日本GE安渕聖司氏×Civic Force大西健丞氏×日本戦略支援機構・田村耕太郎氏「世界で戦う武器を身につけよう」後編 

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「分からないことを『分からない』と、しかも定期的に伝えることが重要」(安渕)

会場:どのようにしてスキルを身に付けたのか。(42:12)

田村:大事なのは“場数”だと思う。スキルも大事だが、やはり場数。ウケているプレゼンテーションを見ているといくつかの共通点がある。ポイントは三つ。結論から入ること、最初に場を和らげるようなウケる発言で空気を掴むこと、そして困ったら質問には直接答えずに自分が言えることを話す。この三つだ(42:39)

安渕:メディアトレーニングやプレゼンテーショントレーニング等、色々なトレーニングがある。また、ぜひ自分のプレゼンテーションをビデオに撮って観て欲しい。たとえば自分が一番主張したいときに相手を真っ直ぐ見て声をきちんと出せているか等、くつかのチェックポイントがあるからだ。まずそうしたベースをしっかりと身に付け、そこからグローバルなスキルを身に付けたら良いと思う。で、グローバルなスキルに関して言えば、「この人のプレゼンはすごく浸透するな」といったものたくさん観て欲しい。たとえばガイ・カワサキのプレゼンテーションはYouTubeで閲覧出来る。(43:29)

田村:気持ちのうえで技術が生きるという大西さんのお話も大事だと感じた。(43:41)

大西:僕はクルド語でクルド人の軍閥等と交渉しなければならなかった20代を通して交渉スタイルの違いを学んだ。たとえばそこで、イギリスの大学院等で習ったようなディベート中心の話をしていると撃たれて死んでしまう(会場笑)。(43:55)

田中:僕も修羅場でコミュニケーションを学んだ。日米通商摩擦があった1980年代、僕はホンダにいた。当時は事務所の前でシビックが燃やされるような状況に処していく必要があった訳だ。そこで試行錯誤しながらスキルを身に付けてきた。(43:32)

大西:民族や国家にとってキーワードとなるような精神構造を表現する言葉がある。たとえば日本人は「それは恥だろう」と言われたらかなり引いてしまう。クルド語にも「アイバ」という言葉があり、これは恥という意味だ。日本語の恥とは少し異なる概念だが、それをキーワードにしながら説得すると相手はフリーズする。(44:57)

会場:失敗から何を学んだか?(45:04)

安渕:例をひとつお示ししたい。クライシスにおけるコミュニケーションでは、物事が分からない、あるいは決まっていないといった混沌とした状況に、どうしてもなる。そこで定期的にコミュニケーションを図ることが難しくなり、ついつい「新しい情報が入ったら」「事態がはっきりしたら」ということで、コミュニケーションに空白が出来てしまう。その空白のなかで、「もっと悪いことが起こっているのでは?」という不安や噂が広がっていく。そのことを身をもって学んだ。透明性を高め、分からないことを「分からない」と、しかも定期的に伝えることが重要ということを学んだ訳だ。(46:05)

会場:貪欲な交渉相手との接し方とは?(46:12)

田村:立場によると思う。個人であればグリーディーでないほうが良いと思うが、たとえば日本政府はもっとグリーディーで良いだろう。血税で養って貰っている国の代表が良い人では駄目だ。国家間に友情なんてないのだから。株主がいる会社の社長や、そこが委託しているプロの交渉人もグリーディーであるべきだと思う。誰のために交渉しているかを考え、最大利益をステークホルダーにもたらさなければいけない。政府ならばそれは国民であり、企業ならば株主だ。そのために戦うことが大事なのであって、「グリーディーであるべきか否か」というのは少し危険な議論だと思う。(47:12)

安渕:大切なのはショートタームとミディアムタームにおけるバリューの出し方が異なる点だと思う。そこで、同じグリーディーにしても交渉のポイントが違ってくる筈だ。大事なのは、「我々はこのバリューを出したいからこういう風に買いたい」と、バリューに関する見方をしっかり持つこと。それを交渉ストラテジーとして持っていれば、相手と違っていても構わないし、それが正しいやり方という話になると思う。(47:50)

田中:グリーディーであるということと、グリーディーであるように見えるというのは別の問題だ。ビジネスでは、基本的にはグリーディーでなければ駄目だ。ただ、それを見せるか見せないかの差。欧米企業はそれが下手で、見せてしまう。その意味ではグリーディーでない見せ方が出来るのも日本の強みだと思う。(48:26)

「多様化する世界において、日本の和を尊しとする感覚の重要性は増す」(田中)

会場:ブランドを生む行動とは?(48:27)

