住友商事阿部康行氏×クレディスイス白川浩道氏×ボスコン御立尚資氏「アベノミクスの成長戦略」後編 

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「人口対策に際しては需要のある労働と供給可能な労働の質的ギャップを認識すべき」(白川)

会場:海外のエコノミストやファンドマネージャーも目先の政策は高く評価しているが、中長期的にはやはり少子高齢化があり、労働人口が年間80万人減っていく現実がある。そうした環境でも成長を実現していくためにはどういった取り組みが必要になるのだろうか。子供を産みやすい社会をつくる、移民を受け入れる、女性や老人の活躍を促す等、色々あると思うが。(48:24)

御立:ご指摘の通りで、企業が国内で投資や雇用を増やさない最大の理由は人口問題にある。今は貯めたお金を外で投資しようとしているが、人口問題がある限り、国内ではなかなか投資出来ない。その議論を早くはじめるしかない。ある人口統計学者の推計によれば、今から対策を打つことで2030年までに合計特殊出生率が2.1まで戻ったとすると、1億人の時点で人口減少は止まるそうだ。ただ、少子化対策だけで人口問題を解決するのは難しいだろう。従って女性の経済参画を含めて実質的に働く人を増やす議論が必要になる。また、しつこいようだが、やはり生産性アップの議論も不可欠だと思う。医療だけで出来るとは思わないが。(49:37)

たとえば香港では現在、経済の95%がサービス産業で占められている。製造業の時代に比べると一人当たりGDPはおよそ20倍となったが、そのほぼすべてがBtoBサービス産業だ。たとえば中国の工場における背広づくりのため、あらゆる素材を香港で一度パッケージングして、まとめて縫えば済むようにしている。そういったものを含めてサービス産業化することで儲かる余地はすごくあるのではないか。(50:39)

ただ、人口の議論をもう一つの視点で考えてみると今世紀だけの問題とも言える。国連の最新中位推計によると、世界の人口は今世紀終わりに少なくとも横ばい、最も厳しいシナリオでは減りはじめるとされている。そうするとすべてが相対的になる。世界が右肩上がりで日本だけが高齢化という時代ではなくなるので、長く目で見ると絵が異なってくる。従って若い世代のために「今世紀をどうしのぐか」だけを考えていけば、やりようがあるのではないかという気が個人的にはしている。(51:08)

白川:私としては人口を戻すのはほぼ不可能なので、そこは移民政策しかないと思っている。ただ、どういった人達に海外から来ていただくかという政策がまだ定まっていない。現在は比較的技術や学歴が高い人々、あるいは専門職の人々を中心に来て貰おうとしているが、日本に不足しているのは広く言うところのサービス業全体だ。そこで不足している労働力はおよそ150万人におよぶ。で、たとえば妻に「明日から建設労働者として働ける?」と聞いても「出来ない」と言う。女性の参加率を上げることでカバー出来る業種というのは、私どもの見方では半分もない。基本的には海外から20〜30代前後の男性が入ってこないことにはどうしようもない。(52:10)

問題解決は、そうした労働力をロボットないし機械でいかに代替出来るかにかかっている。基本的には技術革新の速度と人が減る速度の戦いだ。私が見ている限り技術革新のほうが遅い。従って「建設業もすべてロボットでやれば良いでは?」と思う。ただ、それが出来ないのであれば20〜30代の、いわゆる専門職ではないが技術的には中度といか…、建設でも医療も一定のスキルがいるので、そういう方々に大勢来ていただくしかないと思う。そういう発想を持たないと今は苦しい。女性の就労率や参画率を高めるというのも分からないではないが、たとえば主婦をやっておられる方々にいきなり建設現場で働いて貰うのも無理ではないだろうか。需要のある労働と供給可能な労働の質的ギャップを認識したほうが良いと思う。(53:31)

阿部:ややこしい問題だが、企業人として中長期の展望について言わせていただくと、やはりグローバル市場を見ざるを得ない。ただ…、私はアメリカに15年半以上住んでいたが、他国と比較すると女性が活躍出来る分野といった観点では日本にまだまだ遅れているところもあると思う。その意味ではまだ希望を捨てていない。限られた職種と言えども市場はあると考えている。いずれにせよ、企業としてはグローバルな視点でベストポートフォリオを組んで海外からの配当を増やし、それによって日本に貢献するというのが、まずは我々に出来ることだと思う。(54:58)

会場:チャイナリスクと欧州危機に関するご見解を伺いたい。また、今はテーパリングで大騒ぎしている状況だが、世界における金融緩和の終わり方についてはどのように予測されているだろうか。(56:33)

白川:中国に関して言うと、不動産・建設に絡む政策は5〜10年ほどのサイクルで動いている面がある。リーマン・ショック直後に一度相当ふかしており、今はそのノーマライゼーションに入っているということで、もう一度ふかすことはないと思う。従って、不動産市場は緩やかに弱くなっていくのではないか。あと、中国については「不良資産どれほどあるのか」という問題もある。従って、金融システムが本当に安定しているのかという議論と、「何によって再び成長させていくのか」という議論の二つがあるように思う。成長していけば不良資産問題は小さいものになるし、しなければますます不良資産問題は大きくなるという構図だ。で、その成長の源泉ということで、現政権では構造改革の議論が出てきている。ただ…、それも上海特区といった話から農地改革等色々な話があるものの、イメージから申しあげるとやはり構造改革の速度が遅いのだろうと思う。従って、今後はある程度不良資産問題が出てくる可能性がある。(57:00)

