武雄市長・樋渡氏×クリエイティブディレクター・水野氏「くまモンと武雄市図書館が九州を変える?〜地域活性化にデザインが果たす役割〜」 前編 

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僕らは自分たちが行きたい図書館をつくりたかった(樋渡氏)

29121 樋渡 啓祐氏

松岡恭子氏(以下、敬称略):デザインというものは、最後に出来あがったプロダクトのことではないと私は思っている。どのような課題があり、それにどう向き合い、それがどういった形になって、さらにはそれがどのように将来を描き、変えるのかというストーリーを内包するものが優れたデザインではないか。その辺も含め、過去・現在・未来を切り口にお話を伺っていきたい。まずは武雄市図書館について伺いたい。(00:42)

樋渡啓祐氏(以下、敬称略):僕が市長に就任した8年前、当時のイケていない図書館は年間94日も休んでいた。夕方6時に閉まってしまうから堅気の人は利用出来ず、館内で喋ると館長に怒られるような施設だった。数え方にもよるが日本には図書館は3400〜3600もあって、どこもそんな感じだ。うちも蔵書数20万冊の、どこにでもある図書館だった。そこで開館13年目にリニューアルをした。(写真を紹介しながら)前の図書館はこんな感じで…、イケていない図書館ではだいたいフロアに地図が描いてあったりする。「蘭学館」なんていうものもあって、レプリカばかり。誰も行かない。(01:45)

で、ここからがポイントだ。リニューアルにあたっては蔵書を一度外に出さなければいけなかったのだが、それを5ヶ月でやってしまった。それで、職員とCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)のメンバーだけではその作業が間に合わないから市民にもボランティア参加を呼びかけた。すると山のように来た。その人達が「私達が図書館に関わった」という意識を持ってくださったことは大きかったと思う。で、その後のリニューアル自体は2ヶ月半ほどで済ませたのだが、その間、職員とCCCのメンバーからは「とても間に合わない。倒れそうです」と言われていた。だから、「終わってからから倒れてください」と。それで去年4月1日にオープンしたのが今の図書館だ。(03:06)

とにかく、僕らは自分たちが行きたい図書館をつくりたかった。そこで、まずは武雄市にある「竹林亭」という日本最高の旅館から居心地の良さというものをパクった。また、やはり地方には活気がない。だから、若い世代がやってくる施設、居心地の良い施設、そして活気ある施設というもののハイブリッドを目指した。(04:15)

結果、入館者はオープン半年で50万人を突破した。年間では恐らく100万近くになる。ちなみにこの図書館で僕らがCCCと組んだのは、代官山蔦屋書店の存在があったから。TV番組の「カンブリア宮殿」で観て、「あ、これだ!」と思い、1ヶ月後には同書店に飛んで行った。すると、たまたまCCCの増田宗昭社長が路上に佇んでいたので、社長に「お願いします」と、名刺を渡す前にいきなりお願いした。で、その場で「承りました」と(会場笑)。僕も思わず、「え!?承るんですか?」と言ってしまった。うちの秘書もCCCの社員も、皆のけぞっていた。(04:50)

いずれにせよ、現在は多いときで1日7200人がお見えになる。人口は5万、猪を足しても8万なのに(会場笑)。やはり居心地の良い空間ということがある。「ここに来たい」と、今は全国からお見えになっている。ヒッチハイクで来る方もいて聖地のようになっている。周りにロクな図書館がないということだろう。やはり図書館は知の共有地であり発信地だ。これとまったく同じである必要はないが、365日、朝9時から夜9時までやっているうちのような図書館があると、そこに人が集まるという話だと思う。ただ、賛否両論ありまくり。脅迫状も怪文書も、未だ山のようにいただく(会場笑)。(05:46)

松岡:武雄市図書館に行かれたことのある方は会場にどれほどいらっしゃるだろう…(会場半数以上挙手)あ、かなりいらっしゃる。(06:50)

樋渡:今手を挙げなかった方は無料でご招待する(会場笑)。(07:00)

くまモンのビジネスモデルになったのは、東国原さんだ(水野氏)

29122 水野 学氏

松岡:続いて水野さん。今、くまモンはニューヨークにまで行ったりして、すごいことになっている。くまモンをデザインした経緯を含めてお話を伺えたらと思う。(07:06)