田中:コミュニケーションにおいて非言語の占める割合は65%であり、言葉で伝わるものは35%に過ぎない。従って、いかに非言語つまり行動で示すかが重要だ。ひとつのブランドとして約束する価値があったとして、それは初めて商品を出した時点では単なる約束でしかない。しかしそれをお客さんが経験することでブランドになる。つまり言葉ではなくお客さんに経験して貰うことで、あるいは自らが行動することでメッセージを出す訳だ。単に言葉だけでブランドをつくるのは難しいと思う。(49:40)

安渕:まさに田村さんが先ほど仰っていたことだが、エクスペクテーションをどうやって超えていくか。常にエクスペクテーションを超えていく。たとえば「思ったよりレスポンスやアクションが早いな」という風に、常に相手が期待することをよく見たうえでそれを超えていく。それによって相手は今までと違ったイメージを持つと思う。(50:06)

田村:日本の凄さは “お墨付き能力”だと思う。世界の文化にお墨付きを与えるのが日本。消費者洗練度が世界一だからだ。今、フランスの化粧品メーカーは日本女性のあいだで評判になった商品を世界で発売している。K-POPも同じだ。「日本で売れたら世界で売ろう」と。そうした“お墨付き市場”として日本は世界に冠たるものとなっているが、それに一番気付いていないのが日本人だ。(50:54)

大西:僕はブランディングに失敗しているのでなんとも言い難いというか、よく「胡散臭い」とも言われる。「“胡散”ってなんだろう」と調べたりもして(会場笑)。ただ、いずれにせよグローバルブランドにおける最初のパイオニアは、それがグローバルブランドになったときには大抵死んでいる。従って「自分の代の話ではないかな」と思っていて、それはそれでプロにお任せしておこうかと思っている。まあ、本質的なところは外さずに多少は積み重ねていこうと思うが。(51:59)

会場:コンセンサスをとろうとする消極的な姿勢をどう直せばいいか?(52:05)

大西:アングロサクソンの文化だけがエッジの尖ったものになっていて、皆がそれを世界普遍であると思い込んでいる部分があると思う。しかし他の地域では交渉の形態や価値がまったく違う。で、そうした人々のカルチャーというのは10年やそこらで形成されたものではないから、そうした長い過程を知ったうえで話をしていくと大きく変わると思う。いずれにしても…、アングロサクソンと言っても一部のビジネススクールだが、そうした一部カルチャーだけを捉えて交渉しようとすると、相手さまが立派な方であれば大失敗する。短期的な話であればそれでも良いかもしれない。しかし長期的なパートナーシップを考えるのであれば相手の文化や歴史、場合によっては言語も理解したうえで付き合うことが重要になると思う。(53:28)

安渕:「コンセンサスが必要」「根回しをしたほうが効率も良くなる」というのは、実は現在、海外の企業も日本から学んでいるところだ。当然そうなる。大企業でいきなり立ち上げたプロジェクトが取締役会で否決され、それで200時間が無駄になってしまったというのが効率的な訳はないからだ。(53:51)

ただ、そこには「何をしたい」という目的がある訳で、何が起きてもその目的に向かって一歩でも半歩でも前に出るという習慣を身に付けるべきだろう。社内の会議でも同じだ。「ここでこれを言っておかなくては」という気持ちになったときは遠慮せず必ず話す。シェリル・サンドバーグの‘LEAN IN’ではないが、とにかく一歩前に出る習慣を皆で身に付け、それをたとえば会議にルールとする。そういうことをきちんとやっていけばマインドは変わってくると思う。(54:31)

田村:たとえばランド研究所やマッキンゼーには‘Obligation to Dissent’というものがある。とにかく相手に反論を浴びせる。具体的に思いつかなくても、まず「貴方は違う」と言うところから考えなければいけない。そういうカルチャーも持ったほうが良いだろう。今までの日本は均一性と洗練性を高めることでここまで来た。しかし恐竜のようにある一定の時期へ適応し過ぎたため、多様性が重要となる時代において弱くなってしまった。従って組織でも多様性を認め合う文化をつくるべきだ。(55:31)

田中:アングロサクソン系のやり方は絶対に習得しておかなければいけないが、今後のグローバライゼーションにおける主戦場はアジア・中近東・アフリカだ。それらの地域では、むしろ和を尊しとする感覚が重要になると思う。多様性のある社会では、ひとつのやり方では絶対に通用しないが、日本人はコミュニケーションにおいて対立を避ける感度がある。対立を避けるために自身の目線や立場を変えるフレキシビリティがある訳だ。その意味でも和を尊しとする価値観や感性は重要になると思う。(56:32)

「高齢化はチャンス。信号機の変わるスピード一つをとってもビジネスの種になる」(田村)

会場:日本が抱える高齢者問題について。(56:40)

