筑豊という地域だ。で、私が筑豊に住んでいたのは3歳から5歳までだが、当時、同じ幼稚園に通っていた友人の親御さん達が家業で営んでいた八百屋やスーパーは、30年経った今、ほとんど残っていない。東京の資本や九州の大きな資本に飲み込まれていった。それで今は家業をたたんでいるという友人の家は非常に多い。(19:39)

ただ、僕はそれが強さにもなり得るとも思っている。僕は日本という国自体が中期的には緩やかな、または途中から加速度的な衰退をしていくのではないかと考えている。今の筑豊や…、自分の地元ではないのに例として挙げるのは申し訳ないが、北九州のような地域と同様に、だ。ただ、幸いにして私達は、そうした将来を先んじて見ている。「放っておくとこうなる」というものを見ている。しかも、それで苦しんでいる友人家族を目の当たりにすることによる、感情的なシンパシーを持つことも出来ている。それは強みでもあるし、これを生かす必要があるのではないかと思う。(20:45)

一方、この島から世界的なものを生み出すのであれば、世界が何を求めているかを考える必要もある。私は昨年夏に開催された「G1新世代リーダー・サミット」で、「今起業するとしたらどの国で創業したいか?」という質問を受けたことがある。私はそこで、「日本ではないか」と申しあげた。何故か。私も外国へ行く機会が多いので感じるのだが、恐らく日本人のほとんどが、ここにおられる方は違うと思うが、日本人のほとんどが雑駁に捉えているよりもはるかに多くの国で、個人が法律に守られていない。そこには人権という大きな問題もある。ただ、そもそも起業した個人や企業が資本的に潤っていくという、その過程が保護されない国は世界にまだまだたくさんある。その点、日本は少なくとも法律に守られている。これは日本の一つの強みだと思うし、海外に打って出て世界企業になる、あるいは世界的活動をするというのであれば、日本という国が強い国であることも非常に大きな強みになると思う。(21:36)

テーマとずれるかもしれないが、大変強い国が存在することによって秩序立っていた現在の世界情勢は、将来的には崩れる可能性がある。そこで九州から生み出されるものは二つ。一つは、決して強くない地域で自分たちが目の当たりにしてきた弱さを強みに変えていくということ。それともう一つ。歴史的に見ても鹿児島そして九州が牽引した維新を経て、江戸時代以前は決して強い国ではなかった日本が大変強い国に生まれ変わった。そうしたイノベーションのスピリットがこの島にはある。それを受け継いでいることも九州の強みではないか。そこから世界的なものが生み出されるのではないかと感じている。(23:42)

波頭:最後のキーワードは印象的だ。九州のイノベーションスピリットが本当に強いということは、昨日も九州でベンチャーを興している方々とお話をしていて強く感じた。東京の方々と比べて海外志向が強く、新しい動きを起こすことへの抵抗が小さい。東京では行政もビジネスも巨大な機構のなかで動いていて、色々なパワーが錯綜している。良くも悪くも有機的だ。そのメカニズムを上手く捉えてギアを利かせたらするする上がっていくことも出来るが、強みと弱みは裏腹な関係にある。色々なことを気にしなければいけない。しかし、九州でベンチャーを興している人達はふっきれてぐんぐん前に進んでいる印象を受ける。福岡のほうは朝鮮半島や中国方面に、そして鹿児島のほうは台湾方面に昔から開けており、貿易等をずっと行っていた。それがイノベーションスピリットと相まって最大の強みになるのではないか。では次に榎本さん。(25:05)

九州がリスクをとってチャレンジしていく(榎本)

29494 榎本一郎氏

榎本一郎氏(以下、敬称略):弊社は「キャナルシティ博多」に代表される商業施設の開発運営事業と「グランドハイアット福岡」に代表されるホテル事業を展開しているほか、特に最近はオフィス開発運営事業に力を入れている。現在、福岡市内に25棟のオフィスを保有ないし運営しており、これは福岡市オフィスマーケットの10%前後にあたる。今後は特に天神中心部の再開発に力を入れようとしている。ただ、そうした街づくりで主に社員が頑張っている一方、私自身は夜な夜な東京からのお客様をおもてなししたりもしている状態だ。(27:07)

