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JPモルガン Koll氏×玄海キャピタル 松尾氏×東京大学 柳川氏「アベノミクス“第三の矢”〜地方経済の現場で考える成長戦略、中央から地方へ、地方から中央へ」 前編

投稿日:2014/05/08更新日:2021/11/29

水野弘道氏(以下、敬称略):私自身もG1サミットでは経済金融関係のパネルに何度か登壇させていただいており、壇上の皆様とも親しい仲だ。従って、今日はできるだけ予定調和にならないよう、ぐりぐりといじめながら議論を進めたい。本セッションのテーマは「アベノミクス“第三の矢”」。私も内閣の健康医療戦略参与として成長戦略立案等に少し関わっているが、まず、第一の矢はマクロ金融経済政策だからはっきり言って地方は関係ない。「中央の政策で全体の景気が良くなれば」という政策だと思う。第二の矢は公共政策および財政。これは、地方がどのように自分たちのところへ工事を取ってくるかという話になる。どちらかと言えば、東京というか日本の資源をどのように地方へ持ってくるかという、取ってくるほうの政策になると思う。(00:25)

従って、ある意味では第三の矢だけが、ミクロからマクロ、あるいは地方から国に対するアプローチとコントリビューションが可能な領域だと思う。従って、今日はいわゆるマクロ経済政策的な議論でなく、第三の矢が地方とどのようにリンクする可能性があるかを議論したい。国全体の富を地方へ分配するという発想でなく、地方経済の集計が国のGDPという発想に立ち、ポジティブなコントリビューションをしていくためにどうすれば良いかという議論に、最終的には持っていきたい。まず御三方には自己紹介を兼ね、それぞれのお立場から見た地方経済の問題点、あるいはアベノミクス第一、第二の矢が地方経済にどのような影響をおよぼしているかというお話を伺いたい。そこから細かいテーマをピックアップして議論をさらに進めよう。(01:38)

東京は大丈夫。地域経済のサクセスストーリーが見えない(Koll)

29321 JesperKoll氏

JesperKoll氏(以下、敬称略):ポイントをいくつか提示したい。今、世界は日本に大きな興味を示している。これにはいろいろな理由があり、アベノミクス云々という話に留まらない。また、世界の市場は日本に対して割安感も抱いている。この20年間は日本がほぼデフレ基調で世界がインフレ基調にあった訳だが、日本は今、適正価格の状態に入っている。特に東京や福岡のような大都市は、上海や香港あるいはソウルと比較してもほぼ同じだ。公正な土俵に上がり、本当に世界で競争できるようになった。これが第一のポイントだ。今までの10年間、日本は高過ぎた。今は割安感があるから「日本に入れたい」というお金が世界に間違いなくあるということだ。(03:14)

2つ目のポイントは、今、日本が大きな分岐点にあるということだ。マクロの話も1つしなければいけないと思うが、現在の日本は国際収支つまりお金全体で赤字に陥ってしまった。貿易赤字となり、国際収支もほぼ赤字だ。「債権国から債務国へ」という分岐点だ。これは世界経済や世界の都市化に影響を受けている。だから日本の生活水準を守るために海外からお金を集めなければいけない状態になった。アベノミクスあるいは政府の指示によって、「もっと赤字国債を発行して地域経済を回復させよう」という政策に限界が来てしまった訳だ。債権国から債務国への変化によって、そうしたお金がなくなった。これは中央政府に対する大きな鞭になったと思う。(04:59)

そして3つ目。これは悲観的な話でもないが、最近、私は外国人投資家に「東京は大丈夫でしょう。人口も自然に増えている。ただ、東京以外はどうか」という質問をよく受ける。投資家のマインドとすれば、リスクを配分したい。すべてのお金を東京に投資してはあまり意味がないので、リスク配分ということで福岡や大阪あるいは仙台にも投資したいという訳だ。そこで問題がある。残念ながら地域経済のサクセスストーリーが今のところ見えていない。ただ、これは地域経済の責任者、つまり首長や国会議員あるいは経営者にとって大きなチャンスとも言える。ぜひサクセスストーリーをつくって欲しいし、そこで具体的にどうするべきかをまたあとで議論したい。(06:29)

ストーリーは描きやすい、だが実需の創出に繋がってない(松尾)