田村:僕はチャンスだと思う。高齢者のイメージは昔と大きく違ってきた。内閣府の統計によれば日本では高齢者の90%が死ぬまで働きたいと言っている。高齢者にこれほど勤労意欲のある国はない。また、80%の高齢者が独立して暮らしている。健常ということだ。昔の延長線上で高齢者を捉えてはいけないと思う。65歳でも本当にぴんぴんして、お金もスキルも持っている。彼らの生かし方を考えたら良いと思う。(57:20)

たとえば出口(治明氏:ライフネット生命保険代表取締役会長兼CEO)さんは岩瀬(大輔氏:ライフネット生命保険代表取締役社長兼COO)君とベンチャーを起こして大成功した。世界のベンチャービジネス成功率を見ると、50〜60代が興したベンチャーの成功率は20〜30代が興したベンチャーの倍。それはそうだ。お金も経験もスキルも人脈もある訳だから、失敗しないようなビジネスをつくることが出来る。(57:44)

もちろんお金のない高齢者の方もいらっしゃるから、その辺は分けて考えなければいけない。しかし実は今、たとえば世界中のヘルスケア関連会社が鳥取へこっそり研究に来たりしている。「高齢者を相手にこんなサービスが出来ないか」という訳だ。介護を行う側の人々も今後は何十万〜何百万人と足りなくなり、世界中で介護人材の奪い合いになるだろう。ロボットや創薬の分野でも同じことが起きる。そうしたなかですべてが変わってくる。たとえば信号のスピード。日本の信号は1秒間に1メートル移動出来る35歳の健常者に合わせている。そういったものまで変わっていく訳で、そこには莫大なビジネスチャンスがあると思う。(59:02)

大西:僕は広島県に住んでいるが、お隣の岡山県は県産の桃やマスカットを非常に上手くブランディングしている。そのため、広島もそれらとほぼ同じ品質で生産はしているものの、国内マーケットでは差をつけられてしまっており、岡山産の方が広島産よりずっと高く売れる状態だ。ただ、たとえばお金持ちが集中する韓国ソウルの一地区で1〜2を争うような高級スーパーマーケットに行ってみるとどうか。広島県ではBC級品にしか過ぎないものが大変な値段で売られている。そこで仮にFTAを結んだらどうなるか。そこで上手く売り込めば、岡山産ブランドがまだ確立していない韓国では、広島産フルーツが圧倒的シェアを獲ることも可能だと思う。(1:00:09)

そういうことを頭に描く。田舎の人はグローバルな話に弱いので、私たちのようなIターン組が入り込んで色々な話をしていく訳だ。農林水産省の6次化ファンドは「誰が考えたんだ?」というほど使いにくい妥協の産物だが、とにかくお金はある。だから諦めず、先日はリテールをやっている東京の大手資本と地域ファンドをつくることで合意した。地域の小さいファンドで大きな官民ファンドを誘導しようと。特に地域の農業生産法人や株式会社をバックアップしたい。(01:01:46)

会場:世界第一位になるためにはどうすればいいか?(01:01:49)

田村:一位にどれほどの意味があるかというと僕は分からないのだが、たしかに人口が減るから数字は悪くなる。その意味では一人当たりのGDPに絞って、それをあまり落とさない政策が必要になると思う。そこで個別に何が必要かについては来週出る僕の新しい本にすべて書いてあるのでぜひ予約してください(会場笑)。(01:02:25)

安渕:企業は自分たちの市場を再定義する必要があると思う。今まで狭い範囲で見ていた市場を広げ、「どこで戦えるのか」といったことを再定義する。ここでもアングロサクソン的思想としてランキングにこだわってしまいがちだが、いくつかの指標を決めて実行していくべきだと思う。ただし、GDPは重要な指標だからこだわっていくほうが良いだろう。GDPを人口で割ったぶんしか我々に与えられるものはないのだから、それをしっかり上げていく。それが国の繁栄や影響力にも繋がると思う。(01:03:14)

大西:ひとつ挙げるならリボルビングドア(回転ドア)という話になると思う。皆さんのような若い方々がさまざまな職種を経験し、色々な能力を開発していく。世の中は常に動いているからどんな産業が時代ごとに最適となるかは分からない。従って常に動けるようにしておく。とにかく人材がフローしていないとまずいと思う。(01:03:56)

田中:一言で表現すると「人」だと思う。これからは変化と多様性にどう対応していくかが鍵になる。変化に関しては、それに対応するというよりも変化をつくるゲームチェンジャーの役割を果たして欲しい。変化をつくると何が起きるか。多様な意識の壁にぶつかる。それらをどうやってまとめあげるか。従来のアングロサクソン系コミュニケーションではまとめあげられないだろう。彼らのコミュニケーション理論は「こちらが正しくて相手が間違っている」という是非の理論だからだ。日本人のコミュニケーションは違う。和を尊ぶし、共感をつくりやすい。(01:04:54)

