菅義偉氏×竹中平蔵氏「安倍政権が目指す経済成長のモデルとは」後編 

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「アーリーサクセスをつくれたのは現内閣における重要なポイントと思う」(竹中)

竹中平蔵氏(以下、敬称略):安倍内閣の経済運営に関する哲学と決意が、行動力を伴っている点とともにひしひしと伝わってきた。現在、官房長官は大活躍しておられる。政権が発足してからの10カ月間、横浜の自宅には一度も帰っていらっしゃらないそうだ。官房長官の位置づけは2001年の中央省庁改革で大きく変わった。今は内閣のすべてを統括する内閣全体の実質的No.2だ。そうしたお立場で内閣の運営を与党との関係を含めてマネージしておられる訳だが、政権運営に入る際、色々とプランをお立てになったと思う。そこで10カ月が経った今、「これは上手くいった」、「これは今後もっとやらなければ」といった長官なりの総括や評価があればお伺いしたい。(21:21)

菅:政権発足後、最初にアルジェリアの人質事件があった。それぞれの省庁がばらばらでは解決出来ない事件だ。そこで…、大変多くの犠牲者を出してしまったが、政権運営に関して言えば省庁で縦割りだったものを一つにして進めなければいけないと学んだ。それとやはりTPPだ。この判断は大変だった。(23:00)

竹中:アーリーサクセスをつくることが出来たのは現内閣における重要なポイントだと思う。さて、続いて実績を見てみると、10月時点でアメリカの株価上昇は2割に留まっている一方、日本は6割の上昇を見せており、期待を含めて初動の経済政策が見事に機能したと思う。そこで「TPPが最も重要な成長戦略」とのお話もあったが、TPPに関する見通しについて差し支えない範囲でお伺い出来ればと思う。(23:39)

菅:発言しにくいことがたくさんある(会場笑)。ただ、交渉参加を決断したうえで党内をまとめてきた訳だ。日本は今まで、ある意味では外圧に押されて経済を成長させてきた面もあるが、今回は総理の政治決断で交渉参加ということになった。参院選も控えていたし政権としては大変な決断だったが、決断して本当に良かったと思う。今は話を聞いてみると、なんとなく、日本が色々なことを出来る立場になってきたと感じる。年内妥結かどうかは分からないが一つの雰囲気は出はじめていると思う。(24:38)

竹中:TPPは日本やアメリカが最も大きな受益者になれる筈のものであり、そういう立場が鮮明になってきたのではないかというご指摘かと思う。さて、今国会は「成長戦略実現国会」との位置づけがなされ、まさにこれから法案を閣議決定して審議に入るということで今は目一杯だと思う。ただ、実はその先に予算編成が控えている。それが機動的財政政策の後半、つまり財政再建の重要な出発点になるかどうか。それが次の中期的方向性を決める面もあると思う。(26:10)

恐らく今回の予算編成は歳出額に関して大枠の上限規定がないまま議論が進んでいる。今までは予算の大枠がどこかで決められていたが、今回は消費税や歳入がどうなるか分からないから歳出額を明確に決めずに動いているといった、特殊な予算編成という認識がある。そこで何か間違うとまさに世間で言うところのばらまき的な話になり、「税収も増えるが歳出も増えるのではないか」という不安も若干あるが。(26:49)

菅:デフレ脱却のための予算は重要だが、財政再建のメッセージもきちんと出さなければ駄目だと思っている。非常に難しい問題だが、そこは絶対にばら撒きにしない。財政出動をする場合でもデフレ脱却へ繋がるものとしたい。(27:36)

竹中:さらに話を展開したい。外交実績、本当にすごいと思う。ただ、そこで皆さんとしても気になるのは中国との関係だ。これをどのようにハンドルしていくか。相手のあることであるし、日本としては「常にオープンで」という話が前提になると思うが。(28:18)

菅:国会答弁のようになってきた(会場笑)。中国は日本にとって極めて重要な隣国の一つだと位置づけている。中国は世界第2の、日本は第3位の経済大国である以上、対立関係にあっても世界の平和と反映にそれぞれ責任を持つべきだ。従って「対話のドアはオープンです」ということを私たちは言い続けている。先日、中国からいらした経済使節団の方々とお会いしたのだが、中国も日本のそうした必要性を認めていると感じる。まあ、表現の仕方として言えば、「間合いは詰まってきているのかな」と。(29:07)

竹中:皆さん、色々と行間をお読みになったと思う(会場笑)。さて、現在は総理官邸が見事に政権運営を主導しており安心感がある。ただ、霞ヶ関の官僚は常に厄介なものだ。「政治がきちんとまとめてくれ」と言うものの、今のように官邸が強いと自分たちが何も出来なくなってしまうものだから色々と不満を言う。そしてそれを持ちあげるような新聞も出てくると。皆さん何新聞かお分かりだと思うが。(30:12)