29322 松尾正俊氏

松尾正俊氏(以下、敬称略):玄海キャピタルという社名は玄界灘からとった。不動産投資ファンドの運用をしている。元々は7〜8年前、福岡の不動産をまとめて『福岡リート』という上場投信をつくる仕事をしたことが出発点だ。僕自身も福岡出身だから福岡のライフクオリティがグローバルに見ても大変高いことは知っている。ただ、7年前のバブルで日本の不動産にたくさんのキャピタルが入ってきた際、東京にはたくさん入ったのだが福岡には入ってこなかった。それで当時の福岡がフェア・マーケット・バリューで評価されていないと考えた。従って、「それを商品として世界の投資家に広めることで福岡にキャピタルが入るようにして、不動産価値も上昇させ、それを経済の発展に繋げよう」と。そんな思いでファンドをつくった。(07:48)

そのファンド自体は上手く上場できたが、株式市場での資金調達にはタイミングもかなり影響する。同じ日本でも外の市況によってお金が入ってくる場合と入ってこない場合がある。また、地方で最も難しい問題は、リーマン・ショック等で市場が一旦クラッシュするとお金がまったく入ってこなくなるという点だ。タイミングが良ければ入ってくるが、悪くなると元へ戻るのに大変な時間がかかる。私の会社も『福岡リート』が上場したあとに独立して機関投資家からお金を集めていたのだが、リーマン・ショック後は機関投資家の方々も、「九州の不動産はもういい。東京でしかやらない」となってしまった。それでこの6年ほどは大変厳しい状況が続いている。ライフクオリティの高い福岡で良い仕事を創出しようと思い立ちあげた会社だが、それで今は東京に半分戻らざるを得ない状況だ。(09:17)

そんな訳で、今は地方の可能性を具現化することが僕のテーマになっている。福岡は地政学的な意味も含めいろいろな面で高いポテンシャルを有しているにも関わらず、それを具現化できていない。ストーリーはすごく描きやすいし、それだけでも株価は上がるし不動産価格も一瞬は上昇する。ただ、残念ながら実需というか、具体的なビジネスや需要の創出に繋がっていない。地方のなかでも福岡はかなり大きな役割を持っていると思うので、なにかこう、次の20〜30年を見据えた戦略を描いて欲しい。(高島宗一郎氏・福岡)市長は「戦略という言葉をあまり使わない」と仰っていたが…、「言葉として」というお話かもしれないが、とにかくもう少しそうしたビジョンをつくり、そちらにリソースを向けて欲しいと思う。そこで国のリソースを使っても良いと思うが、とにかくそんなことができないかなというのが僕の問題意識だ。(10:37)

“地方”という言葉で一括りにして論じるべきではない(柳川)

29323 柳川範之氏

柳川範之氏(以下、敬称略):私自身は経済学者だが、いわゆる霞ヶ関という場所に近いこともあって、政府の成長戦略策定などにいろいろな形で関わっている。この1年、アベノミクスという言葉とともに三本の矢という話が出てきた訳だが、非常に上手くいったと思う。それは「第一、第二の矢が効いたから」ということもある。ただ、やはりアベノミクスという塊、そして三本の矢という形で政策を語り、投資家だけでなく世界中の人達に伝達したことが非常に大きかったと思う。日本の政策をきちんとパッケージ化して情報伝達できたことが非常に大きかったのではないか。(11:45)

それで海外の投資家が日本の大きな可能性に気づき、そこに賭けて投資を行う芽が出てきた。こうした政策は、すごく良いことをやっていても個別にぽろぽろやっている限り気付かれないことも多い。それをパッケージ化してきちんとプレゼンしていくことの重要性を、この1年で改めて感じた。ただ、可能性という言葉を使っている通り、皆が期待しているのは今のところ可能性だ。それをどうやって実際の姿にしていくのかが第三の矢と言われている領域の議論になる。そこで中央政府が何らかの音頭をとっても、それだけでは恐らく変わらない。実際に動く人がどれほどの結果を見せることができるかが大事になると思う。(13:15)

そこで今日のお題だが、昨日、いろいろな方のプレゼンを聞いていて感じたことがある。これは御立(尚資氏・ボストンコンサルティンググループ日本代表)さんが仰っていたことだが、「やはり“地方”と言ってはいけないな」と、私も思った。地方という言葉を使うとそれで一括りになってしまうが、そうでなく、県や市や街の状況にそれぞれ応じて語らないといけない。各自治体が置かれている状況はまったく違うし、可能性もまったく異なる。その辺に目を向けないと政策を間違うのではないかと、強く感じる。(14:34)