で、これは地方政府を巻き込んだ、日本における第三セクターのような問題になっているので、日本の不良資産問題ほど簡単ではないと感じる。ポリティカルな面で難しく、お金を注ぎ込んだ主体が公共的色彩を持っている。従って、不良資産問題は消えないまま、それをコントロールしていかざるを得ない状態が続くのではないか。逆に言えばチャイナリスクというのは大きく暴発するようなものではないと、基本的には思っている。ただ、7%台の成長率が5〜6%と、緩やかに落ちていく可能性がある。(58:20)

一方で欧州は、実はマーケットとして最も期待されている。どちらかというと欧州はここからむしろ浮上するという見方が多い。ただ、データはあまり改善しない。財政引き締めの効果が続いているからだ。驚くべきことに南欧等の巨大な財政赤字と経常赤字が黒字になってしまったほどで、債権市場は安定したが、やはり景気はその反動で弱い状態だ。そこでもう一度財政でふかすといった議論はないので、これは自立的景気回復に委ねるしかない。ということで、私はもう一度通貨安戦争が来ると思っている。今まで緊縮してきた財政を拡大出来ないのであれば、欧州も再び立ち上がるためにもう一度ユーロを安くするしかないと。実は私は大変なユーロベアだ。欧州は今後、大幅な金融緩和に入る可能性があると思っている。(59:09)

アメリカは出口が見えそうで見えず、ヨーロッパはもう一度来るということになると、日銀はどうか。90円になったらもう一度金融をふかすと思う。ところが出口等の議論は遠い話だ。私が生きている限り出口があるかどうか(会場笑)。20年ほど先の話ではないか。日本は2020年までにプライマリーバランスを黒字にしようとしているが…、それも難しいと思うが、中央銀行によるエグジットの前提は財政黒字が3〜4年続くこと。物価上昇率が2%になったらという話ではなく、「国債の発行がなくなったら止めましょう」と。止める場合も買ったものを売るのではなく持ったまま。そうなると、仮にエグジットを元に戻ることと定義すると、恐らく20年ほどかかると思っている。(01:00:19)

その間に大変なインフレになってしまえばさすがに止めるだろうが、そうはならない。世の中では長い目で見て技術革新が続くからだ。結局、最終的には「どうやって世界的にインフレとしていくの?」という議論になるのではないか。そうなるとどの中央銀行も出ていくことが出来ない。皆国債を持っているがエグジットもなく、強烈なインフレもない。それが基本的な見方であり、中央銀行はとにかく財政をファイナンスしていく、しかしそれがインフレにはならないという、特異な状態が長く続くと思う。(01:01:34)

「経験スキルのない40代前後の大卒者が増えている。2012年の大企業従事者の平均所得は458万円、自動車組立工の方が473万円」(白川氏)

会場:日本では中間層の喪失という問題がよく指摘される。アメリカでも「1%が総取りをしている」といったことが言われていると思うが、中間層再生の可能性は今後あるのだろうか。これは政府に任せる問題なのか、企業で解決出来る部分があるのかも併せて教えていただきたい。(01:02:33)

御立:大きな問題だと思うが、中間層の喪失とトップ0.5ないし1%が富んでいるという二つの状況は必ずしもイコールではないと考えている。日本では中間層が喪失している一方、トップ1%もそれほど増えていないからだ。この20年を見ると、アメリカでもイギリスでも、そしてドイツですらそうした層は増えているが、日本はそうでもない。あるエコノミクスの方は、「日本は皆が貧乏になった」と仰っていた。(01:03:10)

実際に起きているのは、正規雇用の数が絞られたことで訓練・知識・スキルがないままに40代前後となった大卒者が非常に増えているということだ。マクロで見ると新興国の識字率向上によって世界中でお金が回るようになった。従って、組み立て・加工業は新興国にシフトする傾向は今後数十年変わらない。だとすると、それとは違った形である程度の給料を貰える仕事をつくっていく必要がある。その一つとして、スキルトレーニングを含めたマッチング能力を民間にもっと移していくしかないと思う。今は少子化社会なのに大卒者の数だけが6〜7割も増えているが、ホワイトカラーの求人は「失われた20年」のなか、実は30〜36万のあいだで横ばいだ。大卒だけが50万人になってしまった。つまり、そもそも大学に行っても無理だという話になる。(01:03:44)

一方、専門学校に行った若者たちの就職率が9割を超えている分野はいくらでもある。手に職をつけたら建設だけでなく食える職は日本にもあるし、アメリカにもある。そこをどのようにマッチングさせるか。恐らく政府だけでは無理だから、民間の力で新しいスキルを身に付けさせ、食えるようにするしかないのではないか。そのうえで技術革新を行い、付加価値の大きな商売を日本に残すという話になると思う。(01:04:53)