水野学氏(以下、敬称略):くまモン誕生の経緯をご説明すると、九州新幹線の全線開通に伴って「熊本県にとっても100年に一度のチャンスだ」と、まずは県庁の方々が放送作家の小山薫堂さんという方に依頼をなさった。僕はその小山さんからお話をいただいた。ただ、そのときは熊本を盛りあげる「熊本サプライズ」というキャンペーンのロゴ、つまり文字をつくって欲しいというご依頼だった。そこで僕はすぐにロゴをデザインして、プレゼン資料もすべてまとめた。ただ、「このロゴだけで本当に熊本が盛りあがるのかな」という思いがあった。当然、ロゴのギャランティも税収からいただく訳で、「これで県民の方々の税をいただいて良いのか」と考えるようになった。(08:02)

で、そのとき…、当時すでに任期を終えられていたかどうかは忘れたが、東国原元宮崎県知事を見て感じたことがある。賛否両論あったと思うが、東京にいる僕からすると当時の彼の動きはすごいものがあった。宮崎県は地鶏やマンゴーといった特産物が大変豊かな土地であると、僕は彼のおかげで知ったようなものだ。「なるほど。この作戦があったか」と。くまモンのビジネスモデルになったのは、大きな声では言えないが、東国原さんだ。僕はくまモンを見るたびに東国原さんを思い出す。(09:13)

ただ、キャラクターが求められていた訳ではないから、まず小山さんにだけ僕からプレゼンテーションをした。すると小山さんも、「すごくいい。採用されるかどうかは分からないけれど県庁の方々にも見て貰う」と、持って行ってくださった。つまり、これも大きな声では言えないが、くまモンは、望まれて産まれた子ではなかった(会場笑)。それが、まずは今日言いたかったことだ。これですべて言ったぐらいの感じだが。(10:06)

僕の力というのはそこまで。この後のくまモンが現在のようになったのには、県庁の方々と熊本県民の方々の力が大きい。僕は「産みの親より育ての親」という言葉を使っているが、やはりデザインは生まれた時点で完成という訳ではない。図書館も同じだと思うが、生み出した後、それを育てていく過程が大切だ。そのおかげで今のくまモンがある訳で、僕が今日ここに来ることが出来たのはくまモンのおかげでもある。くまモン様の神棚みたいなものをつくろうかなと(会場笑)。(10:57)

松岡:普段はキャラクターに興味のない私も、くまモンだけはLINEで色々な人に送ったりするし、樋渡さんも、「くまモンだけは自分がかぶりたい。くまモンになりたい」と仰っていた。多くの人がそんな気持ちを寄せる、珍しいキャラクターだ。(11:44)

水野:なんとなく人格…、“クマ格”と言うのか、人格が形成されていると感じる。もう県のものでなく、もちろん僕のものでもなく、皆のものになっていると思う。(12:12)

松岡:海外でもかなり認知されている。(12:34)

水野:フランスで開催された「ジャパン・エキスポ」というイベントに、くまモンと一緒に行ったことある。行かれたことのない方はぜひ行ってみて欲しい。日本人であることを誇りに思うようなイベントだ。ヨーロッパ中から「日本が大好き」という何十万人もの方々が集まっていて、そこで「くまモン音頭」というものをやったりしていた。(12:36)

どんどん修正すればいいやん、育てて貰おうよ(樋渡氏)

29123 松岡 恭子氏

松岡:樋渡さんは発注者。樋渡さんは色々な方に発注をなさる側だ。一方、水野さんは発注される側。で、先ほど楽屋でお話しした際は、「たとえば優れたデザイナーが来ると、発注側は“お任せします”と言わなければいけないような脅迫観念を抱いてしまう」というお話をなさっていた。「それで何も言わないようになってしまう。でも、それはおかしいよね」と。その辺について樋渡さんはどうお考えだろう。(13:11)

樋渡:僕は自分が行きたくなるものをつくりたい。ただ、僕はコーディネーターでもないし建築基準法のこともまったく分からない。だから、「こういうものにしてくださいね」というふうに言う。そこはかなりきつく言う。で、最終的には「僕が満足するのをつくってね」と。それに尽きる。で、その間はお任せする。予算オーバーもOK。ただ、工期は絶対に守って貰う。善は急げ。スピードは最大の付加価値だ。実際、工事がはじまったのは11月だが、予算も当然オーバーした。だから議会で手当もしたが、修正点はそこだけ。「絶対に工期は遅らせるな」と。「それだと不完全なものになります」と言われたが、「いいじゃないか」と言っていた。出来た以上はユーザーあるいは市民の皆さんのものになる。「だからどんどん修正すればいいやん。育てて貰おうよ」ということだ。行政にはその発想がない。しかも色々な意見を聞き過ぎるから、可もなく不可もない、どこにでもあるようなものが出来てしまうし、出来たものが目的になってしまう。(13:57)