つまり、各自治体がそれぞれ創意工夫を施さない限り発展はないという話になる。逆に言えば、少し厳しい言い方になるが上手くいくところもあればいかないところも出てくるということだ。創意工夫をしてイノベーションを起こすというと、それだけでサクセスストーリーが見えるように感じる。しかし、そこには差が出てくる。逆に言えば、その差が「頑張っていろいろなアイデアを出そう」という話にも繋がる訳で、どのような創意工夫を促し、何をできるようにしていくかということが今日のポイントになると思う。(15:24)

それともう一つ。政策情報をパッケージで提供していった結果、アベノミクスということで世界の投資家が日本に注目するようにはなった。ただ、Jesperさんも仰っていた通り、「地方はどうなんですか?」という声がある。まさにそこだと思う。具体的に福岡で何が行われているかという情報は、残念ながら世界の投資家に伝わっていない気がする。極端に言うと、日本のことも伝わっておらず何も知られていなかったが、今は「株が上がっているから」ということで皆が慌てて情報を集めている状況だ。(16:16)

従って、もっと各地方から、「こんな取り組みを行っている」、「こんな芽が出ている」といった具体的情報を世界に発信する必要がある。また、他のセッションでも大きなポイントとして提示されたが、各地方都市が世界と直接繋がる必要もある。頑張っていれば皆が自然に注目してくれる可能性もあるのだろうが、世界には他にも頑張って伸びている都市が多い。やはりもっと発信していかなければいけないと感じる。(17:02)

主役は自治体や市長ではない。主語は企業や住民だ(柳川)

水野:掘り下げたいアングルは多いが、まず柳川さんのご指摘から議論したい。各自治体が個性や独創的アイデアを発揮して海外へ発信するという話に関しては、「それで良いのかな」という見方もあると感じる。恐らく昔の行政単位は歩いて数時間で行くことができるというような括りだったと思うが、経済活動の距離感と自治体テリトリーの距離感が今はまったく異なっている。従って、各自治体でばらばらにやることによる不効率さも生まれてしまうのではないか。その点で、たとえばイギリスはかなり進歩的な取り組みをしているようだ。市から個別の権限を奪い、もっと広い地域に権限を与えることで経済活動と行政の単位を一緒にしている。くまモン以外にもいろいろなキャラクターが個別にやるということでも良いが、一本化してはどうかという考え方もあると思う。そのあたり、皆さんどうお考えだろう。(17:50)

柳川:「地方都市」という言葉を使ったので自治体単位の話に聞こえてしまったと思うが、創意工夫をするのは自治体ではないと考えている。高島市長も頑張っておられるし、その点も大事だが、自治体や市長が主役では駄目だ。「地方都市が創意工夫を」という話をするとき、その主語は企業や住民になる。当然、企業や住民はその本拠地や生活拠点が福岡にあったとしても福岡市だけで活動する訳ではない。それは東京、場合によっては上海かもしれないが、そのアクティビティは行政単位に縛られず他の地域にも広がる。そういう人達が主人公となって創意工夫を行うことで、現在の自治体という枠を超えた活動が自然とできるようになる。それをサポートし、ときにはそのプレゼンを行うという意味では自治体も頑張らなければいけないが、自治体だけが頑張って成功するケースはないと思う。(19:36)

松尾:そうだと思うが、2つ加えたい。まず、現在の福岡あるいは九州はどうしても支店経済というか、そこで活動する企業も東京に本社を置く企業の出先機関といった形になっている。また、九州には「七社会」(正式名称は互友会、メンバーは九州電力、福岡銀行、西部ガス、西日本鉄道、西日本シティ銀行、九電工、九州旅客鉄道)という、電力会社や鉄道会社による立派な団体もある。これまで九州を30年間引っ張ってきたそうした方々が、未だトップの企業体として頑張っているという状況だ。しかし、日本全体でも同じかもしれないが、同じような人々の力でこれから30年先の福岡や九州を考えるべきなのか。昨日たまたまVC(ベンチャー・キャピタル)のテーブルで議論を聞いたが、今は若く優秀な人々がいて、これから20〜30年の姿まで見据えたビジネスをつくろうとしている。僕はそう感じた。そうした若い人達を上手く支援するような方法がないかと思う。(21:12)