白川:私が持っている2012年実績の統計によると、大企業従事者の平均所得はボーナスを含め458万円。で、皆さんは驚くかもしれないが、自動車組立工の方々は同473万円だ。マクロ的に見ると製造業従事者の平均賃金は大企業従事者よりも高い。ただ、今後、コストを下げていかないと戦えない状態になっていくのであれば、製造業もシュリンクする可能性がある。そうするとサービス業で戦っていかなければいけないが、サービス業の賃金は今、本当に低い状態だ。(01:05:34)

従って、いかにして年間所得350万〜400万円前後のサービス業をつくっていくかが鍵になる。ただ、私も興味を持って職種別給料データ等を見ているが、まだイメージが湧かない状態だ。医療は大きな可能性を秘めていると思うが、いずれにせよ、サービス業の分野で他にそうした可能性ある業種を見つけなければいけないと思う。私としてはエンターテインメントが可能性ある分野の一つだと思うが。とめどもない話で恐縮だが、とにかく賃金350〜400万前後の業種をマクロ的に創出するというのは本当に大変だ。今のところそこが見えにくい。その辺が今後の課題だと思う。(01:06:37)

阿部:人材の有効活用という観点で申しあげると、やはり我々が持つ強みを各部門で生かし、付加価値を加えたうえで中間層喪失等の歪みを取り除いていきたい。立場上、今日はこれぐらいでご勘弁いただきたい(会場笑)。(01:08:10)

会場:アジア各国の方々に、「中国以外で注目しているのは日本だ」と、よく言われる。注目ポイントは、再生可能エネルギーと地方観光、そして先進国としてこれほど高齢化の進んでいる日本がどのように対処していくのかという介護の分野であると。中国を含め、アジアの国々も今後高齢化が進んでいく。だからこそ…、表現としては良くないかもしれないが、そこに大きなビジネスチャンスがあると思う。介護ビジネスがどのような可能性を秘めているかという点について、もう若干、御立さんのほうからお聞かせいただきたい。(01:09:54)

御立:去年のサマーダボスは尖閣直後だったので中国要人との会談がずいぶんキャンセルされたが、今年はすごい数が中国側から来た。で、そこで中国側から最も多く聞かれた質問は介護に関するものだ。大変気にしている。先般、中国で変な法律が通った。「都会に出てきた若者は田舎にいる親に会いに行かないと訴えられる」という法律だ。社会保障制度ではもう間に合わないから「家族でカバーしろ」と。それを法律化せざるを得ないほどのスピードで高齢化が進んでいる訳だ。(01:11:38)

で、彼らと議論をしていて「面白いな」と思ったのだが、日本の介護保険制度は、実は結構良い。世界でも割と早くつくられたものとしてはまあまあだ。ただ、サービス品質の視点が抜けている。需要増に対応して供給増を優先していった結果、護送船団で生産性の悪い人たちも食っていけるように、無理矢理している部分がある。たとえば要介護度認定。それがリハビリによって下がると事業者の収入が減る。つまり、業者さんからすれば要介護度が下がるようなリハビリを真面目にやるインセンティブがゼロということだ。こういう仕組みがいつまでも通じる訳はない。それをどのようにビジネスチャンスとしていくかが重要になる。(01:12:22)

すべてはデータだ。アメリカでは自分でお金を払って入る保険制度だからデータに関して厳しい。「褥瘡がない」「介護度が下がる」といったデータがあると保険料が支払われる仕組みだ。アメリカはそれをすべて民間でやっているので仕組みとして回らないのだが、とにかく日本でもそういうことを、きちんとデータをとったうえで仕組みとして入れ込んでいく。日本の介護保険が上手く出来ている最大の理由は半官半民ということだ。介護そのものは国でやるが、住むところと食事に関しては民間で自由にやって良いと。混合診療という言葉はあっても混合介護という言葉はなく、すでに出来ている。そうした民間にとってのチャンスが全体の6割ほどある訳だ。(01:13:03)

やはり最後はデータ化だ。たとえば見守りサービスということで、ベッドから認知症の人が降りたときにすぐ分かるようなセンサーというものはすでにある。ただ、それをパターン化してビッグデータにしたうえでもっと良くしていく。そうすれば海外へ仕組みとして売ることが出来る。今はセンサーだけを売っている状態だから取ることの出来る付加価値は10ぐらいだが、データを含めていくと100〜200取ることが出来るようになる。そうしたデータとの組み合わせでどのような介護サービスを提供していくか。出来ることは大いのではないか。さらにそうすれば予防と医療と介護が繋がっていく。それを官庁が議論すると縦割りになるが、民間がデータを使ってやってしまったほうがよほど早い。そうした視点を持つことがチャンスに繋がると思う。(01:13:51)

高野:最後に比較的ポジティブな話でほっとしているが(会場笑)、最後に御三方へ盛大な拍手をお願いしたい。どうもありがとうございました(会場拍手)。(01:14:44)

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