うちはその真逆だ。ユーザーが育てるし、しかもそれを圧倒的スピードで進める。橋下徹さんに初めてお会いしたとき、「日本で一番意思決定の速い組織はあなたのところだ。何故そんなに速いんですか?」と聞かれたが、「決定する前に決めています」と言った(会場笑)。

橋下氏: 「それで間違ったらどうするんですか?」
樋渡: 「それはどんどん修正します」
橋下氏: 「それでも間違っていたら?」
樋渡: 「止めます」
と。そうしたら橋下さん、止めちゃったもんね(会場笑)。(15:28)
水野:さらっと仰っていたが、「自分が欲しいものをつくって貰いたいだけ」というのは重要なポイントだと思う。そこで、明快にビジュアルが浮かんでいる人もいれば、明快な言葉で表現出来る人もいる。樋渡さんは、たとえばどのような図書館にするということをお考えになっていたのだろうか。(16:00)

樋渡:僕はかなり旅をしてきた。今まで40ヶ国以上に行っている。見なければ分からないという思いがある。で、代官山蔦屋書店についても「カンブリア宮殿」で観て、「いいな」と思った。それと東大総合図書館とNYパブリック・ライブラリ。その三つが組み合わさるとすごく良いものが出来るのではないかと思った。(16:30)

水野:と、言ったんですか?(16:58)

樋渡:はい。(16:59)

水野:あ、それは明快だ。(17:00)

センスというのは知識のことではないか(水野氏)

樋渡:僕のモットーは“TTP”。「徹底的にパクる」。良いものをパクる。パクってもまったく同じものは出来ないけれど、上手く言っているものを謙虚に真似することは大事だと思う。僕は政治家だから細かいことは分からないが、そこでイメージをきちんとお伝えする。そのうえで工期・納期を絶対に守って貰う。それだけだ。(17:02)

水野:先ほど楽屋で、「点を置く」という話をなさっていた。点の置き方一つで僕らが良いドライブが出来るどうかも決まってくる。徹底的にパクるとおっしゃったが、実はパクっていないと思う。日本人は最近、イノベーションという言葉を頻繁に使うが、元々英語の‘innovation’というのは「A×B」。パクったものを掛け合わせるとイノベーションになるという話だと思う。日本人はゼロから何か生み出すことをイノベーションと考えるきらいがあるけれど、欧米の人達はそんなことは考えていない。「シュッシュッ」といっている蒸気と「ガッシャンガッシャン」といっている車輪を見て、「これ、くっつけると蒸気機関車になるね」と。それがイノベーションだと、皆が分かっている。(17:34)

何が言いたいかというと、発注者側に最も大切なのは…、ビビらずにデザイナーをコントロールすることだが、それはセンスがないと出来ない。で、センスというのは「NYの図書館と東大の図書館と代官山蔦屋書店を合わせた感じに」といった話になるけれど、これは知らないと言えない。つまり、センスというのは知識のことではないかというのが僕の持論だ。国語・数学・理科・社会は勉強していても、そうしたデザインやセンスあるいは美術を多くの人々は勉強してきていないから、そこで一歩引いてしまう。でも樋渡さんは遠慮なく…、旅をしてきたことも大きいと思うが、そこで広めた見聞をご自身の知識として、「あそこで見たあれが格好良かった」という風におっしゃる。これはデザイナーにとっても分り易くて嬉しい話だと思う。(18:36)

「ここに出発点があって、ここにゴールがある」と発注者が点を置く(松岡氏)

松岡:「点を置く」というのは、「ここに出発点があって、ここにゴールがある」というふうに、まず発注者が点を置く必要があるという話だ。「はじまります。でもゴールは分かりません。お任せします」と言われても、我々デザイナーは非常に困る。さらに言えば、はじまりと終わりだけでなく、恐らく途中にも点がある。(19:37)

樋渡:そう。それ、すごく大事。(20:00)

松岡:蔵書の引っ越しで市民を巻き込んだことも点の一つではないか。(20:02)

樋渡:そうです。(20:05)

松岡:それらの点をどのようなラインで繋いでいくのか。それをデザイナーや仲間が考えていくというお話だと思う。(20:06)