福岡には地理的ベネフィットがある訳だし、歴史的にも長く続いているアジアとの交流を視野において、30年先を考えて欲しい。今は民間企業体のあり方も、どうしても“お父様方”中心というか…、僕もほぼそのなかに入っているが、昨日VC(ベンチャーキャピタル)のテーブルにいた20〜30代を見ていて、「やはりこういう人達が新しい時代をつくるのだな」と感じた。彼らのグローバルな感覚はこれまでの世代とまったく異なるし、彼らが20〜30年先、企業の中心になり得るような仕組みが欲しい。これまで活躍してきた方々が頑張っていただくこと自体は良いと思うが、そういう方々には若い人を引っ張りあげるような器量ある旦那衆になって欲しいという思いもある。(22:44)

それともう1つ。公共団体もある程度は統合しなければいけないと思う。30年先のビジョンを首長1人ひとりが考えていても仕方がないので、なんらかの授権が必要ではないか。石原(進氏・九州旅客鉄道取締役会長)さんが仰っているような道州制の話を含め、将来的なことをもう少し考えやすくなるような公共団体もしくは財源のあり方があっても良いなと、個人的には思っている。(24:00)

東京とは違う「福岡」だからこそバリューが出る(松尾)

水野:今のお話にあった支店経済という部分が一番の問題だと僕は思う。地方に投資する一番のメリットは東京との、投資的に言うところの「コリレーション」が低い点だ。東京の景気が多少悪くても地方は持ち堪えるという、逆の相関がないとあまり意味がない。しかし支店経済や工場誘致といった話になると、当然ながら東京より先に悪くなる。ヘッドクォーターが最初に潰れることはなく、支店から先に潰していくからだ。それを繰り返してきたのだと思う。そこで、地方の不動産価格が上がらない理由も伺っておきたい。短期的には海外からの投資で上下すると思うが、キャッシュジェネレーションという意味では不動産そのもののバリューが上がらない。その辺が問題だからファンドが上手くいかないということを先ほどは仰っていたのだと思う。そこで地方の不動産価格が上がるために何が必要だとお考えだろう。(24:32)

松尾:おっしゃる通りだ。不動産の世界ではパターンがだいたい決まっていて、東京で上がった2年後ぐらいに福岡で上がる。落ちるときは一緒だ。大変短いスパンで上下を繰り返す市場になり、その意味では東京にディペンダントなところがある。唯一、日本全体のなかで福岡がユニークなのは、若い人が九州中から毎年集まり続けている点だ。若年人口の増加率は恐らく全国一位だと思う。そうしたポジションに目をつけて住宅系不動産に投資をする人達は、いると言えばいる。(25:42)

ただ、独自なバリューをつくるのであれば、やはり福岡が日本における何なのかを示す必要がある。「こんな福岡だから皆に来て欲しい」と。それによって投資が促進され、ベンチャーが生まれ、東南アジアや中国の人々が来るような場を自治体としてつくりあげることができたら、東京とは違う福岡になると思う。そのために、キャピタルの力でなく皆さんの知恵と努力によってできることがあるのではないか。(26:47)

日本は「負け組天国」、今必要なのは「勝ち組」を生む環境作りだ(Koll)

Koll:今のお話に繋がると思うが、やはり地方は自分たちのアイデンティティやブランドを築かなければいけない。それと、何によって経済成長が実現するのかと言えば、人間だ。霞ヶ関の人間が、「これをつくろう」と言って何かがつくられる時代はもう終わった。今必要なのは人間の情熱とアイデア、そして危機感だ。それをやらない限り将来は食べていけないという危機感があれば活路は開くと思う。(27:32)

福岡のポテンシャルは本当に高い。若さがあるし、スケールのメリットを生かすこともできる。周囲には北九州の経済圏があり、近くには成長基調にあるアジアの国々もある。ただ、日本ではすぐに、「霞ヶ関は何もやってくれない。成長戦略も駄目じゃないか」という話になる。それは少し違う。真の起業家は「政府や行政はどうでもいい」となるし、まず自分が戦う。自分がやるという野心が必要だ。西洋人の目から見て日本の一番弱いところは、大変申し訳ないが、やはり負け組み天国というところだと思う。弱者をすごく大事にする。行政に関しても同じだ。負けた人々をどのようにサポートするかをまず議論する。もちろん、それは人間としては間違いなく大事。ただ、今必要なのは勝ち組みになることのできる環境だ。「It’sfinetowin.It’sgoodtowin」という環境がほとんどない。その辺に関してはマスコミにも問題があるし、とにかくそうした全体の意識や環境を変えなければいけない。いずれにせよ、福岡には勝ち組になったうえで、「福岡から日本を」という意識を持って欲しい。(28:21)

