DeNA 南場智子氏 「DeNAの成長の軌跡とグローバルNo.1に向けた新しい挑戦」後編 

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「コンサル時代からの変化というと・・・ゴミ箱を蹴らなくなった。あと、実業の厳しさがよく分かった」

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堀:ここからは対談および会場との質疑応答としたい。まず、私は南場さんをMBA時代から存じあげているが、マッキンゼーにいた頃と比較するとかなり変わったと感じる。ご自身として変わった、あるいは成長したと思える部分があればお伺いしたい。

南場:ゴミ箱を蹴らなくなった(会場笑)。とにかく私は子供だった。人間として大人として、基礎的なことが出来ないままにスキルを身に付け、怪獣のように暴れまわっていた。しかし女性だからということである程度甘やかされ、「面白い女性がいる」ということになっていた。今そんな女性が目の前にいたら静かにしっかりと「甘えてんじゃねえぞ」と言ってあげたいが(会場笑)、今はそれがまったくない。あと、実業の厳しさがよく分かった。どんな生業でも同じだが、自身で立ちあげて課金・回収まで行う、あるいはゼロから売り物をつくっていくというのは本当に大変だ。これは、ある程度ブランドが確立している会社のなかで、求められる機能を果たしているだけでは分からない部分がある。その意味で、普通のことを普通にまわしている会社に心から敬意を払えるようになった。私にとっては遅すぎたけれども良い気付きだったと思う。

堀:採用に関してもお伺いしたい。僕は川田さんにも渡辺さんにも投資をしているのでよく知っているし、守安さんのこともG1サミット関係で、そして飯尾(慶介氏・現みんなのウェディング代表取締役社長)さんのことも存じあげている。そうした方々が数多く集まってきたのがDeNAの強さになったと思うが、今は大変なリソースを投じて良い学生も集めていようともしている。あれほど力を入れて採用にかける思いを、どのような組織文化をつくりたいと思っていらっしゃるかも併せてお聞きしてみたい。

南場:採用は最優先だ。社長時代も大変な時間を費やしたが、今も同じ。昨日も3時間、学生とセッションを行った。他の経営トップがこれを何故やらないのか。たとえば4年前、すごく楽しみな新卒に出会った。DeNAのほかにもう一つ、外資系の金融機関からもオファーを受けていて、迷った末に最後は金融機関を選んだという人材だ。その金融機関はその年の採用予定がゼロだったにも関わらず、彼のために採用枠をつくったそうだ。すごく残念だったが、しかしそれ以降も彼を追いかけていた。たとえば、彼から「念願叶ってニューヨーク赴任が決まりました」というメールが来ると、「じゃあ送別会ということで一杯やろう」と言って二人で飲む。色々な人に同じことをしていて、「この人はすさまじく成長しているな」と思える人がいたら、さらに、猛烈に追いかける。

たとえば金融機関に行ったその彼からはおよそ2年半後、「年末にちょっと帰国します」という連絡が来たのでまた一緒に飲んだ。すると、「南場さん、僕、起業しようかと思っているんです。プランを聞いてくれますか?」と言う。「聞くよ聞くよ!」と。それで聞いてみたら、残念ながらどう考えても駄目だった。「Yahoo!知恵袋と一緒じゃん。しかも有料って…、これ駄目だよ」と(会場笑)。ただ、そこで「そんなことを考えるぐらいならうちにおいで」と猛烈に勧誘した。それまでは直接言っていなかったが、心に隙間があるときにすっと入り込んで、「来い」と。それでようやくDeNAに来た。

彼はたとえば金融機関に在籍していたとき、二日酔いでもどんな状態でも必ず朝4時に出社していた。「僕には金融の知識がないし、僕より賢い人は周りにたくさんいるからです。あと、4時出社というのは入社時に自分に課したたった一つのルールなんです。それすら守れない人間になりたくなかった」と言う。それで毎朝4時に自転車で来るのだが、ある日、大手町のビルとビルのあいだに停めていた自転車のサドルが盗まれたそうだ。それで別のサドルを付けてまた停めていたら、再び盗まれた。ただ、「それで分かったんです」と。「ぼろぼろのサドルを付けていたのに盗まれた。つまり、この辺の連中はサドルをゲーム感覚で盗んでいるんです」と言う。それからというもの、彼は立ち漕ぎで通勤し続けた(会場笑)。