樋渡:そう。僕のように決定権を持っている人間は点を置くだけ。その後の魅力的なプロセスや道は、今回の場合で言えば市民の皆さんや職員さんあるいはCCCの諸君が考えてくれる。「どのようにして魅力的な航路にしようか」と、服や装備をワクワクしながら考えてくれる。ただ、魅力的な点でないとそこへ向かう気にはならない。そこで僕は、ある点を置いた。僕は「騒ぎは起こすためにある」という言葉が大好きだ。どういうことかというと、武雄市図書館では本を借りると「Tポイント」が付くようにした。その話をしたときは皆のけぞったけれど、そういう点を各所に置くと制度のデザインまで考えてくれる。本を借りると「Tポイント」が付くなんておかしいでしょ?でも、そうするとメディアが騒ぐ。で、メディアが騒ぐと市民の皆さん方が“乗って”くる。そのスピード感が大事だ。僕はそうした点を定期的に置いていく。地雷と言ってもいいかもしれない。それでよく自爆していたが(会場笑)。(20:13)

騒ぎを起こすと火柱が立つ、燃えているところに人が集まる(樋渡氏)

29124

松岡:控え室では「賛否両論をデザインする」という面白いキーワードも出てきた。「必ずしも賛同者ばかりを得ることがすべてではないのだ」と。(21:30)

樋渡:そう。騒ぎを起こすと火柱が立つ。それを炎上という訳だが、燃えているところには人が集まる。集まるのは関心を持っている人達だから、そこで色々な意見が出る。それを吸い寄せてデザインに活かすプロセスが大事だと思う。(21:37)

水野:意見がないと何をするにも難しい。たとえば地方のお仕事で当地へ行ってみると、すごく閑散とした、けれどもすごく近代的でお金もかかっているであろう体育館があったりする。そういうものに対して誰も何も言わない。そこで何か問題提起をする必要がある訳だ。問題を解決するのは当たり前。大事なのは問題を発見する能力だけれど、それがなかなか備わっていないケースが多い。ときには問題ではないことを問題にする。そういうこと自体が問題になることはあるのかもしれないが、まあ、いくらでも修正は出来ると思うので。(22:02)

樋渡:実は、僕はスケジュールを立てていて、たとえば「夏にスターバックスコーヒーの話を出そう」と考えていた。夏はちょうどネタ枯れする時期だったから。一昨年5月に図書館のことで会見を行って以来、「どんな図書館が出来るのか」ということで賛否両論色々出ていたのだが、8月にぱたっとニュースが止まってしまった。「これ、まずかばい」と。それで、スターバックスの話をニュースが枯れた時期に出した。それでまた炎上だ。スターバックスを好きな人もいれば嫌いな人もいるから。そういうスケジューリングもすごく大事になる。(23:02)

松岡:やはりデザイナーとしては、まずは発注者の考え方やビジョンがしっかりあって、それで具体的な議論をしたほうが結果も絶対に良くなるとお考えだろうか。(23:51)

水野:そう考えている。まずは点を置いていただく。で、その間については「餅は餅屋で任せて欲しい」と。「ペットボトルに美味しい水を入れる。値段はこれぐらい」という点と、あとは「なんとなくアルプスっぽい感じがいいんだよね」というところまででいいと思う。それ以降はこちらがプロとして考える。「居心地が良く、NYパブリック・ライブラリや代官山蔦屋書店のような図書館がいい」という以降の、「看板はこう」、「棚はこう」といったことは、すべてプロが考えるべきだと思う。(24:14)

機能が充実した後に必ず求められるものが精神的な豊かさ(水野氏)

松岡:次の話題に移ろう。この国は終戦直後の過酷な時代を経てスタンダードが行き渡った、ずいぶん豊かな時代になった。ただ、我々は心のどこかで、「何故、イタリアみたいじゃないのだろう」といった、満たされない感覚を持っている。スタンダードな機能を満たすことも大事だが、その次の成熟した社会にどうやって進むのか。地域でも企業でも、あるいは一人ひとりの生活でも、今はそんな課題があると思う。(25:00)

水野:その通りだと思う。現在の日本人が感じている豊かさというのは、経済的・技術的豊かさ。精神的には豊かさが足りていないということを、そもそも国民全体が感じていると思う。これほど豊かな国なのに。で、今はそこに対する意見がどんどん出てきている。たとえば図書館。「本があればそれでいい」というのは、その通りだ。蔵書がたくさんあるのなら、検索がし易いのなら、それでいい。ただ、では何故武雄市図書館にこれほど人が集まるのか。やはり(精神的に)豊かだからだと思う。(25:48)