「厳しいから助けてください」では地方発の成長はない(水野)

29324 水野弘道氏

水野:今は「アベノミクスが地方や低所得者に効果をもたらしているか」といった新聞記事も多く、地方と低所得者がセットで語られている(会場笑)。そこで地方の人達が「一緒にするな」と言わなければいけないし、「地方は厳しい状況だから助けてください」というスタンスでいる限り、地方発のコントリビューションは絶対にない。まあ、日本では言霊というものも重要になるので、そこで「“地方”と言うのを止めましょう」というメッセージには実は大きな効果があるかなと、話を聞きながら思ったが。(30:26)

テーマにもう一度戻ってみよう。第三の矢のなかで地方に活かせるのは何かという話をしたい。今は日本版NIHといった話も出ているが、ではそれをどうやって地方に活かすかという議論になると、やはり特区の話が出てくると思う。実は私も自治体がつくった特区に関するアプリケーションをいろいろと見ている。ただ、一般の方々は「国が決めているから良いアイデアが出ないんだ」とおっしゃるが、「こういうアイデアがあります」と言って出しているのは地方のほうだ。政府はそれを選んでいるだけで、実は地方にもあまりクリエイティビティがないという気がしている。そこで、九州の経済成長に繋がる経済特区の活用法について何かお考えがあればお伺いしたい。(31:17)

Koll:まずは「動かない資産よりも動ける資産を」ということで、ブレイン、人に関する提案をしたい。アジア各国と比較してみても、やはり日本の大学は評価が高い。福岡にも大学は多く、また、アジア人から見ても割安感がある。アメリカの大学は1年でおよそ4万ドルかかるが、日本の大学は恐らくその1/5〜1/6だ。そこで若さを集め、ブレインパワーとクリエイティビティの育成を行うことによって地域で活躍する若者を生み出して欲しい。一つの案は特別永住権だ。たとえば福岡地域の大学を卒業して自分の会社を設立すると特別永住権を…、5年間でも8年間でも良いが、取得できるといった規制緩和を、ひとつの具体策として提案する。(32:39)

水野:アメリカやイギリスには一定のお金を持ち込んだうえでビジネスを興すと、それだけで永住権を取得できる制度もある。アジアには日本でビジネスを興したいと考えている資本家も多いと思うが、日本に投資家ビザはないのだろうか。(34:08)

Koll:私の知る限り、ない。おっしゃる通り、アメリカでは1000万円程度の投資で特別永住権を取得できる制度もあるが、日本にはないと思う。(34:27)

松尾:福岡はどのような特区構想を持っているのだろう(会場の高島氏へ)。(34:51)

高島宗一郎氏(以下、敬称略):今は起業にあたってさまざまなハードルがある。たとえば福岡はコンテンツ分野が非常に強い。しかし、福岡の大学でデザインを学んだ留学生が自分の力をアニメやゲームといったコンテンツ分野で生かそうと思っても、在留資格延長の対象にならない。大学を卒業したら帰国しなければならない訳だ。ただ、一方では永住権の要件緩和へ踏み込むことに対して大きな抵抗もある。それをどう突破していくか。福岡はそこで「スタートアップ5年間」という形で、まずは岩盤に蟻の一穴を開けようという提案を行っている。(35:27)

また、優秀な人材がベンチャー企業に入りやすくなるような政策も打っていく。今はコストになるからできるだけ正社員を採用しないという流れになっているが、そこで経営が安定するまでの5年間、事前に雇用ルールの明確化を行って解雇規制を緩和する。互いが「この場合は仕方がないですね」と事前に決めた場合に限り、解雇が可能になるというものだ。ただ、その場合も解雇しておしまいではなく、「雇用労働センター」というものをつくり、産学官で連携しながら再度教育を行っていく。そして人材のマッチング機能をつくるといった提案をしている。(38:19)

政府が考える特区の姿に頼ってはいけない(柳川)

水野:そうした特区の構想についてはどうお考えだろうか。(37:00)