で、官邸主導は今後も続けていただきたいが、逆に今はすべてを官邸に頼っている仕組みだと感じる。そこで、たとえば経済財政諮問会議や産業競争力会議、あるいは規制改革会議がもっと頑張らなければいけない部分もあると思う。各大臣の顔ももう少し見えてきて良いのではないかと。官邸主導でありつつ、内閣全体でもう少し個別のパーツを機能させることが政権を真に安定させ、長期的に発展させるポイントだと思う。その辺に関して、官邸の中心におられる立場としてどうお考えだろう。(30:52)

菅:今は一つや二つの省庁だけでは解決出来ず、省庁横断で対応しなければいけない課題が増えている。そうした問題に関してはやはり官邸になると思う。各大臣には大変頑張っていただいているが、たとえば農業問題については総理を本部長として官邸でやっている。今後は減反や戸別所得補償といったものの見直しまで踏み込んでいく。今は自民党農林部会でも理解して貰いはじめているが、こういうものはやはり総理を中心とした官邸の力が必要になるだろう。(31:48)

社会保障改革も同様で、大変な改革だ。私はかつて横浜市会議員だったが、人口370万の横浜で待機児童は現在ゼロ。では何故横浜市でそれが出来たのかと言えば、保育所の事業に株式会社を参入させたから。横浜では現在約3割の保育所が株式会社に運営されているが、全国平均は3%にも満たない。そこで横浜の成功例をもとに「待機児童解消加速化プラン」を国でつくった。今はすべての政令指定都市がそれに参加したいと言ってきている。竹中さんにやっていただいている特区のような感じで、ひとつ成功したら全国に展開しようというものだ。そうした大きな問題について言えば、最初の部分は官邸に皆を集めてやる必要があると思う。(32:57)

竹中:現在の官邸主導は見事だと思う。オリンピック招致に関してもそうだ。年初のASEAN訪問にあたって事前に外務省がレクで訪れた際、総理と官房長官が「この地域にIOC委員はいるのか」と聞いたら外務省は答えることが出来なかったという。要するにオリンピックは文科省の話で外務省ではないと。そういう状態から総理と官房長官が中心になって束ね、そして最後はああした大きな力になった。ぜひともこの力を発揮し続けていただきたいし、我々としてもそれを応援していきたい。(34:04)

ではもう一つ。やはりどうしても喉に刺さった骨のように気になるのが汚染水の問題だと思う。コントロールされていると総理は仰っていたが、世論調査によれば国民は必ずしもそう思っていないという状況もある。「国が関与しなければいけない」と。ところが東電は民間企業だから、お金は出しているものの国の関与が制約的になっている。先日はその辺について「国がもっと積極的に出るべき」といったお話が自民党本部でも出てきたが、今後、この問題をどのようにハンドルしようとお考えだろうか。(34:41)

菅:そろそろ結論を出さなければ駄目な時期だと認識している。今は原発事故の対策に関して二つの法律があり、それに基づいて進めている。で、本来であれば政府が関与出来る部分もあったが、前政権は東電にやらせるという道を選んでしまった。これが今のままで良いかと言えば、やはり見直しをするところまで来ていると思う。特に汚染水については国が前面に出ると、私どもとしても申しあげた。そのため、緊急でかつ高度な技術が必要な領域ということで470億円、今は予備費を使ってでも進めている。ただ、今後は与党からも提案があるのでしっかり調整して取り組みたい。(35:28)

竹中:では会場の皆さんからも質問をいただきたいと思う。(36:21)

「今でも若い人々が「政治を変えたい」という思いを持てば投票率が高くなるときはある」(菅)

会場(松井氏・ピムコジャパンリミテッド):アメリカのエコノミストやファンドマネージャーは、「今世界で最も力強い国は日本だが、中長期的成長についてはどうだろう」と言う。つまり少子高齢化の問題。どのように子供を産むことが出来るような社会にするのかといった政策や移民政策に関してご見解を伺いたい。(36:44)

菅:極めて大事な問題だ。移民については色々な議論があり、まずは高度なスキル等を持った方々から日本に来て貰いたいと私たちは思っている。また、多くの方に子供を産んで貰うためには女性が安心して社会進出出来る環境にする必要がある。そのために保育所の定員を2年間で20万に、5年間で40万人に拡充させたい。横浜市では株式会社が手掛ける保育所が3割になったことによって待機児童がゼロになった訳で、現在、他の地方政令都市でも同様プランを実施する方向で動いている。(37:25)

会場(安渕聖司氏・日本GE株式会社代表取締役/GEキャピタル社長兼CEO):現在の政治は、どちらかといえば高齢者の意見を強く反映する仕組みだと感じる。そこで、政治に対してもっと若い人々から声を挙げて貰うために投票権を18歳に引き下げることも有効という意見がある。この辺についてどうお考えだろう。(38:56)

菅:今、自民党で大揉めに揉めている(会場笑)。いわゆる憲法改正における投票年齢の引き下げというテーマのなかで議論しているところだ。ただ、今でも若い人々が「政治を変えたい」という思いを持てば投票率が高くなるときはある。郵政民営化を問うた選挙では多くの若い世代が投票に行った。なにかこう…、「自分たちが投票すれば変わる」という政治の動きをつくることが出来たら今の制度でも若い人達の意思が表明されることはあると思う。民主党政権時代は子供手当てということで多くの若いお母さんが選挙に行かれた。私の懇意者の方でも、「いや、娘だけは絶対に(自民党を支持して貰うのは)無理だ」と言っていたほどだ(笑)。(39:26)