そこで思うことがある。福岡外からお見えになった皆様は、「福岡は料理も美味しいし、九州には温泉もあって素敵だね」とおっしゃると思うが、我々は現状に満足していない。特に最近は東京へ行くたび思うのだが、丸の内や赤坂の、あの目覚しいばかりの再開発と機能更新と比べ、福岡の中心部はどうか。実態としては、博多駅前にも天神地区にも地区50年以上の古く低い建物が並んでいる状況だ。(27:54)

オリンピックも控えて東京一極集中が今後ますます加速しようとしているなか、九州福岡と東京との格差がこれほど開いたことは歴史上ないのではないかという危機意識がある。今日はその辺のお話をしたいが、ポイントは二つ。まず、福岡で街の再開発・機能更新がなされていないのは何故か。あるいは、どうすればそうした現状から脱皮出来るのか。一つの突破口になるのは特区の活用による九州福岡地区の浮揚が出来ないかということだ。やはりキーワードの一つはアジアだと思う。「アジアに近い」ということで皆さんにもお褒めいただくことは多い。しかし、本サミット開会挨拶で堀(義人氏・グロービス経営大学院学長/グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)さんは、「九州企業とアジアの交流というものが数字として表れているかというと、実際はたいしたことがない」といったお話をしていた。オブラートに包んでおっしゃってくださったと思うが、私も同感だ。(28:32)

ではどうしたら良いのか。別セッションでは國場(幸之助氏)代議士から、「沖縄はASEANの一部だと思っている」というお話があった。僕は九州もASEANの一部といった形になれないかと思う。そのうえで、たとえば実験的に九州が移民の受け入れを大規模にやってみる。色々問題はあると思うが、日本全体ではじめることに躊躇があるのなら九州で実験的にやってみる。関税についても同様だ。ASEANの一部として、アジアとの貿易で関税がない状態をつくるという考え方もあると思う。(29:39)

もう一つ、少子高齢化を克服するための実験地区として手を挙げ、リスクを取るという考え方もある。具体的には、高齢者に向けた社会福祉の支出を九州福岡地区だけは大幅に抑制し、そのぶんを子供なり若い世代に回す。子供が増えるよう、たとえばシングルマザーを奨励して精子バンクみたいなものを公然と認めるというのも良いと思う。そんな風にして未婚の女性による子育てをアグレッシブに支援していく。そういう部分で九州福岡がリスクをとってやっていく。九州地区は歴史的にもそれをやってきたと思う。この辺が一つのキーワードになるのではないか。(30:27)

波頭:チャレンジングで価値のあるご提案だ。ちなみに、違うイメージの特区もあるという意味で敢えてカウンターのアイディアを申しあげてみたい。規制をすべて撤廃して経済の効率を徹底的に追求し、解雇も自由とする代わり、効率化の上澄みぶんでたとえばベーシックインカムを実施するというのもあると思う。働かなくても生きていくことに心配がない状態にする訳だ。現金給付が難しければ教育や医療や介護の無料化でもいい。経済効率も徹底的に追求する代わり、九州市民であれば病院にも食にも住居にもなんの心配もないという、高効率・高福祉社会というのも一つあるのではないかと思う。いずれにせよ、ASEANの一部といった形にして関税や規制も撤廃し、徹底的に新しいことへチャレンジするというのは、まさに九州が担うべき方向だと私も思う。さて、では二巡目に移ろう。互いの意見を聞いたうえで、それに継いで「こういうものも面白いのでは?」といったお考えが何かあれば改めて伺ってみたい。(31:31)

母国語で利用出来る医療と教育のサービスを(杉山)

杉山:この地域の経済活性化という観点で先ほどお話ししたのは、「新しい付加価値を生み出す仕事を日本でつくり出す」ということだった。それともう一つ、外国の方にたくさん来いただいいて、ここでビジネスをして貰い、お金を使って貰うという考え方もある。これは九州全体というより福岡という街にとっての話かもしれない。アメリカで暮らしていた頃に感じたことだが、違う国で安心して暮らすために何が必要かという視点でいくつか準備してあげると、外国の方も来やすくなると思う。具体的には医療と教育だ。この二つのサービスを、母国語で利用することが出来るようにするのは大変重要だと思う。1〜2年という短期間でお金を稼いで帰ってしまうと地域への貢献も小さくなる。やはり家族にも一緒に来て貰い、たとえば子供が大きくなったらその国の人と結婚するといったように、地域に根を下ろして生活して貰うことが大事だ。(34:11)