企業も地方自治体も国全体も、これまでは機能を求めてきた。ただ、機能が充実された後に必ず求められるものが精神的な豊かさ。腕時計が良い例だ。腕にまいて時間を知るという機能はもう完全に満たされている。江戸時代の人に色々な時計を見せたら、恐らく皆が「G-SHOCK」を選ぶと思う。ところが、たとえばロレックス等、ほかにも無数の時計があって、人々はそれらを「時間を知る」という機能以上の価値を求めて買っている。今後はそういうことが図書館だけではなく、プール、学校、空港等々、さまざまなものに伝播して、豊かさが求められていくと思う。(26:35)

日本の空間を変えていくのは公共施設だ(樋渡氏)

樋渡:皆さん、全国に公共施設がどれ程あるかご存知だろうか。僕、知らないです(会場笑)。調べようがないほど多い。図書館だけで3300〜3400ほどあるし、学校だってどれ程あるか。とにかくすごい数だ。つまり、公共施設というのは「すでにあるもの」。だからこそ、僕はこれから日本の空間を変えていくのは公共施設だと思っている。すでにあるから。武雄市図書館が何故イケているかというと、CCCの空間構成能力を組み合わせたから。従って、組むことで変えていく。しかも、武雄市図書館には「ここからが官でここからが民」といった、つまらない仕切りがない。一緒になってチームでつくっていることがよく分かると思う。で、そんなふうにして公共空間が変わっていくと何が変わるか。僕も元々は総務省というつまらない役所にいたからよく分かるが、彼らはすべて横並びにする。今すべてがつまらないのは、つまらないものに合わせているから。そうでなく、イケているものに横並びをさせて、そこでさらにイノベーションを組み合わせていけば日本は本当に地方から良くなっていくと思う。(27:31)

水野:樋渡さんに伺ってみたかったのだが、デザイナーが突っ走って変なものをつくってしまうことがある。デザインを装飾デザインの意味だけで捉えているデザイナーが山ほどいるからだ。その辺はどのようにコントロールすべきとお考えだろう。(29:04)

樋渡:そういう人達は僕の周りにも山ほどいるけれど、僕は必ず、「使う人の身になって考えてください」と言っている。「あなたのお子さんはこれをどう思いますか?」と言うと効く。「仮に介護が必要なお母さんがここへいらしたとき、本当に心地良く思うの?」と。デザイナーの皆さんも一度、提供者目線でなくユーザー目線に立ってくださいということだ。しかも、ユーザー目線でつくったものを人様に勧めることが出来るかどうかを、発注者側と受注者側でシェアする。すると、そこからチームの意識も生まれる。恐らく今後は発注者側と受注者側という立場もシームレスに溶けていくと思う。武雄市図書館ではそうだった。役割分担すらなく、「皆でやっていこうぜ」と。だから僕は業者という言葉が大嫌いだ。なにかこう、見下しているような感じがする。そうでなく、イコールのパートナーとして「一緒にやっていこう」という風に話をすると上手くいくと思う。図書館ではそれを首尾一貫させた。(29:23)

デザインという恐怖の脅し文句に屈していないか?(水野氏)

29125

松岡:耳が痛いというか、今は色々な人の立場になり得る目線を持つ人が優れたデザイナーなのだと思う。たとえば、ハンディキャップを持つ方の気持ち、お母さんの気持ち、そしてもちろん発注者の気持ちになること。そうしたデザイナーにとってのハードルは、今、どんどん上がっている。我々もそれに従って自分の力を上げていかないと、武雄市図書館のような新しい仕事についていけないという気がする。逆に言えばすごく良い時代にデザイナーや建築家をやっているとも思うが。(30:45)

水野:デザイナーでない方にとってデザインというのは恐怖の言葉だと思う。(31:26)

樋渡:恐怖です。(31:34)

水野:(笑)。もう脅し文句として使う言葉だとすら思えてしまう。で、「その脅し文句に屈している方が多いのでは?」というのが僕の印象だ。しかし、実はデザインという言葉には仕組みがある。僕は教鞭を執っている慶応SFCでも「機能デザインと装飾デザインの二つを掛け合わせて初めてデザインになる」と言っている。それをデザインの一言で済ませてしまうと、なんの話をしているのか分からなくなる。たとえば「握りやすい」「開けやすい」というのは機能デザインの話で、それを緑にするか青にするかというのは装飾デザインの話だ。ポスターでも何でも、すべてについてその二つに分けることが出来ると思う。だから、デザイナーと話をするときは、ぜひ、「それは機能デザインの話をしているの?装飾デザインの話をしているの?」という言葉を使ってみて欲しい。それだけでずいぶん恐怖の言葉でなくなる。(31:35)