竹中:本当にそう思う。ちなみに特区に関しては被選挙権の議論もなされている。日本では25〜30歳となっているが、地方政治では特例を認めても良いのではないかと。そこで若い人材を活用して地域を活性化していこうという議論だ。(40:49)

会場(堀義人・グロービス経営大学院学長):六重苦がほぼ解消されつつあることは嬉しく思う。ただ、労働慣行の硬直性という問題とエネルギー問題の二つが残っている。海外へ行くと「日本は本当に原発を再稼動するのか。しなければ本気度は感じない」ということを必ず聞かれるが、この2点に関してお話をいただきたい。(41:28)

菅:原発の再稼動についてはあくまで安全最優先。世界で最も厳しい安全基準をつくったので、これで規制委員会が認めるかどうか、だ。安全第一が国民の思いでもあるし、そこはしっかり担保したい。当然、それで規制委員会が認めたものについては稼動という方向になっていく。(41:56)

それと労働問題についてだが、非正規雇用で雇うことの出来る期間を今までの5年から10年にする方針を出した。労働問題で難しいのは、高度経済成長において労使間で物事を決めるということが法律にも書かれていた点だ。そこを改正しなければ難しいだろう。今、その突破口として特区における非正規雇用期間の延長を検討している。「特区でなく全国一律で」という議論もあるが、いずれにせよこの辺は日本で最も遅れている部分だと思う。現在はドイツの労働法制等も勉強しているが、なんとか日本でも風穴を開けたい。(42:27)

会場(伊井哲朗氏・コモンズ投信代表取締役社長):経済成長のマネーをさらに膨らませることが大事だと考えている。そこでGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を含めたお金の動きをもっと活発にする試みもなされていると思うが、そこ辺についてご解説いただきたい。(44:06)

菅:その辺については私たちもかなり大きな問題意識を持って検討している。今のままで良いとはまったく思っていない。これから色々な対応をしていきたい。(44:31)

竹中:成長戦略の領域でもGPIFが議題に挙がっている。それで今は官房長官の下、有識者会議で議論をしているところだ。今、良いところです(会場笑)。(44:50)

会場(瀬尾傑氏・「現代ビジネス」編集長):政策面では第一次安倍政権でもアジアゲートウェイ等、政治主導の良い形が表れていた。ただ、当時はなかなか実施出来ない、あるいは国民の支持が上がらなかった状況だったと思う。その辺が第二次政権では大変上手くいっていると感じるが、その違いはどこにあるとお考えだろう。(45:03)

菅:前回も約11カ月の政権で教育基本法改正や防衛庁から省への移行等、色々と決めたのだが、ただし強硬採決が多かった。そこで国民の皆様にある程度、「なるほどな」と思って貰う時間が足りなかったように思う。今国会でも法案は数多く出しているが、今回は「その法案は良いじゃないか」と思って頂けるよう、国民の皆様と呼吸を合わせながら物事を進めている。恐らくそうした安心感が政権の支持に繋がっているのだと思う。目標に向かってひたむきに進んでいることが理解をされたうえでの期待感だと思うので、そこはしっかりと踏まえて進めたい。(45:26)

竹中:ほかにないようなので私からもう一つ。物事を進めるにあたってはなんからの戦略的アジェンダ設定が重要になると思う。それは国民から見て分かりやすい政策であり、それが変わると他の領域もどんどん変わっていく可能性が生まれるような政策だ。その意味で言うと現政権では最初に金融政策が打ち出され、これが大きく期待を変えた。そしてそのあとはオリンピックも出てきたし、今後は法人税がアジェンダになるかもしれない。そこでひとつ、官房長官に今後のアジェンダ候補のようなものをお聞きしたい。周りの状況が整わなければアジェンダにならないとは思うが、今後内閣の求心力を高め、日本経済を引っ張っていくような項目として現在お考えになっているものがあればぜひお伺いしたいと思う。(47:05)

菅:私としては日本経済を成長させるために農業と社会保障が大変重要になると思う。それと先ほどもアジアゲートウェイという言葉が出た通り、やはりアジアの成長を日本の内需として捉える仕組みづくりが大事になると思っている。(48:36)

竹中:恐らく去年の11月が景気の底だったと思うが、そうすると景気拡大が7年続けばオリンピックまで不況なしで日本はやっていける計算になる。小泉内閣では戦後最長の景気拡大を経験したが、あれは7年2カ月。だから7年の景気拡大は十分可能だ。7年かけてオリンピックまで、ぜひ不況なしでやって頂きたい。これは民間人の勝手な余談だが、そうすると小泉内閣の5年5カ月を超えて7年の長期政権を安倍内閣が実現することも可能になる。ぜひそうした心意気で頑張っていただきたい。我々も政権の決意と実行力に期待している。今日はお忙しいなか、本当にありがとうございました(会場拍手)。(48:59)

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