それで今年5月に入社した彼はまた新規事業のプランを持ってきた。で、また「これは上手くいかないから止めておけ」と(会場笑)。ただ、その次に持ってきた企画が先般ローンチした「Showroom」というサービスだ。入社後6カ月ほどのあいだに一つの案を潰されながらも次の案を出し、スタートにこぎつけた。それほどの勢いを持った人間で、かつ彼のオーラといったものが周囲100人ぐらいに良い影響を与える。そういう一人の人間を追いかけることに社長が時間を使わないのは理解出来ない。最優先だ。まずはエントリーで納得した人をどこまでも追いかけて採用するということをしている。

堀:採用後の育成についてはどうお考えだろう。

南場:基本的には、説教や研修で人はあまり育たないと思っている。悪いことではないが、仕事でしか育たないのではないかと。従って、ストレッチにストレッチを重ね、それでも出来るか否か50%といった仕事を任せる。これは公のルールだ。そのぶん失敗もあるし穴も開くが、「人が育たないリスクは取らない」という考え方をしている。

「自分が『これは面白いな』と思ったものが大ヒットしたケースは少ない」

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堀:事業に関してもさらに伺いたい。たしかにヒットする場合としない場合の違いが分かりにくい面があり、ゲーム業界は経営面ですごく難しいところがあると思う。ゲームビジネスの難しさ、あるいは気付きなどがあればぜひ教えていただきたいと思う。

南場:私はゲーマーでもないしゲームをつくったこともないが、自分が手掛けてきたサービスで「これは面白いな」と思ったものが大ヒットしたケースは少ない。逆に自分では面白く思えなかったゲームがヒットしたこともあるし、そうした結果に関して我が社の担当リーダーも後付で色々と理屈を言う。それで、過去のことは100%説明出来たうえで、そのとき開発しているものについては「絶対に上手くいきます」と言って、それでずっと外しているという(会場笑)。本当に難しい。そこがゲーム事業にあまり大きなバリューがつかない理由でもある。上手くいった理由が分からないと上手く行かなくなったときに修理の仕方が分からないし、ヒットの再現性もなかなか見出だせない。スーパーヒットが生まれるとそのユーザーベースを次のゲームで活用出来るし、プラットフォームに成り得るのでそのトライアルはやるべきだと思うが。

堀:日本での成功をグローバルに展開するうえで何かお考えはあるだろうか。

南場:当初、我々は日本のゲームということでなく、米国なら米国向け、中国なら中国向けということでローカライズを強く意識していた。しかし海外で最初に大ヒットしたのは日本のゲームとまったく同じだった。で、それがAndroidアプリとして多くの国でNo.1になったので、「あ、このやり方だな」と思ってやってみると次は上手くいかず、現地化したものが上手くいったりする。これについてあまり話すと「何も分かっていないのか」と株主さんに怒られそうだが、やはり人間である以上、ちょっとした競争心や何かを積み上げていく楽しさ等、一部では共通の欲求もある。ただ、一方で文化的背景によって大きく違うものもある訳で、その辺が完全に分かればあまり苦労しないなと思う。

堀:一方で、他業界に比べるとゲームの世界は比較的グローバル化しやすいのかなとも思うが、世界を狙うためにはマーケットを絞ったほうが良いのだろうか。

南場:大きい市場に関してはマーケット単位で戦略を最適化しようと思っている。まずは欧米というかウェストということで一本にしている。それと中国と台湾のグレーターチャイナ。そして、上手くは行っていないが韓国で一本。この3本はローカル市場ということで戦略をそれぞれ最適化している。で、その他地域についてはオープンなので、「入ってくれると良いな」と。実際、33カ国で1位になったタイトルもある。ターゲットとしては3地域だから、そういった意味では成果も出ているのかなと思う。