松岡:大きなヒントだ。その分け方で見るとくまモンはどうなるのだろう。(32:51)

水野:フリーにしたことが最大の機能だ。もちろん本体の機能について言えば「歩きやすい」「動きやすい」ということを最初から考えていたが、やはり“機能オブ機能”と言えば、県庁の方々が著作権を買いあげてくださった点になる。(32:55)

松岡:そのアイデアは県のほうから出て来たのだろうか。(33:27)

水野:そう。県庁の方々、もっと言えば県知事がくまモンについて大変前向きで、買いあげのお話も県から出て来た。僕は当然ながら権利を守る側の人間だから最初は「嫌です」と言った。馬鹿みたいなことに使われたら悲しいし。ただ、話を聞いてみると「権利をフリーにしたい」とおっしゃる。これは、ある意味で革命だと思った。「初音ミク」という現代アートよりもさらに広がっている訳で、ある意味では現代アートだと思う。で、そういうことを最初にやった素晴らしい事例ではないかなと思い、「それであれば、どうぞ使ってください」と申し上げた。(33:29)

ホウレンソウを禁止、瞬間に頼ってしまうから(樋渡)

松岡:武雄市図書館のアイデアもどんどん使ってOKという感じだろうか。(34:27)

樋渡:そう。それともう一つ。当然、図書館というのはCCCだけで出来る話ではない。図書館法や建築基準法あるいは消防法等、色々な制度があるのでうちの職員も絶対に必要だったが、最初は皆、嫌がっていた。「前例も何もないから嫌です」と。でも、やっているうちに皆も少しずつやる気になってくる。熊本県庁の話と同じだと思う。やっているうち、彼らから主体的に「こんなふうにしたい」という話が出てきた。(34:32)

あと、大事なのは決定権を与えること。僕は「決定権のお裾分け」という言い方をしている。会場にいらっしゃる経営者の方々は何故これほど元気が良いのか。恐らく決定権があるからだ。現場の人には通常、それがない。そこで少しずつでも決定権を与えると、途端に皆が生き生きしはじめる。今回の図書館で僕が学んだことの一つだ。だから、途中からは報告・相談・連絡も禁止にした。ホウレンソウ禁止。そういうことをした瞬間に頼ってしまうから。「その代わり、悪い話だけは僕のところに寄せてくれ」と言った。そうしたら山のように悪い話がやってきて(会場笑)、思わず寝込みそうになった。ただ、そういう話を持ってきた後はまた、憑き物がとれたように驀進していく。(35:18)

水野:規模は小さいが僕も会社を経営しているから、明日それを言ってみる。一週間しかもたないかもしれないが。今のお話で重要なのは自己の重要感だと思う。会場の先輩方には釈迦に説法だが、社員達の自己重要感を満たしてあげるは最も大事なマネジメントではないか。僕自身についても同じだ。また、そこでデザインがかなり大きな力を及ぼすとも思う。制服にしても図書館にしても何にしても、「これを持っているから自己の重要感が満たされる」という部分がかなりある。その意味で、僕は「リクルーティングが上手くいけば一番の成功だ」と言っている。「この図書館で働きたい」と思うアルバイトの数が増えたら、それが一番の成功ポイントではないか。何らかのブランドが出来あがっていく過程では必ずリクルーティングが上手くいくようになるし、それが企業や施設の価値にもなると思う。僕はそれを常に目指しているが、今の話はそこに繋がると感じた。現場に権限を与えることで、持っているものを格好良くすることで、皆の自己重要感も上がる。そうした尊厳のような部分が大事だと思う。(36:16)

樋渡:TV番組の「情熱大陸」で水野さんを特集していたとき、まさにそれが体現されていたと感じた。映像は嘘をつかない。水野さんのオフィスはすごく雰囲気が良いと感じたし、「あそこなら僕も働いてみたいな」と。武雄市図書館は、実はくまモンをすごく意識していた。くまモンは“尖って”いるのに万人に受け入れられている。これ、すごく矛盾しているじゃないですか。それで、「どういう人があのくまモンというかわいい怪物を生み出したのかな」という興味があった。それが今日、限られた時間のなかで共有出来たと感じるし、お話もすごくよく分かる。(37:47)

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