「リベラルアーツの充実が、交渉ごとで最終的に人間力を発揮する源となる」(大西)

先日、渋谷でDJポリスという方が話題になったが、あのときは警官隊と群集が一体になっていった。世界であんなシーンは存在しない。警察と群集には対立の構図しかないからだ。日本ではそれが同じ目線でひとつになった。あれが日本のコミュニケーションの質だ。従ってゲームチェンジャーとして、単なる説得でなく共感というやり方でまとめあげる能力を日本人一人ひとりが身に付けたら総合一位も可能だと思う。さて、では最後に御三方から会場の皆さまへ、それぞれメッセージをいただこう。(01:06:07)

安渕:人と違うこと、あるいは人と違う道を歩むことへの恐れがあると思う。まずはそれを捨てて前に進んで欲しい。これからは多様性が不可欠だ。世界で生き抜いていくために、自分の廻りでいかに多様性をつくっていくか、そしてその多様性からどういったアイディアを得ていくかが鍵になる。男女の違いもあれば、異なる経験もあれば、ナショナリティの違いもある。そうした多様性のなかで積極的に意見を交わす。自分と異なる人々をチームに入れることで自分自身も鍛えられるだろう。その意味でも好奇心を持ち、人と違うことを恐れないでいて欲しいと思う。(01:07:05)

田村:今の日本が安全で安定した巨大マーケットであることは間違いない。ただ、それが30〜40年先、子や孫の世代まで続くか言えば、実はそうでもない。今は選挙もあるので各政党とも「経済成長で社会保障をなんとかする」と言っているが、それは不可能だ。何かが起こる。それが何かは誰にも分からないが、とにかく何か起こるというのが本音のコンセンサスだ。今までのような安心・安全がこの国に長く、しかも何もせずとも供給され続けると考えないほうが良いだろう。(01:08:02)

それともう1点。我々は今、中東に負けないほど厳しいロケーションに生きている。中国が今後30〜40年、国家をひとつにまとめあげ続けることが出来るのかというと疑問だ。朝鮮半島情勢も同じ。何かが起こる。従ってオプションを持っておくべきではないか。外交や安全保障や財政まで考えていくと、資産をすべて円で持っておくというのは個人的にはお勧め出来ない。何かが起こるのを未然に防ぐのが政治の仕事だが、それを防ぎきることが可能かというと残念ながら難しいかもしれない。従って自分を守る意味でもグローバルなマーケットに資産を分散させる。お子さんにも日本以外のオプションを持たせるような育て方をされたほうが良いと思う。(01:09:02)

大西:僕はほかのビジネススクールに行ったことがない。行きたいとも思わない。ただ、グロービスには何回も来ているし、自分も楽しいと感じる。「何が違うのかな」と考えたのだが、ここはリベラルアーツのような教養もしっかり教えている点が違う。偏見を持つつもりはないが、ビジネススクールに通う人たちのなかでは歴史や文化や芸術・哲学があまり重く見られていないと感じる。しかし交渉ごとでも最終的に人間力を発揮する源は、そうした教養部分であることが多い。ぜひ本質的な教養部分を今までと同様、あるいは個人でさらに磨いて欲しい。また、ひとつの組織に安住せず変わり続けて欲しい。そうすれば日本の総合力は相対的に落ちないと思う。(01:10:33)

田中:あすか会議は毎回楽しみにしている。何が良いかというと、右脳的だ。左脳的な技術や理論は抑えたうえで、右脳部分でも人間力を発揮する場としてのグロービス、そしてあすか会議がある。これからもその辺を大切にして欲しい。(01:11:24)

「世界で戦う武器」というテーマ関して言えば、私からは三つ。ひとつは複数目線を持つこと。たとえば「八百万の神さまがいる」というように日本人は多様性に対して実は寛容だ。だからこそ異文化にあっても同じ目線で話が出来る。これは大変重要な特質だ。そして二つ目が日本人としての感性を磨くこと。和を尊しとするという価値観、緻密な感性、気配りが出来る感性、そして複数目線を持つ発想等々。それらをしっかりと磨いていただきたい。そして最後は、日本人の感性というものをひとつのOSにして、その上で、たとえばアングロサクソン系等、なんでも良いのでアプリケーションを廻して欲しい。以上3点になる。(01:12:50)

冒頭で申しあげたが、大切なのは会場の皆さんが本セッションから何を感じ取るかだ。ぜひ本セッションをひとつのきっかけにして欲しい。日本にいてもグローバライゼーションの波は来る。そこでグローバルに戦うための武器をどのように磨いていくかということを、ひとつの基点にしていただきたい。本日はありがとうございました。(01:13:57)

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