堀:最後にひとつ。今日は「現在苦労している」とのお話もあったが、その辺の原因等について、可能であれば差し支えない範囲内で教えていただきたい。

南場:成功の復讐に遭っているということだと思う。ブラウザーゲームがうまく行ってアプリへの移行が遅れたことは一例だ。ユーザーがアプリに移りかけているときに、我々のブラウザーゲームがヒットした。ユーザーからするとアプリかブラウザかというのは関係なく、実際には操作性やグラフィック、あるいはシナリオやメカニズムのほうが重要だ。ただ、つくる側としてはまだ大きなギャップがある。将来はそのギャップも薄まる筈だが、いずれにせよ、「あれ?ユーザーは操作性やグラフィックなんて求めていないじゃん」といった期待が持てるような成果がそのときに挙がってしまった。それで私たちの判断が半歩遅れた。

今回のことを通してDeNAの強さがどこにあるのかよく分かった。アプリ側とサーバ側という風に単純に分けると、サーバ側は恐らく世界でトップ級だ。しかしアプリ側、あるいはグラフィックスやユーザーエクスペリエンス(UX)の部分は並だ。それで今はファーストパーティと言いつつ、我が社のサーバ側エンジニアとユーザー側の非常に強いところで混成チームをつくっている。この作戦は成功すると思う。そこに我が社からもアプリの優秀なエンジニアを入れている。そこで新しい発想やUXのアイデアも出てきている。パイプラインのゲームを見ると非常に勇気付けられる。

ただ、混成チームで今は60タイトルもつくっているが、海外企業も含めて他社の人達と一緒にやるのは色々と大変だ。やはり文化が違う。デッドラインという言葉一つの受け止め方もまったく違っている。我が社はそれを死守するが、クリエイティブ系の人達ではまたそこが違っていたりする。いずれにせよ、そうしたところで時間をかけてチームをつくりながら良いものをつくっているという状態だ。

堀:では会場からの質問も受けていこう。

「新規事業を成功させる人は概念に溺れない。細部をしっかりやる」

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会場:コンサルタント経験で役に立った部分があればお聞きしたい。

南場:たとえばロジカルシンキングであるとか、そうした一通りのスキルはコンサルタント時代に身に付けているし、それは使っていると思う。ただ、その辺はどちらかというと常識的なスキルだ。それが過度に強いとコミュニケーションのなかで嫌われてしまうし(会場笑)、頭でっかちになって大事なことを見失うことがあると思う。人の胸襟を開かせることが出来ず、むしろ閉じさせてしまうようなこともあり得るのではないか。

会場:先般、あるカンファレンスで「教育分野に力を入れたい」といったお話をなさっていたが、教育関連で何か新規事業をお考えになっているのだろうか。

南場:私は日本の教育に大きな問題意識を持っている。それが会社の事業であってもなくても、教育に関わる取り組みに関しては特に堀さんとも力を合わせて社会に問い掛けていきたいし、批判するだけでなく出来ることをやりたい。もちろん事業としても教育というのは面白いと思う。非常に大きな領域だし、インターネットサービスとして出来ることはたくさんあると思う。今は幅広く検討していて、プロジェクトも10個ほど動かしている。10ある領域のなかのひとつにはいつも教育が入っている。

会場:クリエイターの方々に才能を解き放って貰う一方、売上が2000億になるとそのマネジメントも大変になると思う。そうした状況での管理手法をお伺いしたい。

南場:その辺は10人のチームが3つあるのか30チームあるのか、あるいは60チームあるのかといった違いで、会社の規模とは関係がない。我が社はだいたい2〜3人で新規事業をはじめるが…、ゲーム開発では本番になれば人数も増えてくるが、その人員数が違うという程度で、やり方が変わることはないと思っている。

会場:新規事業を成功させるような粘り強い人材のファーストインプレッションとして、今振り返ったときに何か共通点はお感じになるだろうか。

南場:概念に溺れないということだろうか。細部をしっかりやるということだ。アイデアは意外とどこにでも転がっているし、それを中途半端に手掛ける人は結構いる。そのエグゼキューションを細部までしっかりと出来る人というのが一つ。あと、冷静でかつ競合を怖がらないことも大事だ。同じことをやる人が出てくると大きなダメージを受けたり心がざわついてしまったりするような人はユーザーに対するアテンションが低くなってしまうように思う。守安は新規事業を次々成功させてきたが、基本的に、彼は動じない。当社より強い競合が同じことをはじめても感情を乱さず冷静に情報を収集し、粛々とやるべきことをやっているという面がある。