福岡に立派な中国領事館や韓国領事館はある。しかし街を見てみると、たとえば中国語で医療サービスを受けることの出来る医療機関はいくつあるのか、中国語で授業を行う学校はどこにあるのかと思う。私はアメリカにいたので福岡に住んでいるアメリカ人の友人も多いが、皆が口にする不満はその二つになる。インターナショナルスクールも一つしかない。で、そこも最近は日本人の生徒さんが多いようだ。子供の教育環境に不満を持っている人は多い。(36:21)

特区にしなければそういったことが出来ないのかどうかは分からないが、英語への対応と、そして距離が近いということで言えばやはり中国・韓国の人々への対応が必要だろう。物理的に来ることが容易な人達にとって住みやすい環境を整えるということは、福岡という街の将来に向けて大切だと思う。麻生さんのところは病院も学校もたくさん持っていらっしゃるから、その辺を考えていただけたら良いのかなと思う。(37:15)

波頭:地域社会を発展させるために、安心して住むことの出来るような街にするというのは一貫したキーポイントだと思う。医療の教育の話はどこに行っても皆さんが一番心配することだ。その点で、日本以外では他のどこも提供していないようなサービスを福岡あるいは九州のどこかに集めることが出来たら、それこそ国際都市になることが出来ると思う。すごく具体的で有効なアイディアだ。(37:57)

29495

「あのときは、九州の人たちに助けて貰ったよね」と思われたい(麻生)

麻生:世界へ躍進するためには、九州として危機感を躍動する力に昇華させることが一つの大事なポイントになると思う。たとえば明治維新前夜に薩英戦争という出来事があった。考えてみるとすごい話だ。「薩摩対英国か」と(笑)。大変な規模の違いがあった。そこで薩摩は、自分たちが懸命に、ある意味では井の中蛙状態でつくった大砲の砲弾があちら側にまったく届かないと知った。向こうの砲弾はばんばん城下町に届いてくる。そこで危機感がつくられた。それはとりもなおさず、地政学的に見ても海外に触れる機会が多かったということがある。そこで危機感をより強めていったことが、明治維新が西から起きた原動力ではなかったかと、僕は思っている。(38:50)

九州や関西は…、たとえば神戸はその代表だと思うが、中国や韓国に近い。そうした地域から観光客の方々が来てくれることで生まれる触れ合いも、実は西のほうからはじまっていると思う。もちろん北海道などにもあるのだが、西から生まれる要素は小さくはなかった。だからこそ我々はそこで喜ぶだけでなく、維新前夜のように危機感の昇華をすべきではないか。世界的企業になるというのは、決して楽しいだけの話ではない。僕自身に関して言えば、やはり筑豊などの地域を見てきたことで、仮にそれが楽しくないとしても、「前に進まなければ」という気持ちが自分のなかで醸成されていった。明るい話ではなく申し訳ないが、そんな気持ちを強く持つべきだと思う。(40:40)

それともう一つ。僕は、かつて日本から南米や北米に移民していった方々が好きだ。九州にもそういう人達がたくさんいた。九州以外には広島や東北だが、とにかく、どこも食い詰めていた地域の人々だ。九州では熊本の方が多かった。そういった方々は大変なスピリットを持っていたと思う。今の九州は、素晴らしいところだ。食事は美味しく、人は優しく、物価も安い。最高だ。ただ、その九州が日本に先駆けて危機感をつくり、20〜30年後には明治維新と同様、「あのときは九州の人たちに助けて貰ったよね」と、日本人に思って貰えるように出来ないかと思う。(42:05)

波頭:維新前夜になぞらえて危機感の昇華というキーワードが出た。昇華というのは、重要な概念だと思う。既存の常識・規制に直接抗うだけでなく、問題意識をメタな次元で昇華させるというアプローチをとることで、新しい地平が広がることは多い。科学者や哲学者、あるいは卑近な例で言うと我々コンサルタントの現場でも同様だが、問題に対してなかなか新しい手立てが見出せないときはある。しかしそうしたときに弱点を強みに変えることで、あるいは一つ上の観点に昇華させることで、道が開くことはよくある。(43:19)