松尾:特区というのは国のお金や各種インセンティブがつくという話だと思うし、それ自体は良いと思う。ただ、それがこの数年間で経済をブーストさせる財政支出のような政策なのか、あるいは長期の視点に立って「この街をこういう風にする」という手段なのかが重要だと思う。福岡をこの方向にもっていくという大きなビジョンに従っていれば、コンテンツのスタートアップ、アジアでの小売、あるいは観光といったいろいろな形になって落ちてくると思う。そうした全体の整合性をもう少し強く出したうえで、特区を上手く使って欲しい。特区があるからやるのでなく、何らかの戦略が元々あって、それを特区に上手くはめるような主体性が欲しい。財界とも一緒になって、そうした方向に進むべきだろう。先ほどは“お父様方”と言ったが、そうは言っても福岡では皆の仲が良い。J-REITをつくる際も七社会の方々が参加してくれたから上場ができた。ノリが良いし、地域への思いがある人も多い。そこで今後30年のストーリーにすべてを合わせていけば、市民に対する優先順位の説明もしやすくなるのではないか。ぜひ福岡でそういうことをやって欲しいと思っている。(37:06)

柳川:経済学者らしい話を少しだけしたい。成長の源泉は何か。これはどの国も悩んでいることだが、実は今、成長の源泉が大きく変わってきた。昔はお金が成長のボトルネックになっていた。たとえば鉄工所をつくって鉄道を敷けば儲かるのは分かっていても、そこで膨大なお金が必要となる。皆がその調達で悩んでいた。株式会社制度はそうした環境でたくさんのお金を集めるために生まれたものだ。それで、たとえば産業革命によって生まれた規模の経済という点を生かし、コストを落とすことができると。それによって儲け、さらに発展していくというモデルだった。(39:34)

今でもそれはある面で続いているが、成長の主な源泉が人間になっていて、人の新しい結びつきから生まれている。グーグルやアップルあるいはフェイスブックのような会社がグローバルに伸びているのは、お金がたくさんあったからではない。金はあとからついてきた。最初の源泉は、少数の人間が結びつくことで生まれるアイデアだった。では、どのようにして人と人との結びつきによるクリエイティビティを発揮していくのか。その点で今は皆が悩んでいるものの、多様性は一つの大きなポイントになる。異質な人材を積極的に、密接に結びつける。そこからアイデアが生まれて成長の源泉になる。その意味でも福岡には成長の源泉があると感じる。海外の人々も含め、福岡には多様な人材が集まっている。それをどうやって生かすかが最も重要だと思う。(40:34)

話を特区に戻すと、大変重要な政策ツールだと思う反面、現状では特区に何をさせるかという点で2つの悩みがある。まず、アイデアがない。霞ヶ関で成長戦略を懸命に練ってみても、アイデアは出てこない。具体的な成長アイデアは現場で活動していらっしゃる方々から出てくるべきだろう。ビジョンとともに細かいところも煮詰めたうえで、具体的な成長戦略および特区の内容として各自治体が積極的に「こういうことをやらせて欲しい」というアイデアを出して欲しい。福岡市はそのようにやっていらっしゃるが、他の自治体はあまり出していない。しかし、アイデアを下から上に持っていかない限り、上は絶対に変わらない。今は、中央政府がどこかの国でやっていた政策を輸入すればそれで成長するという時代ではない。(41:50)

それともう1つ。海外から人を入れるというお話だが、これは今最もせめぎ合いになっているポイントだ。一国二制度をどこまで認めるのか。結局、特区というのは一国二制度を認めるものでなければいけないのだが、国の政策として「それは基本的に認められない」と。特区であっても、たとえば「国とまったく異なる入管法をつくってはいけないのでは?」という声がある。それをどこまで突破できるかが一番のポイントだし、突破できたら可能性もかなり広がる。難しい領域だがなんとかしたいと思う。(43:12)

そう考えると、本当は政府が考える特区の姿に頼ってはいけないとも感じる。むしろ可能であれば他国との特別提携等、福岡市としてどんどん進めることができたらと思うし、そのようにしなければいけない。「国が特区として認めてくれるから特別なことができるようになった」でなく、「東京都がやらない提携・連携を、もう勝手に海外の地方自治体と進めます」と。本来は、そこで関税を相互に低くするといったことをやらないといけない。そう考えると全体の政策として国が認める形でなければいけないので、やはり国の政策を変えたいとは思う。それがなかなか大変な訳だが。(44:05)

※後編はこちら

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