堀:少数の成功する人を、それ以外の人々がサポートするような構図なのだろうか。

南場:そうしたくないので、出来る限り皆が考えるような状態にしたいし、そういう人を採用していく。それで、たとえば何かでサポートに廻った人が次は主役になるような状態にしたい。ただ、リーダー役が得意な人とそうでない人、あるいはアイデアを出すのが得意な人とそうでない人はいるし、会社としてはオペレーションが得意という人も必要だ。その意味で、主従や優劣ではない役割分担というのはあると思う。

会場:定性的な目標に関して、もう若干具体的にお伺いしたい。

南場:すごく恥ずかしいのだが、「グローバルインパクトNo.1」という…(笑)。グローバルなインパクトにおいてNo.1のインターネットサービス事業者になりたい。喜びのインパクトというか、「こんなに楽しいのか」という風に、良い意味でユーザーさんを驚かせたい。前段では写真をご紹介して「こういう社内の笑顔をユーザーさんにも」というお話をしたが、そうした定性的なお話なのでいつまで経ってもそれが定量的目標になることはないが、あれぐらいのイメージだ。

会場:「非常に鋭くかつチャーミングでエネルギッシュ」といった印象をお受けするが、ご自身ではそうした面が経営者になってから備わったとお考えだろうか。

南場:分からないが、私自身にはそうでないときもあった。人前では良いところを出して悪いところは出したくないと思うものだが、たとえば「くよくよ悩む」「後悔しがち」といった、経営者向きでない気質を実は元々持っている。DNAに刷り込まれているのだと思う。だから経営にあたっては自分をコントロールしている面がある。意思決定に関しても「これは間違っていたのでは?」と思ってしまうときはあるが、その際は自分の意志力で「もう決めたことだから」と言い聞かせている。それは訓練によるものだ。ただ、経営に関係がないところではそういう地の部分が出てくる。レストランで注文を決める際も優柔不断になり、頼んだあとになって「やっぱりヒレカツに」みたいな(会場笑)。

あと、一つの物事に対してエネルギーを一気に高める癖は元々あると思うし、遊び好きというか、“ゲーム”が好きだ。父から譲り受けた面があるかもしれない。マッキンゼーでも厳しいとは言われていたが、「南場のチームは面白い」とも言われていた。経営者になる前からそんな要素があったと思う。それを当時は出来るだけ出さないようにしていたかもしれないが、今はその必要もない。むしろマイナスになるので、「賢く見せなきゃ」という気持ちを取り払って「楽しくやろうよ」という気持ちを前面に出す感じだ。

「事業リーダーに最も求められる要素は胆力。リーダーはまず自分で濁流に足を突っ込まなければいけない」

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会場:ロールモデルとして目標にしている経営者はいらっしゃるだろうか。

南場:私にはロールモデルがいない。身の丈というものがあるし、自分の能力を現実的に考えてみるとまるまる真似出来る人がなかなかいない。だから仕方がないというか、自分は自分ということで無理をしないようにしている。もちろん色々な人から色々な面を学びたい。堀さんにはすごく前向きで斜に構えない面と。斜に構えるというのは子供のすることで、私はそこにマチュアな面を感じる。私も出来ることを前向きにやりたい。議論等でも批判や愚痴が多くなりがちなケースは多いし、批判しているほうが格好良く見えることもあるが、そんなことをしていても仕方がないので。