かつての日本は、まさにそうした危機感の昇華とインベーションスピリットを上手く重ねていくことで明治維新を起こし、日本という国体やシステムを一つ上のグレードに到達させた訳だ。同様に、「あのときは九州の諸国が日本を新しいステージに連れていってくれたよね」と言われるようなものを目指す。これは九州人にとっては何よりのエールになると思う。含蓄に富んでいて非常に面白いアイディアだ。(45:00)

第三次産業が集積するような業務空間のある福岡へ脱皮させたい(榎本)

榎本:九州は一次・二次産業が盛んで、福岡には九州のなかで三次産業が集積している。消費も九州全体の半分が福岡市に集まっており、商都・博多のような歴史が続いてきた。その福岡がもう一つ上のステージへ上がるために何が必要か。僕は先ほど申しあげた街の機能更新だと考えている。たとえば天神の真ん中に三棟の古いビルがある。それを壊して更地にすると1000坪の土地になるので、今はそれを建て替えようという話が出ている。で、そういうときに東京であれば迷わず建て替えとなり、10階建てのビルは40階建てとなってファイナンス的にも収支が合うようになる。(45:50)

ところが福岡は空港が近くビルの高さ制限があるから、それがなかなか進まない。何回算盤を弾いても、「建て替えないほうが良い」、「建て替える経済的合理性が何一つない」という状況だ。だから、現に福岡中心部には50年経っても建て替えられていないビルが多い訳だが、それで良いのか。良くない。では建て替えを行うために、まず行政がどういった理屈で容積率規制を緩和するのか。空港が近いという特性を生かしたまま、あと何層積むことが出来るかという話になる。そこで民間企業は初めて、利回りが3〜4%でも建築費がかさんでも、「福岡が良くなればいずれリターンがある」と思ってやるしかないという話になる訳だ。今はそういう問題に直面している。(46:54)

そこで行政と民間が一致団結して乗り越え、福岡中心部の“めくれかわり”を起こしていきたい。高さ自体はそれほどでなくても良いと思う。高層ではないけれども高品質のビル群というのはヨーロッパにもある。そうしたビル群とともに、第三次産業が集積するような業務空間のある福岡へ丸ごと脱皮させていきたい。そうなれば、「人件費が高く満員電車通勤が大変で、かつ災害のリスクもある」ということで、必ずしも東京になければいけない訳ではない機能が福岡に集まってくる。東京だけでなくシンガポールやソウルからも取ってきても良い訳だが、とにかくそうした機能が福岡へ集まって来たとき、また新たに飛躍する機会があるのだと思う。(47:53)

高品質なオフィス空間があって、先ほどご提案があった通りに医療や教育が充実すれば、かつ食も豊かということで、ワークライフバランスのとれた福岡に「企業として来たい」という話になる。そんな風にして、そこに職もあるから人も集まるという好循環を生み出すことが出来たらいいなと思っている。今、具体的にはそうしたことを切実に願っているし、我々としてもそうなるよう努力していきたいと考えている。(48:53)

波頭:大変具体的なご提案だ。ちなみに榎本さんご自身は超高層ビル群が建ち並ぶような風景とヨーロッパ型の中層ビル群はどちらがお好きだろう。(49:36)

榎本:中層ビルの再開発で良いと思う。40階でなければ高品質・高機能なビルの要件を満たせないということはないと思うので。航空法の関係で今は16階ぐらいに定まっているものが、20階に出来ればそれはそれで良いとは思う。ただ、いずれにせよ魅力的デザインでかつ15〜20階ぐらいの高さで揃った、高機能・高品質なビル群を目指すことが出来ないかと考えている。(50:05)

波頭:大賛成だ。たとえば石造りの建物が並ぶヨーロッパの古い都市には、高さはなくとも威厳を感じる。日本にはビルの景観規制がある京都以外にまだそういった街がない。京都の場合は町屋だが、そうでない形でも威厳ある新しい街づくりというのもチャレンジングで面白い。15〜16階であればかなりの容積も確保出来ると思う。むしろ香港やシンガポールあるいは東京の再開発タウンのように、やたらと高いビルが並ぶような都市づくりよりは良いのではないか。写真を見ればすぐに「あ、これは福岡の街だね」となるようなコングロマリットエリアが出来たら素晴らしいなと、聞いていて感じた。ではそろそろ会場にもマイクを振ってみよう。(50:48)

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