会場:DeNAというとグリーのことも頭に出てくる。「ここは勝っている」、「ここは負けている」といった点があれば、今後の展望も含めお聞かせいただきたい。

南場:たとえばモバゲーの“競合サービス”をつくる会社は数多くあるが、そのなかで唯一上手くいったのがグリーだ。実力ある会社だと思う。だからこそ、正直、グリーに対してカリカリする。…「していた」という話になるか。たとえば学生向け開発コンテストを行って優勝チームをシリコンバレーに連れて行くといったことを決めて発表すると、次の日に同じことを発表してくるというか(会場笑)。すべてにおいて時間をかけずに同じことをしてくる。それで私はカリカリするし、その理由が何かと言えば、私たちを参考にしてくださる多くの会社のなかで、唯一同じ土俵に登ってきたという点だ。実行力というのは企業のすべてだから、やはりそこに関してはリスペクトを持っている。ただ、グリーを今意識しているかというと、過去においても同じだが、「グリーを見て真似し合っても仕方がない」と。私たちも負けず嫌いなので他の会社をじっと見てしまいがちなときはあるが、やはりユーザーさんを意識しなければいけないという話になる。

会場:『不格好経営—チームDeNAの挑戦』(日本経済新聞出版社)で「経営者を目指す方にコンサルタントの道はお勧めしない」とあったが、その理由は何か。

南場:一言で表現すると、事業リーダーに最も求められる要素は胆力だ。コンサルタントはその胆力が鍛えられる環境だと決して思えない。たとえば濁流を前にして、「社長、これを渡ると肥沃な土地があります」とアドバイスするのがコンサルタント。しかし、リーダーはまず自分で濁流に足を突っ込まなければいけない。で、突っ込んでみるとコンサルタントが決して教えてくれなかった事態が発生する。これはやってみないと絶対に分からない。たとえばそれが熱湯の濁流であったとか、想像もしなかったことが起きる。そこで二歩目三歩目をどうするか。しかも後ろに皆を引き連れて行かなければいけないから、本当は怖いし迷いもあるのに「これでいいんだ」という堂々とした背中を見せなければいけない。そうした一番大事なことをコンサルティングは教えない。

会場:「元々はご自身のタイミングで経営者から退きたかった」と仰っていたが、当時はそのうえで何を成し遂げたいと思っていらしたのだろうか。

南場:今まで助けて貰ったぶん、助けたいなと思っていた。今は最終意思決定者ではないしリーダーでもないが、同じチームの一員として世界のてっぺんに行きたいと思っている。「創業社長が戻ると誰がリーダーか分からなくなってロクなことがない」とよく言われるが、そこに関しては細心の注意を払っている。私としてはそれも新しいチャレンジだと思う。たしかにDeNAにおける私の存在は大きい。で、今は月曜から金曜まで会社にいて、ときには社員にも喋りかけるし、私が担当している仕事もいくつかある。ただ、そうした状態でも「とにかく大将は守安だ」ということで、皆が混同しないよう出来ることをすべてやりたい。それをやったうえで、初めて私の存在が許されるのだと思うので、守安に相談したうえで任された仕事をきっちりやりたいと思っている。

会場:「泥臭い営業に価値がある」といったお話もあったが、それを感じた具体的エピソードがあれば、DeNAで求められる営業の資質と併せてお伺いしたい。

南場:エピソードという訳ではないが、「ビッダーズ」を成長軌道に乗せた主なドライバは、実はユーザーさんからの収入ではなく店舗さんからの収入だった。細かい内訳は発表していないが、取扱高に応じた課金とともに、やはり店舗さんからいただく月額使用料と広告料が安定的に事業の成長を支えてくれた。エンドユーザーは飽きるとすぐに離れてしまうが、顔を見て営業をした店舗さんは、信頼関係をある程度築くことが出来れば2度3度チャンスをくれる。見放されても当然と思えるような大失敗をしたときですら、むしろ去るのではなく助けてくださる店舗さんが多かった。コンサルティングでお会いしていたような大企業の社長さんたちには余裕もあったが、店舗を経営している方々のなかには、本当に、自身の人生や家族の幸せを賭けている方が多かったと感じている。そういう方々を目の当たりにして、「自分には真剣さがあると胸を張って言えるのかな」とも思ったし、そんな気付きをいただいたことが何度もある。

会場:著書では「ビジネススクールで学ぶことについて懐疑的」といったお話もあったが(会場笑)、何か役に立つことはないのだろうか。

南場:当初は「ビジネススクールは役に立たない」と断言して書いたのだが、そのあと堀さんの顔が浮かんで「懐疑的だ」という表現に変えた(会場笑)。そんな私がご本人を前に何か喋ることはとても出来ないが、私の場合、恐らくマッキンゼーで1000本ノックをやっていたのだと思う。だからビジネススクールで新しい学びをなかなか発見出来なかったのかもしれない。それに、当時の私はコンサルティング業に疲れきっていて、ハーバードには休みに行ったというような感覚がある。それで1年生のときから遊んでいて、真剣に学んでいなかったから学びが少なかったという面もある。

逆に言えば真剣にやった人はそれだけ吸収していたと思う。たとえば当時経産省から来ていた友人は当初、「プロフィットって何?」という感じだった。ただ、ハーバードでは真剣に勉強していて成績も良かったと思う。彼女はサマージョブにも…、国費で来ているからお金を貰うことは出来ないが、ボランティアとして私と同じ投資銀行でサマージョブに参加していた。そうした期間が彼女のためになったかと言えば、彼女は間違いなく「なった」と言うだろう。私は…、2年間の骨休めをしてしまったので(会場笑)。

会場:経営者として何か習慣づけていらっしゃることはあるだろうか。

南場:些細だが、“とっちらかる”ことのないようにしていた。これも本当は良くないのだが、私の場合、たとえば社内ですれ違いざまに、「あれはどうなったの?」、「これをやっておいて」と。思ったことはすべて口に出して、色々な人に色々な頼みごとをしていた。で、私はその際に必ず期限を設けるのだが、それを帳面に記していた。そのうえで大事なことについては期日の前に声を掛け、「あれは出来てる?」という風にフォローしていた。記憶力の乏しさ故にやっていたことだが、結果的には良かったと思う。依頼したまま結果を取りに来ない人もいるが、それでは皆言うことを聞かなくなるというか、「あ、そんなに大事じゃないことを頼まれたんだな」と解釈をしてしまう。私自身も特に組織体制が整っていなかった頃はとっちらかりがちな依頼の仕方をしていたので、その点について必ずメモを取ることにしていた。小人物な話かもしれないが。

「今は悪魔的に強いプレイヤーが出てきている。彼らの作るプラットフォームで事業をするのは、ひとつの国で事業をするような複雑なものだ」

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会場:PMIでご苦労され、現状ではグローバルで一体感を出すことが出来ているというお話があった。その辺の乗り越え方に関して、もう若干お伺いしたい。

南場:たとえば守安は…、ちなみにジョー・バイデン米副大統領が先般いらしたときは来社30分前から‘Aha?’の発音を練習していたが(会場笑)、以前は400点台だったTOEICスコアも最近915点になった。それで彼は買収先の社長と二人でラスベガスへ遊びに行ったりしていた。とにかく大変な時間をかけて信頼関係の構築を最優先していた。ただ、それでも買収先を辞めてしまった人がいる。「その時間はなんだったのかな」といった総括は、恐らく守安のなかでもまだ結論として出ていないように思う。

それともう一つ。これは典型的な例だが、トップ同士で話を聞いていると上手くいっていると感じるものの、現場ではまったく上手くいってないケースもある。それでスケジュール通り進んでいないという情報が現地に送り込んだ日本人から届く訳だ。で、その情報を聞いたうえで「こうなんじゃない?」と返すと、今度は「送り込まれた日本人がバックチャンネルで情報を流している。信頼されていないのでは?」という話になる。ただ、私たちとしてはユーザーさんやパートナーさんにコミットしている訳だから、「出来ると言っているけれども本当なの?」という話になるので、「それならバックチャンネルを止めよう」と。それで今度は国際部という新しいチームをつくって色々と聞くことにした。そこで改めて守安や春田や私が色々と聞く。ただ、それは大きな疑問から発する細部の話なのだが、そうすると今度は新しいチームがアメリカのトップや現場に対して重箱の隅を突付くようなチェックをはじめる。私たちから何を聞かれても答えられるようにするためだ。で、それに対応するだけで遅れてしまう。それで結局、「それなら誰か行ったほうが良いよ」ということで、今は春田が行っているという状態になる。

堀:我々のVCでもゲームやアニメーションの会社に何件か投資しており、クリエイティビティを管理することの難しさは痛感している。ただ、クリエイターを管理しながら、一方ではオペレーションをしっかり仕組み化していくような方法論が確立出来たら勝てるのではないかとも感じる。日本企業による海外企業の買収は、粘り強くやっていけば特に製造業では成功するケースが多いという話を聞いたこともある。現場に入り込んで粘り強くやっていくという部分にヒントがあるのではないかなと。製造業的アプローチとの組み合わせによって成功の余地も大きくなると感じるが、そうした方法論ついてはどうお考えだろう。たとえば海外企業をベンチマークすることはあるのだろうか。

南場:難しい。我が社の場合はオペレーションというか、ヒットした商品を長持ちさせることに大変長けている。たとえば「怪盗ロワイヤル」は今でも毎月、かなりの売上を出している。ヒットしたものを分析して、そのサービスが持つポテンシャルを最大限に引き出すことは出来る訳だ。ただ、最初の生み出すという部分では上手くいっているときとそうでないときがある。その辺を完全にマネージ出来れば良いのだが、そうなっておらず、今は方法論が確立出来ないところだ。

堀:既存の方法論を踏襲せず、すべてゼロベースでつくり直すというアプローチもヒントになるように思う。それでも当たるかどうかは分からないが、とにかくまったく違うことを…、「これ、おかしいんじゃないか?」ということをどんどんやっていきながら、かつそのなかで生まれてきたもので継続性を高めていく。たとえば「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」のようなシリーズ化はオンラインゲームとしてどうなのだろう。

南場:「怪盗ロワイヤル」がヒットしたあとに「戦国ロワイヤル」「帝国ロワイヤル」と出していて、これはほぼ同じゲームロジックでシリーズものと同じだ。それで一応カンフル剤にはなるが、そこでロジックを変えて新たにつくり直すということはしていない。

堀:あと、ゲームを通して得られたデータもかなりあるのかなと思っていたが、ビッグデータの活用についてはどうお考えだろう。

南場:ゲームのビッグデータというのは意外とその利用価値が狭い。「これをやればリピート率が高まる」といった解析はもちろん出来るしすでに進めているが、基本的にゲームのビッグデータはゲームで生かしていくという形だ。実はゲームのビッグデータよりも各種ノウハウのほうが他のサービスに生きると思う。たとえば「次も挑戦したいな」と思うような仕組みづくりに一生懸命チャレンジしているチームがあれば、それを教育分野で生かすといったことも出来るのではないかと思う。

堀:ゲームを単なる遊びのように思っている人も多いと思うが、疑似体験を通した教育効果は非常に高く、さまざまな経験が可能だと思う。漫画やアニメーションと融合していくなか、テクノロジーとともに今後どう発展していくかという期待もある。いずれにせよ、これほどグローバルな発想を持った、「世界で最も成功した女性IT起業家」が日本にいる訳だ。これからもさらに…、DeNAに関しては守安さんにお任せしている面があると思うが、とにかくさまざまな形で社会あるいは日本へ貢献していただき、新たなイノベーションを起こしていただきたいと思う。最後のメッセージとして何かあれば。

南場:今はやはりDeNAで世界のてっぺんに行きたいと思っている。ただ、インターネットサービスの世界は大きく変わってきている。「“それ”を超える」と簡単に言ってしまったら虚言や妄想のように思われてしまうほど、今は悪魔的に強いプレイヤーが出てきた。そうしたプレイヤーがつくったプラットフォームで事業を展開するというのは、ひとつの国で事業を行うようなものだ。レギュレーションが存在し、税金まで取られる(会場笑)。民主主義でもないものだから相当に大変だ。それと同時に日本国で遵法経営をしなければいけない。その意味で、事業者としてはこれまでにないほど複雑な競争になってきたと感じる。ただ、そんな状況だからこそ、「ユーザーにどんな価値が提供出来るか」という視点に立ち返って試合をしていきたい。これからもDeNAの動向を楽しみにしていて欲しい。ありがとうございます。

堀:DeNAと南場さんのさらなる発展を祈念して本セミナーを締めたい。皆さん、盛大な拍手をお願いお送りください。どうもありがとうございました(会場拍手)。

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